MY HOME TOWN【翳目編】

MY HOME TOWN【翳目編】

土岐麻子のカバーアルバム『HOME TOWN 〜Cover Songs〜』に触発され、プレイリストを組んで“空想のロケ地”を語る連載企画【MY HOME TOWN】。

第二回は、musit編集部の翳目による5曲をお送りします。

前書き

うら若き乙女だった頃の私が経験したあれやこれやは、例え覚えていたとしても、もう戻ってこない。今となっては、当時やらかしてしまった小っ恥ずかしい記憶すら愛おしく感じて、強く抱きしめてやりたくなる。そしておそらく、というか絶対に、それらの経験なしでは、今の人格形成には至らなかったはずだ、とも思う。

今回のMY HOME TOWNは、私が愛聴してきた大事な楽曲と共に、今もなお脳内で深く呼吸しているエピソードを紹介していきたい。そして、最後まで読み終えた暁にはぜひ、私のこれからの人生にあなたも入って来てくれたら、尚更嬉しく思う。

①SISTER JET『MR.LONELY』

 アマゾン LONELY PLANET BOY

【ロケ地】東京都福生市 国道16号沿い

私の出身は東京都の中でも西の西、セックスドラッグロッケンローが混在したアメリカンスタイルを貫く街・福生市だ。
福生市は東京の中でも群を抜いて物騒な街として悪名高く、犯罪件数もズバ抜けて多い。しかしそのような環境下であっても、福生UZUという国道16号沿いにある老舗ライブハウスを中心にして、音楽は絶えず生まれている。

そんな福生という街で結成され、昨年20周年を迎えたのがSISTER JETだ。中でもこの『MR.LONELY』は引っ込み思案だった10代の私の背中を強く押した。‘‘おいらスラム育ちの 名もなきボクサー ひとりでここに立つ’’荒れ狂ったおかしな街で育った私は、福生を出てからも孤独なボクサーだった。

‘‘Bダッシュ 耳をふさいで 一斉に走り出そうぜ’’
垢の抜け方なんて知らなかった。初めて都心に住んだとき、私は自分の異色さを恥じていた。しかしいつまでも塞ぎ込んでいられるほど、生きていくには時間がない。ぶち壊せ、ロンリー。どうしたって一人、なんだから。

②パスピエ『はいからさん』

【ロケ地】東京都中野区 レンガ坂通り

地元を出て、最初に住んだ街は中野区だった。駅から徒歩5分の、古い一軒家を模したシェアハウスで、女子12人暮らし。バイト先は目と鼻の先、通称‘‘レンガ坂’’のドン突きにある、カジュアルスタイルのバーだった。

夏。噎せ返るほどの熱気にのぼせそうになり、毛穴という毛穴から汗が湧き出る熱帯夜。その日はレンガ坂一帯の飲食店がこぞって参加するイベント当日で、まるでそこだけが一晩限定のお祭り状態になる。その日、バーのシフトは従業員総出。私も店長から指定された浴衣姿でうちわを煽ぎ、外に出された折り畳み式のローテーブルの前で、上手に売り子の役をする。

プラカップに並々注がれたビール片手に、狭い坂道を登ったり下ったりした。熱気の苦しさはやがて心地好さに変わり、終わってしまうのが惜しいと感じたほどだ。飲食店のほとんどが0時を過ぎて閉店しても、ドンチャン騒ぎは朝まで続いた。真夏の夜のビート、あの夜は確かに聴こえてた。あたしのハートビートは無論、最高潮まで鳴っていた。働いていたバーは翌年の冬、惜しまれつつも閉店したけど、今でもあの坂を上る度、当時見ていた夏の幻と再会できる気がしている。

③tofubeats『ふめつのこころ』

【ロケ地】中目黒 2月の高架下

バレンタインシーズン。駅から徒歩5分の道を歩くだけでも、愛の証明を売りつけようとしている販売員の姿がそこかしこにちらついて、正直ちょっと鬱陶しい。

その日は中目黒で当時好いていた男性と飲みの約束をしていた。私は大の酒好きだが、彼は酒よりも食に重きを置いている人なので、いくら馬が合っても嗜好はあまり合わなかった。それでも毎月食事の予定を取りつけていて、必死に関係が切れてしまうのを防いでいたから、当時の私は可愛らしかった。

‘‘気持ちはすれ違いの砂嵐 距離を縮めてもまた巻き戻し’’

本音で語り合ったこと、あっただろうか?ない気がする。お互いに。それでも長らく好いていたのは、初めて彼に出会ったときから胸に抱き、大事に育てていた、‘‘ふめつのこころ’’があったからだ。

④andymori『ハッピーエンド』

【ロケ地】吉祥寺 井の頭公園

一年弱中野区民として過ごし、その後は吉祥寺に居住を移した。とはいえど学生の時分からほぼ毎日バイトやら学校やらで通い慣れていたから、土地勘には大して困らなかった。

吉祥寺に住んでいて最も良いなと感じたこと。それは並ばずにメンチカツを食べられることでも、ハモニカ横丁で毎夜酩酊できることでもない。お決まりの散歩コースに、井の頭公園を組み込めることだ。
あの公園はいつ行っても魅力的だ。朝は静謐としていて、体内の空気を入れ替えるのには最適。昼間は子供と犬とアヒルボートと、あとは変なおじさんがいる。平和。

夜は湖の水面がきらきらと輝いて、涼しい風が頬を掠める。毎年恒例の大所帯の花見で、酒を流し込みげらげらと笑った春。元恋人と大喧嘩をして泣いた夏。私に纏わる様々な出来事を、この公園は知っている。あるときは泣いて階段を上り、またあるときはスキップで階段を下った。また今年も春が訪れて、公園へ向かう人の波に混ざって歩を進める私がいる。どうせどこにも行けないから。それに今、私はすごくハッピーだから。

⑤ウ山あまね『茂みから』

【ロケ地】自宅

雨の日ってどうも好きになれない。梅雨生まれだけど。低気圧で身体が動かなくなるし、全てが中途半端のまま投げやりになる。雨、というだけで。
飲みかけのジュース、ちぐはぐになった心と体、昨日まであんなに熱をこめて打ち込んでいたことも、結局は誰かの真似事なんだよな、って、考えたりする。なあ。

この際だから暴露するけど、私はどちらかと言えば怠惰な人間で、行動力や判断力は特に劣っている。自信家そうな振りをするのが得意なだけで。雨の日は、心のメーターがもう赤いところまで届きそう。限界、ちょっと、溶けたい感じ。

雨というだけで気落ちして、そんな風に色々なことを考えていても、結局自分ってそんなに頑張り屋じゃなかったよな、ってところに帰結する。生ぬるいぐらいの温度感で、ダラダラと動線上を歩いて。これから先もきっと、誰が急かしても自分はそうやって過ごしていくんだろうな。君はうさぎでも私は亀でいい。点Qが先に着くなら私はずっと点Pだ。怠けようって言ってるんじゃない。ただ、重い腰を上げようと思ったらそのときは、「あなたのことを考えて頑張るよ」

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翳目