【2021年版】音楽ファンのためのクラフトビールレビュー

【2021年版】音楽ファンのためのクラフトビールレビュー

2020年1月に「音楽ファンのためのクラフトビール入門」という記事で、ミュージシャンとブルワリーのコラボビールや、音楽に関連したユニークなネーミングのビールを取り上げました。

そのあと、新型コロナウイルスの世界的な流行により家飲み需要が増加し、皮肉にも魅力的なパッケージのビールがさらに増え、日本にもたくさん輸入される傾向なった感じています。

そこで今回は、2021年版として眺めているだけでも楽しくなるようなレコードジャケットのオマージュラベルや、ミュージシャンとのコラボビールを改めてご紹介していきます。

Equilibrium Brewrey『Photon Pale Ale』

これはパッと見て分かる方も多いでしょう。ピンク・フロイドのアルバム『Dark Side of the Moon(邦題:狂気)』のレコードジャケットをオマージュしたラベルですね。

このビールの醸造元であるEquilibrium Brewery(イクイリブリウム・ブルワリー)は、ニューヨーク州ミドルタウンにあるブルワリー。てっきりマンハッタンのミッドタウンのことかと思っていましたが、ミドルタウンはニュージャージー州やペンシルベニア州に近い、ニューヨーク州のカントリー・サイドの街らしいです。

スタイルは「ペールエール」と表記されていますが、しっかり濁っているので「ヘイジーペールエール」と言っていいでしょう。香りはグレープフルーツに松、ブドウ、ほんのりミントっぽいニュアンスも。

この濁りとグラスに注いだ瞬間から広がるホップの香りが、全体的にエコーがかかった音響が印象的な『Dark Side of the Moon』の世界観を表現しているように思いました。

テイストは八朔のようなジューシーさと苦みがあります。ヘイジー系といえば甘めのテイストが多いのですが、このビールについては甘みは少なくドライ。小麦由来の酸味も感じられるので、ホップが効いたジューシーでドライなタイプのビールが好きな人におすすめです。

CELESTIAL BEERWORKS『BABES WITH THE POWER』

こちらはちょっと分かりにくいのですが、デヴィッド・ボウイをオマージュしたラベル。よく見ると色んな年代のボウイがコラージュされています。権利的に大丈夫なのか、ちょっと心配になりますが。

このビールの醸造元、CELESTIAL BEERWORKS(セレスティアル・ビアワークス)はテキサス州ダラスのブルワリー。

数年前まではアメリカのクラフトビールというと、カリフォルニア州〜ワシントン州とその周辺の「西海岸」、大都市・ニューヨークやヘイジースタイルで一躍注目を集めたニューイングランド周辺の「東海岸」、それとハワイ…というように、広大なアメリカの国土ではごく一部からの輸入だった印象でしたが、最近ではテキサス州などアメリカ南部のブルワリーのクラフトビールも徐々に輸入されるようになりました。輸入ルートを開拓して、ベストな状態で輸入してくれるインポーター様には頭が下がる思いです。

こちらのスタイルは、グァバ&パイナップルが入ったゴーゼ。ゴーゼはちょっとマイナーなスタイルですが、東ドイツ発祥の伝統的なサワーエール。乳酸菌を植え付けた小麦を原料にすることと、少しの塩を入れるところがほかのサワーエールと異なる特徴。

ビールをグラスに注いだ瞬間から立ち昇るトロピカルな香り。ガツッと酸味が来るかと思いきやパイナップルの風味と甘み、また酸味のバランスが良いので口をすぼめたくなるほどではない心地良いテイスト。オーツ麦でまろやかな口当たりだし、ちょっとぬるくなったくらいが甘みが立ってベストで美味い。酸っぱい系が苦手な人も飲みやすいかも。あと酸味がチーズに合います。

でも、原材料を見るとゴーゼなのに塩が入っていないのが気になるところです。まあ細かいことはいいか。

通好みのビアスタイルである「ゴーゼ」の根幹を損なうことのないまま飲みやすくアレンジしているこのビールは、時代に合わせてスタイルを変え、カルトなジャンルの音楽をポップに再解釈したボウイの音楽性を見事に表現しているように思います。

このビールのインポーター・Unusual Holdings(アンユージュアル・ホールディングス)は、アメリカでカルト的な人気を誇るビールを船便ではなく航空便を使って、スーパーフレッシュな状態で輸入する注目のインポーター。レーベル買い的な感じで飲むのもアリ。

Electric Bicycle Brewery『IT’S NO GAME IPA』

こちらもデヴィッド・ボウイをコラージュしたラベル。ビールの名前は、1980年発売のアルバム『SCARY MONSTERS(スケアリー・モンスターズ)』収録の「It’s no game」からのネーミング。

このビールの醸造元であるELECTRIC BICYCLE BREWING(エレクトリック・バイシクル・ブルーイング)は、カナダはバンクーバーのブルワリー。2018年にオープンしたばかりなので、比較的歴史の浅いブルワリーですね。

彼らのオフィシャルサイトによると、ブルワリーを併設しているタップルームではビールだけでなく、グリルドチーズ・サンドイッチとグルーヴィングな音楽がウリだそうです。是非検索してみてほしいのですが、タップルームの内外装も70年代風の奇抜なデザインでイカしてます。

このビールは、シトラとモザイクという品種のホップをフィーチャーしたヘイジーIPA。

グラスに注ぐと広がる、シトラス、バナナ、パイナップル…etc. そしてバリバリにフルーティーなホップの香り。スムージーのようにジューシーで滑らかな飲み心地ながら、苦味は控えめ。清く正しいヘイジーIPAです。

過剰なまでのホップフレーバーが、この時期のカラフルでポップなイメージのボウイを想起させます。

Belching Beaver『PHANTOM BRIDE IPA』

このビールはアメリカのメタルバンド・デフトーンズとのコラボレーションによって造られたビール。『Phantom Bride』は彼らのアルバム『Gore』収録の同名曲から命名されています。

Belching Beaver(ベルチングビーバー)は、世界のクラフトビール業界の爆心地・カリフォルニア州サンディエゴの中でも人気の高いブルワリー。特に『Peanut Butter Milk Stout』という、特製のピーナッツバターが入ったスタウトがめちゃくちゃ人気。昨今においてはクラフトビールというとIPAが全盛ですが、Belching Beaverはスタウトでのし上がったちょっと稀有なブルワリーです。

このビールのスタイルは、ウェストコーストIPA。ホップはアマリロ、シトラ、シムコー、モザイクという、このスタイルでは定番の品種。実はこのホップの配合はヴォーカルのチム・モレノが決めたそうです。彼はとてもクラフトビールに詳しいんだ、とBelching BeaverのCEOであるトム・フォーゲルが以前来日した際に話していました。

フレーバーはシトラスや青草を想わせる爽やかさに、ほんのり南国果実。パッケージイラストにある薔薇のような華やかさも微かに感じられます。IPAなので苦くてドライだけど、ほんのり甘いし、飲み口は軽くてクリア。これを飲みながらデフトーンズのライブ観たらめっちゃ気持ち良いだろうな…と思わせてくれる、延々と飲んでいられるようなテイスト。でもアルコール度数は7.1%だから、ライブが終わる頃にはヘロヘロですね。

関係ないけど、今この原稿を書きながらピザ食べていますが、当然ながらピザとIPAの相性は抜群ですね。美味い。

田中酒造店『クラッシュラベル 生酛純米 #12 DEATH OR GLORY』

最後はクラフトビールではなく日本酒。

その名の通り、ロンドン・パンクのザ・クラッシュが発表した代表作『LONDON CALLING(ロンドン・コーリング)』をオマージュしたラベルです。クラッシュラベルはこれまで3商品をリリースしており、これはアルバムの12曲目「Death or Glory(邦題:死か栄光か)」をフィーチャーしたネーミングになっています。

このお酒を発売している田中酒造店は、宮城県加美郡加美町にある酒蔵。『真鶴(まなつる)』『田林(でんりん)』という銘柄を出していますが、この『クラッシュラベル』のシリーズは現在杜氏を務めている盛川泰敬氏のブランドとしてリリースされています。

ザ・クラッシュがそれまでのパンクやレゲエなど、当時ロンドンで流行していた音楽だけでなく、ロカビリーやR&Bなどオールドスクールな音楽性を取り入れて、新しい価値観を提示した『LONDON CALLING』。その精神にインスパイアされ、江戸時代に確立された伝統的な製法『生酛造り(きもとづくり)』を、現代の感性/技術でブラッシュアップしたのがこのお酒だそうです。

味わいは熟れたドライフルーツを感じさせる、キレの良い旨口。ほんのりと後味に酸が感じられて、食事との相乗効果でとても口福を感じられます。飲み方は常温~ふわりと柔らかく仕上げた燗酒がおすすめ。

最後に

皆さま、気になったお酒はありましたか?

ここでご紹介したものは比較的手に入りやすいものなので、是非飲んでみてください。

僕は普段の仕事が酒屋ですし、新しい商品を探すためにもInstagramなどで海外のユーザーがアップしたビールの写真を手当たり次第にチェックするのが日課なんですが、日本に入ってきてないミュージシャンとのコラボビールやオマージュラベルがいっぱいあるんですよね。

一例を挙げると、ドイツのSudden Death Brewing(サドンデス・ブルーイング)の『I Am A Goddamn Son Of A Beer!』っていうDDH IPA。ラベルのミスフィッツオマージュ加減がヤバイです(ドイツって名前ですけどドイツ語はできないので個人輸入は無理)。

それと、テクノDJのDubfireとブルックリンのブルワリー・Stillwater(スティルウォーター)がコラボして造った、酒米を使ったセゾン『EXTRA LOUD』。こちらは正規インポーターがいるので、いずれ日本に入ってきそうですね。Stillwaterは個人的に好きなブルワリーなので楽しみです。

また面白いビールが発売されたら、第3弾も書こうと思います。お楽しみに!

仲川ドイツ