『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』で映画音楽の巨匠、ダニー・エルフマンが見せた愛すべき矛盾を含む音楽性

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』で映画音楽の巨匠、ダニー・エルフマンが見せた愛すべき矛盾を含む音楽性

誰しもが心の中に「季節に合わせて観たくなる映画作品」というものを持ち合わせていると思う。とりわけクリスマスの時期をテーマにした作品と言ったら、数々の名画が挙げられるだろう。家族と過ごした時間や恋人との思い出、時にはひとりで過ごすクリスマス──各々の胸に残る映画があるはずだ。

そんなクリスマスを彩る映画の1つ、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)を世に生み出したのが奇才、ティム・バートン監督だ。そして長年彼とタッグを組んで、自由極まりない奇想の世界を映画音楽の観点から作り出してきたのがダニー・エルフマンだった。今回はエルフマンとバートンの代表作となる2つの映画を中心に、バートン監督の映画が持つ音楽性と作曲家、ダニー・エルフマンに迫る。

アウトサイダーへ向けた物語に寄り添う映画音楽『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』
ポスター・ヴィジュアル

『チャーリーとチョコレート工場』(2005)や『シザー・ハンズ』(1990)『スリーピー・ホロウ』(1999)などユニークでありながら胸を打つような哀愁漂うダーク・ファンタジーを描き続けるティム・バートン監督。『ビッグ・フィッシュ』(2003)ではエディ・ヴェダーが映画にインスパイアされて主題歌を書き下ろすなど、その影響力は有名アーティストにも及ぶ。そんな彼の代表作とも言える映画が『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』だ。この映画は、エルフマンとバートンのコンビがゴシック色の強いファンタジー世界のイメージを最大限に見せつけるきっかけにもなった。

というのも、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』はミュージカル調の構成で物語が進むのだが、主人公ジャックの曲は全てエルフマン本人が歌っている。エルフマンはOingo Boingoというバンドで自らヴォーカルを務めていて、その歌声はお墨付きだ。

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』
オリジナル・サウンドトラック
CDジャケット

主人公ジャックはハロウィンを主軸の世界とする街、ハロウィン・タウンの住人でありながら、クリスマスに強い憧れを抱く。思案の末、ジャックはハロウィン・タウンにサンディ・クローズ(サンタクロース)を連れてきて、彼なりのクリスマスを実現させようとする。

ハロウィン・タウンでは皆から羨望の眼差しで見られ、全てを手に入れたジャック。しかし彼は、常にどこか窮屈で退屈な日々に虚しさを覚えていた。満月の美しい夜に、妖艶さを孕んだエルフマンの歌声が伸びていく様が印象的な「ジャックの嘆き(Jack’s Lament)」からも、その片鱗は見受けられる。鈴の音やパーカッションの素材をふんだんに盛り込んだ、ポップで楽しいクリスマスの雰囲気が感じられる「クリスマスって?」「フィナーレ〜サンタの贈り物」と比較しても、その幽暗たる不安気な曲調は「嘆き」そのものだ。

“でも同じ事 毎年同じだ
悲鳴を聞くのは ああ、たくさん
我は王ジャック 支配者
もううんざりだ こんな人生
心の空しさが骨身にしみてる
まだ見ぬ憧れの世界があるだろう ”

しかし、もう一歩踏み込んだ視点から見てみると、このジャックの姿はエルフマンとバートンのタッグが生み出したアウトサイダーな主人公そのものであることが分かる。エルフマンは本作に対して以下のように述べている。

“明らかにクリスマスの物語だけど、僕にとってはハロウィン映画だ。子どもの頃、ハロウィンは1年で一番好きな夜だったけれど、クリスマスは悩みが多い時期だった。大人になってからも、自分に子どもができるまでは、おそらく幼少時代から引きずっていたちょっとした暗い雲が付きまとうような時期だったんだ。”
──『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』はハロウィン映画かクリスマス映画か? 作曲家ダニー・エルフマンが見解を語るより引用

楽しいステレオタイプのクリスマスに針を刺すような、じわりと毒の滲む音楽性はエルフマン本人の抱いていたクリスマスへの想いが背景にあるのだろう。また、エルフマンのエピソードでは17歳の時に初めて楽器に触り、音楽教育というものを受けていないことも有名だ。同様に、ウォルト・ディズニーが創設したカルフォルニア美術大学で奨学金を得て数年間学んだバートンも、型通りの教育に対する反発心を抱いており、彼もまたある種ジャックのようなアウトサイダーな主人公に重なる部分があるように感じる。

『チャーリーとチョコレート工場』とミュージカル・ナンバーへのオマージュ

鏡合わせのようなバートンとエルフマンが作り出した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、世界中の人々をあっという間に虜にした。ところが本作以降、バートンとのコラボはしばらく封じられていた。というのも、高い緊張感で続く制作の途中、バートンとエルフマンは仲違いしたのである。当時彼らは同時進行で『バットマン リターンズ』(1992)にも携わっていた。

時を経て仲違いを解消したのち、またもやこのタッグから、世間を揺るがす大作が生み出される。それが『チャーリーとチョコレート工場』(2005)だ。

『チャーリーとチョコレート工場』
オリジナル・サウンドトラック CDジャケット

ここでもまたエルフマンは自らが声を担当し、役として登場しているが、『チャーリーとチョコレート工場』は観る者を虜にするド派手な演出と、耳を離れない、不気味さをも醸し出すポップすぎるサウンドが特徴的だ。本作の映画音楽に関して、エルフマンはこう話している。

“コンピューターを使って僕が録音した、たくさんの声を加工して、ハイテンションな曲を作り上げる作業は本当に面白くて、これまでで、僕自身も一番エキサイティングに楽しめた仕事だったと思う。”
──『チャーリーとチョコレート工場』ダニー・エルフマン単独インタビューより引用

また、音楽という視点からひもとくと、『チャーリーとチョコレート工場』は『フットライト・パレード』(1933)からの引用を行っている。バスビー・バークレーが振付/演出を手掛けたミュージカル・ナンバー「滝のそばで」がウンパルンパたちが歌い上げる「Augustus Gloop」を連想させ、直前にウィリー・ウォンカが「世界中の工場で、チョコレートを滝で混ぜているのは他にない。」と話していることからも、バークレーへのオマージュとしてこの場面が使われていることが窺えるのではないだろうか。

同じくオマージュという点で言えば、エルフマンもジョン・ウィリアムズの「スーパーマン」やブラッド・フィーデルの「ターミネーター」など、既存のモチーフを自身の作品に引用する姿勢において、数々の名画への愛を感じることができる。こうしたティムとエルフマンの芸術における互いの嗜好の掛け合いこそが、唯一無二の作品世界を生み出しているのかもしれない。

また、『チャーリーとチョコレート工場』では一人ひとりのキャラクターに結びつく各曲の音楽性がかなり異なる。例えば「Mike Teavee」は80年代風なパンク・ロックに、クイーンとビーチ・ボーイズとビートルズをミックスさせているし、70年代の黒人映画風ファンク風の「Violet Beuregarde」も印象深い。

こうした土地も年代もごっちゃになった音楽でも、全てが自由極まりない世界観の中では不思議と高い親和性を醸し出し、イマジネーションの世界にぴったりな映画音楽として成り立っている。ホラーな要素や残酷さも漂う決して明るいだけの映画ではないはずのに、大きなテーマとしてはあたたかさを感じる、この不思議な愛すべき矛盾こそ、バートンとエルフマンが作り上げた数々の映画が傑作と呼ばれる所以であろう。

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既にNetflixでの配信が決定したことが話題となっている、バートン監督のドラマシリーズ『ウェンズデー』の音楽を、ダニー・エルフマンが担当することが発表された。最強タッグが生み出す、新たなる至高のダーク・ファンタジーの世界はファン必見だ。このタッグが、次はいかなる映画、または映画音楽の世界へ私たちを誘ってくれるのか、今から期待が高まる。まだ彼らのユニークでポップな映画作品を観ていない方はこのクリスマスの機会に是非、手を伸ばしてみることをおすすめしたい。

すなくじら