Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 12-13
貴重なデイオフを使って羽を伸ばした一行。今回は、Day 9で出会ったLexi McCoy率いるSuzie Trueのライブをついに目撃することとなる。
Gosekiのアメリカ徒然探訪録(特集ページ)
主な登場人物
ゴセキ
Awesome &roid ベース、musitライター
タツル
Awesome &roid ヴォーカル/ギター
シバ
Awsome &roid スタッフ
Lexi McCoy
Suzie Trueのベース/ヴォーカル、Cosmic Vinyl Cafeの店員
* * *
8月12日
今日からAwesome &roidのスタッフであるシバが合流する。彼は我々のために会社の有給とお盆休みをフル活用し日本から来てくれるのだ。
シバはAwesome &roidのマーチやCDジャケットなどのデザインを担当しており、ライブの際はマーチガイやカメラマン、機材車の運転など、あらゆる面でサポートをしてくれる、バンドの影の立役者なのだ。そんな彼を迎えに行くため、ロサンゼルス空港まで行く。ショータローは別の友人と約束があるため、今日は別行動だ。
私たちが空港に着いた時は、やたらと時間がかかり、なかなか外に出れなかったため、シバも時間がかかるだろうと思いダラダラと向かっていたが、想定していたよりもずっと早く入国審査が終わったらしく、シバは近くのIn-N-Outで朝食を取りながら待っていた。イレギュラーな空き時間にもスマートに対応するあたり、彼がアメリカに慣れているのが分かる。私にはそんな行動は取れない。

シバ
シバと合流し、私たちはロングビーチへと向かった。私とタツルは同じ大学出身なのだが、在学時に留学していた友人Kがロングビーチに住んでおり、会えることになったのだ。タツルは卒業後も何度か会っていたようだが、私にとっては10年以上ぶりの再会だ。また、ロングビーチはタツルが高校生の頃に留学していた町でもあるらしく、彼にとっては思い入れが深い場所なのだろう。珍しくテンションが高かった。
ロングビーチはその名の通り海に面した綺麗な町だ。雰囲気はDay 2で行ったオーシャンサイドに似ているが、ロングビーチの方が海が綺麗で観光地的な雰囲気が漂っている。

Kに会うまで少し時間があったため、昼食を取ることにした。タツルオススメのピザ屋《Pieology》に行く。リバーサイドでは勉強ばかりで良い思い出があまりないと言っていたタツルだったが、ロングビーチでは思い出がたくさんあるらしく、一時期は本当に移住しようとしていたらしい。しかし色々あって移住計画が頓挫してしまい、日本に帰国し、日本にいるのならバンドをやろうと思い結成したのがAwesome &roidなのだ。そこら辺の状況はアルバム『FRIENDLY NEIGHBORHOOD』の特典ZINEに詳しく記載されているので、興味がある人は読んでみてほしい。

食事後、まだ時間があった私たちは近くのレコード屋へ寄ることにした。《DEX RECORDS》は海沿いにある小さなレコード屋で、ジャンルは60〜80年代のロックとブルース、カントリー、プログレが多かった。おそらく10畳ほどの面積しかない中で所狭しと押し込まれたレコードはニッチな物が多く、店主の深い愛が伝わってくる。趣味に特化した秘密基地のような場所だ。ゆっくりと見てみたかったがあまり時間もなかったため、店を後にした。

久しぶりに会ったKはあまり変わっておらず、瞬間、大学時代の記憶が蘇る。10年近く会っていなくても顔を合わせれば変わらずに接してくれる友達がいるのは素敵だ。彼女は最近婚約をしたらしく、フィアンセを紹介してくれた。どうかお幸せに。
そういえば、もう自分たちも結婚して子供がいて普通の年齢になってしまったとタツルとシバと話す。この歳で好きなことができて、アメリカに一緒に行けるような仲間がいるというのは、ある種の奇跡なのかもしれないなとふと思った。
Kと別れた後、私たちはグレンデールへ向かった。先日《Cosmic Vinyl Cafe》で知り合った女性店員(Lexi McCoy)がヴォーカルをしているバンド、Suzie Trueのライブを観に行くためだ。口約束のライブに行くことになるとは思っていなかったが、現地のローカル・バンドのライブを観る機会は貴重だと思った。


《Junior High》という会場は、ライブハウスというよりは音を出してもいいレンタルスペースに近い。アンプはもちろんドラムも各バンドの持ち込みで、スピーカーも最低限のシステムで、バンドどうしで協力してセッティングするというD.I.Y的なイベントだった。アメリカ、というよりも海外ではこれがスタンダードらしい。アマチュアのバンドがライブを気軽にできるような、音響がしっかりした専属のPAがいて、ドラムやアンプを当たり前に借りられる日本のライブハウスのような店は、まずありえないのだそうだ。
日本のバンドが気軽に海外ツアーを行えない理由の一つには、そういった背景があるのだろう。アマチュアのバンドはレンタルスペースやバーなどに機材を一式持ち寄るのが当たり前のため、アンプやドラムを持って来れないバンドは演奏する場すら与えられない。今回、Awesome &roidは機材を貸してくれるバンドや、イベンター、The Velvet Teenのケイシーなど、たくさんの人たちのおかげでライブができる。ありがたい。ちなみにSiMは、全ての機材と音響スタッフを日本から連れてきていた。さすがだ。
会場に着くと、既にSuzie Trueのライブが始まっていた。前に会った時も感じたが、彼女は『バットマン』に出てくるハーレイ・クインのような風貌だ。バンドのコンセプト的にもガーリー・ポップな雰囲気がよく伝わってくる。女性のファンが多く、私たちは少し気まずく感じ、端っこの方でライブを観ていた。

Suzie True
アメリカでたまたま入ったレコ屋で知り合った女の子のライブを観るというのは、実はすごいドラマチックなのではないだろうか。これがきっかけで彼女たちが日本に来てライブをすることになったら、すごく面白い。いつか叶えられたらいいな。
Suzie Trueはどうやら1番手だったようで、せっかくなので全てのライブを観ることにした。
次のバンドはDiva Bleachだ。彼女たちはアリゾナから来たらしく、同じくアリゾナからロスまでの長い長い道のりを走ってきた身として親近感が湧いた。演奏は荒く、上手いとは言えなかったが、曲はとても良かった。Lo-Fiガレージポップ感がTHEティバを彷彿とさせ、対バンしたら面白そうだ。

Diva Bleach
Spotifyで調べてみるとAwesome &roidより余裕で月間リスナーが多く、落ち込んだ。「演奏は荒い」とか言ってごめんね。曲は本当に良かったのでオススメだ。
3番手のTate Loganは、ポップでMotion City Soundtrackを彷彿とさせるキャッチーさがあった。どうやらHappy.というポップ・パンク・バンドのヴォーカリストで、トランス・ミュージシャンなのだそうだ。
特に予習することなく来てしまったが、イベントの趣旨として割とフェミニズム的な要素があるイベントなのかもしれない。アメリカは日本より性差別やジェンダー論争が激しいので、そういった活動やイベントは多いだろう。MCで話す内容がもっと分かれば違う見え方ができたかもしれない。無知を恥じる気持ちになる。
最後のバンドは主催のHoney Revengeだ。今日のイベントを体現しているような名前だと改めて思った。ライブ感は群を抜いて上手く、曲もキャッチーでParamoreの初期を彷彿とさせていた。正直ローカルのアマチュア・バンドと侮っていたが、最終的に彼らの音楽に飲み込まれていた。ギターとヴォーカルの2ピース編成らしく、他のメンバーはサポートという面でもAwesome &roidと共通する部分があり親近感が湧く。いつか対バンしてみたいな。
これほどのクオリティーのバンドが、決して良いとは言えない環境のイベントスペースのような場所でイベントをやっていることに驚いた。そして改めて日本の恵まれた環境に感謝だ。
普通に日本で生活していたら出会えなかったバンドを知ることができて良かった。あの時、レコ屋の店員にタツルが声をかけなければ絶対に行くことはなかったのだから、何かの縁があるのかもしれない。彼らのことは忘れない気がする。

ライブが終わり、LAに戻る気力は私にはなかった。今日は一日中運転していたし、たくさんの刺激もあったため体力も限界だ。何より、シバは今日アメリカに着いたばかりだ。なんなら絶対に私たちより疲れているはずなのに疲れたそぶりを全くしない。タフな男だ。
ライブハウスの近くのモーテルを借り、今日はここで休むことにした。部屋にはベッドが2組しかなかったが、私はタツルとシバが買い物をしている間にベッド1つを独占することに成功した。シバには悪い気もしたが背に腹は変えられない。2人が帰ってきたのに気付きはしたが、私はそのまま寝たふりをすることにした。
* * *
8月13日
朝、ベッドを独占した私は快適な目覚めだった。
狭いベッドを共有した2人も支障はなさそうだ。というかタツルはおそらくどこでも眠れるのだろう。彼が寝場所にこだわっているところをあまり見たことがない。

シバはメキシコ料理が好きらしいので、朝は近くのブリトー屋さん、その名も《BOMB BURRTOS》に行くことにした。私は今まであまりメキシコ料理に馴染みがなかったため、最初はブリトーとタコスの違いも分からなかったが、今では楽勝だ。注文も簡単にできる。と思っていたが、メキシコ訛りの店員の容赦ない追加注文の案内に全くついていけず、困っているとシバが助けてくれた。彼はこういう時助けてくれる。頼りになる存在だ。
ブリトーを買い、天気も良いので公園で食べようということになり、せっかくなのでグリフィス天文台へ向かった。昨日は夜だったため分かっていなかったが、グリフィス公園がすぐ近くだったのだ。
グリフィス天文台は映画『ラ・ラ・ランド』にも出てくる観光名所で、高い丘の上にあり景色が最高だ。その麓は自然公園になっており、外でランチをするにはちょうど良かった。せっかくなら展望台まで登ろうと車を走らせたのだが、道が混んでいたため途中の景色の良い広場で食べることに。しかし食べ始めた途端に、公園パトロールの警備隊に怒られてしまった。どうやら車を停めるのがダメだったようだ。「罰金を払うか今すぐ車を退けるかどっちが良いか」とアメリカ風な詰められ方をされ、5秒で立ち去った。
自然公園ということもあり、ゴミのポイ捨てやタバコ、火の不始末などを取り締まるため何十人というパトロールが自転車で走り回っていた。特にアメリカは乾燥しているため、ちょっとの火で大きな火事になってしまうことがあるらしく、公園内は火の使用は厳禁だった。タバコなんて吸っていたら捕まるかもしれない。美しい自然公園を守るためにはルールは必ず必要だし、それを守るのは当たり前だ。知らなかったとはいえ失礼なことをしてしまったと反省し、しっかり駐車場に車を停めて公園でブリトーを食べた。
ショータローも行きたがっていたしグリフィス展望台にも行ってみたかったが、車は相変わらず渋滞していたので一度Aタウンまで戻ることにした。
長かったモーテル暮らしもこれで終わり、今日から私たちもショータローと同じく、ケイシーの家にホームステイさせてもらう。シバをケイシーとルームメイトTに紹介し、その間私は愛犬のマルと遊ぶ。すると、外から突然「キュエ~~~」という得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。日本では聞いたことのない声だ。私たちは慌てたが、ケイシーたちは特に気にする素振りもない。番犬であるはずのマルでさえスルーしているのだから、日常茶飯事なのだろう。
外に出てみると、なんと道の真ん中に野生のクジャクがいた。
いや、なぜ??

Aタウンには昔から野生のクジャクが棲み着いているらしい。さっぱり意味が分からない。が、おそらく奈良の鹿みたいなものなのだろう。外にいるクジャクが気になったが、明日のライブに備えて私たちは練習することにした。
3人での演奏にも慣れてきた。幾分かの不安な部分もあるが、もう後はやるだけだ。アメリカで私たちの音楽がどれだけ通じるのか、期待と不安で胸がいっぱいになる。今日は早めに眠り、明日に備えることにした。

ケイシー宅のゲストルームは3部屋、ベッドは各部屋に1つあり、ショータローが1部屋、あとは3人で2部屋を分けなくてはいけない。本当なら厳正なじゃんけんで部屋を分けたかったが、昨日ベッドを独占したこともあり、私とタツルが同じベッドで眠ることになった(タツルが1人で眠るという選択肢は最初からなかった)。もはや彼とベッドを共有するのも慣れたものだ。というか、ケイシー宅のゲストルームのキングサイズのベッドが大きすぎて全く違和感がない。正直、今まで泊まったどのモーテル、ホテルよりも快適に眠ることができたのだった。
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Goseki

