ex.挫・人間 アベマコトと、その手を引いた下川・夏目の10年間

ex.挫・人間 アベマコトと、その手を引いた下川・夏目の10年間

およそ10年もの間、ロックバンド・挫・人間のベースを務めたアベマコトが先月のツアー「挫・人間 TOUR 2020〜さような来世!風と共に去りヌンティウス〜」札幌公演を以て脱退した。

アベマコトはバンドを辞めた。アベマコトはコロナウイルスの逆風をいくら受けようとも強い意志と使命感を持って最後まで挫・人間のベーシストを全うし、バンドを辞めた。挫・人間における〈アベマコト〉とは、一体何だったのか?

下川に手を引かれた、アベマコトの10年間

 

君はとってもダメなやつだよ でもダメでいい…
ありがとう…出逢ってくれて
太陽Wo 浴びYo!〉ーー『品がねえ 萎え』

アベマコトは2010年に挫・人間へ加入した。挫・人間がその名を世間に知らせる大きな契機になったのは、アベが加入する前年に行われた「閃光ライオット2009」だったので、アベと、それから2013年に加入した夏目創太(G)は「閃光ライオット」という若かりし10代のバンドマンなら誰しもが憧れる伝説のステージを経験しなかった中途メンバーである。

 

しかし唯一のオリジナルメンバーとして挫・人間のバンドコンセプトを死守し続けた下川リヲ(Vo&G)は、アベや夏目に対して一切忖度する姿を見せなかった。
下川の描く歌詞はいつも、自身の心の底に秘めるルサンチマンの垂れ流しが基盤になっている。下川はそういったルサンチマンの類を楽曲として昇華することで自己との葛藤と折り合いをつけていて、アベも夏目も「挫・人間」という居場所があることで自身の殻を破れた、という意味では下川の一人芝居には収まっていないことが見てとれるだろう。

MCやSNSの投稿でこそ、「やや冗談」程度の匙加減でアベや夏目を罵倒している下川。しかし彼のメンバー愛は誰よりも人間臭く、愛に満ちている。

恋のため 愛のため なんてこと言えないが
つらいなら連れてくよブロードウェイ 街を歩こう 徹夜で〉ーー『恋の奴隷』

閃光ライオットのステージにのし上がり、世の中への反逆心を叫んでいた当時17歳の下川が、約10年の時を経て〈連れていく〉側へとーー手を引っ張る方へ回っている。バンドのフロントマンとして、長年死守してきた唯一のオリジナルメンバーとして、そして友人として。アベと夏目の二人の居場所を確保することを、下川は自らの使命のように感じていたのではないかと思う。

愛しさと悲しみと苦く淡い思い出と

2010年以降、幾度かのメンバー入替を経て三人組バンドとして活動してきた挫・人間。長いバンドキャリアの中で、彼らの中で変わったもの・そして変わらなかったものとは一体なんだろうか。

ライブのMCでは下川と夏目が意地悪くアベから距離を置いてみせたり、アベの脱退発表時には「あいつなんかさっさと辞めたらいいんですよ」と冷たくあしらう風を装う姿が見られたが、そもそも挫・人間は「お涙頂戴バンド」ではない。メンバーが一人抜けると発表したところで、下川や夏目がセンチメンタルに入り浸る必要はないのだ。

 

しかし、最後の最後まで下川がそっぽ向いていたかと言うと、そうではない。

アベの脱退後に公開されたSkream!に掲載されている下川の連載コラム「モノホンプレーヤーになれねえ」では、

最悪なバンドの最低をやった男なら、どこでだって幸せになれるだろう。
変質者同士のバンドで感動的なストーリーとは呼べないが、なんというか、彼との時間は紛れもなく青春と呼ぶに相応しい苦々しく愛おしい時間であった。

と末尾に綴っていた。「さっさと辞めたらいいんですよ」はおそらく、挫・人間のメンバーとして共に過ごす仲でスキルを磨き、プレイヤーとして高みを目指すアベを惜しむことなく見送る意味から出た台詞なのではないだろうか。下川リヲという男は、どこまでも愚直で、どこまでも愛に満ちた男である。

 

アベマコトが挫・人間を辞めた。

そして11月5日、新たに挫・人間が4人組バンドとして始動することが公表された。アベマコトの映っていた「ブラクラ」発売時のアーティスト写真はSNS上から消え、『新生 挫・人間』の写真に切り替わっていた。

もう、アベマコトを見て〈マコマコリン〉と呼ぶことはない。2代目〈マコマコリン〉が出るかは分からないが、もうあの殺気立ったハイトーンボイスに脅迫されるようにして「まっこまっこりーん!」と呼ぶことは、私たちは二度とないだろう。

 

挫・人間を辞め、アベはそれまで自身のトレードマークだった、黒塗りのサングラスを外した。

 

今後、私たちがどこかのライブハウスでアベを見ることがあっても、そのときは既に挫・人間というバンドに熱を注いでいた彼の面影はないだろう。

寂しさは依然としてあるけれど、下川と挫・人間のファンによって除霊されたアベマコトにはもう「挫・人間以外の場所で生きていく」道しか残っていないのだ。そしてまた、挫・人間も新たなメンバーを迎えて今後も『全人類への復讐』を続けていく。置かれた場所で咲きなさい、なんて、彼らには到底似合わない。

翳目