年間ベストアルバム2021【musit的マンスリーレコメンド】

年間ベストアルバム2021【musit的マンスリーレコメンド】

月末更新の連載「musit的マンスリーレコメンド」のレビュアー陣が、2021年のベストアルバムをセレクト。年間を通してよく聴いた/印象的だった作品を5枚ピックアップし、それぞれが2021年を振り返る。

文=イエナガ/翳目/Goseki/對馬拓/仲川ドイツ/Fg

イエナガ(colormal)の5枚

downt『downt』
Label – ungulates
Release – 2021/10/01

yonige『三千世界』
Label – small indies table
Release – 2021/08/18

butohes『Lost in Watercycle』
Label – Self Released / FRIENDSHIP.
Release – 2021/06/16

GRAPEVINE『新しい果実』
Label – SPEEDSTAR
Release – 2021/05/26

Fennel『slow down』
Label – LIKE A FOOL RECORDS
Release – 2021/10/26

コロナウイルス絡みの騒動も2年目となれば「正体不明の何か」ではなくなり、その上でこの1年間を内省したり、無味乾燥さを鳴らした作品が琴線に触れることが多かったです。

そういった点で言えば、前作『健全な社会』から『三千世界』でさらにオルタナティヴへと舵を切ったyonige、外出自粛下でセッションからリモートでのやりとりに切り替えて制作が進んだというGRAPEVINEの『新しい果実』あたりは顕著だったなと。

しかしながらこんな状況下でも、ライブハウスにヒロイックなバンドは現れる訳で、downtのリリースは僕の周りでも反響が大きかったですね。ミッドウェスト・エモほど技術で人を突き放さず、かつての残響系ほど俯いていない… 唯一無二です。

butohesのリリースも印象的でした。自身達で音源のエンジニアリングまで完結していることもあり、ライブを含めてとにかく音が良い。凡百のシューゲイザー・バンドから一線を画すようなリズム隊のマッシヴさも相まって、こちらも独自のバランス感を持ったバンドだと思います。

翳目の5枚

underscores『fishmonger』
Label – Self Released
Release – 2021/03/25

Hiatus Kaiyote『Mood Valiant』
Label – Brainfeeder
Release – 2021/06/25

Kabanagu『泳ぐ真似』
Label – Maltine Records
Release – 2021/04/12

Porter Robinson『Nurture』
Label – Mom+Pop
Release – 2021/04/23

PARKGOLF『Totem』
Label – JET SET
Release – 2021/04/14

緊急事態であることが常となり、流行り病に脅かされながらもある種の「慣れ」の中で過ごしていた1年だった。チケットの払い戻しも、いつしか「まあいいか」と潔く諦められるようになっていた。

半ば山積した鬱憤を晴らすようにして音楽に縋っていたと思う。underscores『fishmonger』やKabanagu『泳ぐ真似』はその欲望を忠実に叶えてくれる作品に感じられた。ポップ・パンクやアンビエントなどと共鳴しながら走り抜ける前者、全5曲・約11分間の中で多量の電子音が飛び交う構成にシンガーソング・トラックメイカーとしての新境地へ辿りついてみせた後者。PARKGOLF『Totem』はその対角で、多彩なアーティストを客演に迎えながらシュールなシンセ・ポップを志向し、ポーター・ロビンソン『Nature』はオンラインフェス「Secret Sky」で展開された世界へのアクセスを音楽の側面から追求した、時代と呼応する実験的作品として強く胸を打った。

選出した5枚のうち、バンド形態はハイエイタス・カイヨーテ『Mood Valiant』のみ。ネイ・パームの乳癌治療とパンデミックの逆境を経てリリースされた本作は、自由への解放と祈りにも似た未来への導きが込められた、在るべくして生まれた作品と言えるだろう。

2021年、虚脱と焦燥の中をとにかく走り続けた。光は差さずとも進むしかなかったのだ。私が今回並べた5枚のように、パイオニアであるべきは、いつだって自分なのだから。

Gosekiの5枚

Bearwear 『The Incomplete Circle』
Label – ZAYA RECORDS
Release – 2021/12/15

gato『U+H』
Label – Self Released
Release – 2021/10/13

Weezer 『OK Human』
Label – Atlantic Records / Crush Music
Release – 2021/01/29

Weezer 『VAN WEEZER』
Label – Atlantic Records / Crush Music
Release – 2021/05/07

Japanese Breakfast 『Jubilee』
Label – Dead Oceans
Release – 2021/06/04

2021年はアーティストにとって進化の年となった。ウイルスにより音楽をはじめとする様々なカルチャーの波が止まってしまい、人々は「生きる」ことに精一杯で「活きて」はいないような、世界中が静かで覇気のない日常を過ごしていた。そんな制限の中でも様々なアーティストが作曲に注力し、新しい可能性を提示した。2021年にリリースされたアルバムは実験的で、懐古的でもあり時には王道的ですらある。シーンが再び動き始めたのを感じた。

ウィーザーはオーケストラ・サウンドのアルバム『OK Human』とヴァン・ヘイレンへの哀悼を込めたハード・ロック・アルバム『VAN WEEZER』という対照的な2枚をリリース。ジャパニーズ・ブレックファストの4年ぶりのアルバム『Jubilee』は過去2作の重暗い歌詞と比べると多幸的な内容で、コロナ禍での心境の変化が窺える作品だ。

日本でもコロナ禍で自らと向き合い、進化したバンドがいる。gato、Bearwearはコンスタントにリリースを続けるも常に進化し、リスナーたちを飽きさせない。

2021年の音楽は「コロナ」と否が応でも結び付けられてしまうだろう。しかし、カルチャーの進化の影にはいつだって世界規模の事件があった。数年後、この時代に生まれた作品たちは音楽の歴史に名を残すのかもしれない。

對馬拓の5枚

butohes『Lost in Watercycle』
Label – Self Released / FRIENDSHIP.
Release – 2021/06/16

KIRINJI『crepuscular』
Label – UNIVERSAL MUSIC
Release – 2021/12/08

Alice Phoebe Lou『Glow』
Label – Self Released
Release – 2021/03/19

揺らぎ『For you, Adroit it but soft』
Label – FLAKE SOUNDS
Release – 2021/06/30

ミツメ『Ⅵ』
Label – スペースシャワー
Release – 2021/03/24

危なっかしい手つきで砂の城を上へ上へと積み上げていくも、バランスが悪くて崩れてしまう。もう1回挑戦しても、今度は何者かによって崩される。それでもまた積み上げて、それでもまた崩れて。その度に城は高くなっていくが、崩れた際のダメージも当然大きい。人生は、ちょうどそんな感じだ。

上半期はサウス・ロンドンを中心としたポストパンク勢をよく聴いていたが、身の回り、あるいは世界的に巻き起こった(どちらかといえばかなしい、嘆くべき)様々な事象を感じ取る中で、最終的に自分が求めたのは爆発的/瞬発的なものではなく、内省的/告白的なもの──つまり「安寧」だった、ということに気付いた。ここに挙げた5作品は、どれもそんな空気を纏っている。

もっといえば、「そこに在る」という、過度に干渉しない距離感がある。共感を押し付けることもなく、必要以上に鼓舞したりもしない。例えるなら「水」だろうか。アートワークなどの視覚的要素、再生して聴こえてくる流麗な音。あるいは、そこで描写されるもの──形がなく、するりと抜けていくもの。生きていく上で必要なもの。時には我々を脅かすもの。水は多量であれば砂の城を押し流してしまうが、形作り固める分だけの適量は不可欠なのだ。

仲川ドイツの5枚

cktrl『zero』
Label – Self Released
Release – 2021/10/29

The Armed『ULTRAPOP』
Label – Sargent House
Release – 2021/04/16

PLASTICZOOMS『Wave Elevation』
Label – Wiggles & Jiggles Records
Release – 2021/01/27

オーイシマサヨシ『エンターテイナー』
Label – PONY CANYON
Release – 2021/08/25

テンテンコ『An Antworten EP』
Label – TAL
Release – 2021/03/05

2021年も相変わらずストレンジ・ミュージックと特撮ソングばかり聴いていました。パンデミックで色々とヤキモキすることは多かったですが、緊急事態宣言の影響で制作を宅録主体に切り替えたミュージシャンも多かったようで、音源派リスナーは意外と楽しめた年だったんじゃないかな。INORAN『ANY DAY NOW』なんて、まさにこの状況だから出てきた作品だったと思います。悪いことばかりじゃなかった。

さて、僕が敬愛するBruce Gilbertの新譜リリースはありませんでしたが、間接的フォロワーといえるAlminium「area-β」のカセット発売には驚きました。彼女はBruceやWIREファンにはお馴染みのゴールデン街のバー「ナイチンゲール」の元スタッフなんですよね。若い世代にも脈々とエクスペリメンタル・ミュージックのDNAが受け継がれていくことを嬉しく思います。

かつて一緒にナイチンゲールに通ったpays des fées(ペイデフェ)の朝藤りむちゃんやKAOGANAIのメンバー、sugardrop/alicetalesの中村くんが相変わらずアヴァンギャルドに活動を続けている姿を見て、僕も身が引き締まる思いでございます。2022年も精進します、押忍。

Fg(butohes)の5枚

SuiseiNoboAz『MARK 3020』
Label – SuiseiNorecoRd
Release – 2021/11/24

GRAPEVINE『新しい果実』
Label – SPEEDSTAR
Release – 2021/05/26

butohes『Lost in Watercycle』
Label – Self Released / FRIENDSHIP.
Release – 2021/06/16

NOT WONK『dimen』
Label – cutting edge
Release – 2021/01/27

NOUGAT『40 MINUTE MEDITATION』
Label – LIKE A FOOL RECORDS
Release – 2021/12/15

2020年の2周目のような感覚もあった2021年。この厄災の下であらゆるアーティストが作品に全てのエネルギーを凝縮したため、1枚1枚の質量が段違いに思えました。ただ、心が揺さぶられたとしても、堪え性のない私は1周聴いただけでお腹いっぱいになってしまうことも…。

もし「2021年を象徴するアルバム」を選ぶのだとすれば、違う並びでした。これから先も自分の記憶に残るアルバムを選んだつもりです。

「今年、生半可な音源はリリースしない」という宣誓のごとくいきなり傑作でぶん殴ってきたNOT WONK、コロナ禍の影響を受けつつも安心/安定感のある、ちょっとおかしな名曲たちを届けてくれたGRAPEVINE。珍しく短期間でヘビロテしたNOUGATの2ndアルバムは、日本に限らず世界で長く聴かれてほしいと思います。ボアズのライブ盤は、この名演が各種ストリーミングにて解禁され、半永久的に残り続けることへの感謝を伝えたくて選びました。イヤホンで聴いて泣き、DVDを観て泣きました。butohesは、初ライブ、リリース準備、物販づくり、自主企画、制作…と、人生と切り離しようがないほど密接だったため、外すことができませんでした。良い曲ばかりです。良くも悪くもこの音源のおかげで生きながらえた2021年でした。どの音源も千年後まで残りますように。

* * *

musit編集部