あいみょんが語りだす、特別ではない人々の形--3rdアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』レビュー

あいみょんが語りだす、特別ではない人々の形--3rdアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』レビュー

等身大のラブソングや人物像が幅広い世代のリスナーから支持を得ているシンガーソングライター・あいみょんの3枚目のフルアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』が、2020年9月9日に発売された。

2ndフルアルバム『瞬間的シックスセンス』以降にリリースされたCDシングル4枚のタイトル曲、日本テレビ系ニュース番組《news zero》のエンディングテーマソングに抜擢された「さよならの今日に」や、新曲含む全12曲を収録している。

イメージするのは「具体的であり、特別ではない人物像」

なんといってもこのアルバムで最初に目を引くのはタイトルだろう。『おいしいパスタがあると聞いて』。アルバムジャケットにはチューリップに見立てたパスタに虫が止まった写真、という斬新なアートワークがあしらわれている。何を隠そう、このタイトルには既に楽曲を聴く前から、現代人の感性を飾らない言い回しで表現してみせる「あいみょん節」が利いているのだ。

SNSや友人伝いに『おいしいパスタがあると聞いて』、実際にレビューの高いパスタの店へと足を運ぶような人物像、というものを想像してみてほしい。実に今時で、情報に敏感な現代人を端的に表現していると思いはしないだろうか。

本作は<人物像>というものが大きなキーワードになっている。あいみょんの歌う楽曲の中の人物はいつでも輪郭をはっきりとこちらに見せ、おくびもなく情けなさやみっともなさを露呈するのだが、今回のアルバムはそういった、「感情を吐露するパーソナリティ」というものが際立って表現されているように思う。

彼女の作り出す楽曲の中に生きている人物はいつも、特別な人物ではなく、実際にその辺りで生きていそうな人なのである。普通の人間が抱く何ら特別ではない感情を、1つずつ拾い上げて歌う。このアルバムタイトルは、そういった彼女の楽曲に見られる特徴を実によく表したものだと考える。

身近なモチーフを使い、リアルな感情を表現するテクニック

また、本作に収録されている曲には、それぞれにモチーフが登場することが多い。「シガレット」には煙草が、「ポプリの葉」にはタイトル通りのものが、「マシマロ」に至っては、かつてゆずが「いちご」という楽曲で絶妙なメタファー的エロチシズムを歌ったように、女性の身体の曲線をマシュマロに例えて歌ってみせたりもしている。

‘‘目の前にあるマシマロの丘 チョコレイトで汚したい’’

モノや素材を上手く使い、そのモノが持つ要素をメタファーに変え、主人公の心情を叙述している歌詞の切り口は実に巧みだ。日常の中の些細な場面に存在するモチーフを使うことで、リスナーとの心を距離を縮めることにも成功している。誰しもが知っている馴染み深い要素を自由自在にアレンジし、楽曲に昇華させる才能は、彼女が官能小説を好んで読んだり、神保町に足しげく通う読書家であることにルーツを感じる。セクシャルな場面においての人の俗っぽさや、古本に漂う人を介しての温もりと手触りに触れる機会の多い彼女だからこそ、書ける歌詞があるのではないだろうか。

「聴いても楽しめる音楽であり、読んでも楽しめる音楽にしようといつも心がけている」とインタビューで話していた言葉の通り、リスナーは彼女の音楽を聴いて「小説を読んでいる」ような感覚になる。そこにはリアルで素朴な人の生き様が綴られている。

それぞれの楽曲で「主人公」になれる歌声

『おいしいパスタがあると聞いて』は、様々な人生を歌っている。それぞれの生き方、恋愛、関係において具体性が際立っており、「朝陽」の歌詞にある‘‘乾電池みたいな女”や「チカ」の冒頭で歌われる‘‘A.P.Cの黒い財布”、「ハルノヒ」の‘‘北千住駅”など、人の性格や付帯するモノ、場所の具体性が随所に見られる1作となっている。

‘‘北千住駅のプラットホーム 銀色の改札 思い出話と 想い出ふかし’’

それぞれが独立して物語を展開させている本作は、全体で聴くとさながら連作短編集のように聴こえる。これはあいみょん、というシンガーソングライターの持ち味だ。「ラブソングにおいて様々な人物に変身し、その人物がこれまで生きてきた上で形成されてきた声によって歌を完成させることができる」という彼女の魅力は、どの物語においても「物語を歌い手として完結させることのできる」能力だ。いわば音楽においてのカメレオン的存在とも言える。

 

そうして歌われた楽曲たちは人肌の温度を持ち、実体を帯びてリスナーの耳に届いてくる。2019年2月18日に開催された《AIMYON BUDOKAN -1995-》でギター1本のみを携えてステージに立ち、観客と音楽での対話を果たした彼女は、2020年7月5日には日比谷野外音楽堂で無観客ライブ《AIMYON 弾き語りTOUR 2020 “風とリボン” supported by 淡麗グリーンラベル》でも総視聴者数57万人以上を魅了し、成功を収めた。常にリスナーとの距離を近いものにしたいと願う彼女の楽曲は、聴く者の心に寄り添い続け、「物語」に生きる主人公の姿を私たちに見せてくれる。

次世代のアイコンでありながら、馴染み深い存在として親しまれている理由は、楽曲にも通じる人に対しての接し方や、リスナーを想う心にあるのではないだろうか。

 

あいみょん、というアーティストのパフォーマンスを見るたび、飾らないありのままの姿に、歌声に、豊かな人間性を感じる。

1人のシンガーソングライターを愛おしく感じ、音楽に魅了されるという経験は、直接誰かの肌に触れた時の感触を思い出させる。彼女の音楽は、触れ合った時のこそばゆさや恥ずかしさで教えてくれるのだ。

人とはみんな情けなく、されど愛おしい生き物なのだと。

安藤エヌ