小山田壮平、初のソロアルバム『THE  TRAVELING LIFE』− 10年かけて果たした約束

小山田壮平、初のソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』− 10年かけて果たした約束

2020年も終わりに近づいて、例年にならい、今年一年を振り返る時期になった。

今年の、特に梅雨明け頃までは感染症対策による自粛生活にうんざりして、些か心を閉ざしてしまっていた。情緒が正常に働いていたかと聞かれれば、決してイエスと言い切れない日々が続いていたのだ。

あるべき日常が180℃変わってしまったこの一年。遠くへ行きたい、と思った。余計な情報を目にすることがない、どこか遠く、自分を逃してやれる場所へ。

 

忘れかけていた「自由」との邂逅

そう思っていた夏の終わり、一枚の弾き語りアルバムが手元に届いた。
元andymori、小山田壮平のファースト・ソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』。蛍みたいに煌々とやわらかい光で輝くようなデザインのジャケットは、まるで彼の楽曲が持つ温柔なイメージを表現しているようだ。

旅する人生。このアルバムは小山田自身の歌手活動の変遷を振り返るものでありながら、『旅』をすることが憚られてしまったこの状況下において、今誰もが抱えている悶々とした不自由さを宥め、アルバムの中で自由へと解放させるものであるかのようにも感じられた。

一曲目は本作のリード曲にもなっている『HIGH WAY』。

 

‘‘考えるだけ時間の無駄に違いない 誤解されないように生きるなんて無理な話’’

 

本作のリリースを記念して行われたスペシャルインタビュー内で、小山田はこの歌詞を「去年の冬ぐらいに書き上げた」と話している。コロナ禍以前に制作されたものでありながら、様々な情報が日々錯綜する中でつい冷静さを欠いてしまうことの多い今、‘‘考えるだけ時間の無駄に違いない’’ときっぱり言い切ってくれることに、心の奥で深く安堵している自分がいる。

次ぐ二曲目は、サイケデリックで躍動感のあるメロディが斬新に彩られた『旅に出るならどこまでも』。彼らしいようで彼らしくない、サイケ、アコースティック、ティンホイッスルと三部に分けられて構成された、極めて複雑な楽曲だ。

‘‘どこへいく?どこへでも 果てしなく限りなくある空’’

 

どんちゃん騒ぎのように楽しげである反面、後半は勇敢に進んでいくこの曲は、まさしく郷愁を誘うひとつの‘‘旅’’であると言えるだろう。少年の高揚にも似た躍動感は小山田壮平の音楽感性ならではのもの。

一方、ステップを踏むように鳴る軽快なギターサウンドが特徴的の『OH MY GOD』は、パワフルかつ小気味よい歌声が些か初期のandymoriを彷彿とさせる。また、‘‘砂埃の街に新世界が響く ひとつひとつの痛みを飲み込んで’’という歌詞から、本作が他人の人生の後押しをするものではなく、andymoriやAL、その他多種多様な音楽活動の遍歴と紆余曲折を経て現在地点に旗を立て、その地点から客観的に自分の歩んできた道を省みた作品であるということが垣間見られる。

雲ひとつつない晴天に恵まれる日もあれば、しとしと雨が降る肌寒い夜もある。しかしそんな時こそ、たまには天気を言い訳にして、無理をせず自分のペースで歩いてみるのもいい。そこから見えるもの、丁寧に思考整理をして気付くことも、きっとある。

‘‘雨の中 今日も誰かを探して たどり着く歌で励ましながら昨日の夢に見た会えない人と歩いてる 住み慣れた街で’’(『雨の散歩道』)

 

スローテンポで揺蕩うようなメロディ進行は『ベロベロックンローラー』にも顕著だ。

‘‘僅かな金が尽きるまで飲み ベロベロックンローラーは街角のチリ’’

小山田は大の酒好きでも有名な男だ。以前、オープニングアクトとして出演していた工藤祐二郎と缶ビールを片手にステージ上で演奏したり、ツイキャス上で「記憶があやふや」になるほど鯨飲しながら上機嫌にアコースティックギターを持って歌うこともある。
翌日のTwitterで「酔っ払ってしまいました」と恥ずかしげに報告することもあるが、そんな自由気ままで鷹揚な彼の姿を見ていると、何だかもっと気楽に生きていても許されるような気がする。
中途半端に格好つけられないベロベロックンローラー。そんな彼のことを、心底愛おしく思う。

 

‘‘テキーラをあおってもまるで酔えない タバコを吸っても気持ち悪いだけ’’(『スランプは底なし』)

小山田壮平は少年のように純粋無垢、そして広く優しい心の持ち主だ。そのパーソナリティはandymori時代から現在に至るまで変わらない。同じ目線に立って物を見、同じように些細なことで悩み、同じ言語で支えてくれる彼の人間臭さに救われている。そして同じように年を重ねていわゆる‘‘おじさん”になった小山田の楽曲は、andymoriの時代に比べて、いっとう自由な感触がある。

 

10年経ったら旅に出よう

 

‘‘10年たったら旅に出よう 南の国がいいな みんなきっと驚くって 絶対ね’’

2009年に発売されたandymoriのファーストフルアルバム『andymori』に収録されている『Life Is Party』で、当時の小山田壮平は「旅に出よう」と歌った。
そして、あれから約10年という月日を経て

‘‘いつかの空と虹色の記憶の中を進んでいく 寝ぼけ眼の少年も年を重ねたけれど
忘れちゃいないよ 素敵な夢を見た だからこうして今日も走っているでしょう’’(『夕暮れのハイ』)

と自身との約束を果たしてくれた。小山田壮平は今、着実に、悠々自適に、一歩一歩旅路を進んでいる。

 

『THE TRAVELING LIFE』は偶然にもコロナ禍で発売されるものとなり、外出することをはばかられた私たちに心の解放を与えてくれた。この先の未来はどうにも分からないが、彼が今日も歌の中で旅を続けてくれているなら、その姿が来年も生きる私たちを導く、優しく温かいシンボルになるだろう。

翳目