manu’a beerclub──レコードとクラフトビールで旅する渋谷区・神泉のオアシス
男女の愛と欲望、そして数多くのクラブがひしめく道玄坂を抜けて。もしくは、京王井の頭線の神泉駅から徒歩で3分ほど。渋谷の街の喧騒が遠く聞こえる閑静なエリアに、クラフトビールとGood Musicを堪能できるバー「manu’a beerclub(マヌア・ビアクラブ)」はある。
取材/文/写真=仲川ドイツ
編集=對馬拓
まるで旅行したかのような都会のオアシスに

前身となるソウルバー「Vinyl Bar TIME shimokitazawa」は2018年に下北沢で開業。3,000枚超のレコードをヴィンテージのJBLスピーカーで聴ける店として、ミュージシャンも通う名店となった。その後、2021年4月に現在の神泉へ移転。それに伴って店名も「manu’a beer club」になった。
「manu’a」という聞きなれない響き。少し不思議な名前の由来と移転した理由を、店主の磯村さんに聞いた。
磯村:サモア領マヌア諸島という島があります。行ったことはないのですが、手付かずの自然が残っており、ゆっくりと時間が流れているような所だと伺っています。世界各国のクラフトビールとアナログレコードで、まるで旅行気分を味わえるような都会のオアシスになれれば、と思って命名しました。

磯村:前店は初めての開業で予算も少なかったため、小さなお店で初めました。神泉は特に思い入れのある土地とかではなかったのですが、より多くのお客様が入れる店舗を探していたところ、不動産会社の方に紹介していただきました。
エメラルドグリーンの壁はコーラルリーフが広がる常夏の島をイメージさせてくれる。では早速、馨しいオアシスの恵みで喉を潤すこととしよう。
ラインナップは幅広いジャンルをバランス良く

メニュー看板には、グラスで提供される12種類のビールが書かれている。サイズは1パイント(473ml)かハーフパイント。ラインナップは都度変わる。また、冷蔵庫には缶ビールも入っており、こちらもその時々だが、取材当日は「うちゅうブルーイング」や「Mikkeller」などの人気銘柄から近年盛り上がりを見せるカナダのクラフトビールまで、通も唸らせる取り揃えだった。ビールのラインナップはどのように決めているのだろう。
磯村:クラフトビール初心者の方にも勧めやすいライトな飲み口のものを常に置いて、更になるべく幅広いジャンルのビールをバランス良く入れています。NE IPA、ペールエール、サワー、スタウト、ラガーは常に揃えて、ラインナップに偏りがないようにしています。

私が1杯目にチョイスしたのは、静岡県の人気ブルワリー、West Coast Brewingの「RED LIGHT」。大麻から抽出したリラックス効果が期待される成分、CBD(※)をたっぷり配合。更にCBDの効果をブーストするとされる植物由来成分のテルペンまで入った、スーパーチルアウトなIPAだ。飲んでみるとホップ由来のシトラスを想わせるアロマ、ダンクでパイニー(草っぽさ、松っぽさ)なフレーバーだけでなく、テルペンからであろう青々しい味わいも感じられる。モルトのボディ感と相まって呑み応えのある爽快なテイストだ。
ちなみにこの日は金曜日。CBDの効果の程は分からないが、IPAの鮮烈な香りと苦味は1週間の仕事の疲れから開放してくれる。
また、manu’a beerclubはビールだけでなく、ウイスキーやスピリッツなどのハードリカー、レモンサワーやジャスミンハイも飲めるので、ビールの飲めない友人と来てもきっと楽しめることだろう。フードは毎日数種類のお惣菜が用意されているし、店外からも持ち込み可能だ。
※:「カンナビジオール」の略で、大麻の種子及び茎から抽出された大麻草特有の成分。CBDは多くの試験から良好な安全性の特徴、忍容性があり、日本の大麻取締法の規制からは除外されている。また、テトラヒドロカンナビノール(THC)のような精神作用を含んでおらず、乱用、依存、耐性はみられないとされている。(参照/引用:一般社団法人日本カンナビジオール協会)
次のレコードを考えている時が一番楽しい

manu’a beerclubで何より強烈に目を引くのが、タップ前に配置されたターンテーブルだ。ビールを注ぎつつ、次にスピンするレコードをセッティングするのはきっととても慌ただしいのだろうが、磯村さんはあくまでスマートに、そして楽しそうに作業している。レコードバーというと店によって得意なジャンルや傾向があったりするが、manu’a beerclubはどうだろう。
磯村:このジャンルが強い、というのは特になくて、メタルとレゲエ以外は一通り何でもありますね。選曲に関しては、私はレコード棚も特に整理していないので、初めに適当に取った1枚から、その時お店にいらっしゃるお客様の好きそうなジャンルに少しずつずらしていきます。そこは腕の見せ所というか、次のレコードを考えている時が一番楽しいので毎日そんな感じです。
取材当日はソウルやR&Bから始まり、私たちの会話からチョイスしてくださったのか、XTC『Skylarking』や坂本龍一『NEO GIO』(My Favorite!!)などもスピンしてくれたのがとても嬉しかった。


横に長い店内の左右に配置されたYAMAHAのスピーカーから流れる音量は大きすぎず、友人との会話も無理なく楽しめる(もちろん騒ぐのはNGよ)。例えるなら、砂浜に打ち寄せるさざなみのような心地良い音量。下北沢時代はヴィンテージJBLだったようだが、現在のオーディオシステムは?
磯村:スピーカーは高級オーディオではないですが、なるべくかける音楽に年代が近いもの、フラットで冷たい音はキリッと鳴ってくれるもの、ということでYAMAHA NS-1000を使用しています。ブーミーな音は好きじゃないんです。アンプは色々と試して、現代のものですが、フォノイコライザー能力の高いアレヒのDJミキサーとThomanのパワーアンプのみです。
試行錯誤を経て洗練されたシステムで鳴らされる音楽は、身体に染み渡るようで実に心地良い。
音に呼び起こされる記憶──。そうした経験は誰しもあると思うが、manu’a beerclubで聴いた音楽をいつかどこかで耳にしたら、あの日あの時のホップの鮮烈なアロマや友人との楽しかった会話を思い出すこともあるかもしれない。そんな時は、また愛と欲望渦巻く道玄坂を抜けて、都会のオアシスで喉を潤そう。南太平洋上のマヌア諸島よりずっと近いのだから。



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manu’a beerclub
【住所】東京都渋谷区円山町5-14 スタービル2F
【営業時間】18:00-25:00(日曜定休)

HP:https://manuabeer.storeinfo.jp
Instagram:@manua_beerclub
Facebook:https://www.facebook.com/Manua-beer-club-114332329929251/
仲川ドイツ
