90年代が産み落とした奇跡の申し子・長谷川白紙【2020.1.29@恵比寿LIQUIDROOM】

90年代が産み落とした奇跡の申し子・長谷川白紙【2020.1.29@恵比寿LIQUIDROOM】

長谷川白紙(はせがわ・はくし)。
2016年、SoundCloud上で「肌色の川」という楽曲を発表し、当時まだ10代とは思えぬ強烈な音楽センスから、コアな音楽ファンの間で一躍有名に。
2018年には自身初となるCD盤でのEP「草木萌動」をリリース。翌年にはファーストアルバムとなった「エアにに」を発表し、音楽メディアのみならず、数々の著名人など各方面から絶大な支持を受け、現在21歳という年齢ながら他に類を見ない若き才能を発揮している。

今回は、そんな“奇跡の申し子”である長谷川白紙が出演した「LIQUIDROOM&BOY presents Song For Future Generation」の模様をご紹介していく。

このイベントは渋谷で“奇妙な古着屋”・BOYを構える店主である、奥冨直人とリキッドルームの共同主催だった。
dodo/東郷清丸/Yank!/Wez Atlas/君島大空 (独奏)/そして長谷川白紙という計5組のアーティストが参加し、平日の恵比寿リキッドルームには、仕事帰りであろうと思われる多くの観客が足を運び、各々自由に身体を揺らしながら音楽を楽しんでいた。

そして、この日トリを務めたのがそう、長谷川白紙だ。

22時30分を過ぎた頃、転換中のBGMがやみ、静まり返った会場内に長谷川白紙の登場を告げるSEが流れる。
ギリギリ視界の邪魔はしないであろう長さの前髪の下には、彼のアイコンとしているイラストと同じ丸眼鏡が見える。

白紙はその奥に映る瞳で会場全体をぐるりと見回したあと、あらかじめ録音していた自身の音声で『長谷川白紙です。よろしくお願いします』とスピーカー越しに告げる。すると、会場からは待ってましたと言わんばかりに歓声が鳴り響き、その歓声をも倍の力で打ち返すような勢いで「草木」のイントロが始まった。

白紙の楽曲は全体を通して実にカオティックで、突き抜けるような力強さがある。
“打ち込み”というと、どうしても“ピコピコ音”の電子音楽を連想してしまうが、長谷川白紙の楽曲はそうではない。あくまで生楽器の音を主体として制作され、ピアノやトランペット、ドラムなどの演奏がふんだんに盛り込まれている。無機質的ではなく、むしろ温かみを感じるのはその為だろう。

「草木」を終えて観客を丸のみした後、次に演奏されたのは「蕊のパーティ」。
終始リズミカルでポップな曲調に思わず身体が揺らぐ。それまで自分を縛り付けていた「何か」に解放されたような気分だ。
白紙自身も、表情までは見えないが、首や肩を上下左右に揺らして楽しんでいるのが分かった。

その後も「砂漠で」「毒」「o (__*)」などの楽曲を披露し、一曲演奏が終わるごとに、あちこちから今までの出演アーティストを優に超えるボリュームの拍手や歓声が聞こえた。4月上旬並みの気温とも言われた1月の東京で、この場所だけが一層強く熱を帯びている。

白紙の楽曲の中でもひときわポップネスな印象を与える「山が見える」の演奏後、白紙はその場にしゃがんで水分補給をしながら(生身の口ではなく)再び録音データ内の音声でMCを流す。

『皆さん、今日は来てくださって本当にありがとうございます。…楽しんでますか?(笑)本当に僕なんかがトリでいいのか?という気持ちですが…(中略)さて、長谷川白紙は昨年11月に「エアにに」というアルバムを発表しました。その中から、代表曲である「あなただけ」という曲を披露します。』

録音のMCが終わると同時に、「あなただけ」の鮮やかなトランペットの演奏が会場内を包む。

“泡立てたらなくなるものが 見えているのはあなただけ”

白紙の楽曲は、その変幻自在な曲調だけではなく、歌詞も含めて常に自由だ。実際には平坦な日常だったとしても、白紙の楽曲を聴くと、まるでファンタジーの世界に飛び込んだかのように、というか、自分には常に魔法がかかっていることに、ハッと気付かされるような感覚にどっぷり嵌る。一見、複数の音が絡み合った神出鬼没な狂気さを感じられるが、白紙の楽曲は私たちに“しがらみ”として纏わりついているものを全部取り払ってくれる。

“もしそこに祈りがければ どこまでもいつまでだって難しい 美しいあなたの生きれる場所は”

最後、このフレーズを絞り出すようにして歌い、PCから流れ出る複数の音の粒子と共に、白紙が演奏する手からも魔法がかかる。長谷川白紙はこの瞬間、ここにいる観客全員の日常における鬱憤や鬱屈を全て溶かし、美しく色鮮やかな花束へと昇華させてしまったのだ。

「あなただけ」演奏後、白紙は先程と打って変わり、ごく弱いタッチでエレクトリックピアノを奏でながら、今度は録音ではなく、生身の口で最後のMCをする。

「今日少し早いみたいなので、もう一曲だけやって終わりにします。全然何も考えてなくて、弾き語りだけになっちゃうんですけど…」

そう言って急遽最後に披露されたのは、白紙が愛してやまない、んoonの「Freeway」だ。

本編とは正反対の、しっとりとした繊細な音に魅了されるその時間は、長谷川白紙が自身が奏でる音楽に対して嘘を持たないことが垣間見える。もうすぐ日付を超えようとしている東京の空に、白紙の透き通るような歌声が響いた。

演奏を終え、白紙は少し駆けるようにしてステージを後にした。「下手に媚を売らず、あくまでも音楽で自己を表現したい」という彼の根底にある願望の為だろうか。

イベント終了後、白紙は自身のTwitter上で以下のようなつぶやきを残している。

私たちは感情に、日々の日常に翻弄させられながら進み、時に穏やかに、時には荒々しく波音を立てる。様々な漂着物が当たるなかで、私たちは一つの波と波長を合わせることになる。それが“長谷川白紙”だ。彼は私たちの波長に柔軟に応じていとも簡単に七変化を遂げる大きな波だ。そして、私たちも今、彼の波長を感じ取って彼の鳴らす音楽を受け入れようものなら、同じようで違う波長を持ち合わせた「生きる波」なのだ。

せきね