雨の日はきっとこんな風にーindigo la End「sweet spider」

雨の日はきっとこんな風にーindigo la End「sweet spider」

夜更かしが好きだ。

ーいや、正確に言えば、夜更かしのことは「得意じゃないけど好き」だ。
小さい頃からの習慣がすっかり身体に馴染んでいるせいか、日付をまたいでからものの30分で眠気に襲われるし、
オールナイトニッポンはどれだけ粘っても未だに最後までリアルタイムで聴けた試しが無い。

それでも自らの生活リズムに抗うようにして、夜更けの時間を細々と楽しむ。
工場から出る煙が明日以降の、そして今までの生活を潤していく。
”毒と蜜を吸い込んで浮かぶ曇りの空”を眺めながら、朝とも夜とも言い切れない時間を淡々と過ごしていく。

”朝か昼か夕か夜かで まだ迷ってる”


もう生きるのも何万日と時間が経って、『空は青い』だけじゃないんだなあと気が付くようになった。
晴れの日は太陽を吸ったオレンジ、雨の日は冷徹な顔をした鉛色、それから曇りの日は、今にも泣き出しそうな甘い灰色。
”明日また晴れるかな いやいや曇るでしょ”
雨雲が空一面を覆う日は、どっちつかずの表情に思わず笑ってしまう。
”目が覚めて見たのは 笑っちゃう景色でした
可愛いやつだな さて今日は例の日です”

煙は今日も人々の生活とあらゆる欲を満たしていく。
こんなことを周りに話したら、「気持ち悪い、やめてよ」なんて耳を塞ぎそうだけれど、人は蜘蛛に似ている。
勝手に面倒事に割り込んでは、意味もなく無残に絡まって、甘い邪念の蜜を躊躇なく吸って、また何度も煙に巻かれて。
たまに歯を立てて威嚇してみせたり、普段は出さない猛毒で傷をつけたり。
なのに一歩引いて見たら、偉そうな態度で王様気取りをする人ほど実際大したことないね。
「見掛け倒し」に騙されるのはもう御免だ。

”たまに怒ったアイツ 「スンゴデシオダケカミ」
朝も昼も夕も夜も 甘くなったんだ”

”思い出してよ 思い出してくれないか”
生まれた頃の記憶を。純粋でまっさらな感情を。
”変わらないから 心揺さぶって”
ずいぶん遠くまで来てしまったのなら、あの日、あの時間に思いを馳せて。

雨雲が今日も頭の上で時に早く、時には遅く流れている。
これから夜にかけてきっと大雨が降って、その音で今日もどうせ眠れない。
雲の流れが人生における時間の流れだとすれば、まだここを立ち去る訳にはいかないだろう。
”思い出してよ 思い出してくれないか
まだ寝ないから 帰らないでよ スパイダー”

翌日思い切って窓を開けると、ひどい湿気のにおいに思わず鼻をつまんだ。
そのにおいはたちまち部屋中に立ち込めて、雨が去ってはまた降り出しそうな雲が靄を作っていた。
『良いこともあれば悪いこともある』ってナンセンスな考えはちょっといただけない。
だって、このところは毎日、良くも悪くもない平坦な日々が続くから。
子どもの頃の方が、きっともっと笑ったり泣いたりしていたような気がするんだけどなあ。

変わり映えのしない毎日。晴れでも雨でもなく、明日もきっと曇り空。

”バラバラになった空気の匂いが 部屋に立ち込めて視界が悪くなった
その先はいつも真っ暗になるから やけに安心したよ
ほら お迎えだ”

思い出したことは、きっと”思い出したかった”ことではなく、
”思い出したくなかった”記憶の破片なのかもしれない。
生まれてから死ぬまで、出会ってから別れるまで、朝が昼を通って夜になるまで、雲から雨に変わるまで。
過去のあれこれも器用に美談に変えていたこと、もしかしたらとっくに気付かれていたのかもしれないね。
蜘蛛の糸に絡まったままの”思い出したくなかった”ことをいま、丁寧にゆっくりと解いて、
淡々と移ろいゆく景色の中で、そっとここに置いて行くから、
どうか明日も罠に引っかからずに会いに来てくれないか。
雨雲に覆われた空の下で。

”やっと思い出したよ 思い出してしまったよ
長くなったな 作り話でした
思い出したよ 思い出してしまったよ
また会えるかな 今日も待ってるよ スパイダー”

翳目