白状しよう、私がBoys Ageの存在を知ったのは2023年に入ってからである。まずその名前をSpotifyで検索すると、月間リスナーが余裕で数万人を超えており驚く。リリースされている作品の膨大な数にも驚く。その正体がソロ・アーティストで、拠点は埼玉の北浦和というのだから、良い意味で裏切られる。「マジ?」の連続。そして曲を聴く。めちゃくちゃ良い。なぜ今の今まで知らなかったのか。自分の無知に驚く。
Boys Ageは、埼玉出身の武藤カズナリによるベッドルーム・ポップ・プロジェクト。かつてはドラマーも所属していたが、現在はソロ形態で活動中。10年以上のキャリアの中で、楽曲制作からアートワークまで一貫して自身で手掛け、アメリカのBurger Recordsをはじめ世界各国のレーベルから数多の作品をリリース。2019年には中国と台湾のツアーを成功させている。自ら「Psylent Music / HolLo-Fi(サイレント・ミュージック / ホローファイ)」と称するサウンドは、ポップで小気味良いのだが、どこか空虚で、ヨレヨレで、やるせなくて、美しい。それは例えるなら、叶わないと知りながらもベッドルームから宇宙を目指す、孤独な旅のようだ。
5月に最新アルバム『Ring World』をリリース、虚無と諦念が渦巻くサウンドはさらなる果てを志向しているようでワクワクする。さらに6月14日(水)には2020年リリースのアルバム『星の界』がアナログ盤(自身初!)で再発されたばかり。そんな、まさに今ホットなBoys Ageは7月1日(土)開催の『Branch Vol.2』に出演、トップバッターを飾る。それに先駆けてメールインタビューを敢行した。どこか謎めいた存在のBoys Ageの頭の中を少し覗いてみよう。
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*1:https://boysage.bandcamp.com/
基本的には先ず「物語」を作り、その物語を章分けしてそこに曲を当てはめていきます。 物語を思いつくタイミングはその時々ですが、曲先行ということはあまりありません。漫画、アニメ、ゲーム、小説、映画、史実、神話、思想や哲学などインスピレーション元は多岐に渡りますし、同じインスピレーション元から時を超えて別の作品が生まれることもあります。かつては闇雲に作った膨大な没曲もありましたが、最近はそれほど多くの没曲は生まれません。1枚のアルバムを作ると大概その3倍くらいのプロトタイプの曲が生まれます。選ばれなかった曲もまた、その後に再利用されることがあります。
ありがとうございます。このアルバムと過去作『星の界』は坂本慎太郎氏の感触に影響されてることは確かです。といってもあまり自覚はなくて、気付いたら似ていた、と言った感じなのですが。どのように、と言われても答えられることもなく、曲作りの時は特に何も考えてません。作曲を開始した時点で既に物語は完成しているので、感じるままにといった感じです。 このアルバムのコンセプトは、ゆっくりと螺旋を下っていくように滅びゆく二つの世界を舞台にした「七夕」といったところでしょうか。
精神面に関してはもうずっと長いこと「至高の静謐と虚無」を求めています。最も存在することは分かるけど、至り方も道筋も見えていません。最近ようやくスタートラインの数歩前ぐらいに来たかもしれない、と言った感じですし、ゴールまでは地球一周分以上の距離があると思うし、到達したモノはそんなことなかったってなるだろうとも思いますが。
*2:https://note.com/boysage/n/ndac7aa0ee0ce
色々プラグインは買いましたけど、ソフトウェアに関しては結局ほとんどの場合KORG Gadget2というDAWに入ってるものだけで完結させることが多いです。 ハードウェアは、現在はOne ControlのチューナーとMalekko Heavy IndustriesのDark Ekko 616というディレイをAudientのid14mk2というオーディオインターフェースに繋いでます。ヴォーカルマイクはAKGの1番安いダイナミックマイクです。 ギターは2010年代初期のFender Japanの1番安いテレキャスターとTeiscoのSG、ベースはGrecoのAtomicです。 録音はギターから開始して、ドラムを打ち込み、曲が揃ったらベースを一気に全曲入れます。ベースは楽曲の「雰囲気」に於ける支配階級なので、やる気が頂点に達した日に統一感を意識して考えます。
制作中はチョコレートとジュースをドカドカと消費します。大量の糖分を摂っても脳内で物語を展開しているとガンガン消費してしまうので冷蔵庫の中身はほとんどジュースで埋まっています。また製作中はチョコレート以外ほとんど食べなくなるのでサプリをスナック感覚で齧っています。制作スタイル自体は2人の頃から何も変わっていないです。
元々ベーシストなので弾いていて楽しいのはベースですね。ベースを弾いた方が楽しい曲が多いので一時期ベースを構えていましたが、今は歌を重視してコード弾きが簡易なギターを持っています。ベースを弾きながら歌うとしっちゃかめっちゃかになってしまうので。 今は結構普通に鳴らしていますけど、一時期の曲はクラッシュシンバルがない曲が多かったので、ギターはクラッシュシンバルの役割を担っていました。Boys Ageの楽曲に一つ肝があるとすれば、それはコードストロークだと思っています。単音のフレーズは単なるフレーバーですね。 ライブで流しているトラックはリリース時のものから少しずつ作り変えてます。リリースされた楽曲はあくまでスタートライン、むしろリリースしてから改良が始まります。そのインスピレーションの多くはライブで演奏している時のミスタッチから生まれるのでベースに限らず差し替えは都度発生しています。
これはマジにくだらない話になります。女性モチーフは単に私が男を描きたくないだけで球体関節人形にしているのは服を描く必要が無いからです。画力ないので。 金が有り余っているならば、まぁ最も好きな漫画家のジャン・ジローはもう亡くなってますけど、そういうタイプの人にお金払って絵を描いてもらいたいですけど、そんな金は何処にもないので、その代替策として自分で描いているだけです。 優秀なイラストレーターはそれほど有名でなくても居て、音楽以上に群雄割拠と言えると思います。でも、その最下層にいるほどの無名者にすら払える報酬を持ち合わせていない。だから自分で描いてます。
Bandcampにずらっと並べられたアートワーク(https://boysage.bandcamp.com/)
Yo La TengoとTelevisionが1番影響受けてると思います。でもその時々で変わるのでコレは!ってのは居ないかな。偶に更新してるSpotifyのプレイリストでも参照してもらえば。注目してるアーティストも然りです。 最近はあんまり人の音楽を聴かないんですけど、単純なメロディセンスなら当代一Mustard Service。この手のバンドとしてはマジに良いですね。あとMoon Mullins。なんで売れてないのかわからない。Pearl & The Oystersも良い。JW Francisも。楽曲だけで見ればTribe FridayのMe And All My Friendsはシングルオブザイヤークラスに好きです。
海外の友達がツアーしにきた時に「なんで録音物よりライブの方が明確に演奏が上手いんだよ!」って内心でキレた事は結構ありますね。謎。 自分の経験だと、まだデュオだった頃の大昔にスペイン大使館主催のイベントでライブした時、会場全体が凄まじい一体感と情熱を生み出していて、多分2度とこんなライブは出来ないなと思いました。 実際、もう私は今後そういう曲を書くことも演奏することもないでしょう。情熱と一体感は私の求めるモノの遥か彼岸に位置するモノです。
属さないというよりは、「属せない」というのが正しいですけどね。 心情と言うのか、完全と完璧、つまり自分にとっての神を作り続け、そしてそれを破壊して更なる神を死ぬまで求め続ける、というのが当座の目標です。結構な危険思想なのでカルトポップシンガーと呼ばれるのもむべなるかな…。そしてそんなだから若い頃から人心を掴むような曲は書けない。私は、共感できないので。
自転車で小旅行して、そこで釣りをするのが趣味ですね。音楽が特に結び付きやすいファッションはどちらかと言うと興味はないです。最近はおじさんになったので気兼ねなくフィッシングベスト来てます。超便利。
再三言及してますが「完全な静謐、完璧な空虚、究極の神の創造」を直近の目的として、さらに作り上げたモノを否定して更なる先へ向かうことが当座の目標です。 ライブは呼ばれたら大概やりますが、自分から何かをやる事はないでしょう。自分から動いても碌なことになった試しがないので。誰も幸せにならないことをやる意味がない。 長年ライバルを探していましたが、結局自分自身以外に見つかりそうもないので、ひたすらに、自分の音楽を追求し高めるだけです。 もし私のやりたいことを私より高次元にできる人間が現れたら廃業=死かな。期待はしていませんが、私より上手くやれる人間がいるなら、私がやる必要性がない。 でも結局理想的な結果は自分からしか生まれないので、作り続けるだけでしょう。 運が良ければ、生きてる間に向こう一世紀ぐらいは崩れない究極に到達できるかもしれない。
音楽メディア『musit』が主催するライブイベント『Branch』のVol.2が、7月1日(土)に西永福JAMで開催!
出演者はエレクトロ・ポップの新星Uztama、武藤カズナリによるベッドルーム・プロジェクトのBoys Age、京都を拠点に活動する幽体コミュニケーションズ、そしてアブストラクト・ポストパンクを掲げるPot-pourriの4組。各ライブの後にはMCとのトークを実施し、その模様はライブ演奏(一部)と共に『musitTV』として公開予定。
また、各種ショップも出店。自身もミュージシャンとしての顔をもつ『Renny Curry』のカレーやイワヲ・コーヒーによるコーヒー販売、さらにはブックユニオン新宿とセレクトショップ『ヨムキクノム』のCD/ZINE販売もラウンジ&フロアにて行われる。
音楽メディアがキュレーターとなって企画する、夏の縁日を彷彿とさせる特別な一夜を是非現地で体感してほしい。
2023/07/01 (sat)
西永福JAM
open/start 17:30/18:00
adv/door ¥3,000+D
[Act]
Uztama @quail___egg
幽体コミュニケーションズ @yu_komisan
Pot-pourri @potpourrijpn
Boys Age @the_boys_age
[Shop]
Renny Curry @fiwp_gt
イワヲ・コーヒー @Iwaocoffee
ブックユニオン新宿 @bookunionshinju
ヨムキクノム by musit @yomukiku_musit
*チケットの予約は下記フォーム or 各出演者取り置きにて受付中:
https://forms.gle/sWak54KJ3fzAKBab8