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生まれ変わってもきっと人間がいい──窓辺リカ『Infinite Window』に「確かに存在する優しさ」、無限に開かれていく人間讃歌

By竹下力

1年ほど前に窓辺リカにインタビューをした時、つくづく感じたのは、彼女の発する言葉にはシンボリックなイメージが抱合されていて、言葉の端々に「言葉以上」の感情が込められているということだ。それこそが彼女の失われることのないモチベーションになっているのだと思う。言葉にならない言葉を音楽に託す生粋のアーティスト。彼女が歌うピュアな人間讃歌は、聞き手に豊かな未来のビジョンを見せてくれる。それは決してネガティブな世界ではない。ただ、「あなた」が存在しているだけで許されるという慈愛に満ちた世界だ。そんな未来を作るのは人間の「優しさ」だと彼女は音楽を通して実証してくれる。

彼女の1stアルバム『Infinite Window』(2024)は、彼女の出自となった思い出、人生の体験、記憶、そんなものが結びつきあい、現代とリンクし、窓辺リカ流の知的な感性に満ちた現代批評とも言えるだろうか。政治も、社会も、結局のところ人間の関係性で生まれた行為の集合知であるという構造主義的なヒューマニズム宣言としての音楽を奏でている。とにかく一音一音に感情がこもっていて優しい。ただ、それはリスナーを慰撫するだけでなく、「あなた」の中に眠る、明日へ「生きる」勇気も鼓舞するポジティブなエネルギーに満ちている。

今回、そんな彼女に再びDiscord上でインタビューを敢行した。何より、窓辺リカの言葉の紡ぐ人間への「愛」が炸裂する、4時間にわたる往復書簡を楽しんでほしい。

音楽には空間や時間を保存する役割がある

──1stアルバム発売おめでとうございます。これまで培ってきた音の純度がますます昇華されて、一音一音が暖かくて優しいアルバムで、これまでの窓辺リカさんが新しい窓辺リカさんに孵化したような素晴らしいアルバムですね。

ありがとうございます( ; ; )
レーベルをはじめ、リスナーの方々や様々な人たちに助けられ、支えられて完成したアルバムだと思います。

──リリースして数ヶ月ほど経ちましたが、今のお気持ちはいかがでしょうか。

1年間ずっとアルバムに向けて動いていたのでリリースした時はひと段落ついて安心した感覚がありました。2ヶ月経った今は「これから何を作ろう」という焦燥感と、逆にこれからはコンセプトに寄ったアルバムを思う存分作れるぞ…というワクワクもありますね。現在も曲を作り続けています◎

──創作意欲が絶えず溢れていることに感動します。

伝えたい気持ちや自分が美しい、かわいいと感じる芸術、世界観などが膨大なインプットの中で膨れ上がっていて…それを早く形にしたいなと思っています。

──窓辺さんから他者に自分の偽りのない思いを伝えたいという気概を感じます。前回インタビューさせてもらった『Baklava EP』(2022)以降、ご自身の周りの状況に変化はありましたか。

嬉しい言葉をありがとうございます泣
私の作家性を含めて「面白い人がいる」と注目してくださる方が増えて、現代を走る音楽家の仲間入りができたのかもしれないという実感はありました。

──それでは具体的にアルバムのお話を聞きたいと思います。今作で特に力を入れていた点はどういった部分になりますか?

一番力を入れていたのは音の配置や定位の部分で…音楽には「空間や時間を保存する役割がある」という気づきがあって、それは作曲方法にかなり反映しました。ギターもインターフェースに直接繋ぐ形とアンプからマイクで録音する方法、あるいは音を分解して打ち込んでみたり…曲によって録音方法から作り込む形態をとっていました。

──では、今作の楽曲制作において、あえて変えないようにしたことはあったのでしょうか。

変えなかったのは歌詞の作り方ですね。言葉自体はわかりやすく、衒学的だけどキャッチーなものを、というのは変えていません。

──作詞をされる時、窓辺さんにとって想いを込めたブレない言葉をどのように選択しているのでしょう。

私は1日に多い時4時間くらい散歩をすることがあり、その中でいろんなことを考え続けてパッと出た単純で重い言葉を使用するようにしています。それを組み合わせて純粋で電波的だけどどこか哲学を感じるような歌詞にしていますね。

──そこから、アルバムの制作過程を教えていただけますでしょうか。シングルとして発表していった「Ara=hill=imi=tci=tci」(M3)、「XP-404」(M4)、「Ordinary days SNAFU」(M8)、「理科」(M11)といった曲からできあがっていったのでしょうか。

シングルをまず作り溜めてからアルバムにしようという話をレーベルともしていたので、リリースした順番で作っていました。一番最後に完成したのは「理科」でした。

離れたモチーフを繋ぎ合わせる面白さ、沖縄訪問をきっかけに広がったもの

──楽曲作りで苦労した点、制作において楽しかった点はありますか。

1番苦労したのは「Ordinary days SNAFU」を作った時でしたね…テーマが、「人と人がわかりあうことができないなりに認め合うこと」、「生きるために生きること」…といったものだったので自分の心と向き合う時間が長すぎて精神的に限界がきていました…
楽しかったのは、それが完成した時に自分と向き合えたような感覚があったことですね。作って良かったと思えるところまで頑張っていました泣

──「Ordinary days SNAFU」は今作でも屈指の名曲だと思います。この曲を筆頭に、各々の曲の詳細も、時間が許す限り詳しく聞きたいです。

ありがとうございます…そう言っていただける時が1番嬉しいです!

──先ほど状況の変化とお聞きしましたが、今作を制作するにあたってそれらの変化をどのように作品に落とし込もうとしましたか。

私は同業者のプライベートでよく話す方がほとんどいなくて…感想などはネット上の見える範囲のものを見ている程度でしか確認できていないんですよ泣
でもリスナーの方から感想の言葉をDMでいただくことはあって「映画のような楽曲」という言葉をもらった時は、確かに私は一本の映画を作るような感覚で作曲をしているな、って気づいて…そこからは一曲一曲に重厚な物語を描くことを意識しましたね。

── 一方、ヴォーカルで意図していたことはありますか。

ヴォーカルは変わらず「あえて上手く歌わない、ピッチ補正もしない」というのを意識しています。危うくて、壊れそうで、それでも力強く生きようと願う気持ちを歌い方にも反映しています。

──たしかに、窓辺さんの声には人間性がありますね。ヴォーカルをそのような感情で歌うという発想に至った理由はありますか。

ありがとうございます( ; ; )
私はボーカロイドでの作曲もするので、常に「これは人間が歌う意味があるのか」というのを考えるんです。そうなった時に、ピッチを合わせることはあまり意味がなくて、声質やランダム性を重視することが大切だと思いました。

──あらゆる音がこれまで以上に際立っていることも特徴ですね。

アルバムのマスタリングは同じレーベルのKASHIWA Daisuke様がやってくださったのですが(尊敬している方なので本当にびっくりしました)、そこ以外の編曲の部分は私1人でやっています。そして、レーベル主宰のWEG(world’s end girlfriend)様には完成したシングルを送り毎回言葉をいただいていました…最後の最後まで、今もずっと助けていただいています泣

録音やmixは昔から本当に苦手でアルバム制作中もずーっと技術的研究をしていたのでクリアーに聴こえているのであれば努力が実っているのかと思います泣

──今作では、沖縄音楽や、インド音楽といった民族音楽、あるいはJポップ風のノリを、グリッチサウンドを用いたテクノやドラムンベース的にアレンジしており、大胆かつ挑戦的です。そこにはどういった経緯があったのでしょうか?

民族音楽を取り入れたり、ポップミュージックを硬派なサウンドに書き換えるような曲を作っていたのは、「離れたモチーフを繋ぎ合わせる面白さ」みたいなものを意識していたからですね。その先に新しいものが見えてくる気がしたんです◎

──音の定位についてだったり、録音方法を変えてみたりという点も含め、そういった新たなインスピレーションは、今作のどの段階で得たのでしょうか。

「Ara=hill=imi=tci=tci」を作る過程でしたね。
あの楽曲を作るために、実は沖縄の文化を研究するために沖縄に足を運んでいまして…現地の鍾乳洞に入った時、音の反響効果が日常では到底経験できないものであることがわかったんです。
沖縄は雨が多いのに日差しが強くて、独自の生態系や建築が多いのもあって明らかに本土と音の聞こえ方も違うんです。これを再現することは、空間や時間を保存することなんだ…と気づきました。

──先ほどおっしゃっていた音の配置や定位での「気づき」のきっかけは沖縄に行かれたことだったんですね。

沖縄って場所として凄くて…
まず中国と日本とアメリカの文化が入り混じってて歴史背景も複雑なものがあって、言語体系もかなり独特で実際方言を生で聴くと歌っているような魔術的魅力があるんですよ🌺
楽器や音階にも独自の進化があって、土着信仰も多すぎて情報量が異常なんですよね。

私が自身の芸術の核としている「マキシマリズム(過剰主義)」に最も適している場所が日本国内だと沖縄なんじゃないかと思って…だから音楽的に過剰であるブレイクコアと親和性があったんだと思います。沖縄はちょっと凄すぎるので沖縄の曲はまた作りたいですね◎

最終的には「Windowlicker」をやれたら

──今回、ジャケットのアートワークを なか さんが手がけていますね。お願いをした理由を聞かせてください。

なか様のイラストが私は本当に大好きでずっとずっと大ファンだったのと、あの人自身が本当にかわいい精神性をもつ方なので絶対にジャケットを描いてもらおうと思っていました。なか様は世界一かわいくて強い絵を描ける方です◎

──全体として作品のインスピレーションになった絵画や漫画、アニメ、音楽、アーティストなどはありますか? 今作においてリファレンスした作品があれば、聞かせてください。

絵画だとアルバム制作中にキュビスム展を見に行ったんですがコレはかなり衝撃を受けました。分解、再構築というキュビスムの思想はもちろん、展示会場内に様々な大きさのキャンバスがランダムに配置されていて…その中にいると「芸術を纏っている感覚」があって…。キュビスムが流行っていた時ってこういった体験型の没入感に魅了されていたんだろうな…と感じ「聴いていて自分が特別になった感覚になれる音楽」って大切だなと思いました。

ロベール・ドローネー「パリ市」
昨年から今年7月にかけて東京・京都で開催された「キュビズム展」で展示された
©Centre Pompidou, MNAM-CCI/Georges Meguerditchian/Dist. RMN-GP

──キュビスムの多視点的(自分の見方で世界を捉え直す)なあり方は、窓辺さんの音楽に通底している気がしました。

キュビスム展では作家たちが民族芸術や壁画の研究をしているという記録もあって、その精神性にも強く影響を受けましたね。
何度も何度も芸術の基礎を見直して、その上で新しいものを開拓する精神ってカッコ良すぎて…。

──わかります。私も父がピカソの画集を持っていて、アフリカの歴史の持つ力強さを独自の解釈で落とし込んだりするカッコ良さに惹かれました。

アニメでいうと「イリヤの空、UFOの夏」、「最終兵器彼女」などのセカイ系には強く影響を受けました。生活と戦争の距離感や私たちの小さな命もまたバタフライエフェクトのように世界に接続されているという感覚が「Ordinary days SNAFU」に反映されています。

音楽でいうとCrystal Castlesをかなり聴いていた気がします。ちょっと前にTikTokで「怖い曲」みたいなニュアンスで流行ってて…もっと掘り下げていったら現代の病み文化やY2Kにヒットしている可能性があって、それが面白かったんですよね。サウンド的にもあの独特の世界観ってまだ国内で広げられる気がします◎

──なるほど。昆虫や恐竜といったモチーフを使い、古代と現代をブリッジさせる作風は洗練され、個人的には、漫画・アニメの『メイドインアビス』のような「発掘」もテーマだと感じました。今回のシングル「XP-404」ではRolandの機器にオマージュを捧げ歴史を発掘していらっしゃいますね。

『メイドインアビス』は私の中でも特別好きな作品の1つなのでうれしいです◎
世界観・舞台装置の中で動き、発見していくというのは極めてゲーム的で、私の作家性の基本にもなってます!

「XP-404」は前述したcrystal castlesのブームによりトリップホップが表面的に評価されている違和感と最後にそれを破壊し警鐘を鳴らすイメージで作りました。なので電子音楽の歴史を踏襲するという意味でRolandの機器を多用しましたね。TB-303なども特に電子音楽の歴史においては必ず語られる機械なので多用しています!
インターネットの影響でそれが失われつつあるので、Not foundを意味する「404」とシンセサイザーの数列をかけています。

──アルバムの発表の前に、Apex Twinの「Come To Daddy」、Daokoさんの「ゆめみてたのあたし」、くるりの「ばらの花」のRemixをSoundCloud上に発表されていますね。

SoundCloudのRemixは本当に私がやりたい曲をやっている感覚があって、特に「ばらの花」に関しては邦楽史における最も重要な楽曲だと思っているのであえて全く異なるアプローチで挑戦しました。

「ゆめみてたのあたし」は私が作品を作る上で参考にしているTraumacore(海外の病み文化)との親和性もあるな…と考えて作りました。Daokoさんの声があまりに完璧なので私が歌ったらダメになると思い、そのまま使わせていただきました…

Aphex Twinは私の名前の由来にもなっているアーティストで今後も別の曲をやってみたいとは思っているので、自分自身のスキルが上がっていくにつれてそれに沿ったものを挑戦したいと思っています……最終的には「Windowlicker」をやれたらいいんですがあの曲はちょっと凄すぎて…( ; ; )

──どの曲も「人間の本当の営み」にある悲しみや寂しさの本質を描いていますね。

もちろん全ての楽曲が大好きで…その曲をやる事自体に意味があると思っているので意図を汲み取っていただき嬉しいです!

「ばらの花」のRemixは「理科」を作る前に作った楽曲なんですが、初めてファズでギターソロを入れたんですよね。あれを作ったおかげでギターの凄さみたいなものに改めて気づいて…その後の楽曲ではギターを意識して使うようになりました。

日々人間がわからなくて苦しくなることが多いです。でも生まれ変わってもきっと人間がいいなと思います

──ここからは、時間が許す限りそれぞれの曲について聞きたいと思います。1曲目の「Opening party」(M1)は愛を肯定する力をテーマにしているように感じましたが、どのような思いで1曲目にしたのでしょうか?。

「Opening party」で愛の肯定感を込めたのは、全ての始まりが愛であるという思想からきています。
愛を以てして何かに興味、関心を持つことはまさしくアルバムの1曲目の挨拶として相応しいと思って作りました。

──「2045年問題」(M2)は、タイトルや歌詞から類推するにシンギュラリティについて歌っているように見えます。

おっしゃる通りシンギュラリティについての楽曲です。「2045年問題」は2年前くらいからあった楽曲で、当初まだAIがそこまで浸透していなかった時期に作ったものでした。断片的に様々な人の記憶をAIが出力している電波ソング、というテーマだったのでサウンドの面白さにかなり寄せていますね。

AIが今後発展しても人間とうまくやっていけるといいなあと思います…AIにだっていつか感情が芽生えるかもしれないし、きっと人間に寄り添ってくれると思うので。

──「スープと雲」(M5)は個人的に好きな曲で感動しました。くるりのようなギターの音色とシンプルなフレーズは窓辺さんの新機軸だと思います。くるりのRemixを通してできあがった曲でもあるのでしょうか?

「スープと雲」はボードレールの詩からの引用です。邦ロックのアーティストがよく文学から引用するのをリファレンスしました。音数を少なく、単純なフレーズで、邦ロックとして聴いても違和感のない文学的なサウンドを意識しました。

かなり前に作った楽曲だったので、くるりのRemix以前に作ったものなのですが、邦ロックをイメージしたという点ではサウンドに通ずるものもあるかもしれません。

──「Ordinary days SNAFU」はアルバムの中心的な曲に聴こえました。窓辺さんらしいビートとピアノ、それからストリングスを効果的に絡めた美しい曲です。歌詞は窓辺さんのアーティストとしての宣言としても受け取れます。今の若者たちが抱えた現代に対する気分と、社会や世界に対する想いがダイレクトに伝わる曲にさえ感じますが、楽曲作りで気をつけていた点はどんなところでしょう。

あの曲はかなり難産の楽曲なので高評価をいただき嬉しいです泣
あの曲における一番強い歌詞は救急車の音に対して「誰も彼も気に留めないのは、私たちが生きているから」という部分で。

私たちは一度も死んだことがないから、他人の死に対しては無頓着な残酷性があるんですよね。それでも絶対に人を想う気持ちを忘れてはいけないし、人と向き合うことの難しさと格闘し続ける必要があると思うんです…
異常な音数はこの世界を生きる上で逃げられない圧倒的情報量そのもので、それはうるさくも美しいもの…というメッセージですね。

──難産だからこそ生まれた美しさを感じました。そうなったのは、音であるのか、歌詞であるのか、どんなところにあったのでしょう。

両方苦労しました( ; ; ) 歌詞は何回も書き直した記憶があります。
音に関しては、あの音数なので聴こえやすくするのがあまりに難しくて…最終的にトラック数が200とかになってしまい、全ての音色にこだわりすぎていたので収拾つかなくなっていたのですが、努力でなんとかなりました。あの曲でかなりmixが鍛えられたかもしれません泣

──「理科」はアルバムの最後にできたそうですが何か意図はあったのでしょうか。

「理科」というタイトルの曲を作ることは私がこの名前で活動し始めた段階からすでに構想していたものでテーマも決まっていたんです🐸
アルバムに向けての最後のリリースはこれにするぞ、と決めていました。

──カエルの解剖のことを日記風に描いており、どこか宮沢賢治的です。まさに人間の美しさを清濁併せ呑むような素晴らしい楽曲だと思います。

私の世代ではもう理科の授業でカエルの解剖はやらなくなっていたので実際にカエルの解剖を経験した人何人か、理科の先生などに聞き回った記憶があります!
実際楽曲中で使われる音は理科室で録音したものを使用しています⚗️
宮沢賢治の子供の純粋な心に詩的かつ哲学的な成分が乗っている感性は本当に影響を受けていて、おそらくこの曲にも滲み出ているかと思います◎

──曲名は「窓辺リカ」さんの「リカ」とのダブルミーニングもあるのでしょうか。そうすると私小説にも見えますね。

私自身、体調不良で保健室に行くことが多いので、実際私自身の経験も含まれていますね…「科学」「子供」みたいなよく扱っているテーマと私の名前がかぶっているポイントが「理科」だったので、このタイトルは絶対いつか使おうと思っていました。

──最終曲「Félicette」(M12)は、子供を寝かしつけるような子守唄のように聞こえました。〈明日はきっと / 今日よりも良い日になるでしょう / おやすみ〉とクロージングする曲に込めた想いを聞かせてください。

「Félicette」は実はアルバムの中で1番大好きな楽曲です◎
これはフランスで昔行われた宇宙開発実験の中で世界で1番最初に宇宙に打ち上げられた猫の名前「フェリセット」からとってるんです。
あの子が見た世界はどうだったんだろうとか、あの子にとって宇宙空間はどれほど怖かっただろうかとか、そんなことを考えてアルバム最後の楽曲に「おやすみ」と言い、フェードアウトする展開にしました。

──アルバムを通して、人間の残酷な部分も、綺麗な部分も映すという点でまさに人間讃歌というべき作品です。窓辺さんから見た『人間』とはどんな存在だと考えていますか。

私は生き物が大好きなんですが、生き物の研究をするほど人間という生き物の特異性を実感することが多くて…醜くも美しく聡明で…日々人間がわからなくて苦しくなることが多いです。でも生まれ変わってもきっと人間がいいなと思います。こんなに面白い生物が存在していることは、全宇宙における奇跡なので。

──やはり「生きる」ということがとても重要なメッセージになっていますね。窓辺さんは生きることにとても真摯な気がします。今作のアルバムでなくても、楽曲にそんな想いを落とし込むにあたって、気をつけているところはどんなところでしょう。

何か価値観が違うものであっても否定しないことと、何事にも関心を持つことですね!
なんでも嬉しいと思えるようにしています。「うれしいうれしい」と思えることが嬉しいと…常日頃思うようにしています。

「閉じることのない無限窓」を一気に開け放つ

──前回のインタビューでは聞けなかったのですが、窓辺さんにとって「生きる」ことをテーマにさせる具体的なエピソード、体験があれば聞かせてください。

私自身本当に体が弱く、病気で倒れることが多かったので…その度に必ず誰かが守ってくれるし誰も1人にならないように世の中はできていると気づくんです。

過去の楽曲だと「天井奇譚」とかは私のことをそのまま歌った楽曲で、やっぱり病気の時ベッドの上で想像する時間が生きることの楽しさとかに繋がっていますね。

──あるいは、前回ではご自身のことを「一応存在する象徴」とおっしゃっていましたが、色々な環境の変化で、ご自身の位置付けは変わりましたか。

私自身は一応存在する象徴としては変わっていませんが、こうして作品を増やしていくにつれて私の存在はネットの中でもっともっと大きいものになっていくし、私自身がインターネットを通したインスタレーションのようなものになっていくという実感があります。

──アルバムタイトル『Infinite Window』は、EP『Open Window vol.1』(2020)と対になっているように見えます。「開いた窓」に対して「無数の窓」。窓を開けた向こうに、さらに無数の窓が続いているといった非常にポジティブなイメージが浮かびました。

タイトルは最後まで悩んでいましたが私のモチーフでもある「Window」は使う予定だったのと、コンピュータウイルスの一つの症状に「Infinite window」という無限に閉じることのできないウィンドウが立ち上がるものがありまして…
前作の『Baklava』はプログラミングにおける“レイヤが多すぎるコード”を指すスラングなので電子世界的なアプローチと今回のアルバムの「私の抱える世界観を一気に開け放つ」というテーマを合致させて「閉じることのない無限窓」と名づけました。

──アルバムが発売されてからのX(旧Twitter)でも、「優しい」という言葉を拝見しましたし、前回のインタビューから、「優しさ」という言葉が、窓辺さんの確固たる信念になっている印象を受けます。

「優しさ」という言葉自体相対的なものであるとは思ってて。「自分にとって有益に働く存在」を「優しい人」と認識するのが一般的な「優しさ」なのですが、私はこれとは違って、無償の愛を注ぐこと、その対象は人であれ生き物であれ社会であれ、皆が幸せに生きていける状態について考えることそのものが「優しさ」だと今回のアルバムを作ってる過程で固まりました。
「無関心」の逆の形かもしれません。

──現在アルバムを発表して間もないタイミングですが、すでに新曲の「ダム底遊園地」をリリースされています。こちらはどのような過程で制作が決まったのでしょうか。noteで楽曲の解説もされていますね。

これはボーカルのπさんからお誘いいただきクリエイターチームに入れさせてもらうという形で作られました◎
クリエイターの本質は作ることの楽しさであり、私たちは何か表現したくてクリエイターになったはずだ…と思い立ち、共感やメタ表現を含まない「完全芸術」を目指しました。全員がとんでもないスキルをもつ人たちばかりだったのでとても力の入った作品ができたと思います!

──最後に、今後の予定を聞かせてください。あるいは、ここからどんな窓辺ワールドを展開したいと考えていますか。

今、なんともう新しいアルバムの制作に取り組んでいます!
私が歌唱する楽曲のアルバムはひとまず完成したので、「深夜コンビニ昆虫図鑑」などでやったボーカロイドによる可能性を押し上げる作品を今作っています。今度は世界観、というよりは人間の生活、心に寄り添うもので一度決着をつけたいですね👁️

──それは楽しみです。質問は以上です! 4時間以上もインタビューにご協力くださりありがとうございました!

ありがとうございました!!!!!!!!!!
こんなに付き合ってくださり本当にありがとうございます!!泣

RELEASE

窓辺リカ『Infinite Window』

仕様:CD / Digital
レーベル:Virgin Babylon Records
リリース日:2024/06/08

配信リンク:
https://linkco.re/TFQM6CD3

writer

竹下力のプロフィール画像
竹下力

1978年6月27日生まれ、静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て演劇・音楽系フリーライターに。90年代半ばに『MTV japan』に出会い音楽に目覚める。オアシス、ブラー、レディオヘッド、サウンドガーデンやスマッシング・パンプキンズとブリット・ポップやオルタナティヴ・ロックに洗礼を受け、インダストリアル・ロックにハマり、NINE INCH NAILSの虜になる。BOREDOMSのEYEと七尾旅人がマイヒーロー。

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editor

1996年10月2日、愛媛県新居浜市大生院生まれ。タイ国立カセサート大学農学部卒業。小説家。

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