【インタビュー】春ねむりが『春火燎原』で迎えた転換点──表現の暴力性とせめぎ合いの果てのポップス

【インタビュー】春ねむりが『春火燎原』で迎えた転換点──表現の暴力性とせめぎ合いの果てのポップス

「表現することは暴力」──その事実を事実として捉え、自身の世代的な立ち位置を俯瞰し、表現に対して責任を取るということ。シンガーソングライター/ポエトリーラッパー/トラックメイカー、春ねむりの2ndフル・アルバム『春火燎原』は、せめぎ合いの果ての、答えのない答えを音楽/ポップスとして誠実に届けようとする作品だ。そして、この時代において確かに名を刻むべき強度と信念が感じられる。

1stフル・アルバム『春と修羅』(2018)が海外を中心にバズり、アメリカやヨーロッパ、アジアなどを含めたツアーや、『SXSW』といった大型フェスへの出演など、海外遠征も積極的に行ってきた春ねむり。今年10月には初のカナダ公演となる『POP Montréal』への出演や、年内2度目の北米ツアーも決定した。『春火燎原』も辛口で知られる米メディア、Pitchforkで8.0点を獲得するなど、海外では既に評価される土壌が出来上がっている。

一方で、春ねむりは『春火燎原』リリース後も国内の音楽フェスからのオファーがなかったことについて嘆いていた。本作に対するSNS等の反響やNHK『ヒャダ×体育のワンルーム☆ミュージック』への出演などを鑑みれば取り巻く状況の変化を感じる部分も多いが、春ねむりの音楽があるべき形で受容/理解されていない現状はなかなか信じがたい。

そうしたねじれが少しでもほどけるよう、音楽ZINE『痙攣』(現在Vol.3を制作中)の編集長である李氏を聞き手に迎え、インタビューを敢行。踊ることで見えてきたリズムに対するアプローチの変化、英米トラックメイカーの文脈を含めた自身のポジション、既存の価値観や概念をアップデートする鋭い眼差し。同い年どうしの2人による濃密な対談となった。<musit編集部>

インタビュー=李氏
編集=對馬拓
写真=はやしあゐり

* * *

踊ると「このリズムが気持ちいい」って感じる部分が絶対ある

──まずは2ndフル・アルバム『春火燎原』のリリース、おめでとうございます。

ありがとうございます。

──僕のフォローしている範囲内ではありますが、今作は特に国内でのSNS等の反響が大きいと感じていまして。国内のリスナーにどのくらい届いた感触がありましたか?

今までよりは届いたんじゃないかなと思います。

──今作は、リリックの面では具体的なアクチュアリティ(現実性)、例えば環境問題や性差別、メンタルヘルスの問題などにかなり踏み込んだ内容になっていますよね。一方で音楽性の面では、リズムのアプローチが広がったり、楽曲構成もAメロ/Bメロ/サビっていう固定的なものからプログレッシヴな構成が増えた印象で。ヴォーカルの表現も、静かなポエトリーから激情ハードコア的なシャウトまで、非常に幅が広がったように感じています。以前の制作と意識が異なる部分は、具体的にどういったところでしょうか?

今までよりは人として自我を持つようになったと思います。ものを作ることってすごく個人的な行為だと思うんですけど、表現することって暴力だから、それを個人的なままにしようとすると、どうしても暴力性を帯びてしまう表現があって。でもそれをやりたいと思ったから、表現で暴力を振るうことに対して責任を取ろう、それが大人だ、と思って。そういう個人的なものと責任を取ることのバランスを最大限ミックスしたのが今回のアルバムなのかなと思います。

──日々募る自分の想いをどうやって受け手/客観的な世界に持ち出すのか?っていうのは、確かにある種の暴力性や危険性を伴いますよね。その上で、表現の作法とかアルバム全体の構成、リリックの細かい表現とか、そういう部分が今作は練られていた印象があります。

「シスター with Sisters」はシスターフッドの曲なんですけど、「うちらいけてるっしょ? 最高じゃん?」みたいなノリで書けなくて。私は(シスターフッドというテーマに対して)記号化されやすいストーリーはあまり持ってなくて。例えば友達からの電話で、誰かに対して怒ったりめちゃくちゃ許せなかった話とかを聞いて、それを自分事のように共有してしまう……みたいな、あまり人には説明したくない連帯感だけど世に出したい、表現したいと思ったので、自分の中で結構せめぎ合ってて。個人から社会へ繋がるグラデーションの間で、言いたくないことを言わずに、でも言わなきゃいけないことは言う、っていうことをかなり考えました。

──本当は集団で考えるべきなのに、なぜか個人の領域に押し込められていることを、どう表現に落とし込むのか。

難しいですよね。最近は、自分の分かりにくい部分を全部削ぎ落として、分かりやすい部分だけを見てもらって「いいね」って思ってもらう、みたいなのが流行ってるのかなと思うんですけど。

──効率の良いコミュニケーションが求められてしまう風潮は、僕自身も感じるところがあります。どうしても面倒臭いし、どうやっても無理な側面もある。でも、それに葛藤しながら日々コミュニケーションを取るっていう。

そういう意味では、今作は「ポップス」にしようと思ってたので、客観的な対象をより意識して作れたと思ってます。

──みんなに伝えるために何かを押し殺すのではなく、個人と集団のせめぎ合いの中で作られたという意味で、ポップスとしても誠実な作品だと思いますね。他に、楽曲単位で意識やアプローチが変化したと感じる部分はありますか?

最初の方に作った曲に比べたら、言葉の数が減ったと思います。言葉自体にもリズムがあって、そのリズムを音楽に持ち込むのが上手くなったし、印象深くキャッチーにできるようになってきたなと。

あと、この4年くらいでライブのスタイルがすごく変わって、めちゃくちゃ踊るようになったんですよ。自分が踊ると「このリズムが気持ちいい」って感じる部分が絶対にあるので、そういう曲を作りたくなるというか。そこは大きく変わったんじゃないかな。「Déconstruction」のサビのビッグなリズムとか、「Old Fashioned」のちょっとレイドバック気味の、後ろに「ドン」って持ってくる感じのリズムとか、「自分はそういう動き方もできるんだ」って知ったことでできた曲だと思います。

──『春と修羅』(2018)の頃は、ポエトリーリーディングと歌唱の境界線がある程度溶け合ってたと思うんですよ。でも『春火燎原』はリズミカルなラップ調の部分、ポエトリーリーディングの部分、歌唱の部分がくっきり分かれて、表現としてメリハリがついている感触があって。そういう意味でもリズムに対する意識が変わったのかなと感じました。

ポエトリーとかをやってると、「リズムを無視して想いをぶつけるんですよね?」みたいなことをよく言われるんですよね。あんまり無視したことないんだけどな。笑 でもそう感じるのは、リズムに対するアプローチが変わってきた証拠かもしれないです。

──「森が燃えているのは」もリズムの打点というか、シンプルなアイデアだと思うんですけど、後ろだった拍がサビで一気に前に移動するっていう。リズムに対する感度が素晴らしいなと思いました。

やっぱり踊るようになったことがすごく大きい気がします。サビで前のめりのリズムになるなら、それ以外はもうちょっと後ろにしたい、みたいな感覚はありますね。

自分が芸術だと思える音楽に準拠しようって

──楽曲の制作は基本的にある程度一人で完結するということで、トラックメイカー的な発想というか、バンド・セッションの制作とはかなり性質が違うと思いまして。それを踏まえて春ねむりさんの音楽は、グラム・ロック化してるYves Tumor(イヴ・トゥモア)とか、ハイパーポップと呼ばれるunderscoresやglaiveとか、その辺りのトラックメイカーによるロック解釈の流れとも重なる部分がある一方で、神聖かまってちゃんや大森靖子など、もっとドメスティックな文脈とも連続性があるところが『春火燎原』の面白さだと思っています。その辺りの文脈に対する意識や自分の立ち位置について、今作の反響も含めて語っていただきたいです。

自分はリスナーとして「これはこれに影響を受けてるんだ」「ここをサンプリングしてるんだ」って聴く楽しみを持ってるから、自分の作品もある程度そういう複合された文脈の地点の一つにしたいなといつも思ってて。今回は「全部のせ」ですね。でも、すごく音楽に詳しい人とかやばいディグ勢の人とかのブログを読んでると、「(影響源として挙げられているけれど)それ知らない!」みたいなのが全然出てくるんですよ。笑 逆にそこから辿って「あ、この音楽好き!」ってなったりするので面白いです。音楽が好きな人って本当に音楽が好きで、でも大概の人ってそんなに好きじゃないから、そこにあんまりグラデージョンがないなって感じました。

──確かに……。

あと、海外のリスナーにとっては歌詞の意味が分からないことも多いと思うんですけど、意味が分からないと繋がらない文脈があるんですよ。そのせいで「サウンドがとっ散らかってるように聴こえる」って言ってた人もいて、難しいなって思いました。だからといって、まとまったサウンドにしようとも思わないし、すべきだとも思わなくて。

──僕もKendrick Lamarの新譜(『Mr. Morale & The Big Steppers』)を聴いた時に、「あ、多分リリックが理解できないと片手落ちなんだろうな」って感じましたね。

私もKendrick Lamarの新譜は「なんだこれは?」ってなって、英語ができる音楽ライターの方のブログとかをめちゃくちゃ読みました。笑

──聴き手がそういう体験にならざるを得ない側面はありますよね。でも、通じる部分もあるとは思うんですよ。分かりやすい例だと、Pitchforkで高い得点を取ったりとか、そういうところで音楽的に伝わる部分もあると思うので。

伝わる人はもちろんいると信じたいです。

──春ねむりさんが共感する作り手、トラックメイカーってどの辺りでしょうか? Apple Musicとかの関連アーティストを見ると、結構クセのある人たちが出てきますが……。

私、JPEGMAFIA(ジェイペグマフィア)がすごい好きなんですけど、なぜか関連に出てくる時があるんですよね。めちゃくちゃ嬉しいけど、なんでだろうって。笑

──JPEGMAFIAってライブがアグレッシヴじゃないですか。そこは最近の春ねむりさんと近しいものを感じます。

確かにあの感じは「なるほどな」ってなります。

──あとはInjury Reserve(インジュリー・リザーヴ)とか、あの辺りの攻撃的でグリッチまみれのアブストラクト・ヒップホップみたいな人たちが出てきますよね。

Iglooghost(イグルーゴースト)とか。めっちゃ好きですけど、なんで出てくるのか分からない。笑

──音楽性という意味では直接的な繋がりがあるわけでなはいと思うんですけど、「なんとなく分かる」という感じはあります。

嬉しいです。あと、私はKanye West(現在はYeに改名)がすごく好きなんですけど、2020年の『LOVETHEISM』でウ山あまねくんっていうトラックメイカーと一緒に曲を作った時に(今作にも参加)、まだ展開ができていないところがあって、あまねくんに「ここをKanyeみたいにしたい」「この曲のこの部分みたいにして」って言ったら、本当にちゃんとその通りやってくれたから、すごいなと思って。しかも(出来上がった展開が)めちゃくちゃ好きだったので、やっぱりKanye Westはトラックメイカー、プロデューサーとしてすごく好きだなと思って。

──完全に話が脱線するんですけど、僕はKanye Westだと「Ultralight Beam」が一番好きです。

そうなんですね……! あれが一番。笑

──ゴスペルが入ってて、刺されるような感じがして。

怖いですよね、あの曲。聴くのに体力がいる。笑

──話を戻すと、春ねむりさんの楽曲はロックの文脈が強いと思うんですけど、ライブはMCとDJがいて、ラップの文脈を濃厚に引き継いでるところがあって、そのギャップが面白いですよね。そういう意味でも、春ねむりさんはトラックメイカーがロック解釈する流れを引き継ぐ存在っていう印象があります。

でもラッパーではないから……ラップのスキルを競うみたいな感じではないので。初期はもっと「やる気が足りねえぞ!」みたいなヒップホップっぽいライブをやってたんですけど。笑

──だから、ラップでもロックでもなく、その中間でしかできないような表現に向かったのは、そうならざるを得なかったというか。

Yeah Yeah Yeahsもめちゃくちゃ好きで、ああいうスタイルにすごい憧れてるんですよ。アルバムごとに違うことをやってるのって、すごく芸術的だと思うし。「芸術としての音楽」をやりたいから、自分が芸術だと思える音楽に準拠しようっていう感覚はすごくありますね。

──実際(春ねむりの引き合いに)Yeah Yeah YeahsのカレンOを挙げている人もいましたし、ゼロ年代以降のインディー・スターというか、非常に重要な人物ですよね。Yeah Yeah Yeahsも復活しましたし。「Spitting Off the Edge of the World」のMV、最後のライブハウスのシーンで泣いちゃいました。笑

私、まだ観れてなくて。嬉しすぎて「これを観たらしばらくの間楽しみを失ってしまう」っていう恐怖で全然観れない。笑

──(前作から)9年かかりましたからね……。

自分が20代のうちに復活するとは思ってなかったから、「え? またやってくれるんですか?!」って。笑

──完全にファン目線ですね。例えばYeah Yeah Yeahsみたいに、影響が深いアーティストは他にいたりしますか?

Björk(ビョーク)、神聖かまってちゃん、大森靖子さん、志村正彦さんが生きていた時代のフジファブリック、フィッシュマンズとか。大きく影響を受けているのはその辺りですかね。あとはRage Against The MachineとかFugaziとかのハードコア文脈。

──いわゆる日本語ラップ的な文脈ではないんですね。

日本語ラップは春ねむりになるまで全然聴いたことがなくて。今では餓鬼レンジャーとか、LIBROさん、ANARCHYさん、RYKEY DADDY DIRTYさん、ZORNさんとかは結構好きです。自分にない表現なので。あと、不可思議/wonderboyさんとかGOMESSくんが好きで、お二人が音源を出してる《LOW HIGH WHO?》っていうレーベルから昔CDを出してもらったんですけど、そこから「ちゃんとラップ聴いた方がいいな」って思って、少しずつ聴くようになりました。

──実際に活動していく中で、人と人との繋がりで影響を受けた部分があったんですね。

GOMESSくんはちゃんとルーツがあるから、色々と教えてもらいましたね。

サブカル的なものから受けた全ての悪影響をぶち壊したい

──影響源という意味では、Mikikiでも書いたことなんですけど、『春火燎原』はアクチュアルなテーマを扱いつつ、フィクショナルでサブカルチャー的な、独特のフィルターがかかってるような感じがあって。「Déconstruction」における『ファイト・クラブ』の引用などもありますし、そういう音楽も含めた広い意味でのサブカルチャーから受けた影響について伺えたらと思うのですが。

一番好きな漫画が『最終兵器彼女』なんですけど……。

──ああ! すごく納得感があります。

「セカイ系以降」というものについて考えなければいけないと思っていて。なんとなくですけど。セカイ系を否定したいわけではなくて、セカイ系の土壌で育ってきたものが、現実にあんまり良くない影響を及ぼしている気がするというか。現実はもう、僕と君だけで完結する世界の話では済まなくなってきてるんじゃないかと。自分もそのバックグラウンドで育ってきた身なので、そういうフィクションからどういうふうに現実と接続していくのか?っていう話をしたいし、しようと努めてますね。

他にもいろんなテーマがあると思うんですけど、例えば「かわいい」って言葉だったら、「かわいい/かわいくない」とか「みんながかわいいと思うかどうか」じゃない、その先の概念が必要じゃないかと。別に「かわいいと思う/かわいくないと思う」って個人の話だし、それが良くない形で現実と接続してしまってるのをどうにかしないといけない。かわいくてもかわいくなくてもどう思ってても、それは生存と関係ないっていう話をしないといけないんじゃないの?って。「かわいいは正義」とか「セカイ系」とか、そういう自分がサブカルっぽいものから受けた全ての悪影響をぶち壊したい、みたいな。笑

──前世代からの影響は強いけれども、それはそれとして精算しなきゃいけないことがたくさんある。今20代くらいの人は特にそういう意識があると思いますね。

そうですね。私は今27歳なんですけど……。

──あ、同い年です。

そうなんですか……!笑 近そうだなとは思ってました。ライブハウスとかでも若い子が出てきて、自分が年下だったのがだんだん上になってきたりしてるので、自分が「間」の世代にいることをもっと意識しなきゃいけない気がしてます。現状に抱いてる不満は変わらないけど、それに対するアプローチはすごく変わったと思いますね。

──自分の世代が上になっていくと、思いがけない形で上に立つ局面も増えてくるわけじゃないですか。その中でどう振舞うかって大事なことですよね。インタビューなのか分からなくなってきましたが。笑

お茶してるみたいになってきましたね。笑 後輩の女の子から「ツーマンがやりたいです」みたいに誘われることも増えました。それが今作を出したあとなんですけど、そういう意味では間の世代の意識を受け取ってもらえたのかなって。そこまではっきり伝わってるか分からないけど。

──それこそ表現にはある程度の暴力性があって、それに対する責任の話にも繋がりますが、その中で自分がどういう立ち位置にいるかみたいな意識を含めて影響を与えた部分はあるのかもしれないですね。

20代前半の頃は「生きてることが罪深い」みたいな気持ちがあって。結局のところ生活は誰かを殺して成り立ってるから、今もその気持ちがないわけじゃないんですけど、そういう罪深さからなるべく逃れないでいようとする方法が、自罰的なものではなくて、なるべく暴力的でなく何かに働きかける方向になってきました。それって大人になったってことなのかなと。「セカイ系」的なカルチャーって、世界に僕と君しか出てこないから、自罰的な方向に行きがちだと思うんですよね。

──「内なるファシスト」というか、そういう「みんな消えてしまえ」みたいな気持ちを抱えつつ、でもそれはそれとして「みんなと生きていかないといけない」っていう良心とのせめぎ合いを、『春火燎原』からは感じるんですよね。

アルバム全体のサウンドのイメージは「王」っていう感じで。でもそういうふうに作っちゃったから、次はそれを壊さないといけないっていう気持ちもすごくあって。もちろん作りたくて作ったんですけど。

──同じことをやっても仕方がないっていう。

そうなんですよね。せめぎ合ってる時って結論は出ないじゃないですか。下手したら死んでも出ないかもしれない。だからそのまま作るしかなくて。それが誠実であることなんだと思います。

メンタリティとしてのパンク/ハードコアを大事にしたい

──今作はウ山あまねさんをはじめとして、様々なミュージシャンが制作に関わっていますが、人選の段階や、一緒に制作する際に何か意識していることはありますか?

……かっこいいかどうか。笑

──大事ですよね。

あとは、レイシストじゃないか。いろんな差別に加担してないかどうか。差別に積極的に加担している人とはどうしても一緒に仕事はできないと思います。

──それはもう、どうしても無理としか言いようがないですよね。

どうしても無理。その合理性の説明を求められても、そういうことじゃない。その上で、まず大事なのはかっこいいかどうかですね。あと、この人だったら絶対に良いベクトルに広げてくれそうだな、とか。予想もしないことをやってほしい場合もあるし。演奏の面では、私はプレイヤーではないので、自分で自分の演奏にこだわれる人かどうかは大事だと思ってて。演奏するということにプライドがある人。あとは単純だけど、よく練習する人とか、割と抽象的な言葉で通じる人とか。「そこは大地って感じのリズムでお願いします」みたいな。笑 誰かに紹介してもらった人以外は友達が多いですね。あまねくんとか。彼、本当に変な人なんですよ。笑

──曲も不思議な曲が多いですよね。

自分が昔バンドをやってた頃からの知り合いで。彼、すごいまともそうな顔してるんですよ。なのにあんな感じだから、一番怖いなと思って。笑 ナチュラルに狂ってる人が好きなんですよね。

──今後、一緒にやってみたいアーティストはいますか? 現実的かどうかは別として。

Alice Glassとか。あとIglooghostとは一緒にやってみたいです。

──Alice Glassはアティチュード的にも相性が良い感じがします。

あとはShamir(シャミール)。あのツノが生えてるジャケ写の……(今年リリースされた『Heterosexuality』)。

──あのアルバム良かったですよね。

ですよね。めちゃくちゃ好きで。今月(6月)はプライド・マンス(LGBTQ+の権利を尊重し、啓発する月間)だから、そういう曲をカバーしようと思って、聴いてみたら「マジでかっこいいな」って。笑

https://twitter.com/ShamirBailey/status/1534385245394554880?s=20&t=1GE2_n4lUtwgMDsFvuVEDw

▲その後カバー動画を投稿しShamir本人からリアクションも

あとは壱タカシさんとか、神聖かまってちゃんとか。

──Pussy Riotはどうですか?

あー! やりたいですね。実はメールを交換しました!

▲今年の『SXSW』ではPussy Riotのステージで「Police State」のゲスト・ヴォーカルとして参加

──春ねむりさんは自ら「riot grrrl(ライオット・ガール)」を名乗ってらっしゃると思うんですけど、そういう姿勢も含めてPussy Riotは共感するアーティストなのかなと。

メンタリティとしてのパンク/ハードコアを大事にしたいと思ってますね。

──春ねむりさんの根底にはパンクがありますよね。「生きること」は「抵抗すること」とほとんど同義だ、っていうスタンスが伝わってくる気がします。

そういうふうに生きたいです。できない時もあるけど、いつもそういうふうに生きたいって思います。

──これまでのライブはDJ/MCスタイルというか、実質的に一人でステージに立つことが多かったと思いますが、国内のワンマンライブだったり、バンド・セットの導入などを含め、何か今後の展望はあったりしますか?

来年の夏までは海外ツアーやフェスが隔月くらいで決まってて、10月は北米を回ります。でも国内のフェスは、本当に一つも呼ばれなくて。笑 なんかもう面白くなってきちゃって。

──ちょっと信じがたい話ですね。

正直、もう国内はどうしたらいいのかなって感じですね。できることをやっていくしかないとは思うんですけど……難しい。自分は割と、音楽を作れるお金があればなんでもいいかなと思ってて。笑 「みんな聴くべきじゃない?」っていう多少傲慢な気持ちと、「ああそっか、やっぱり聴かれないのか」っていう気持ちがあって。海外のツアーはお客さんもいるしギャラもちゃんと払ってくれるし、(国内に目を向けなくても)やっていけないことはないのかなと思ってて、それもあって良くも悪くもシビアになりきれないというか。

──例えばBorisみたいに海外で先に火が付いて、日本ではアンダーグラウンドな扱いだけど海外では規模が大きいバンドがいたりするじゃないですか。そういう難しさはありますよね。

そうなんですよね。ロール・モデルがいないんですよね。だから「こうしたらいい」っていうのがあんまり分からない。だからできることをやっていくしかないし、良い曲を書き続けるしかないと思ってます。「英語詞にしないの?」ってよく言われるんですけど、したくないし。売れてきてるラッパーとフィーチャリングしてフックアップしてもらう、みたいなのも最近の流行りだと思うんですけど、あんまりそういうのもやりたくない。

──自分の姿勢を貫くっていうのも一つの道だし、リスナーからの信頼にも繋がるんじゃないかなと思います。

だといいんですけどね。どうなんだろう。

──「大事な局面で自分のやりたいことを曲げない」っていうのは僕が好きなアーティストに共通する側面で、そういう美学は大事だなって思いますね。

難しいよなあ。本当に曲げなきゃいけないほど追い詰められてない、ってことなのかもしれない。でも、とりあえずライブの予定がたくさんあるのは良いことかなと思います。

バンド・セットは、やってみたいとは思うんですけど、会場が大きかったらやらざるを得ないって感じですね。人が多いのは好きじゃないので、ツアーをスタッフ10人とかで絶対に回りたくないんですよ。笑 だから普段もマネージャーと(海外なら)現地のツアーマネージャーの3人で回って、可能だったら物販のスタッフとかカメラマンも現地の人にお願いする感じ。海外の物販も基本的に自分でやったりします。友達だったら一緒に回ってもいいのかなと思いつつ、自分の友達は自由な人が多いから、集合時間に遅刻してきたりとかしそうで。笑 そういうのを考えたら大変だし、人がいると気を遣っちゃうので疲れそう。ワンマンが広い会場だからバンドセットでやりましょう、とかは全然あると思うんですけど。

──いつもとなると、さすがに厳しい。

入れるとしたらドラマーを一人だけ入れて2ピースが良いって思います。ドラムというかリズムだけはどうしても音にばらつきが出るし、ライブだと一定の音色の方がみんな聴きやすいしノリやすいと思うのでアリかな。あとはライブで自分が集中して歌って踊れるかどうかってだけ。

──そこは重要ですよね。

私、ダンスとか習ったことないんですけど、「こういうふうに動きたい」っていうイメージがあって、その場でそう思ったら、すぐにそれを遂行できるかどうかっていうのが大事で。海外でも国内でも、まずライブを楽しみたいので。特に海外の場合は(自分が)楽しんでるとみんなも楽しんでくれることが多いので、相乗効果的に高まっていく感じがあると思います。

──バンド・セットが定着しちゃうと、それこそNine Inch Nailsみたいに、基本的にはトレント・レズナーとアッティカス・ロスの2人組のはずなのにバンドとして観られちゃう、みたいなことって起こりますよね。

だから、バンドセットの時は絶対にFlorence + The Machine(フローレンス・アンド・ザ・マシーン)みたいな名義にしたいですね。「春ねむり + SleepOverGangsta」みたいな。笑

──ああいう名義、かっこいいですよね……。

あ、この人がヴォーカルなんだ、っていうのがすぐ分かりますよね。笑 やっぱりヴォーカルがヴォーカルたらしいのがすごく好きなんですよね。

おわりに:一人が褒めてくれると「褒めても良い雰囲気なんだ」ってなる

インタビューの本編は以上で終了だが、その後の雑談でも興味深いエピソードがあったので、以下の通りその一部をマネージャーである村上氏の発言も含めて掲載し、本稿の締めくくりとしたい。

李氏:僕が春ねむりさんを知ったのは2020年くらいだったと思います。

春ねむり:『LOVETHEISM』(2020)の頃ですね。今回のアルバムが出る前にエゴサしてたら、「中村佳穂よりも春ねむりの新譜が楽しみ」ってツイートしている人がいて、それが李氏さんだったんですよ。やばい人がいるなって。笑 あんまり私の新譜を楽しみにしてる人がいなかったので……。

李氏:先行シングルのクオリティがすごく高かったんですよね。あと21曲収録っていうのを知って、僕は長尺のアルバムが大好きなので、一人でぶち上がってました。笑 Nine Inch Nailsの『The Fragile』がフェイバリットなので。

春ねむり:なるほど。絶対みんな中村佳穂の方が楽しみだよ!と思って。笑 でもそういうのでモチベーションが全然変わるので、頑張ろうって気持ちになれました。

對馬:僕が知ったのは2019年くらいで、当時ディスクユニオンで働いてたんですけど、店頭にあった『アトム・ハート・マザー』(2017)を聴いて好きになったんですよね。

春ねむり:懐かしい……。

村上(マネージャー):あれ、15万円くらいで作ったんですよ。

一同:えー!!

春ねむり:当時、本当にお金がなくて。笑

村上:しかもレコスタじゃなくてリハスタで、安いマイクを立てて。でもそのマイクで録ったのが「Old Fashioned」だったりするんですよ。「Old Fashioned」のサビは『アトム・ハート・マザー』と同じ音質です。

李氏:その方が迫力が出るってこともあったりするんですかね。

村上:そうですね。高ければいいってものでもない。

春ねむり:李氏さんが音楽をめっちゃ聴くようになったのっていつ頃ですか?

李氏:2014年〜2016年くらいですかね、その3年くらいでペースが上がっていったような感じ。

春ねむり:どうしてそんなに聴くようになったんですか……?

李氏:SNSとかの影響もあると思うんですけど、例えば2015年にKendrick Lamarの『To Pimp a Butterfly』が出たりとか、話題作のリリースがずっと続いたんですよ。その影響が大きかったかもしれないですね。

村上:李氏さんが今回『春火燎原』にめちゃくちゃ反応してくれてから、李氏さん周辺の人のツイートもチラチラ見るようになったんですけど、その人たちを見てると本当に音楽が好きなんだなと思って。

李氏:四六時中、音楽の話をしてますからね。笑

春ねむり:その中で『春火燎原』のポジティブなコメントもあって、すごく嬉しい。やっぱり一人が褒めてくれると「褒めても良い雰囲気なんだ」ってなるので。

村上:春ねむりの音楽って、なんとなく人前で好きって言いづらい雰囲気があるじゃないですか。

春ねむり:そもそも自分で(曲を)作ってないと思われることも多くて。

村上:でも『春火燎原』を出してからはその辺りもちょっと変わったかなと思います。特に国内においては。アルバム・オブ・ザ・イヤー狙ってますから。

李氏:選ぶ人は多いと思いますけどね。

對馬:絶対いますよ。

春ねむり:選んでもらえますように!

<2022年6月3日 西永福某所にて>

* * *

RELEASE

春ねむり『春火燎原』

レーベル:TO3S RECORDS
リリース:2022年4月22日

トラックリスト:
01. sanctum sanctorum
02. Déconstruction
03. あなたを離さないで
04. ゆめをみている (déconstructed)
05. zzz #sn1572
06. 春火燎原
07. セブンス・ヘブン
08. パンドーラー
09. iconostasis
10. シスター with Sisters
11. そうぞうする
12. Bang
13. Heart of Gold
14. 春雷
15. zzz #arabesque
16. Old Fashioned
17. 森が燃えているのは
18. Kick in the World (déconstructed)
19. 祈りだけがある
20. 生きる
21. omega et alpha

購入・再生はこちら:https://smarturl.it/shunkaryougen

李氏

東京都出身。音楽ZINE『痙攣』編集長。音楽をテーマに執筆活動を行う。MikikiやCINRAへの寄稿実績もあり。現在『痙攣 Vol.3 ロックの過剰 プログレ/ニューウェーブ特集』の発行に向けてクラウドファンディングを実施中。

Twitter:@BLUEPANOPTICON
クラウドファンディング:https://camp-fire.jp/projects/view/598229

musit編集部