【インタビュー】「答えは僕たちが自分らしくいること」──Big Thiefと考える、時を超える音楽の普遍性

【インタビュー】「答えは僕たちが自分らしくいること」──Big Thiefと考える、時を超える音楽の普遍性

今やUSインディー・シーンを代表するバンド、Big Thiefの勢いは止まらない。今年2月にリリースされた最新作『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』が、2023年第65回グラミー賞(最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞)にノミネートされた。バンドでヴォーカルを務めるエイドリアン・レンカー(Vo. Gt.)自らが「私たちの始まりのような気がする」と認める今作。2枚組全20曲の大作を携え、Big Thiefは世界へとツアーの旅に出た。

今回は2年越しで初来日を果たしたBig Thiefから、バック・ミーク(Gt./以下バック)とジェームズ・クリヴチェニア(Dr./以下ジェームズ)がインタビューに応えてくれた。ツアー・ファイナル直前の彼らと今作の持つ普遍性について考える。彼らが語るレコーディングの思い出を巡れば、より今作を近くに感じられることだろう。きっと『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』はこれから先、何年、何十年と聴き続けられるマスターピースになること間違いない。

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取材/文=Kaede Hayashi
編集=星野

予定にないことでも、自分たちの好きなようにやればいい

──今日はインタビューに応じていただきありがとうございます! よろしくお願いします!

バック:こちらこそよろしく!

ジェームズ:呼んでくれてありがとう!

──早速ですが、ツアーについて聞かせてください。パンデミックの影響もあり、2年越しの初来日となりました。

バック:そうだね、前回はキャンセルになってしまったから。

──今日がツアー・ファイナルということで、まだツアーが終わったわけではないのですが、ツアーの調子はいかがでしょうか?

ジェームズ:とても楽しんでいるよ! 実は僕とバックはツアーの1週間前から来日して、一緒に観光したり、遊んだりしていたんだ。だからツアー自体はまだ4回しかライブをやっていないけど、もう僕たちは2週間くらい日本で過ごしている。笑 本当に沢山の経験をしているから、それを一度ゆっくり消化したいと思っているよ。笑 そうだね、ライブも本当に良かったし、日本という国を本当に気に入っているよ。

バック:僕は日本に来てから1週間、谷中に泊まっていたんだ。ここ(Spotify O-EAST)から近くのね。そこでほとんどの時間を過ごしていたからか、より日本に親近感が湧いたよ。本当に素敵な所だね。

──Big Thiefの音楽は本当にエネルギーに満ち溢れています。自然の中にいるのではと錯覚するぐらいです。時にはスリリングで、時には優しく染み渡るようにも感じます。その溢れるエネルギーの源は何なのでしょうか?

ジェームズ:なんだろう、まず僕たちは皆が皆様々な音楽が好きなんだよね。バンドとして一緒に長い時間を過ごしてきたから、皆がそれぞれ違ったムードを持っていることも知っている。ただそれに任せているだけなんだ。だから僕たちにはエナジー溢れる曲もあれば、カントリー調の優しい曲もある。予定にないことでも、自分たちの好きなようにやればいい。Big Thiefが1つのジャンルである必要はないことを分かっているからかな。

──何かを意識しているわけではないってことですか?

ジェームズ:そう、自然発生的なもの。「今日はロックな気分だからパワフルな曲を作ろう」とか「今日は疲れているからスローなカントリーを作ろう」みたいな感じなんだよね。

バック:確かに。笑

ジェームズ:でも作っているうちに自然と「ああ、これも自分たちらしいな」となるんだよ。

バック:メンバー皆が多様な音楽への関心を持っていて、そんなバックグラウンドがあるからこそ、自分たちが影響を受けたものを先入観を持たずに、自由に混ぜ合わせることができるんだ。そこから生まれてくるエネルギーもあるんじゃないかな。

ああ、僕たちはバカになれるし、シリアスにもなれるんだ

──新譜『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』を聴いて、僕は子供のような無邪気さを感じました。それはとても純粋で、濁りのないケミストリーのような感覚です。パンデミックやメンバーのソロ活動を通して、バンド内の人間関係にも何か変化はありましたか?

ジェームズ:どうだろう。それはパンデミックというより、自分たちが成長して感じたままに演奏する自信がついたのかもしれないね。自分たちの好きな音楽を演奏することへの恐怖心がなくなったというか。「ああ、僕たちはバカになれるし、シリアスにもなれるんだ」みたいな自信のようなものだと思うね。きっと自分自身のままでいられる力がついたんだよ。

──レコーディングはアメリカ全土のスタジオ4ヶ所で行われ、期間は5ヶ月に渡ったとお聞きしました。

バック:元々は6ヶ所の予定だったんだ。お城でもレコーディングしようとしていたし、洞窟でレコーディングすることも考えていたよ。その洞窟には、教会のオルガンのような楽器が埋め込まれていて、「スタラクパイプ」という鍾乳石でできたパイプをハンマーで打って音を出すんだ。もはや洞窟を演奏するような感じだよね。でも結局はパンデミックの影響でレコーディングできなくなっちゃって4ヶ所になったんだ。

──ハワイにも訪れる予定だったとも…。笑

バック:ははは。笑

ジェームズ:ハワイでシークエンスをしたかったんだけど、予算がなくてできなかったよ。笑

バック:あとは野外でレコーディングもしたかったんだよね。川の近くとかで。でも、それも予算が尽きて流れてしまった。笑

その瞬間が僕にとって、強く心に残る出来事だった

──「レコーディングをする環境にはバイブスが必要である」というジェームスのインタビューを読みました。レコーディングが行われた4ヶ所の中で特定の曲との思い出はありますか?

ジェームズ:むしろ思い出しかないよ。笑

──笑。何か1つ、挙げるとするなら?

ジェームズ:そしたら最後にレコーディングした「Red Moon」かな。この曲に辿り着くまで、散々レコーディングしてきたから、僕たちは皆が燃え尽きているどころじゃないくらい燃え尽きていたんだ。もはや煙くらいにね。笑 だけど「Red Moon」は絶対にエネルギーの溢れる曲でなければならないと思っていた。だから最後の朝、文字通り、荷造りする直前までこの曲のレコーディングをとっておいたんだよ。「よし、これで最後だ。残していたエネルギーを全てを出し切って、完全に空っぽになろうぜ」って気持ちで、2回だけ演奏してレコーディングが終わったんだ。そこからスッと4人ともバラバラの方向に帰って行ったよ。笑

バック:笑。ちょうどビデオを撮っていたよね。

ジェームズ:それがMVになったんだ。エイドリアンの弟のノアがテープを回していたよ。

──また「4つの場所でレコーディングすることの良さの1つは移動間での出来事にもある」というバックのインタビューも読みました。例えばどのような出来事がアルバムに反映されたのでしょうか?

ジェームズ:僕が最初に思い浮かんだのはコロラドかな。ここはロッキー山脈の標高10,000フィート(約3,000メートル)の山中にあったんだ。まだエイドリアンが到着する前で、皆でご飯を作ったり、ビールを飲んだりしてくつろいでいたんだけど、エイドリアンだけがなかなか到着しなかった。そうこうしている間に届いたエイドリアンからのメッセージに「時速1マイル(1.6キロ)しか出せない」とあって、僕たちは「探しに行こう!」ってなったんだよ。そしたらスタジオから2マイルぐらい離れた場所で、彼女のトラックはものすごい黒煙を上げながらタラタラと進んでいたんだ。笑 そして、そのまま動かなくなったよ。笑

バック:レコーディングを通して、彼女の車は5回くらい故障したと思う。笑 場所を変える度に動かなくなっていたね。笑

──ははは。笑

バック:僕が思い浮かんだのはアリゾナでの出来事かな。これはカリフォルニアでのレコーディングから、さっき話したコロラドまで移動していた時の話なんだ。その日はアメリカ大統領選の投票日で、僕はアリゾナにある広大な砂漠を1人で運転していた。ここはアパッチ族の居留地に指定された場所。でもアリゾナはアパッチ族が虐殺されて、居留地に入れられる以前から住んでいた州の1つなんだよね。

AMでドナルド・トランプ対ジョー・バイデンの選挙を放送しているアパッチ族のラジオ局を見つけて、それを聴きながら運転していたんだ。ラジオ局はアパッチ族の人たちに「投票に行ってほしい」と懇願していた。砂漠のあちこちから投票所に行くよう懇願して、彼らは戦歌のようなチャントとドラム音楽を流し続けていたんだ。まさに音楽で力を呼び起こそうとしているように感じたよ。そういった背景もあってか、僕はこの音楽に対して特別な思いがあった。6時間に渡って、このキャッチーなチャントとドラム音楽を聴いていたんだ。そしてその夜、ドナルド・トランプは大統領選に敗れた。その瞬間が僕にとって、強く心に残る出来事だったね。

それがきっとジャンルや時代を超越しているもの

──とても突拍子のない話になるのですが、例えば自分が生まれるよりずっと昔に、Big Thiefというバンドが存在していたとしても、このアルバムは現在まで聴き継がれているような普遍性を感じました。それぐらいの傑作だと思います。その普遍性はどこから来るものだと思いますか?

ジェームズ:ええと…分からないな。笑 でもそう言ってもらえるのは本当に嬉しいことだ。日本のような遠く離れた場所に来るなんて、実は未だにちょっと信じられない感じなんだよ。そうだね、英語が第一言語でなくても、人々は僕らの音楽を愛してくれているんだ。歌詞が素晴らしいのはもちろんだけど、それに加えて、音楽には何かがあるんだと思う。それはほかの何にも代え難くて…だから音楽は最高なんだよね。もちろん僕らからしても、海外の音楽を聴く時は同じように感じているよ。「この人が何を言っているのかはわからないけど、この人の作る音楽が好きだ」という感覚に出会う度に胸に刺さる何かがあるんだ。翻訳を越えた先にあるものが本当に素晴らしいんだよ。

バック:うん、その通りだ。最初に話したこととも被ってしまうけど、答えは「僕たちが自分らしくいること」だと思うよ。ただただ本当に正直でいること、それが普遍性になるんだろうね。僕らはその瞬間、瞬間で心の中にある音楽を作っているけど、影響を受けているのは、どんな理由であれ時代を超越していると感じる音楽だ。もしかしたら音楽にはあまり時間軸は関係ないのかもしれない。曲をグッドにする何かには、いつまでも分からない神聖幾何学のようなものがあって、だからこそ良い曲や美しいメロディーは、それだけで時間を超えて存在することができるんだと思うよ。それがきっとジャンルや時代を超越しているものなんだ。もちろん僕たちは常に答えを求めているけど、答えは出ないものなんだろうな。説明するのは本当に難しいね。笑

──今日は本当にありがとうございました! 最後に日本のファンに一言ください。

ジェームズ:これから始まる今夜のショーも含めて、ツアーに来てくださった皆さん、本当にありがとうございました。愛しています。

バック:できるだけ早く日本に戻ってきたいので、僕らのことをぜひお友達に教えてあげてください。そしたらなるべく早く戻ってこられるから。笑 もっと日本中の色々な街をまわって、沢山ライブがしたいんだ!

 

<2022年11月 ライブ前のSpotify O-EASTにて>

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RELEASE INFO

リリース:2022/2/11
レーベル:4AD

トラックリスト:
[Disc 1]
01. Change
02. Time Escaping
03. Spud Infinity
04. Certainty
05. Dragon New Warm Mountain I Believe In You
06. Sparrow
07. Little Things
08. Heavy Bend
09. Flower of Blood
10. Blurred View

[Disc 2]
01. Red Moon
02. Dried Roses
03. No Reason
04. Wake Me up to Drive
05. Promise Is A Pendulum
06. 12,000 Lines
07. Simulation Swarm
08. Love Love Love
09. The Only Place
10. Blue Lightning
11. Dragon New Warm Mountain I Believe In You (Tucson) *Bonus Track For Japan
12. Light Is As Is *Bonus Track For Japan

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12242
配信URL:https://bigthief.ffm.to/dnwmibiy

Big Thief

Twitter:https://twitter.com/bigthiefmusic
Instagram:https://www.instagram.com/bigthiefmusic/
YouTube:https://www.youtube.com/@BigThief

Kaede Hayashi