<p>butohes（ブトース）と名乗る4人組ロック・バンドの2nd EP『to breathe』が、4月26日にデジタル・リリースされた。2021年6月、「水の循環」をテーマとした1st EP『Lost in Watercycle』をリリース、ポストロックやアンビエントの要素を落とし込んだ、低体温ながらもどこか静かに熱を帯びたサウンドを提示した彼ら。あれから約2年、『to breathe』では「身体／呼吸」「地上」「どこかへ向かうこと」をテーマに掲げ、ミニマル・ミュージック、ダブ、エレクトロニカなどから得た着想をバンド・ミュージックとして昇華してみせた。空間系エフェクトも使用するベース、身体的なドラムのビート、そして丁寧で精密なギター・ワークによるアンサンブルは、butohesが確立しつつある構築美と言えるだろう。シンセサイザーなどは一切使用せず録音された音のみで制作され、レコーディングとミキシングは前作と同様にフロントマンのMichiro Inatsug（Gt. Vo.）が手掛けるなど、前作から貫かれている姿勢も変わらない。</p>
<p>本稿は、butohesとしてさらなる無二の音像が追求された『to breathe』の、計7名の視点を通した合評である。それぞれの解釈を通して、あなたなりの『to breathe』を見つけてほしい。</p>
<div id="toc_container" class="no_bullets"><p class="toc_title">INDEX</p><ul class="toc_list"><li><a href="#i">宮谷行美</a></li><li><a href="#colormal">イエナガ（colormal）</a></li><li><a href="#Sleep_like_a_pillow">鴉鷺（Sleep like a pillow）</a></li><li><a href="#RAY">内山結愛（RAY）</a></li><li><a href="#musit_Sleep_like_a_pillow">對馬拓（musit / Sleep like a pillow）</a></li><li><a href="#SawawoPot-pourri">Sawawo（Pot-pourri）</a></li><li><a href="#i-2">もこみ</a></li><li><a href="#RELEASE">RELEASE</a></li><li><a href="#EVENT">EVENT</a></li><li><a href="#PROFILE">PROFILE</a></li></ul></div>
<h2><span id="i">宮谷行美</span></h2>
<p>シーンを賑わせた1st EPから2年、待望の新作EP『to breathe』が発表された。彼らのポストロック、アンビエント、シューゲイズ、Jロックなどを丁寧に編み込んだ楽曲性は、ミニマル・ミュージックやダブ的アプローチが加わることで真新しい音像を見せ、彼らが次なるフェーズへ突入したことを知らせた。生音に近い温かな響きと演者の呼吸がのった身体的なリズムが高純度で交じり合い、母なる大地を想起させる柔らかく深遠なサウンドスケープを描く。左右で交信し合うギターのアルペジオも、静かに躍動感を描くベースとドラムも、吐息混じりの低体温な歌声も、響きに合わせて選ばれた言葉たちも、全てが温かくて心地良い。録音物以外は使用しないというこだわりと、響きに焦点を当てる卓越したサウンド・デザインから生まれるしなやかな身体性。それはbutohesという唯一無二のアイデンティティをここに確立するものであり、彼らが「暗黒舞踏」の名のもとに音楽の域を超えて総合芸術へと進化する一手ともなり得る。『to breathe』から始まる彼らの未来は希望に満ちている。</p>
<h2><span id="colormal">イエナガ（colormal）</span></h2>
<p>「サウンドスケープ」という言葉がある。</p>
<p>都市の雑踏や川のせせらぎのように、音を風景と共に感じ認識することを指す。例えば彩度の高い街の空に入道雲が浮かび、そこらに植わる木のどれも青々とした葉に夏を湛えていたら、人は自然と蝉の声を思い出してしまうだろう。</p>
<p>だけど、ひとたび音楽として楽器を鳴らそうとする時、そのイメージは酷く局所的になってしまう。それを補うように、ありあわせの言葉を並べてさらに聴き手に伝わるイメージを凝り固めてしまう。</p>
<p>『to breathe』を聴く時、そんな音楽に設けてしまっていた天井をそっと捲り上げられるような感動でいっぱいになる。</p>
<p>「Height」の緻密でありながら揺らぎを残した演奏を耳で追う時、丘の上を目指して歩みを進めるような感覚に陥り、「Walkalone」で初めて後ろを振り返って地平線と目が合う。それまでより音数をグッと抑えた「breathes」で荒くなった自分の息に気づいた時、「Ss」の性急なドラムのように少し鼓動が荒くなる。</p>
<p>慎重に色をつけるような楽器隊のリヴァーブが、ただそこにあるだけで解釈の答えをを急かさない歌詞が、自然と頭の中に景色を描く。小さな旅路のように、聴き終えた頃にはそれぞれの胸中に忘れがたい風景を残してくれる作品だ。</p>
<h2><span id="Sleep_like_a_pillow">鴉鷺（Sleep like a pillow）</span></h2>
<p>吹く風、流れる水、射す光、密やかに咲く花のような自然の存在や現象も、私たちの息吹や祈り、ダンスや歩行のような人間の所作も、全て一つに連なる現象であるとして、私たちと自然が抱える美しいものを繋ぎ、縫うようなスケールを抱えた、達観と静謐な雄大さ、感情の琴線を撫ぜる旋律や和声を内包する美しい音楽である。</p>
<p>Signal Hill、El Ten Seven、The Six Parts Sevenらが提示したポストロックにおけるイノセンスの系譜と、downyが展開した徹底性と自発的な独創性による強度を継承するような、音楽の漂白された美の純潔な提示、と彼らの音楽について語ることができるだろう。同時に、肌や息、叙情や祈りなどのいずれ消えゆく運命の、揺らぎ漂う存在の瞬間と、薮雨、天、月、炎などの自然の間を縫いながら境界を曖昧にするリリックの重なりを、詩人である杉本徹が提示する「永遠と瞬間の縫合」のような現代詩の達成と比較しながら語ることもできる。</p>
<p>私にとってこの作品は、日常に寄り添う音楽というより、人間が夢見ることや生まれ消えてゆくことを肯定する、生に隣接する祝歌として響いた。ライブや次作も楽しみだ。</p>
<h2><span id="RAY">内山結愛（RAY）</span></h2>
<p>甘美に神々しく音に乗って、撒き散らされる生命の息吹。草木や花が早送りで成長していくような映像が頭の中で再生された。ポストロックな音の密度、「包容力」と言うには優しすぎるシューゲイズな音空間にどんどん意識が吸い込まれていく。海辺に反射するキラキラの部分だけを集めたようなギターの音にうっとりしながら、この緻密な演奏が、現実離れした独特な空気感が、シンセサイザーなどを使わずに、全て人の手で演奏され、形作られていることに驚いた。少しずつ、緩やかに停止していく意識の中で、音に溶け込んだ言葉に耳を澄ますのは心地が良い。現実世界のことを歌っているようには感じられなかった低体温でささやかな歌声は、「波」、「月」、「炎」、「風」、「雨」と、確かに身の回りに溢れる自然を歌っていた。ひんやりとしたミニマルなフレーズが繰り返されるたびに、私のものだったはずの意識は無抵抗に、不自然な自然へと沈み込んでいき、最終的には「地上」へと向かうbutohesの音楽に心を委ねていた。</p>
<h2><span id="musit_Sleep_like_a_pillow">對馬拓（musit / Sleep like a pillow）</span></h2>
<p>ふとした瞬間に動悸が激しくなったり、呼吸が乱れることが、これまでの人生で何度かあった。精神的に追い込まれたり、仕事に忙殺されたり、理由は様々だったが、呼吸が上手くできなくなるというのは、程度の差こそあれど死の不安がよぎる。できて当たり前で、普段は特に意識もしない生命活動が突然、脅かされるのだ。しかし皮肉なことに、そうした死の予感が「生きている実感」をもたらす。</p>
<p>前作で「水の循環」を描いたbutohesは、舞台を地上へと移した。私はそれを、何億年もの昔、魚類が両生類へ、そして爬虫類へと進化していった過程に重ねた。その原始的な爬虫類は恐竜となり長らく地球を支配したが、やがて絶滅を強いられる。『to breathe』の身体的なアンサンブルや、そっと呟くように、慰撫するように放たれる言葉たちは、この星に生まれ落ちた全ての儚い生命への讃歌、あるいは逆説的な弔い、栄枯盛衰のレクイエムとして響く。日常に死の気配が潜むということを、前触れもなく滅びが訪れるということを、自覚し、受け入れ、現在地を讃え、その終わりの先に安寧があることを祈る。「自分はなぜ、この世界で息をしているのだろう？」──その答えに、少しは手が届くかもしれない。</p>
<h2><span id="SawawoPot-pourri">Sawawo（Pot-pourri）</span></h2>
<p>『to breathe』を聴いて、以前にも増して広がりを感じた。アコースティックと思しきギターの煌めく「Walkalone」や、Fender Jaguarのスイッチングによる、一聴ギター離れしたサウンドの「breathes」といったトラックに代表されるように、曲調が広がったこともあるだろう。加えてどの曲も今まで以上にミニマルさが際立っていて、じわりじわりと進行する展開は奥行きのある情景を想起させる。</p>
<p>butohesの音楽からは、「繰り返す」という言葉が思い浮かんでくる。ただ同じものを繰り返すのではなく、その時々で常に少しだけ違うものを繰り返すようなイメージだ。具体的にはそれはまず、先も書いたようなミニマリズムの際立った楽曲の構造や、機械的なディレイ・ギターに人力の揺らぎが加わるといった演奏の方法論からもたらされるのだと思う。加えて、そうした方法論が、ある情景を描こうとしている──描こうとしているものが、描かれたものと決してイコールにならなくても──ということが重要なのだと思う。私たちはbutohesを聴きながら、いわば「繰り返し」という方法論で繰り返される情景の中にいるのだ。</p>
<h2><span id="i-2">もこみ</span></h2>
<p>肌が金属に触れた瞬間の冷たさと、触れ続けた時に少しずつ体温に近づいてくる感覚を思い出す。前作『Lost in Watercycle』と比較すると、ロック・バンドらしい熱のこもった疾走感よりも、よどみなく編み込まれた音の重なりと曲の繋ぎ目を覆い隠すようなループ感が強調されているのが今作の特徴だと思う。本作収録に際してミックスとマスタリングを新たに施したという冒頭の2曲や、前作との連関を最も感じさせる性急なリズムの「Ss」でさえも、曲を覆うアンビエンスの冷えた感触が残る。その試みはドラムンベースやジャージー・クラブといったビートが清涼なサウンドとして再解釈されている2023年現在と同期している、と捉えることもできるだろう。5lackのように日本語の語尾を曲げた歌唱は、言葉を意味性や感情から解放し、音として曲に溶け込ませようとしている。これはロック・バンドというフォーマットを解体せんとするポストロックのマナーに忠実であるとも言える。しかしそれでも時折漏れ出てしまうバンドのエモーショナルな瞬間を聴き逃さないために、静かに息を吸い、耳を澄ませる。</p>
<p> </p>
<p><iframe loading="lazy" title="butohes - eephus (Official Music Video)" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/Pq8ZP3stoLw?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<h2><span id="RELEASE">RELEASE</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-25861 size-full" src="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket.jpeg" alt="" width="1535" height="1535" srcset="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket.jpeg 1535w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket-300x300.jpeg 300w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket-1024x1024.jpeg 1024w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket-150x150.jpeg 150w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/8b5bab02-2nd-ep-jacket-768x768.jpeg 768w" sizes="(max-width: 1535px) 100vw, 1535px" /></p>
<p>butohes『to breathe』</p>
<p>レーベル：Self Released / FRIENDSHIP.<br />
リリース：2023/04/26</p>
<p>トラックリスト：<br />
1. Height<br />
2. Alba<br />
3. Walkalone<br />
4. breathes<br />
5. Ss<br />
6. eephus</p>
<p>＊配信リンク：<br />
<a href="https://friendship.lnk.to/to_breathe" target="_blank" rel="noopener">https://friendship.lnk.to/to_breathe</a></p>
<h2><span id="EVENT">EVENT</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-26783 size-full" src="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf.jpeg" alt="" width="1592" height="2048" srcset="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf.jpeg 1592w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf-233x300.jpeg 233w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf-796x1024.jpeg 796w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf-768x988.jpeg 768w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/07/042a3c30-fxiuiiyaiaeehaf-1194x1536.jpeg 1194w" sizes="(max-width: 1592px) 100vw, 1592px" /></p>
<p>國 × butohes pre.「tohkuni」</p>
<p>2023/07/17（月・祝）<br />
下北沢近道</p>
<p>OPEN 17:30 / START 18:00<br />
ADV ¥2500 / DOOR ¥3000（+1D）<br />
学割 ¥1,400 +1D（※要学生証）</p>
<p>[act]<br />
國<br />
butohes<br />
その感激と記録<br />
Texas 3000</p>
<p>＊予約は<a href="https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdXEN8vlciD4IZ99yfMlhWncaLOiJrZWpPWXuMjGAZ6CgiBhA/viewform" target="_blank" rel="noopener">Googleフォーム</a> or 各出演者まで</p>
<h2><span id="PROFILE">PROFILE</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-25858 size-full" src="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-scaled.jpg" alt="" width="1707" height="2560" srcset="https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-scaled.jpg 1707w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-200x300.jpg 200w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-683x1024.jpg 683w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-768x1152.jpg 768w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-1024x1536.jpg 1024w, https://storage.googleapis.com/musit-2022-storage/2023/04/0b5547ef-2nd_artistpicture_a-1365x2048.jpg 1365w" sizes="(max-width: 1707px) 100vw, 1707px" /></p>
<p>〈L→R〉<br />
Michiro Inatsug（Vo. Gt.）<br />
Naoto Fg（Ba.）<br />
Kate Yonnesz（Dr.）<br />
Kanju Inatsug（Gt. Cho.）</p>
<p><a href="https://twitter.com/butohes_japan" target="_blank" rel="noopener">Twitter</a><br />
<a href="https://www.instagram.com/butohesgram/" target="_blank" rel="noopener">Instagram</a></p>


<p>Taku Tsushima／92年、札幌生まれ。『musit』編集／執筆、『ヨムキクノム』スタッフ／バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。</p>


對馬拓

【クロスレビュー】butohes『to breathe』

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【クロスレビュー】butohes『to breathe』

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