先の見えない不安を誰しもが抱えているといっても過言ではない今。そんな令和の音楽に共通するコードとして「諦観」があるが、米津玄師が「毎日」で「あきらめ」を見出したのは変わり映えせずただ繰り返され続ける日常だった。
米津玄師ともあろう人がイントロで「すみません」と小声で謝っていることに気付いたとき、彼は本当に「疲れた人」を歌おうとしているのだと感じた。直前に電車の音も聴こえているので、シチュエーションとしては満員の車内で目的の駅に着いた男（米津）が人をかきわけて降りようとしている、というところだろう。一定のリズムに揺られて他人の体臭を嗅いでいる間の、心が死んでいく感覚。米津が最初からこの歌で本気の「あきらめ」を歌おうとしているのが分かる。
中盤の歌詞で登場する「ぢっと手を見る」は、石川啄木の第一歌集である『一握の砂』に収録された短歌「はたらけど　はたらけど　猶わが生活　楽にならざり　ぢっと手を見る」から引用されたフレーズだ。そこには現代人にも通じる歌人の「あきらめ」の念が込められている。「ぢっと手を見る」という一節から醸し出される停止した時間と哀愁。はっ、と息を呑む米津。自分が延々と日々をループしていることに気付いたのか、はたまた労働の垢や爪痕を見つけて一瞬の衝動を得たのか。「燻んだ様相」と歌う掌は非凡ではなく、どこまでも人の形を成している。
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〈わかってんだクソボケナス　これが僕の毎日〉
米津は叫ぶ。文字にするにも憚られる、明らかに投げやりな罵倒。言葉の重さを誰よりも知り、繊細に扱う彼の口から飛び出す罵詈雑言は、不思議な光を帯びて私たちのもとに届く。低俗であるはずなのに、人をあっけなく救う力を持っている。言い得るなら米津玄師的パラドックスとでも表現しようか。美しい言葉を熟知している人間が発するごみのような言葉からしか得ることのできない埋没した輝きを、私たちはこの歌で見ることができるのだ。
敬愛してやまない宮崎駿作品に宛てた「地球儀」、フェミニズム的観点を意識しながら制作した「さよーならまたいつか」の発表を経て、「真面目すぎたから赤ちゃんに戻る必要があった」（*）と話した米津。確かに「毎日」の彼は「LOSER」や「Flamingo」の時のように何ものにも縛られず、開放された自由な音の踏み方をしているように思える。ただ、この曲に特有の「あきらめ」は、彼の創作精神を覗く上で、一側面としてのクリエイティヴとして興味深いほど顕著だ。なぜ興味深いのか。それは私たちリスナーの多くが、彼は才人で、毎日に飽きることなどないと何処かで思い込んでいるからだ。
*<a href="https://with.kodansha.co.jp/article/interview-kenshiyonezu-1" target="_blank" rel="noopener">https://with.kodansha.co.jp/article/interview-kenshiyonezu-1</a>
〈毎日毎日毎日毎日　何一つも変わらないものを 
頑張ったとしても変わらないものを　この日々を 
まだ愛せるだろうか〉
諦観で始まり、祈りで終わる。こんなに人間くさい歌が、今まで米津玄師の音楽にあっただろうか。彼もまた、私たちと同じなのだ。そう思える隣人としての親しみと慈しみ。誰かの代わりに叫ぶ人が、この世界にいること。希望という名の明日が、少しだけ見えてきた気がする。
<h2>RELEASE</h2>
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米津玄師「毎日」
仕様：Digital 
レーベル：Sony Music Labels 
リリース日：2024/05/27
*配信リンク： 
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1996年10月2日、愛媛県新居浜市大生院生まれ。タイ国立カセサート大学農学部卒業。小説家。

鈴木レイヤ

米津玄師「毎日」──諦観と祈り、埋没した輝き

日芸卒フリーライター。「生きづらさと愛を書く」をモットーに音楽、映画、マンガなどの分野で執筆活動中。主な掲載先はrockin’on、リアルサウンドなど。

安藤エヌ

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米津玄師「毎日」──諦観と祈り、埋没した輝き

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