<p>Squarepusher（スクエアプッシャー／トーマス・ジェンキンソン）は、若くしてAphex Twinに才能を見いだされリリースした『Feed Me Weird Things』で一躍シーンの一線に登場した。21歳にして天才ベーシスト、稀代の作曲家として名盤を世に送り出すこととなったのだ。2002年リリースの『Do You Know Squarepusher』の曲中で〈Squarepusher – with all the difference of drum n bass〉（そこらのドラムンベースとは俺は違う！）と自身で豪語しているが、それは全くもって過言ではない。彼の楽曲はありふれたテクノやドラムンベースとは一線を画す複雑なIDMなのである。</p>
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<p>しかし、彼は「ドラムンベースにもうやれることはない」と、一度自分の持つスタイルを捨て、ソロ・ベースのアルバム『Solo Electric Bass 1』を2009年にリリースした。また、Shobaleader Oneというプロジェクトで自身の複雑すぎるIDM楽曲を超絶技巧メンバーと共に生演奏するなど、キャリアを通じ作家として様々な側面を披露するようになった。そんな彼は、2012年の『Ufabulum』でドラムンベースの世界に再び舞い戻ってきた。</p>
<p>今回取り上げる『Dostrotime』は2024年3月1日にリリースされた新作。アルバムとしては2020年の『Be Up A Hello』以来、4年ぶりのリリースだった。</p>
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<p>アルバムは（恐らくだが）6弦ベースを使用し、アコースティック・ギターのように美しいソロ・ベースのイントロが響く「Arkteon 1」で幕を開ける。コード弾きにタッピングやスラップを挟むなど、相変わらずの超絶技巧ベーシストであることも再確認させられる1曲だ。そんな導入だが、2曲目の「Enbounce」ではドラムンベースに急転。どんな情緒なのか……と戸惑うなか、3曲目では先行リリースされていたキラー・トラック「Wendorlan」をぶち込んでくるという気合の入りよう。この楽曲は、聴けば一瞬でSquarepusherだ……と理解できるほどに彼の個性が凝縮されている。複雑なパターンのドラムンベースに、もはやどのように打ち込んでいるのかすら分からないベース・マシンのアシッド・ラッシュ、まるで電子音の洪水に飲み込まれていくような聴き応えだ。</p>
<p>余談だが、「Wendorlan」はオシロスコープに接続し再生すると、波形でSquarepusherのロゴと「Squarepusher」「Wendorlan」という文字が浮かび上がってくるという訳の分からないギミックが施されている。どうやって作ったんですかコレ。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="Squarepusher - Wendorlan (Scope Vid)" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/cLOd03UGmH8?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" referrerpolicy="strict-origin-when-cross-origin" allowfullscreen></iframe></p>
<p>このアルバムはとにかく全編を通して複雑で面白いと言えるだろう。5曲目の「Kronmec」ではSquarepusher印とも言えるブヨブヨとしたベース・マシン・サウンドが鳴り響くが、上ネタがアンビエントのようなストリングスになっており複雑極まりない。少しAphex Twinっぽさも感じられる。</p>
<p>また、8曲目の「Akkranen」ではイントロからピークのキツいグリッチが入る。これを聴いて筆者は『Do You Know Squarepusher』の頃のSquarepusherが帰ってきたぞ〜！！！とワクワクが止まらなくなった。アルバム中盤までは非常に重い印象だが、以降は相変わらずのバキバキ展開でコントラストがイケている。</p>
<p>このアルバムで特に聴いてほしい楽曲を選ぶとすれば、9曲目の「Stromcor」だ。このアルバムのベース音は、基本的にはベース・マシン（実機かソフトかは不明）を使用しているが、この楽曲だけは飛び道具的にSquarepusher自身の演奏による超絶技巧エレキ・ベースが使われている。、ベース・マシンの上でギターのように暴れ回る姿はあまりにもぶっ飛び過ぎていて壮観だ。必聴の1曲として推したい。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="Stromcor" width="500" height="375" src="https://www.youtube.com/embed/dc7-2Y25Qu4?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" referrerpolicy="strict-origin-when-cross-origin" allowfullscreen></iframe></p>
<p>アルバムのラスト2曲「Heliobat」「Arkteon 3」はかなりダウナーかつ感動的だ。ここまでのバッキバキ様とはうって変わった印象を受ける。「Arkteon 3」に至っては名門ジャズ・レーベル、ECMの楽曲をソロ・ベースで聴かされているような気持ちになってしまうほど美しい。どこか牧歌的で落ち着いた、もはやアルバムが終わってしまうことへの儚さと寂しさのようなものが湧いてくるクライマックスとなっている。</p>
<p>ちなみにこのアルバムに限った話ではないのだが、電子音楽こそフィジカルの音源で聴くべきだと筆者は考えている。ストリーミングとフィジカルで聴き比べると音の厚みの違いを目の当たりにさせられる。是非この作品もCDやレコードを手に取って聴いていただければ幸いだ。</p>
<h2>RELEASE</h2>
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<p>Squarepusher『Dostrotime』</p>
<p>仕様：LP / CD / Digital<br />
レーベル：Warp Records / BEAT RECORDS<br />
リリース：2024/03/01</p>
<p>トラックリスト：<br />
01. Arkteon 1<br />
02. Enbounce<br />
03. Wendorlan<br />
04. Duneray<br />
05. Kronmec<br />
06. Arkteon 2<br />
07. Holorform<br />
08. Akkranen<br />
09. Stromcor<br />
10. Domelash<br />
11. Heliobat<br />
12. Arkteon 3<br />
13. Heliobat (Tokyo Nightfall) *Bonus Track</p>
<p> </p>
<div id="toc_container" class="no_bullets"><p class="toc_title">ヨムキクノムにて発売中</p><ul class="toc_list"><li><a href="https://yomukikunomu.stores.jp/items/65e97121c6aee701eb5dab72" target="_blank" rel="noopener" class="broken_link">Squarepusher『Dostrotime』LP</a></li><li><a href="https://yomukikunomu.stores.jp/items/65e970e8b4ac74003bfa95bc" target="_blank" rel="noopener" class="broken_link">Squarepusher『Dostrotime』CD</a></li></ul></div>


<p>1996年10月2日、愛媛県新居浜市大生院生まれ。タイ国立カセサート大学農学部卒業。小説家。</p>


鈴木レイヤ

Squarepusher『Dostrotime』──逆襲のドラムンベース、電子音の洪水

<p>1995年生まれ、九州出身。スーパーテクノギーク。音楽と映画をこよなく愛する。子供の頃にJamiroquaiにハマりブラックミュージックに傾倒するが、高校生の頃にAphex Twinに人生を破壊された。</p>


タカモリコータ

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Squarepusher『Dostrotime』──逆襲のドラムンベース、電子音の洪水

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