<p>皆様はブルース・ギルバート（Bruce Gilbert）という音楽家をご存じだろうか？──と書いておいて、多分知らない方が大半だろうと考えている。</p>
<p>英国のパンク・バンド、Wireの元ギタリストと言えば「あ、そうですよね」という方もいらっしゃるかもしれない。しかし、はっきり言って目立っていたギタリストではないので顔を覚えていないという人が大半でしょ？──とまた考えている。</p>
<p>私はブルース・ギルバートという音楽家が心底好きなのである。</p>
<p>この文章を書いている2020年現在、彼は74歳。彼をご存じない方にも、彼の長い音楽活動の中から是非聴いてほしい音源5枚を紹介しながら、これまでに至る彼のキャリアを紹介していきたいと思う。また来日して彼の出す音を直に聴きたいと願いながら……。</p>
<div id="toc_container" class="no_bullets"><p class="toc_title">INDEX</p><ul class="toc_list"><li><a href="#Wire154">Wire『154』</a></li><li><a href="#DOMEDOME_3">DOME『DOME 3』</a></li><li><a href="#ACMARIASONE_OF_OUR_GIRLS">A.C.MARIAS『ONE OF OUR GIRLS』</a></li><li><a href="#BRUCE_GILBERTAB_OVO">BRUCE GILBERT『AB OVO』</a></li><li><a href="#BRUCE_GILBERTEX_NIHILO">BRUCE GILBERT『EX NIHILO』</a></li></ul></div>
<h2><span id="Wire154">Wire『154』</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-20123 size-full" src="https://storage.googleapis.com/stateless-musit-net/2020/12/52e13ae4-e9sl-9xuyae3cr7.jpeg" alt="" width="300" height="300" /></p>
<p>1977年頃から活動を開始したWire。それまでレコーディングなどの技師として働いていたブルース・ギルバートはWireに参加した時点で30歳近く、ほかのメンバーの年齢よりひと回り歳上だった。</p>
<p>これは1979年に発売した、Wireの3枚目のオリジナル・アルバム。Ramonesをよりコンパクトでギクシャクさせたようなパンク・バンドからスタートした彼らが、UKらしい憂いと音響実験を取り入れた2枚目『Chairs Missing』を経て、大胆にシンセサイザーとエフェクトを取り入れたのがこの作品。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="On Returning (2006 Remastered Version)" width="500" height="375" src="https://www.youtube.com/embed/DuQvvh-9aCM?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<p>特にレコードのA面にあたる部分がブルース・ギルバート、そしてのちにDOMEとして共に活動するベースのグラハム・ルイス、プロデューサーのガレス・ジョーンズの影響が色濃く出てい<span style="font-size: 16px;">る（<span style="color: #000000;">B面はコリン・ニューマンの個性が出た『Chairs Missing』の延長にある捻くれたギター・ポップ）。</span></span></p>
<h2><span id="DOMEDOME_3">DOME『DOME 3』</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-20124 size-full" src="https://storage.googleapis.com/stateless-musit-net/2020/12/4f50bb04-elv7wngwoaa34nb.jpeg" alt="" width="600" height="600" /></p>
<p>1980年にWireが一旦解散するのと前後して、Wireで共に活動したグラハム・ルイスと始動したユニット。パフォーマンスや録音では必要に応じて流動的に様々なアーティストが参加するスタイルを取っていたようだ（後述するアンジェラ・コンウェイや美術家の大竹伸朗も参加）。</p>
<p>Wireでの音楽性の延長にあった1、2枚目を経て、これ以降のグラハムと共に活動する様々なユニットの音楽性に至ったのがDOMEの3枚目となるこのアルバム。不穏なサックスとシンセサイザー、エスニックともインダストリアルとも受け取れるパーカッションで始まる1曲目「JASZ」でいきなりどこか遠くの世界に連れていってくれる。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="Dome - JASZ [Audio]" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/F6H95W6JIf8?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<p>ブルースとグラハムの2人はDOME以外にも、ギルバート・アンド・ルイス、Cupol、P’oなどの様々な名義、美術家ラッセル・ミルズと<span id="Gilbert,_Lewis_and_Mills" class="mw-headline">ギルバート・ルイス・アンド・ミルズ</span>、Mute Recordsの社長ダニエル・ミラーとDuet Emmoで素晴らしい作品を残している。</p>
<h2><span id="ACMARIASONE_OF_OUR_GIRLS">A.C.MARIAS『ONE OF OUR GIRLS』</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-20125 size-full" src="https://storage.googleapis.com/stateless-musit-net/2020/12/b4bdf8e3-fdysc_kwaaedhdj.jpeg" alt="" width="598" height="600" /></p>
<p>これまで様々なブルース・ギルバート関連作品に参加してきたアーティスト、アンジェラ・コンウェイがA.C.MARIAS名義で1989年にリリースしたアルバム。ブルースが全面的にプロデュースしているだけでなく、ジョン・フライヤーやバリー・アダムソンも参加。</p>
<p>特にシューゲイザーにも通じる浮遊感のあるメロディーにローランド・スチュアート・ハワード<span class="normal"><span style="font-size: 16px; color: #000000;">（ex. The Birthday Party）</span>のヤバいギターが吹き荒れる「TIME WAS」は名曲。</span></p>
<p><iframe loading="lazy" title="A.C. Marias - Time was promo clip 1989" width="500" height="375" src="https://www.youtube.com/embed/GLvAhDAnDr0?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<p>ブルースの配偶者（だった？）と聞いたこともあるのだが、真偽は如何に？</p>
<h2><span id="BRUCE_GILBERTAB_OVO">BRUCE GILBERT『AB OVO』</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-8981 size-full" src="https://storage.googleapis.com/stateless-musit-net/2020/11/c5b342b0-41fwxmon8kl.jpg" alt="" width="500" height="446" /></p>
<p>1985年に活動再開したWireも1992年に再度活動休止。その後、DJ Beekeeper名義でレーベル面を黒く塗り潰して何のCDか分からない状態の音源をランダムにMIXしていく……といったパフォーマンスなども行っていた模様<span style="color: #000000; font-size: 16px;">（日本の花火の音だけを収録したCDが良いとインタビューで語っていた）。</span></p>
<p>これは、そういったアヴァンギャルドな芸術表現を経て発表された、1996年のソロ名義作品。</p>
<p>いわゆるノイズ・ミュージックに分類されるような電子音楽作品ではあるが、再生ボタンを押した瞬間にビープ音が流れ出すという、小難しく知的な作品の多い彼にしては珍しくちょっとバカっぽい側面もある。普段ノイズ・ミュージックを聴かない方にも比較的取っつきやすい作品だと思う。</p>
<p>なんと音源がSpotifyにもYouTubeにもない。なので代わりに大竹伸朗との交流が見られる貴重な映像を貼っておこう。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="世界･わが心の旅「ロンドン "ダブ平" 連れて」  3/4" width="500" height="375" src="https://www.youtube.com/embed/gimz6mJZn94?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<h2><span id="BRUCE_GILBERTEX_NIHILO">BRUCE GILBERT『EX NIHILO』</span></h2>
<p><img loading="lazy" class="alignnone wp-image-20126 size-full" src="https://storage.googleapis.com/stateless-musit-net/2020/12/fa051275-dunppqrvyaasv0u.jpeg" alt="" width="594" height="594" /></p>
<p>2000年からWireが再始動するも2004年にブルースは脱退。その後、まるで仙人のような生活をしている……との噂もあるが、来日公演などもないため真偽は不明。とはいえ、忘れた頃にソロやコラボ作品の発表、インスタレーションへの楽曲提供などの情報が入ってくる。</p>
<p>これは2020年時点では最新となるソロ作品。</p>
<p><iframe loading="lazy" title="01 Bruce Gilbert - Undertow [Editions Mego]" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/88HatJ33gXU?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></p>
<p>それまでは世俗を突き放したような音楽性なれど、同時代に呼応するようなエッセンスが多少なりとも感じられた。しかしここでは正に孤高とも言うべき、彼の理想のサウンドシェイプをただただ表現したと思われる作品となっている。毛穴から浸透してくる音が最高に気持ち良い。</p>
<p style="text-align: center;">＊　＊　＊</p>
<p>駆け足ではあるが彼のキャリアと、私が重要だと思う作品を紹介した。</p>
<p>WireやA.C.MARIASはともかく、決して万人受けする音楽だとは思っていないが、刺激を求めるリスナーや音の求道者を自負するミュージシャンは是非一度聴いて欲しいと切に願う。</p>
<p>そして、あわよくば来日を……。</p>


<p>ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。</p>


星野

Wireだけじゃない 〜孤高の音楽家、ブルース・ギルバート（Bruce Gilbert）のキャリアを追う〜

<p>musitが運営するショップ＆カフェバー『ヨムキクノム』店長。燗酒と缶詰にはうるさい。趣味は釣具を中心とした古物収集。Bruce Gilbertアイシテル。</p>


仲川ドイツ

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Wireだけじゃない〜孤高の音楽家、ブルース・ギルバート（Bruce Gilbert）のキャリアを追う〜

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