TikTokやYouTubeを通じてトレンドをチェックする現代の若者には、一体どんな曲が支持される傾向にあるのかを分析してみると、まず「優しさを歌った曲」という特徴が挙げられる。これについては<a href="https://musit.net/column/kindness-artist" target="_blank" rel="noopener">前回のコラム</a>で綴ったが、他にどんな特徴が見られるかを考えた時、「言いたくても言えない、言葉にできない自分の思いを代弁してくれている曲」──ここでは「感情吐露ソング」と記すことにする──がヒットチャートに乗りやすいことに気付く。「優しさ」同様、若者のステータスを音楽的観点から捉える上で見逃してはならないトピックだ。
学校生活ないし社会人として日々の生活を送る中で、溜まっていく鬱憤と本音。それは自分自身の人生を振り返る上で、「本当はこんなはずじゃなかった、もっとこんな風に生きたかった」と思う切実な願いであったり、周囲に対する自分なりの正義心から来る辟易だったりもする。そうした思いを代弁して歌ってくれる曲が「令和」という時代に台頭し、時代を象徴する音楽としてインプットされているように感じる。
これらの音楽には大きく3つの特徴がある。
<blockquote>①アップテンポ 
②共感を呼ぶエモーショナルな歌詞 
③キャッチーで耳に残るメロディライン</blockquote>
本稿ではより具体性を持たせられるよう、実際に若い世代を中心にトレンドとなった曲を挙げながら、それらの楽曲が支持される理由を探ってみることとする。
まずは、SEKAI NO OWARIが発表した16枚目のメジャー・シングルであり、第64回日本レコード大賞を受賞した「habit」。「habit」は「癖」と訳すのが一般的だが、「習性」という意味で使用している本作では、世間の在り方に対して歯に衣着せぬ言葉をスピーディーに、並べ立てるように歌う歌詞が印象的だ。
<blockquote>俺たちはもっと曖昧で／複雑で不明瞭なナニカ 
悟ったふりして驕るなよ／君に君を分類する能力なんてない</blockquote>
自分自身をカテゴライズして周囲を穿った目線で見ることをストレートに非難し、「人間は複雑な生き物」と歌うこの曲はまさに「感情吐露ソング」であり、誰しもが世間に対して言い放ちたくても言えなかった思いやジレンマを払拭してくれる歌だと解釈できるだろう。
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この曲が各所で評価されていること自体、令和という時代を表すムーブメントであって、若者たちが常にこういった曲に共感と救いを求めていることの証明とも言える。何度もリピートして聴くことで自分の人生を反芻し、間接的なカタルシスを得ているからこそ、リスナーに支持され世間的な評価へと繋がっているのではないだろうか。
「人生」というテーマを歌った「感情吐露ソング」といえば、この2曲も外せない。ヨルシカの1stフル・アルバムに収録されている「だから僕は音楽を辞めた」と、Creepy Nutsによる2ndアルバムのタイトル・トラック「かつて天才だった俺たちへ」だ。
<blockquote>考えたってわからないが、本当に年老いたくないんだ 
いつか死んだらって思うだけで胸が空っぽになるんだ 
将来何してるだろうって／大人になったらわかったよ 
何もしてないさ
かつて天才だった俺たちへ／神童だったあなたへ 
似たような形に整えられて／見る影もない</blockquote>
この2曲には、先に挙げた3つの特徴の他に「諦観」という現代的なキーワードも含まれている。現代の若年層は内向的で、若いうちから自分の人生を俯瞰し、「諦観」を感じる傾向にある。「昔＝大人になる前は良かった」「大人になってから『諦め』がつくようになってしまった」という、大人びた、かつ成熟した感情を抱くのが令和の若者たちなのだ。
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<iframe loading="lazy" title="【MV】Creepy Nuts - かつて天才だった俺たちへ" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/_dAzUOzWvrk?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe>
「諦観」を「人生」と結び付け、焚きつけるように早口で歌い、あえて心を急かすように歌われるこれらの曲は、何度も聴くことで最初は他人の人生だと思って聴いていたのがいつしか自分の人生とリンクし、これは自分の人生を歌っているのだと思うようになる。こうした「自分ごととして捉えられる音楽」が、悔いの残る人生や過去を羨む人生を昇華していくのだ。
このように、令和の若者は自分の身の回りに存在する音楽を「自分に近しいもの」として密接に捉える姿勢が見られる。もしかしたらどの時代のリスナーよりも、令和に生きるZ世代は音楽を「自分を理解してくれる親しき隣人」的な立場に置いているのかもしれない。
「感情吐露ソング」は、社会という大きな仕組みに抑圧され、口をつぐんでしまう若者たちの救いとなりえる音楽として、この先も根強く支持されていくことだろう。
最後に、筆者が10〜20代の頃（平成）のヒットソングを振り返ってみると、「ハナミズキ」（一青窈）や「世界に一つだけの花」（SMAP）など、リスナーの心に寄り添う「優しさ」を感じられる楽曲が既に台頭してきていたことが窺える。メロディラインにおいても一度聴けば忘れられない個性的なナンバーが多い中、では、アップテンポの曲は？と考えてみると、大部分がスローテンポの曲で、先に挙げたアップテンポな楽曲たちに並ぶものの潮流は見受けられなかった（当時ヒットしたポルノグラフィティの「サウダージ」でも、BPMは120でアレグロ止まりである）。
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つまり、平成に歌われた曲は令和のそれより切迫感がなく、歌詞との相乗効果もあわせて意図的に感情を焚きつけるような楽曲はそう多くなかったということだ。しかし、断定はできない。ジャンル違いではあるが、2000年の発売から流行の兆しを見せ、爆発的に隆盛したVOCALOID（人工音声ソフト）界隈では、機械音声ならではのスピーディーなナンバーがニコニコ動画などの動画サイトでミリオン再生を記録した。その中には鬱屈とした感情を発散すべく生まれたリリックもあった。筆者はこれこそが今の流行のプロトタイプであり、当時で言うところの先駆的な立ち位置に相当するのではないかと考えている。
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VOCALOID楽曲を除きJ-POPだけに限ってみれば、筆者も昔はよくスローテンポの曲を聴いていたし、「優しさ」を感じるのはそういった曲からであって、感情吐露ソングに触れたのは最近のことのように思う。両者を聴き比べると、明らかに時代によって音楽に求められているものの違いを感じられるし、音楽は時代の変遷を表す重要なコンテンツなのだと改めて考えることができる。
よって、今回綴った現象は現代を象徴する新しい音楽の様相であり、リスナーの輪郭を捉える上で意義のあるトピックだと感じる。次の時代にはメイン層が代替わりし、また新しい定義ができるかもしれない。時代と共に人々と歩んでいきリアルタイムにその名を刻む音楽の在り方に、今後も注目していきたい。

ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。

星野

令和を表すムーブメント──「感情吐露ソング」が映す時代の変遷

日芸卒フリーライター。「生きづらさと愛を書く」をモットーに音楽、映画、マンガなどの分野で執筆活動中。主な掲載先はrockin’on、リアルサウンドなど。

安藤エヌ

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