【2021年2月】The Windmill、Mazeppa、シューゲイズ・ポップ【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

【2021年2月】The Windmill、Mazeppa、シューゲイズ・ポップ【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

2020年の1月からサイト内連載としてスタートした「おすしたべいこ的マンスリーレコメンド」。今年からはディスクレビューにとどまらず、様々なトピックについて偏愛的にピックアップしてお送りしています。

2月は、UKインディー・シーン注目のヴェニュー=『The Windmil』と、今月リリースのアルバムを中心とした現行シューゲイザー最新事情の二本立てです。

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特集:UKインディーの震源地『The Windmill』

Black Country, New Road(bandcampより)

SpotifyやApple Musicといったサブスクリプション・サービスがどれだけ台頭しようとも、あるいはYouTubeなどの配信フォーマットやTikTokといったインスタントなSNSで急激なバズが発生しようとも、生身の人間たちが出会い熱狂を生み出すリアルなコミュニティは、そう簡単に消えたりはしないのかもしれない。

まさに今、遠く離れたサウス・ロンドンにおける地殻変動が、現地のみならずインディー・シーン全体に大きな影響を与えている。その震源地となっているのが、『The Windmill(ウィンドミル)』だ。

『The Windmill』とは?

『The Windmill』は土地やレーベルの名前ではなく、サウス・ロンドンのブリクストンという街にあるヴェニュー(=Venue)の名前。

ヴェニューという言葉は日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、翻訳すると“(コンサートなどの)開催地/会場”くらいの意味。要は、日本でいうところの“ライブハウス”(実は和製英語)に近い。The Windmillは収容人数がわずか150人程度という、かなり小規模な会場だ。

そんな場所が、あろうことかインディー・シーンを揺るがすなど、ことさら遠く海を隔てた私たちにとってはにわかに信じがたい話だ。しかし、下記の記事によれば、ブッキング・マネージャーであるティム・ペリーという人物の存在によって、The Windmillは大きな影響力を発揮しているらしい。

【短期集中連載②】英国インディ・ロックの新たな震源地=サウス・ロンドンの実態をその当事者に訊く:ウィンドミル編

先見の明によってブッキングされたニューカマーたちが、サウス・ロンドンで次々に花開いている--。そんなThe Windmillを拠点とする要注目のバンドをいくつか紹介する。

- 『The Windmill』注目のバンド

Sorry(bandcampより)

先月の【マンスリーレコメンド】でも紹介したポストパンク・シーン注目のshameとGoat Girlは、共にサウス・ロンドン出身であり、The Windmillを起点に羽ばたいた代表的な存在だ。

少しさかのぼると、2020年には幼馴染みのアーシャ・ローレンツとルイス・オブライエンを中心に結成されたインディーロック/ポストパンク・バンド、Sorryがデビューアルバム『925』をリリースし話題となった。また、2019年には名門ブリット・スクールで出会った四人組、black midiが緊迫感あふれる怒涛のアンサンブルを展開する『Schlagenheim(シュラーゲンハイム)』で鮮烈なデビューを飾っており、来日公演も果たしている。

こうしてみると、サウス・ロンドンはポストパンク周辺のバンドが主流のように思えるが、シューゲイザーやエレクトロニカ、ヴェイパーウェイヴなどを織り交ぜた不可思議なサウンドを鳴らすPet Shimmersといった変異種も登場しており、一筋縄ではいかないようだ。なお、2020年にリリースされた『Face Down in Meta』収録の『Feels Hz』にはGoat Girlが客演で参加するなど、シーン内での関わりも垣間見える。

衝動と混沌が渦巻くBlack Country, New Road

さて、そんなThe Windmillから、また新たに気鋭の集団が現れた。2月5日にNinja Tuneよりデビューアルバム『For the first time』をリリースしたBlack Country, New Road(以下BC,NR)である。

先行シングルはプレミア化し、本国で行なったライブは全て完売するなど、デビュー前から飛ぶ鳥を落とす勢いのBC,NR。彼らはギター、ドラム、ベースという基本的なパートに加え、キーボード、サックス、そしてバイオリンをも擁する七人編成。大所帯ならではの壮大かつ複雑なアンサンブルで、様々なジャンルを渡り歩いてみせる。

例えば、クラウトロックを彼らなりに再解釈したかのような『Science Fair』、10分に迫るプログレッシブなナンバー『Sunglasses』、現代音楽的なアプローチの『Track X』--といった具合だ。他にも、フリージャスやポストロック、ポストパンクなどを織り交ぜ、衝動と混沌に満ちたサウンド・スケープを展開している。収録曲はわずか6曲ながら、全体の尺は40分間という大作志向も見逃せない。

まさに“規格外”という言葉が相応しいBC,NR。今後の活躍に期待は膨らむばかりだ。

サウス・ロンドンなくしてポストパンク・リバイバルなし?

近年のポストパンク・リバイバルの潮流は、やはりThe Windmillで展開される群雄割拠が大きく関係しているのではないだろうか。

前述したように、The Windmillが輩出するアーティストは、ポストパンク(あるいはそこから派生するジャンル)のバンドが多数を占めている。それは、下記の記事を参照すると、ブリクストンという街の情勢が関係しているようなのだ。

注目のSorry、デビュー・アルバム『925』から見るサウス・ロンドン・シーンのアティテュードと新しい波

サウス・ロンドンの退廃的な空気をまとったThe Windmillのシーンが、単なる焼き増しではなく、“シニカルさ”という社会へのカウンターを表現するサウンドとして同時多発的に波及するに至ったとすれば、なんとも興味深い話である。


コラム:現行シューゲイザー最前線

Mazeppa(bandcampより)

“シューゲイザー”と一口に言っても、その実態は様々なジャンルに要素として溶け込み、今や十把一絡げにすることはできない。例えば、シューゲイザーとポストパンクを折衷させる潮流が盛り上がりを見せていることは、先月の【マンスリーレコメンド】でも少し触れたとおり。その他にも、サイケやプログレといったジャンルとの折衷を志向するバンドも存在する。あるいは90年代末期という早い段階で、MogwaiやGodspeed You! Black Emperorなど、ポストロック勢との明確な線引きが難しくなっているのも事実だ。

そんな中、これまた様々な要素が溶け込んだ、とんでもないシューゲイザー・バンドが出現した。2017年に結成されたイスラエルの四人組、Mazeppaがそれである。

- Mazeppaが描く、耽美派シューゲイズ・エキゾチカ

Mazeppa『Mazeppa』ジャケット

Mazeppaを“シューゲイザー・バンド”と呼ぶのは便宜的なものでしかない。彼らが2月10日にリリースしたデビューアルバム『Mazeppa』は、実に様々な音楽的要素が絶妙な具合で融合した作品に仕上がっている。ここがまさに、“とんでもない”と表現した所以だ。

サイケデリックなレイヤード・ギター、往年のプログレッシブ・ロックを想起させる壮大な曲展開、ポエトリーリーディング、4ADのバンド群に見られるドリーミーなサウンド・スケープ、そして異国情緒あふれる万華鏡のような音像。

こうして羅列するとバラバラに思える要素も、彼らの手にかかれば点と点が線で繋がり、形容しがたくも美しい模様を描きだす。イスラエルという土地柄にも強く起因する、魅惑の耽美派シューゲイズ・エキゾチカとでもいうべき極上の音楽体験があなたを待っている--。

ここまで読むと、特別詳しくないリスナーからすれば、シューゲイザーは難解なジャンルで、そんな音楽を普段から聴くような層はニッチな好事家だという印象を持つ方も多いかもしれない。

しかし、前述したような他ジャンルとの折衷にピンとこない、あるいは、それこそMy Bloody Valentineに代表される強烈なサイケデリアに満ちたサウンドは好まないというリスナーに対しても、シューゲイザーはしっかりと間口を広げている。つまり、ポップなシューゲイザーも無数に存在しているのだ。

- シューゲイズ・ポップの近作

Flyying Colours(bandcampより)

現行シューゲイズ・ポップの代表格といえば、センチメンタルなサウンド・スケープで人気を博すロンドンのNight Flowersや、クリアな轟音で疾走するスウェーデンのWestkust(ウェストカスト)などが思い浮かぶが、そんな彼らと呼応するのがオーストラリア・ニューカッスル出身のTilly Murphyによるソロプロジェクト、FRITZだ。

2月12日にリリースされた2ndアルバム『Pastel』は、青空が似合うガーリーなシューゲイズ・ポップを存分に堪能できる。思わず胸を締めつけらるような疾走感も涙ものだ。シンセ・サウンドも随所に取り入れるなど、全体的に煌びやかなサウンド・スケープに仕上がった快作である。

また、オーストラリア・メルボルンのFlyying Coloursが2月26日にリリースしたばかりの新作『Fantasy Country』も、ほのかにサイケデリックな香りを醸し出しつつ、ファジーかつポップなサウンドを鳴らしている。シューゲイザーの入門としても最適な一枚だ。

少し振り返れば、アノラックなサウンドを鳴らしていた初期のMy Bloody Valentineの継承者として登場し、活動を終了した現在もシーンに多大な影響を与え続けているThe Pains of Being Pure at Heartも、シューゲイズ・ポップの潮流における重要な存在だ。

そして彼らの痕跡は、Rat Columnsの最新作『Pacific Kiss』でも感じとることができる。シューゲイザーの要素はかなり薄れるものの、インディーロックの良心を体現するかのような風通しの良いサウンドや、なよっとした愛らしいボーカルなどは、ペインズの系譜として捉えてもおかしくはないだろう。

ちなみに、Rat Columnsもオーストラリアのバンドであり、同郷の新譜がこうも続くと何やら運命的なものを感じなくもない。

国内にも目を向けてみる。For Tracy Hydeは、日本のみならずアジア圏を代表するシューゲイズ・ポップの旗手として存在感を発揮して久しい。

2月17日にリリースされた最新アルバム『Ethernity(イーサニティ)』は、中心人物である夏bot(Gt. Vo.)が幼少期を過ごした“アメリカ”をテーマに、エモやグランジ、スロウコアといった新しい要素を取り入れ、重厚感あふれるオルタナティブなサウンドを追求した野心作に仕上がっている。

とはいえ、様々な音楽性を取り入れてもなお、持ち味であるポップセンスはデビュー当時から一貫して衰えない。彼らが紡ぐメロディラインや、詩的な日本語詞、そしてどこか幼さが残るeureka(Vo. Gt.)のボーカルによって、あくまでポップソングであるということに対して、しっかりと責任を持っていることがうかがえるのだ。

また、For Tracy Hydeといえば、そのメンバーが楽曲を提供しているアイドル・グループ、RAYの存在も看過できない。今や、クリエイティブで実験的なフォーマットとして器用に機能する“アイドル”という存在。そこにシューゲイザーが投じられることで化学変化を起こし、ポップなものとして広がりを見せている。

そして、この場で紹介できた作品は、ほんの氷山の一角に過ぎない。シューゲイザーは、この先もあらゆる方向に間口を広げ続けていくことだろう。

おすしたべいこ