『Bメロ』があるから楽曲は輝く
あなたは、楽曲のどの部分を集中して聴きますか?
きっと多くの方は、楽曲の“顔”であるサビや、最も盛り上がる大サビと答えるはずです。
あまり目立たない存在であるBメロと答える方は、少ないのではないでしょうか。
しかしBメロは、多くの楽曲において重要な役割を担っています。
今回は、楽曲の中でBメロが果たす役割や、Bメロが素晴らしいと感じる楽曲をご紹介していきます。
Bメロの役割
Bメロには、サビをより印象的にする効果があります。
また楽曲が単調になるのを防ぐのも、Bメロの大事な役割です。
ここで、あなたが好きな楽曲を一曲選んでください。
Bメロがある楽曲なら、何でもかまいません。
選んだ楽曲のAメロを歌ったあと、Bメロを無視してサビを歌ってみてください。
どこか物足りなさを感じませんか?
そう。多くの楽曲は、Bメロがなくなると魅力が半分以下になるのです。
Bメロが素晴らしい楽曲8選
では、Bメロが特に素晴らしいと感じる楽曲について解説していきます。
①ZARD『負けないで』
『負けないで』は、1993年1月に発売された、ZARDの6枚目のシングル。
ZARDを代表する楽曲であり、誰もが一度は“負けないで”という歌詞で始まるサビを耳にしたことがあるはずです。
『負けないで』は、基本的に明るい雰囲気の楽曲です。
しかしBメロだけは、サビやイントロとは対照的に、Amで始まる切ない曲調。
“あなたでいてね”のCM7まで、Amからベース音が半音ずつ下がり続けるコード進行が印象的です。
そしてCM7からDを経て、サビのG→D/F♯〜の王道ともいえるコード進行へと繋げることで、サビのメロディや歌詞が耳にスッと入ってきます。
この芸術的ともいえるBメロを作ったのは、稀代のヒットメーカーかつ優れたミュージシャンである織田哲郎。
織田哲郎が手がけた楽曲は『負けないで』の他にも、ZARDの『マイ フレンド』やFIELD OF VIEWの『突然』、B.B.クィーンズの『おどるポンポコリン』など、Bメロが特徴的であるものが多数存在します。
織田哲郎曰く、サビを印象づけるためにBメロを特にこだわって作っているのだそうです。
(※NHK Eテレ『亀田音楽専門学校』2016年1月7日放送分より)
②コブクロ『桜』
『桜』は、2005年12月に発売された、コブクロの12枚目のシングル。
コブクロを代表する楽曲であるとともに、デュオを結成するきっかけとなった楽曲でもあります。
この楽曲のBメロは、キーがBメジャーからDメジャーへと転調するのが特徴的。
Aメロやサビとは、雰囲気が大きく異なります。
アコギで弾く場合は、Bメロが最大の難関です。
チューニングを半音下げて、Cメジャーのフォームで弾くのですが、そうするとAメロやサビは簡単に弾けるようになる一方で、BメロはA♭やB♭など難しいコードが出てくるため、難易度が高くなります。
『桜』を練習しはじめたものの、Bメロで挫折をした方も多いのではないでしょうか。
しかし、このBメロが弾けるようになるとアコギで弾ける楽曲のレパートリーを大幅に増やせるため、ぜひチャレンジしてみてください。
③ゆず『夏色』
『夏色』は、1998年6月に発売された、ゆずのメジャーデビューシングル。
印象的かつ爽やかなイントロで始まり、全体的に疾走感が溢れるナンバーです。
それがBメロになると、どこかノスタルジックな雰囲気となります。
これはG→Cm(カポを3に装着しCメジャーで弾いた場合は、E→Am)というコード進行によるもの。
まるで夏の暑さで、もやもやと景色が揺れる陽炎(かげろう)が発生する様子を表しているかのようなBメロです。
楽曲全体の雰囲気とは異なるBメロを挿入することで、飽きることなく最後まで楽曲を楽しめます。
(ちなみに、Bメロの歌詞に「大きな5時半の夕焼け」とありますが、夏は5時半になっても夕焼けは見られないことに後で気付いたと、ご本人たちがおっしゃっていました。)
④LiSA『炎(ほむら)』
『炎(ほむら)』は、2020年10月に発売された、LiSAの17枚目のシングル。
2020年10月公開の映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌だったため、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この楽曲は、ところどころで転調するのが印象的。
イントロやAメロはBマイナーですが、Bメロの終わりでDマイナーになり、サビは半音下がってC♯マイナーへと転調します。
さらに2番では、Bメロの終わりにEマイナーへと転調し、間奏とCメロを経て、C♯マイナーのサビとなる構成です。
『炎』のBメロには、サビの壮大さを演出する仕組みがあると感じました。
Bメロの終わりに、サビの転調をまったく予感させないコードであるA/C♯が存在することで、サビが壮大かつ圧倒的に感じられるのではないかと推察されます。
作曲と編曲を担当したのは、ミュージシャン/音楽プロデューサーの梶浦由記。
これまで数々のアニメや映画、テレビドラマなどの楽曲制作を担当し、聴き手の“ツボ”を抑えている人間だけが作れる楽曲が『炎』なのです。
⑤福山雅治『蛍』
『蛍』は、2010年8月に発売された、福山雅治の26枚目のシングル。
The Beatlesの名曲『Blackbird』をアレンジして作られたイントロが印象的です。
『蛍』のBメロのコード進行であるC→D→Bm7→Em7は、数々のヒット曲で採用され王道ともいえるもの(原曲ではC♭add9→D♭add9→B♭m7(11)→E♭m7)。
また、アクセントとしてF(原曲ではF♭)が挿入されている点も特徴的です。
どこか儚さを感じる『蛍』という楽曲の世界観を創りだすのに、欠かせないBメロであるといえます。
ちなみに、筆者が記事執筆時点で、もっとも好きなBメロを一つ選べと言われたら『蛍』のBメロを選びます。
⑥Mr.Children『himawari』
『himawari』は、2017年に発売された、Mr.Childrenの37枚目のシングル。
大ヒット映画『君の膵臓をたべたい』の主題歌として起用されました。
“優しさの死に化粧”という衝撃的な歌詞で始まり、思わず最後まで聴き込んでしまった、という方も多いはず。
『himawari』のBメロには、福山雅治の『蛍』と同じく、王道のコード進行が用いられています。
その雰囲気は、もはやサビであると言っても過言ではないほど壮大。
多くのBメロが、Aメロとサビの中間的な位置づけです。
しかし『himawari』のBメロは、Aメロからサビの世界観へとぐっと引き寄せるために存在しています。
また映画とリンクする歌詞が秀逸な点も、『himawari』のBメロの特徴。
映画の主人公である“僕”の感情を表現したであろう“苦しくなる”という歌詞を聴いたとき、心をえぐられるような心地がしました。
⑦Foo Fighters『Everlong』
『Everlong』は、アメリカのロックバンド、Foo Fightersの楽曲。
Foo Fightersは、伝説的なバンドであるNirvanaの元ドラマー、デイヴ・グロールを中心に結成されました。
まだバンドメンバーが固定されていない1997年8月に発売されたアルバム『The Colour and the Shape』の11曲目に収録されています。
『Everlong』のBメロは、サビでも見られる変則的なドラムが印象的。
軽快かつリズミカルなAメロから、疾走感のあるサビへと繋いでくれます。
非常に短いながらも、必要不可欠な存在感を放つBメロです。
また、ベストアルバム『Greatest Hits』には『Everlong(Acoustic Version)』というアコースティックアレンジも収録されており、パワーコードやオクターブ奏法などが用いられています。
アコギを弾く方は、ぜひ『Everlong(Acoustic Version)』を練習してみてください。
⑧YOASOBI『夜に駆ける』
『夜に駆ける』は、小説を音楽にするユニット、YOASOBIが2019年12月に発表した配信限定シングル。
星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作として、作詞作曲されました。
この楽曲のBメロは、スピード感のあるピアノのリフと、畳み掛けるような早口の歌詞が特徴的です。
Aメロ、Bメロ、サビのすべてで、ほぼ同じコード進行が用いられています(同じく2020年にヒットした瑛人の『香水』も、楽曲を通して同じコード進行)。
曲全体のコード進行が同じであるにも関わらず、最後まで聴き手を惹きつけるのは、存在感のあるBメロのおかげでしょう。
また『夜に駆ける』は、楽曲を通して高低差が激しい複雑なメロディラインの、高い歌唱力が求められる楽曲となっています。
そして、リズム感と音感の両方が高いレベルで求められるBメロの存在が、『夜に駆ける』を高難易度の楽曲にしています。
しかし、ボーカルであるikuraの確かな歌唱力と明瞭な歌声により、Bメロは驚くほど聴きやすく、難しさを感じさせません。
「簡単そうでチャレンジしてみると難しかった」という難易度であった点も、『夜に駆ける』がヒットした要因の一つではないでしょうか。
まとめ:Bメロを意識して楽曲を聴いてみよう

楽曲を輝かせるために、作り手が考え抜いて制作しているのがBメロです。
これまでイントロやサビしか聴いていなかった方は、ぜひBメロも意識して聴いてみてください。
それまで何度も聴いたはずの楽曲であっても、Bメロを集中して聴くことで、きっと新たな発見があるはずです。
(コラージュ提供:鮭いくら)
小林だいさく
