MY HOME TOWN【仲川ドイツ編】

MY HOME TOWN【仲川ドイツ編】

土岐麻子のカバーアルバム『HOME TOWN 〜Cover Songs〜』に触発され、プレイリストを組んで‘‘空想のロケ地’’を語る連載企画「MY HOME TOWN」。

第3回は、酒屋販売やDJの活動、また古物収集など多彩な顔を持つ、仲川ドイツによる6曲をお届け。

前書き

しょうもない生き方というものがあれば、多分それは僕のゼロ年代ではないかと思う。

専門学校の紹介で、自分が志望していた分野のメーカーにインターンとして通い、ありがたいことに「開発とか製造は無理だけど、営業で良かったらうちで働かない?」とお誘いをいただくも辞退。その理由は、月の半分が地方への出張だから、自宅が大好きな自分には無理! というもの。

今思えばアホである。とはいえ、出張も好きだけど今でも自宅が大好きだもんな、しょうがない。

そこから目標もなくダラダラとフリーターを続けて結婚し引っ越すまでの小田急線沿線と、あの頃リバイバルしたりしなかったりした、暗めなニューウェーヴにまつわる記憶のプレイリスト。

①Public Image Limited「Track8」

【ロケ地】今は無きアパートの窓から見る夕焼け空

この曲が収録されたアルバム『Flowers of Romance』を買ったのは、10代の終わりだっただろうか? 中学生の頃に好きだったCASCADEが、この曲をオマージュしていたというのを知ったのがきっかけ。

当時は実に難解な音楽だと思ったが、むしむしと湿度の高い多摩川沿いの街に引っ越してから聴き直してみると、妙にしっくりきた。

②Bauhaus「Hair of the Dog」

【ロケ地】信号待ちの一の橋交差点

既にインターネット黎明期ではなかったけれど、それでも今ほど情報もなかった時代。<ニューウェーブ>で検索して色々調べていくと、どうやらポジティブ・パンク(ポジパン)というサブカテゴリーがあることが分かった。しかも、黒い服を着て化粧をしているという。V系を聴いて学生時代を過ごした僕が気にならないはずがない。その帝王と呼ばれていたバウハウスを買って聴いてみた。

今となってはポストパンクというものがジャンルになって、このバンドもジョイ・ディヴィジョンなどに近い認識なのかもしれないけれど、当時はどちらかといえば胡散臭い扱い方をされていた。

当時テレアポで働いていた私は、新しく入社したKさんというおじさんに休憩室で話しかけられた。Kさん曰く、「近所で見かけた、黒づくめでMICROKORGのケースを持って信号を待っていたヤバイやつが休憩室にいるもんだから、思わず声をかけた」とのこと。
柑橘類のフォークデュオや独創的な愛情のあるバンドの後ろでドラムを叩く凄腕スタジオ・ミュージシャンだったKさんだが、高校生のときに初めて組んだバンドでコピーしたのがバウハウスだったそうだ。人に歴史あり、である。

③The Horrors「Count In Fives」

【ロケ地】新宿の金券ショップ

正直あまり記憶が定かではないが、ホラーズを初めて知ったのは当時の勤務先の金券ショップだったと思う。金券ショップではお客が売りに来たチケットを買い取って「こんなモンかな?」って感じで値段を付ける。人気の邦楽歌手ならネットオークションなどを参考にするが、そうでない海外のバンドなどは本当に雑なものだ。

一応、値付けの参考などのために興行の情報誌みたいなものが置いてあって、それを仕事の合間に眺めていたら見つけたのがホラーズだった。「あ、こんなバンドやらなきゃ」と思った。

そういや、一緒に宅飲みをしながらホラーズのメイクをして遊んだアルゼンチン人のI君は、今も元気にしているだろうか。

④The Contortions「I Don’t Want to Be Happy」

【ロケ地】おそらく下北沢THREEの赤い光のフロア

その頃、SNSはmixiが全盛期だった。

ネット上のニューウェーブに関する情報は不確かなものが多い中、名古屋の《80’s ROMANCE》というイベントのオーガナイザー、Amabileさんがmixiに書くディスクレビューは、本当に参考になった。東京で開催されている夏の《80’s ROMANCE》と冬の《暗黒ナイト》には、何度か遊びにも行った。

この曲はAmabileさんがスピンしていたものではなかったが、《80’s ROMANCE》で聴いて真っ先に買いに走った曲である。おそらくザ・ポップ・グループの『We Are Time』の「Spanish Inquisition」からの流れだったと思う。

記憶が不鮮明なのは、多分お酒を飲み過ぎたせいである。

⑤The Pop Group「BLOOD MONEY」

【ロケ地】バイト先の居酒屋

時期は少し遡って、小田急線沿いに引っ越し、駅前の居酒屋でバイトを始めた頃。

そこに自分より7つくらい年上の女性の先輩がいて、音楽をやっていると伝えたら「どんな曲を聴くの?」と言われたことがあった。「最近はニューウェーブとか…」と答えたところ、「彼氏がDJで、たしかそういうのも好きなはず。今度連れてくるね」ということになった。

その彼氏さんは、それまで僕の周りにはいない、垢抜けたお洒落な年上男性だった。「ニューウェーブとか好きなんだって? 僕も好きだよ、ノーウェーブとかポップ・グループとかも」と言われたが、ニューロマやポジパンの知識しかない僕とは終始話が噛み合わず、しかし彼氏さんの都会的な風貌も含めて「ノーウェイヴ」や「ポップ・グループ」という単語はカッコイイものとして僕の脳裏に刻まれた。

⑥Siouxsie and the Banshees「Helter Skelter」

【ロケ地】小田急線の車窓から見える街の灯り(梅ヶ丘辺り)

そんなこんなで不真面目に生きた時期が過ぎ、ちょっと真面目に働いて、ちょっとやりたい方向性のバンドに加入して、そこそこ生活が充実していたような時期。

帰宅ラッシュの電車から流れる夜の景色を眺めながら、スージー・アンド・ザ・バンシーズの1stを聴いていた。何があったのか今は思い出せないけれど、この曲のイントロのノイズまみれのギターが流れてきた瞬間、思わず涙がこぼれそうになった。悲しいわけじゃなく、なんとなく「これでいいのだ」と思った。

今でも小田急線に乗ると少し感傷的になる。サイゴンのバターチキンカレーとチーズナンが食いたい。

 

仲川ドイツ