MY HOME TOWN【中澤星児編】

MY HOME TOWN【中澤星児編】

土岐麻子のカバーアルバム『HOME TOWN 〜Cover Songs〜』に触発され、プレイリストを組んで“空想のロケ地”を語る連載企画【MY HOME TOWN】。

第六回は『ロケットニュース24』のライターでありながら、si,ireneのギタリストとしても活動する、中澤星児による6曲をお送りします。

前書き

子供の頃、夜が好きだった。多分、学校がなかったからだと思う。先生にも好かれず、友達もほとんどいなかった私(中澤)にとって、夜は唯一、自分を許せる時間だった。もっとこの夜を楽しむ方法はないのか?

そこで私は音楽を聴き始めた。インターネットがない時代、自分の力(お小遣い)でどうにかできるものはそれくらいしかなかったのである。

というわけで、私は夜を感じる曲が好き。もっと言うと、それは私が住んでいる町の夜じゃない。遠い世界の夜だ。今回はそんな曲を6曲選んでみた。

①シートベルツ『SPACE LION』

【ロケ地】アンデス山脈

しっとりしたトランペットとスペイシーなキーボードサウンドから始まるこの曲は、2分20秒くらいで入ってくる打楽器から一気に神秘的な雰囲気に変わる。そこに絡むコーラスは、例えるなら宇宙の民族音楽。灼熱の太陽が落ちた後、荒野の上に燦然と広がる星を思わせる壮大な音楽だ。

アニメ『カウボーイビバップ』の13話『ジュピター・ジャズ(後編)』のエンディングで流れるのが印象的で、高校生になりたての私は、夜空を見るとこのシーンのブルのセリフを真似していた。

そんな私も39歳になったが、今でも星を見ると「グレートスピリットを信じられなかった哀れな魂…」と思うから凄い(何が?)。大阪の片田舎の真っ暗な夜を、アンデスの星の輝きで満たしてくれた名BGMである。

②Kula Shaker『Govinda』

【ロケ地】タージマハル

怪しいスケール感に乗せてマントラを唱える感じがなんともエキゾチックなこの曲。「Kula Shakerといえばインド感」と言われるけど、個人的にはあくまでベーシックはイギリスのロックに根差しているところが良い。バランス感覚の勝利である。

他の音楽を飲み込み、融合して新しいものができていくのはロックの神髄。ただ、売れないなりに15年以上バンド活動をしてきた経験から言うと、その際、自分以外に響く物ができているかどうかが才能だ。もちろん、ロックを商業的切り口で見た場合のことだが。

そんなCrispian Mills(クリスピアン・ミルズ)の素晴らしいバランス感覚があるからこそ、この曲は美しい。「世界一美しい霊廟」といわれるタージマハルのように。

 

③Goran Bregović『Bella ciao』

【ロケ地】東欧の酒場

スイングドアを体で開ける。渦巻く怒号と歓声。割れる酒瓶、飛び散るウォッカ。場末のバルで明かす夜…的な曲。『ルパン三世カリオストロの城』でルパンと次元がスパゲティー食ってる酒場みたいなところだ。

何を隠そう、私はそんな酒場でケンカするのが密かな憧れだった。飛び蹴りでケンカに乱入するキャラになりたい人生だった。イイイイヤッホーーーー俺も混ぜろォォォオオオ!って。一緒にボコられたら、一生の友達になれそうである。

ちなみに、ゴラン・ブレゴヴィビッチはバルカン半島出身の音楽家で、ヨーロッパだけでなくロシアやアラビア音楽の影響が感じられるところも面白い。

『Bella ciao』はイタリア民謡なのだが、タイトルの和訳は「さらば恋人」。これ多分歌詞の内容全然違うな、うん。

④The Doors『Moonlight Drive』

【ロケ地】タクラマカン砂漠

タクラマカン砂漠は中央アジアに位置し、シルクロードの一部でもある。The Doors『Moonlight Drive』は、月夜の砂漠を渡るラクダキャラバンみたいな曲だ。しかし、よく考えたら夜は休むだろうから、全然現実味ない妄想である。実際歌詞内容はもっと内省的だし。ただ、それがまた『Moonlight Drive』の浮遊感にしっくりくる。特にギターソロはこれぞ飛べるソロと言えるほど素晴らしい

ちなみに、この曲はドアーズ結成のキッカケとわれている。学生だったJim Morrison(ジム・モリソン)が同級生のRay Manzarek(レイ・マンザレク)に聴かせたことからなのだそうだが、おそらく「天才や!」ってなったんだろう。そんな出会いが欲しかった。

⑤ARIANNE『甘き死よ、来たれKomm, süsser Tod

【ロケ地】予備校の屋上、雪

『残酷な天使のテーゼ』は最早殿堂入りとして、エヴァンゲリオンといえば宇多田ヒカルになった今日この頃。しかし、私にとってのエヴァは『甘き死よ、来たれ Komm, süsser Tod』である。

旧劇場版『Air/まごころを、君に』で人類補完計画が発動するときに流れているこの曲。穏やかで優しい曲調が逆にエグさを倍増させている。受験が辛すぎて「いっそ殺してくれ」と思っていた私は、この曲ばかり聴いていた。補完されることを夢見て。今でも聴くと召されそうになる。マジであのとき召されなくて良かったが、今になって思うのは、むしろ自分じゃなく周りがいなくなって欲しかったんだなってこと。

 

⑥高田渡『生活の柄』

【ロケ地】大阪 布施

真昼間から飲み屋が満員御礼の街、布施。ランチとかじゃなく、普通に飲み屋として機能しているから恐ろしい。そんな布施で早朝に歩いていると、結構な確率でホームレスに話しかけられる。

『生活の柄』はホームレスの歌。それなのに、悠々自適で素敵な暮らし方に聴こえるから凄い。ちなみに、この曲は詩人である山之口貘さん詩に曲をつけたもの。
至高なのは、高田渡が晩年のライブでカントリーバンドを引き連れて歌ったバージョンだが、それはもちろん、高田渡の『生活の柄』の音源自体もSpotifyにはない。そこで、本企画のプレイリストでは、飽きさせない構成で『甘き死よ、来たれ Komm, süsser Tod』から綺麗に繋がる始まり方をしていたハンバート ハンバートのバージョンにしてみた。透き通る声で軽やかさが増している。

 

現実は思い通りにいかないことだらけだ。歩いて歩いて歩き疲れたら、時には夜空と陸の間で眠るくらいの心の軽やかさで生きたいものである。最近眠れない言うてるけども。

 

 

中澤 星児