【2021年3-4月】Satomimagae、William Doyle、Alice Phoebe Lou【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

【2021年3-4月】Satomimagae、William Doyle、Alice Phoebe Lou【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

シューゲイザーのメディアを運営する身として周辺のシーンを追っていると、ふとした瞬間に思いがけない作品と遭遇することが、実はよくある。

その現象が起こる場所は、Twitterのタイムライン、サブスクのおすすめ欄、bandcampのタグなど、割とゲリラ的だ。例えばbandcampのタグは、配信するアーティストやレーベル側が任意で設定できるため、仮に“shoegaze”のタグが付いた作品だとしても一概にシューゲイザーとはいえない場合がある(それだけ音楽性が多様化している、とも捉えられるが)。

いずれにせよ、そこには提供する側の人間の意図が存在しており、リスナーはそれに翻弄される。これこそがディグの醍醐味だ。今回は、そんなディグの副産物的な文脈で出会った作品を中心に、いくつかピックアップして紹介したい。

アートポップ/エレクトロニカ/ネオクラシカルの諸作

The StroppiesやTOY、Ulrika Spacek(ウルリカ・スペイセク)、Peel Dream Magazineなど、インディーロック、ネオサイケ、シューゲイザー関連の作品を多数リリースしていることで知られるロンドンのインディーレーベル、Tough Love Records。2021年3月、満を持して一門に加わったアーティストがいる。ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、William Doyleがその人だ。

一際目を引く鳥のジャケットをbandcampで見かけたとき、Tough Loveからのリリースならシューゲイザーなのか?と予想したが、この期待は良い意味で裏切られる。『Great Spans of Muddy Time』は、蓋を開けてみるとエレクトロニカやクラウトロックといった諸要素を織り交ぜてアートポップとして提示する、やはり一筋縄ではいかないエクスペリメンタルな作品だった。そういった点では、シューゲイザーをある意味アートロック的解釈で鳴らしたPeel Dream Magazineの最新作『Agitprop Alterna』には、どこか親和的な部分がある。

一方、William Doyleのエレクトロニカ要素をよりネオクラシカル経由で先鋭化したのが、ノルウェーのフィメール・デュオ、Smerz(スメーツ)だろうか。2021年2月にXL Recordingsからリリースされたデビューアルバム『Believer』は、冷ややかな質感を持った不穏な音像で、リスナーを深淵へと誘う。かのBjörkが引き合いに出されるのも納得の、例え難い美しさを放つ作品だ。2021年において、William Doyleと双璧を成す存在といえるだろう。

また、両者と呼応するようなサウンドを鳴らすアーティストとして、2004年に中国の武漢で結成されたバンド、Hualun(花伦)も挙げておきたい。2021年3月にリリースされた『wʌndərlænd』は、バンドが2017年から2019年まで行っていた同名の実験的プロジェクトのシリーズをまとめたコンピレーション。アンビエント寄りのエレクトロ・シューゲイザーを楽しめるアルバムとなっている。

もう少しシューゲイザー方面に目を向けると、Alphabet Holds Hostageのデビューアルバム『where were we?』も看過できない。2021年4月にリリースされたばかりの本作は、bandcampのプロフィールにあるように“lofi bedroom mathgaze”を標榜するサウンドを鳴らす作品だ。手数の多いドラムや時折バーストするギターなどは、まさに文言通り。しかしそれ以上に、アンビエント〜ネオクラシカルの要素が随所に見られる繊細な構築美が、このアルバムを非凡なものにしている。ギターのシンプルなリフレインが徐々に変化していく『fountains』の美しさは、何にも変え難い。

スロウコアの潮流

Twitterで偶然見かけたモノクロのジャケット。水中に漂う女性の姿。導かれるように辿り着いたその歌声に、一瞬でやられてしまった。色彩豊かなボーカリゼーションの持ち主は、南アフリカで生まれ育ち、現在はベルリンを拠点に活動するシンガーソングライター、Alice Phoebe Lou(アリス・フィービー・ルー)だった。3rdアルバムとなる最新作『Glow』は、スロウコアやドリームポップの要素も垣間見える、クラシカルな感触を持ったインディーロックを奏でるアルバムだ。これがもう、本当に素晴らしい。

彼女は、時には無邪気に、時には流麗に、愛について歌う。過去二作のアルバムにおいて既にその才能は発揮されていたが、まさに今作はこれまで培ってきたものが一気に花開いた、という表現が相応しい。それほど開放感に満ち溢れており、それは収録曲『Dirty Mouth』のMVで、ドレスを風にはためかせながら舞う彼女の姿を見れば明らかだろう。2020年という激動の年が彼女の身に何をもたらしたのか、この作品とじっくり向き合うことでひもといてみるのも、また一興ではないだろうか。

これに付随して、よりスロウコアにベクトルが向けられた作品も、ここ最近で良質なものが多くリリースされている。その中でも記憶に新しいのは、シカゴを拠点に活動する三人組、Moontypeのデビューアルバム『Bodies of Water』だろう。一聴すると、冒頭の『Anti-Divinity』に代表されるようなインディーロック・ナンバーが印象に残るが、スロウコアの影響を感じさせる雄大な『Ferry』で彼らの本領は発揮される。ノイジーなギターは感傷を増幅させ、終盤にかけてスケールを増していくアンサンブルは圧巻の一言だ。

2020年を振り返ってみても、シューゲイザーとスロウコアを黄金比率で混ぜ合わせたサウンドでデビューしたGold Cage、バイオリンを導入したアンサンブルが優しいThe goalie’s anxiety at the penalty kick、刺々しくも美しいサッドコアを奏でるCindy Leeなど、枚挙に暇がない。思えば、こういったバンド群の躍進の背景には、Cigarettes After Sexの登場は無関係ではないかもしれない。まさにバンド名が全てを物語る彼らのサウンドは、スロウコア/サッドコアを一気にメインストリームへ推し進めたのではないだろうか。

至高のアンビエント・フォーク

ドリームポップやスロウコアとの親和性という点において、インディー・フォーク(もしくはアンビエント・フォーク)やネオクラシカルといった、アナログ寄りのサウンドが確かな盛り上がりを見せていることは、やはり避けては通れない。

余談ではあるが--シューゲイザーというジャンルは、それこそMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』に代表されるような、過剰ともいえるほどエフェクトがかけられ何重にもレイヤードされた音の壁を構築するスタイルで知られる。その一方で、Slowdiveが3rdアルバム『Pygmalion』でアンビエントへシフトしたように、あるいはLovesliescrushingがシューゲイザーとドローンの折衷を促進したように、音を削ぎ落としていくような、ある意味“真逆”の潮流もある。つまり、直接的な繋がりこそはないとしても、シューゲイザーを掘っていく中でアンビエント・フォークのようなジャンルに出会うのは、ある意味で必然といえるのかもしれない。

“ミニマル・ゴシック・フォーク”を体現するデンマークのデュオ、Bona Fideと出会ったのも、そんな文脈だった。デビューアルバム『Yield』がリリースされたEschoは、現行ポストパンクを代表するIceageの過去作や、フルートなどを取り入れた異色のシューゲイザーを鳴らすColiderなど、デンマークの良質な作品をリリースしているレーベルなのだ。フィールド・レコーディングされた鳥のさえずりや弦の振動が伝わってくるBona Fideのサウンドは、至高そのものだ。

フィールド・レコーディングといえば、アンビエント・フォーク周辺で今最も注目されているアーティストの一人、Satomimagaeが思い浮かぶ。最新作『Hanazono』は、自然のモチーフを幽玄的なサウンドでまとめ上げた音響フォークであり、生命たちの呼吸が息づいているかのような気高さを感じられる名作だ。その音像は青葉市子の『アダンの風』とも呼応する。また、Big ThiefのAdrianne Lenker(エイドリアン・レンカー)によるソロ作『songs』も、フィールドレコーディングの名盤として語り継がれるべきだろう。

一方、アンビエント・フォークの近作としては、フランスのフィメール・シンガー、Le Volume Courbe(ル・ヴォリューム・クールブ)が2020年にリリースしたEP『Fourteen Years』を思い出す。ピアノの旋律が印象的な『Planet Ping Pong』の美しさには、誰もが思わず息を呑むだろう。ちなみに、過去作ではMy Bloody Valentineのケヴィン・シールズやコルム・オコーサクが参加するなど(かつてはケヴィンのパートナーでもあったらしい)、ある意味シューゲイザーとの繋がりがあるのも、また趣深いというものだ。

おすしたべいこ