MY HOME TOWN【Goseki編】

MY HOME TOWN【Goseki編】

土岐麻子のカバーアルバム『HOME TOWN 〜Cover Songs〜』に触発され、プレイリストを組んで“空想のロケ地”を語る連載企画【MY HOME TOWN】。

第七回は、Awesome &roidやpopolomonicaのベーシストとして活動する、Gosekiによる5曲をお送りします。

前書き

東京都台東区の谷中から文京区の千駄木〜根津は、通称“谷根千”と呼ばれている。そこは戦時中の大空襲の被害も少なく、昭和の雰囲気を未だに残すことで知られている。

私は、趣のあるこの地域が好きだ。生まれも育ちも違うが、ここには日本人の感性を呼び起こす何かがあると常々思っている。今回の企画を持ちかけられたとき、私は自分の故郷よりも先にこの町の情景が浮かんだ。

“谷根千”に想いを馳せたプレイリストを作成したので、聴きながら実際に町並みを歩いてみようと思う。一人は少しさみしいので、これを読んでいるあなたも一緒に歩いてみてほしい。

私とあなたの珍道中。どうかお付き合いを。

①YONAYONA WEEKENDERS『遊泳』

【ロケ地】谷中 御殿坂

今回の旅は日暮里駅から始まる。緩やかな御殿坂は、まるで広い空に続いているようで、見上げていると世界に自分たちしかいないような感覚になる。思えば、最近はじっくりと景色を見る余裕なんてなかった気がする。家と職場の往復だけの毎日は少しずつ、しかし着実に私たちの世界を白黒にさせていたのだと思い知らされる。

空ってこんなにも青かったのか。そう気づくと、頭の中でYONAYONA WEEKENDERSの『遊泳』が流れた。

“日々に飲み込まれたって
世界は揺れる
眺めた景色は鮮やかに”

今日はいつもより、顔を上げて歩こう。鮮やかな景色を見落とさないように。

坂を登りきると、“夕焼けだんだん”と呼ばれる階段が現れる。ここがなぜそう呼ばれるのかは、後で知ることになる。階段を下り、次の目的地に到着。

②ラッキーオールドサン『すずらん通り』

【ロケ地】谷中銀座商店街

様々なお店が立ち並ぶ商店街は、今となっては珍しくなってしまった。精肉店では美味しそうなメンチカツを売っていて、八百屋では旬の野菜や果物がザルに並び、魚屋は仕入れたばかりの新鮮な魚を売るべく威勢の良い声で人々を呼ぶ。古本屋では店主の親父が不機嫌そうに本を整理している。

谷中銀座では、そんな風景が今も残っている。そして、きっと何十年後も変わらず続いていくのだろう。そう思うと嬉しく思えた。時間はゆっくり流れているかのように、誰もがスピードを落として歩く。心地よい風が道行く人々を撫でる。

ここでの1曲は、ラッキーオールドサンの『すずらん通り』。

“転がる日々は錆びつくこともないから”

この商店街のように、変わらない日々の、なんでもない一瞬こそが、煌めいた奇跡なのだと教えてくれる。

③Camp Cope『Keep Growing』

【ロケ地】千駄木 よみせ通り

谷中銀座を抜けて、千駄木のカフェ、CIBIで休憩。オーストラリアのメルボルンに本店があるこのカフェは、出勤前のモーニングからランチ、午後のブレイクタイムまで、多くの人々が思い思いの時間を過ごす。スタッフはそんな来客を優しく出迎え、「いってらっしゃい」と見送ってくれる。

同じくメルボルン出身のCamp Cope。遠く離れたこの地で、彼女たちのメッセージに想いを馳せてみる。

“Yeah, just get a female opener, that’ll fill the quota”

女性軽視に強く反対する彼女たち。猛々しくも可憐なCamp Copeの歌は多くの人に勇気を与え、親しまれてきた。このカフェもまた、地元の人たちに愛され、笑顔が絶えない。店内ではポップアップストアやワークショップなど、地域に根ざした活動を続けている。

さて、そろそろ出発の時間だ。行ってらっしゃい。また来てくださいね。素敵な笑顔で送り出してもらい、次の目的地へ。

④トクマルシューゴ『Alaska』

【ロケ地】根津神社

千駄木の次は根津神社へ。さっきまでの賑やかさは消え、木々が生い茂り、まるで別の世界のよう。京都の伏見稲荷のような何百とある鳥居を抜けると、大きな神社に辿り着く。

神聖なこの空間では、トクマルシューゴの『Alaska』が似合う。

“センの道がかすみくすめて 鳴り止まないんだ”

いつもより少しだけボリュームを落として、自然の音と合わせて聴いてみる。そうすると、今まで聴こえなかった音にも気がつく。木々のざわめき、鳥のさえずり、水面のせせらぎ。それらと音楽が合わさることで、自然のハーモニーが生まれる。

いつもなら見逃してしまう風景や、聴き逃してしまうような自然のささやきは、あなたを更なる深みへと誘う。音楽とは、こんなにも奥が深いものなのだ。

⑤bonobos『GOLD』

【ロケ地】谷中銀座〜夕焼けだんだん

日も暮れてきた。私とあなたで始まったこの珍道中も、そろそろ終わりのときが近づいて来たようだ。これまで歩いた道を戻ってみると、よみせ通りや谷中銀座は夕日で紅く照らされ、さっきまでとはまた違う表情を見せてくれる。犬の散歩をするおじいさん、晩ご飯の惣菜を買うお母さん、みんなそれぞれに日常がある。

最後の曲は、bonobosの『GOLD』。

“ありがとう、さようなら。更に言うと愛してる。”

人々の出会いと別れ、今までとこれからを歌ったこの曲は、今日の全てを表すように、私たちを包んでくれる。

最初に降りた夕焼けだんだんを登る。不意に後ろを振り返る。すると、美しく輝く夕焼けがこれまで歩いてきた道と、私たちの顔を紅く染めていた。

また来よう。今度は違う道を歩いてみよう。きっと違う発見があるはずだから。

 

 

私たちの珍道中はこれで終わり。

思えば、新型のウイルスが蔓延し、以前のように会いたい人に会えなくなった。当たり前にあった“次”がなくなり、人々は一層孤独になったような気がする。

そんな中でもこの町は、変わらずに今日を過ごしていた。それは明日も明後日も、10年後も変わることはないだろう。戦争が起きても、災害に遭っても無事だった歴史のあるこの町が、いつまでも残り続けることを願ってやまない。

 

Goseki