2021年上半期ベストアルバム50【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】
musit編集部・おすしたべいこ(對馬)が、2021年の上半期ベストアルバムを本気で50作品選出しました。トップ20作品以外はリリース順の掲載です。なお、対象はアルバム/ミニアルバム/EP/企画盤としています。
Allein in der Badewanne『Steriles Land』

Label – Self Released
Release – 2021/01/15
フランスのポストパンク・バンドによる1stアルバム。バンド名は(なぜか)ドイツ語で「Alone in the bathtub」の意。音数の少ないスカスカなアンサンブルに謎の中毒性があり、乱暴に言えば「ジョイ・ディヴィジョン化したニュー・オーダー」。クラフトワークを想起させるノスタルジックなシンセの音色も良い味付けに。
shame『Drunk Tank Pink』

Label – Dead Oceans
Release – 2021/01/15
サウス・ロンドンを拠点に活動するポストパンク・バンド、シェイムの2ndアルバム。タイトなドラムと軽快なギター・リフの応酬が織りなすパーカッシヴでダンサブルなサウンドに血湧き肉躍ること必至。とにかくノリノリで、時折頭の血管がブチ切れそうになるほどハイテンションなのが心配にもなるが、その荒々しいアンサンブルは現在のサウス・ロンドンの熱狂をそのまま真空パックしたかのようだ。
Subsonic Eye『Nature of Things』

Label – Middle Class Cigars / Fastcut Records
Release – 2021/01/15
シンガポールのインディー・ロック・バンド、サブソニック・アイの3rdアルバム。メンバーを共有するソッブス(Sobs)やコズミック・チャイルドと同じ《Middle Class Cigars》より。インディー・フォークの潮流と共振するオーガニックなサウンドが軽めの歪みと疾走感によって運ばれ、初夏の涼風が青々と茂った木々を揺らす光景を立ち昇らせる総天然色インディー・ポップ。
STOMP TALK MODSTONE『Linger In Someone’s Memory With A Lurid Glow』

Label – Gezellig Records
Release – 2021/01/22
関東を拠点に活動するシューゲイザー・バンド、ストンプ・トーク・モッズトーンの最新アルバム。韓国のFOGと同じ《Gezellig Records》より。現行の国産シューゲイザーの中でも、ここまでマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに肉薄したサウンドを奏でるバンドはおそらく彼らぐらいだが、そのレベルの高さを保ちながら本作に計20曲も収録し、さらにはここ数ヶ月の間にもplant cellのヴォーカルであるErikoを迎えたシングルを淡々と発表するなど、異様な多作ぶりとリリースのペースは他の追従を全く許さないので末恐ろしい。
Black Country, New Road『For the first time』

Label – Ninja Tune
Release – 2021/02/05
サウス・ロンドンを拠点に活動する7人組のデビュー・アルバム。ギター、ドラム、ベースという基本的なパートに加え、キーボード、サックス、ヴァイオリンをも擁し、大所帯ならではの壮大かつ複雑なアンサンブルを繰り出す。ポストロックやジャズ、プログレ、クラウト・ロック、現代音楽など様々なジャンルを渡り歩き、サウス・ロンドン勢の中でも一際プリミティヴなサウンドを放っている。
大和那南 Nana Yamato『夜明け前 Before Sunrise』

Label – Dull Tools / BIG LOVE
Release – 2021/02/05
東京を拠点に活動するSSW、大和那南のデビュー・アルバム。原宿の《BIG LOVE》とNYの《Dull Tools》から同時リリース。素朴かつチープな打ち込みをベースに、ギターやトランペット(らしき音)など生楽器の有機的な感触を丁寧に織り交ぜた、DIY感溢れるサウンドを紡ぐ気鋭のベッドルーム・ポップ。その背景にはアイスエイジなどポストパンク由来の精神性が宿っており、飄々とした彼女の佇まいも独特な存在感がある。
FRITZ『Pastel』

Label – [PIAS]
Release – 2021/02/12
オーストラリアのニューカッスル出身、Tilly Murphyによるソロ・プロジェクト、フリッツの2ndアルバム。青空を突き抜けるがごとく響き渡るノイジーなギターと、随所に取り入れたシンセが煌びやかなシューゲイズ・ポップ。ウェストカストを想起させるクリアな音像、ナイト・フラワーズとも呼応するセンチメンタリズム、そしてガーリーなヴォーカルの3拍子。この無敵感。
For Tracy Hyde『Ethernity』

Label – P-VINE
Release – 2021/02/17
東京を拠点に活動するシューゲイザー/ドリームポップ・バンド、通称フォトハイの4thアルバム。ポップ・カルチャーとしての「アメリカ」をテーマにグランジやスロウコアなど新たな要素を取り入れ、前作からヴォーカルのeurekaがギターを手にしてトリプル・ギター編成となった重厚感のあるアンサンブルが活きた意欲作。彼らはアルバムごとに作風を変化させてきたが、中心人物の夏botはソロで《Captured Tracks》直系のサウンドを鳴らし、加えてアイドルにも楽曲提供するなど、実に器用なミュージシャンであることを本作をもってより実感させられるばかり。
Cassandra Jenkins『An Overview on Phenomenal Nature』

Label – Ba Da Bing!
Release – 2021/02/19
NYのSSW、カサンドラ・ジェンキンスの2ndアルバム。ストリングスやシンセ、ジャジーなサックス、環境音、さらにはポエトリーリーディングも織り交ぜながら展開される、至高のアンビエント・フォーク。ヒーリングの作用をもたらす穏やかな旋律をなぞるうちに、1本の映画を鑑賞しているかのような気分を味わえ、あるいは自然を希求する人間の本能的な部分を呼び覚まされもする。刹那的なジャケットも美しい。もうずっと海を見ていない。
Indigo Sparke『Echo』

Label – Sacred Bones Records
Release – 2021/02/19
オーストラリアのSSW、インディゴ・スパークのデビュー・アルバム。微かにサイケの残り香を感じさせる流麗なアシッド・フォークは、「素朴」とはすなわち「洗練」であることを真正面から証明する。こういった自然派の音像を求めてしまうのは、やはり「旅に出たい」と思っているからなのだろう。ちなみに本作のプロデュースにはビッグ・シーフのエイドリアン・レンカーも参加しており、なるほど確かに彼女のソロ作品と呼応する部分も。
YUI『NATURAL』

Label – Sony Music
Release – 2021/02/24
デビュー15周年を記念したセルフカバー・アルバム。FLOWER FLOWERのメンバーと共に、彼女が生み出した名曲たちをリアレンジ。ピアノやストリングス、ポストロック的なアプローチなどの新たな要素によって、目を見張るようなアップデートを遂げた。それぞれの楽曲が持つ核の部分に迫りつつ、異なる側面を示すものとして再構築され、原曲を初めて聴いた瞬間をも超える感動をもたらす渾身の作品。「yui」が「YUI」を肯定してくれたことが何よりも嬉しい。
Smerz『Believer』

Label – XL Recordings
Release – 2021/02/26
ノルウェー出身のフィメール・デュオ、スメーツのデビュー・アルバム。コペンハーゲンの《Escho》より移籍し、名門《XL Recordings》からのリリース。エレクトロニカをトリップホップやポストクラシカル経由で先鋭化させたゴシックなサウンドが耳よりも脳を撃つ。まさに「幽玄」と呼ぶに相応しい冷ややかな質感はリスナーを深淵へといざなうが、帰路のことなど誰も気にしない。暗闇に抗う前に、その漆黒の美しさに侵食されてしまうからだ。
My Lucky Day『All Shimmer in a Day』

Label – TESTCARD RECORDS
Release – 2021/03/03
熊本出身のシューゲイザー・バンドによるデビュー・アルバム。シューゲイザー周辺のリリースが充実する《TESTCARD RECORDS》より。軽快にかき鳴らされるノイジーなギター、甘酸っぱいメロディとヴォーカル、夏の熱気を振り切る涼風のような疾走感──まさにザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを正統に受け継ぐ、あまりにも眩しい直球のシューゲイズ・ポップ。ちなみに本作のエンジニアには同郷のバンド、talkのKensei OgataとJun Kawamotoが参加。
宇多田ヒカル『One Last Kiss』

Label – EPIC
Release – 2021/03/10
宇多田ヒカルがこれまで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』に提供してきた関連楽曲を全て収録した最新EP。エヴァが完結してしまう──その感傷と虚無と充実感と侘しさとカタルシスに浸るための作品。「One Last Kiss」は果たしてゲンドウの曲なのか、はたまた宇多田の母親である藤圭子を重ね合わせたものなのか。いずれにせよ、「初めてのルーブル」で気取れる準備はできている。
Mint Julep『In a Deep and Dreamless Sleep』

Label – Western Vinyl
Release – 2021/03/19
USポートランドを拠点に活動するKenniff夫妻によるエレクトロ・シューゲイザー・ユニット、ミント・ジュレップの最新アルバム。メランコリックなヴォーカルと揺蕩うようなサウンド・スケープが、目覚めながらにして深い眠りへと誘い込む魅惑のシューゲイズ・エレクトロニカ。溶ける。少しの間だけでも現実を忘れたいなら、この1枚に逃避を。
William Doyle『Great Spans of Muddy Time』

Label – Tough Love Records
Release – 2021/03/19
ロンドンを拠点に活動するSSW、ウィリアム・ドイルの最新アルバム。オーガニックな雰囲気で幕を明けたかと思えば打ち込みの海に呑まれ、さらにはエイフェックス・ツインのような鋭さを持った電子音に全身を刺される理不尽さ。それでいてアートポップとして提示しようとする気概が感じられるのだから、なんともエクスペリメンタルな1枚である。ひれ伏すしかない。余談だがジャケットに描かれたような鳥の楽園があるなら是非足を運びたいものだ。
sonhos tomam conta『wierd』

Label – Longinus Recordings
Release – 2021/03/23
ブラジルのサンパウロを拠点に活動する宅録シューゲイザー・バンドの1stアルバム。いわゆるブラックメタルをシューゲイザーとクロスオーバーさせた「ブラックゲイズ」の潮流と呼応しながら、ジャケットに『serial experiments lain』の主人公・岩倉玲音を使用しタイトルも同作に登場するネットワーク名を冠するなどギーク的要素を融合。インターネット・カルチャー以降のアティチュードで展開されるブラックゲイズの新形態。
Godspeed You! Black Emperor『G_d’s Pee AT STATE’S END!』

Label – Constellation Records
Release – 2021/04/02
カナダ・モントリオール出身のポストロック・バンド、ゴッド・スピード・ユー!ブラック・エンペラーの4年ぶりとなる最新アルバム。今作も例に違わずポリティカルなメッセージを発信しており、日本語訳をためらう不敵なタイトルをはじめ、アルバムの冒頭では軍が発信する周波数を盗み取って使用するなど、作品に込められた思念は強烈。しかし、あくまで重厚感のあるアンサンブルと美しいサウンド・スケープを楽しむアルバムとしても成立しているのは、彼ら特有のバランス感覚だろうか。
Moontype『Bodies of Water』

Label – Born Yesterday Records
Release – 2021/04/02
シカゴを拠点に活動する3人組、ムーンタイプのデビュー・アルバム。疾走感のあるインディー・ロックを基調としつつ、スロウコアやフォークからの影響を感じさせるノスタルジーで壮大なサウンド、感傷を増幅させるノイジーなギターも展開するなど、幅広いリスナーに刺さるポテンシャルを秘めた作品。高純度で耳に浸透してくるソフトなヴォーカルも優しい。
SPIRIT OF THE BEEHIVE『ENTERTAINMENT, DEATH』

Label – Saddle Creak
Release – 2021/04/09
フィラデルフィア出身のインディー・ロック・バンド、スピリット・オブ・ザ・ビーハイヴの4thアルバム。不穏なジャケットやタイトルを裏切ることなく、コラージュのようにフレーズを繋ぎ合わせ、強引で目まぐるしい曲展開でリスナーをひたすら不安に陥れる。理解しようとすればするほど困惑してしまうが、生楽器と打ち込みが波打つ水面に身を委ねてしまえば、むしろ代えがたい心地良さに支配されるだろう。
Submotile『Sonic Day Codas』

Label – MotileRev Records
Release – 2021/04/09
アイルランドのダブリンを拠点に活動するシューゲイザー・バンドの2ndアルバム。前作に比べ、より研ぎ澄まされ彩度を増した鮮烈のエモ/ヘヴィー・シューゲイズ。北国を想起させる凍てついたリヴァーブの音像と、その極寒を跳ね除けようとするアグレッシヴなアンサンブル(特にリズム隊の強靭さ)のコントラストの関係は、放射冷却に似ているかもしれない。雪崩に巻き込まれて最期を迎えるのだとしたら、このアルバムが走馬灯に出てくることを願う。
Still Dreams『Make Believe』

Label – Elefant Records
Release – 2021/04/16
大阪を拠点に活動する夫婦シンセポップ・ユニット、名門《Elefant Records》からのデビュー作。ニュー・オーダーやヒューマン・リーグといったシンセ・ポップの先駆者をはじめ、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどシューゲイザーをもリファレンスに、持ち前のポップセンスを遺憾なく発揮し快楽指数の高いドリーミーなシンセ・ポップとして提示した1枚。日本のアニメからの影響を感じさせるジャケットは、タイの新進気鋭のイラストレーター、Kannutsanan Khemthongによる描き下ろし。
Unschooling『Random Acts of Total Control』

Label – Howlin Banana Records
Release – 2021/04/16
フランスのルーアンを拠点に活動するポストパンク・バンドの最新EP。人をおちょくったようなフレーズが炸裂するウキウキ系のアレンジに、否応なしに笑みがこぼれてしまう。ポストパンクやニューウェーブの魅力の1つに「得体の知れないおかしさ」があるが、本作はEPという比較的コンパクトなサイズでそれをちょうど良くパッケージしている。日本語が紛れ込んだジャケットのコラージュもナイス。
Communions『Pure Fabrication』

Label – TAMBOURHINOCEROS
Release – 2021/04/23
デンマークのコペンハーゲンを拠点に活動するインディー・ロック・バンド、コミュニオンズの2ndアルバム。前作から実に4年ぶりで、本作より4人組からレホフ兄弟の2人組となった。1stの青くポップな風味を引き継ぎつつも、初期の彼らに見られたポストパンクの要素も再び取り入れながら、より全体的に成熟したアンサンブルを聴かせる充実の1枚。
Beachy Head『Beachy Head』

Label – Graveface
Release – 2021/04/30
Slowdiveのギタリスト、クリスチャン・セイヴィルによる新プロジェクトのデビュー・アルバム。レイチェルとその夫、The Flaming Lipsのドラマーであるマット・ダックワース、さらにはリリース元のGravefaceの社長も参加するなど、異様に豪華な顔ぶれが集結。それぞれのプレイヤーとしての経験に裏打ちされた、程良く歪んだギターとハイトーン・ヴォイスで展開される円熟のドリーミー・シューゲイズ。
Homecomings『Moving Days』

Label – IRORI Records
Release – 2021/05/12
実はスカートやOfficial髭男dismとレーベル・メイトとなったホムカミのメジャー1stアルバム。海外のインディー・ポップに色濃く影響を受けたサウンドと英語詞を携えてシーンに登場した彼女たちが、今や畳野彩加(Vo. Gt.)もまるで初めから日本語を歌うヴォーカリストかのように、実に自然体で日常に寄り添うように優しく歌を紡ぐ。肩肘を張らない柔らかなサウンドも心地良く、日々の暮らしにそっと寄り添ってくれる、そんな確かな普遍性を手にした金字塔的アルバム。
black midi『Cavalcade』

Label – Rough Trade
Release – 2021/05/26
サウス・ロンドンを拠点に活動するブラック・ミディの2ndアルバム。異様な集中力と凄まじい緊迫感の中で繰り出される怒涛のアンサンブルでシーンのど真ん中に一気に躍り出た彼らだったが、本作ではキーボードとサックスを新たに加え、古今東西津々浦々のサウンドをさらにドロドロに融解させてしまった。その事実はジャケットがうるさいほど物語っている。もはや「ポストポストパンク」とでも言うべきなのだろうか。
GRAPEVINE『新しい果実』

Label – SPEEDSTAR RECORDS
Release – 2021/05/26
前作から2年ぶり、グレイプバインの17thアルバム。冒頭からタメと斜め上で韻を踏む詞にやられるが、聴き進めればそれがジャブに過ぎなかったことに気付かされる。昨今のインディーR&Bなどの影響も感じられる、全体的隙間を活かしたタイトなアレンジも絶妙。静物と向き合うような時間が流れるアルバム中盤の展開は、ため息が出るほど美しい。
NEHANN『New Metropolis』

Label – KiliKiliVilla
Release – 2021/05/26
東京を拠点に活動するポストパンク・バンド、ネハンのデビュー・アルバム。元銀杏BOYZ・アビコシンヤ主宰の《KiliKiliVilla》より。サウス・ロンドンを中心に盛り上がるポストパンク周辺のシーンと呼応する存在として、あるいはオルタナ〜グランジ経由でニューウェーブやゴスに接近する新世代として、異様に高い完成度を誇る漆黒の黙示録。艶やかなヴォーカルとギラついたギター、そして確かな美意識が息づいたアートワークが超絶クール。
Amusement Parks On Fire『An Archaea』

Label – EGB Grobal
Release – 2021/06/25
UKノッティンガムを拠点に活動するシューゲイザー・バンド、アミューズメント・パークス・オン・ファイアによる最新アルバム。エモとシューゲイザーをクロスオーバーさせた先駆的存在としての貫禄が作品全体を覆うキング・オブ・エモゲイザー的アルバム。安定感のあるヘヴィーなアンサンブルに酔いしれる。
* * *
トップ20作品は血を吐きながらランキング形式にしました。正直その時の気分によって変わるので、この順位にはそれほど深い意味はない、ということは一応明記しておきます。
20. Goat Girl『On All Fours』

Label – Rough Trade
Release – 2021/01/29
サウス・ロンドンを拠点に活動する4人組、ゴート・ガールの2ndアルバム。ポストパンク、サイケ、グランジ、さらにはジャズに至るまで、様々な要素が溶け込んだ混沌の闇鍋グルーヴを展開。「スケープゴート」など宗教由来の言葉を彷彿とさせるバンド名やビビッドなアーティスト写真もあって、ただでさえ呪術的な雰囲気を醸し出している彼女たちだが、怪しげなシンセ・サウンドや気怠いヴォーカルはそれに拍車をかける。ブラック・カントリー・ニュー・ロードやブラック・ミディらと並び、ごった煮状態のサウス・ロンドンのシーンがジャンルを軽々と越境する様を端的に示す作品の1つかもしれない。
19. Alphabet Holds Hostage『where were we?』

Label – Self Released
Release – 2021/03/19
「lofi bedroom mathgaze」を標榜するUK出身のプロジェクト、アルファベット・ホールズ・ホステージのデビュー・アルバム。手数の多いドラムや時折バーストするギターなどは文言通りマスロックの影響を感じるものだが、それ以上にアンビエント〜ネオクラシカルの清閑な要素が随所に見られる。繊細さと、それをつなぎ合わせる構築美が、このアルバムを非凡なものとして定義する。
18. Mazeppa『Mazeppa』

Label – Self Released
Release – 2021/02/10
イスラエルのハイファを拠点に活動するシューゲイザー・バンド、マゼッパのデビュー・アルバム。ポストパンク、プログレ、サイケ、果てにはポエトリーリーディングといった要素をドリーミーな音像でまとめ上げ、万華鏡のようなサウンドを展開する渾身のシューゲイズ・エキゾチカ。幻想的なジャケットは4ADを意識してのものだろうか。
17. Kumi Takahara『See-Through』

Label – FLAU
Release – 2021/02/24
日本人ヴァイオリニスト、高原久実のデビュー・アルバム。現代音楽をバックグラウンドに持ち、環境音を効果的に取り入れたネオクラシカルな音像は宅録によるもの。ピアノの美しい旋律、ストリングスの柔らかいニュアンス、ワルツを踊るように優雅なヴォーカル、そして輝く水面を切り取ったジャケット──サウンド・スケープからアートワークに至るまで、作り手の意匠と美意識が宿る。なんて気高いのだろう。
16. 文藝天国『夢の香りのする朝に。』

Label – bungei records
Release – 2021/01/30
東京を拠点に活動する、コンポーザー、ヴィジュアル・クリエイター、ヴォーカリストから成るオルタナティヴ・ロック・ユニットの2ndアルバム。国産オルタナティヴ/ポストロックからの影響を感じさせるエッジの利いたサウンドに透明感溢れるヴォーカルが重なる様は、さながら太陽光を乱反射させる尖ったガラス片のように、スリリングな美しさを誇る。先鋭という言葉が相応しい作品。
15. Dry Cleaning『New Long Leg』

Label – 4AD
Release – 2021/04/02
サウス・ロンドンを拠点に活動するポストパンク・バンド、ドライ・クリーニングのデビュー・アルバム。淡々と刻まれるリズムの上で踊る変幻自在のギターと妖しげなスポークン・ワーズが、平熱とも高熱とも言えない絶妙な温度感を生み出し中毒性に繋げている。他のサウス・ロンドン勢とは明らかに一線を画す異質な存在として、あるいは40年以上の歴史を持つ《4AD》の革新性を担う起爆剤として、今後の躍進にも否応なしに期待してしまう。
14. おいしくるメロンパン『theory』

Label – RO JAPAN RECORDS
Release – 2021/01/20
東京を拠点に活動する3人組の5thミニアルバム。元より個々のプレイヤーとしてのポテンシャルが高い彼らだが、今作は特に十八番である「ダークかつ爽やか」を突き詰め、これまで以上に躍動感のあるアンサンブルに攻め切った印象。新たな要素としてポエトリーリーディングを取り入れるなどした意欲作でもあるが、それでいてあくまで自然に「歌モノ」として成立させる力量には脱帽せざるを得ない。People In The Boxやthe cabsとセットで聴くと現実に戻れなくなりそうだ。ちなみにジャケットはナカシマ(Vo. Gt.)自ら手がけたもの。
13. Lunarette『Clair de Lunarette』

Label – Baby City Records / Topshelf Records
Release – 2021/03/19
NYのインディー・ポップ・バンド、ジンジャリーズ(Gingerlys)のメンバーによって結成されたルナレッテのデビューEP。打ち込みを絶妙な加減で織り交ぜた、軽やかで風通しの良いシンセポップ・シューゲイズを堪能できる佳作。『PORTAL』以降のGalileo Galileiが5人のまま作品をリリースしていたら…という妄想に対する、ある種の回答の一端として受け取るのは、あまりにも文脈を無視しすぎているかもしれない(が思考は止まらない)。
12. Good Morning TV『Small Talk』

Label – Géographie Records
Release – 2021/06/18
フランス出身のドリームポップ・バンドによるデビュー・アルバム。Yumi ZoumaやMen I Trustなどのメロウなドリームポップの潮流と呼応しつつ、絶妙なコード感で遊び回るギターをゆるく歪められたサイケな音像で仕上げたサウンドが、なんともアンニュイな陶酔感を生み出す。ヨレヨレな紐が完全にほどけてしまうギリギリ手前のようなバランス感覚と、なおかつアルバム全編でそれを保ち続けるという実力。印象的なポニーテールのジャケットまで含め、これほど完璧なデビュー作があるだろうか。
11. Pom Poko『Cheater』

Label – Bella Union
Release – 2021/01/15
ノルウェーのオスロを拠点に活動するポストパンク・バンド、その名もポン・ポコの2ndアルバム。コクトー・ツインズのサイモンとロビンが設立した名門《Bella Union》より。奇天烈なフレーズを連発しまくるギター、綿密に構築された不可解なリズムとアレンジ、そして拍子抜けするほどキュートなヴォーカルが脳を駆け巡る。メンバーは全員ジャズを学んでいたらしく、ある意味フリージャズの突然変異と言えるのかもしれない。ジャケットのデザインも意味不明だし、バンド名の由来も『平成狸合戦ぽんぽこ』で、やっぱり意味不明。狂ってる。
10. Satomimagae『Hanazono』

Label – PLANCHA / RVNG Intl.
Release – 2021/04/23
東京を中心に活動しているフォーク・アーティスト、サトミマガエの4thアルバム。名門《RVNG Intl.》移籍作。生活音やフィールド・レコーディングを駆使することで、自然のモチーフを幽玄的なサウンドで描き出し、生命たちの息づかいとその尊さをパッケージングした孤高のアンビエント・フォーク。何度も摂取するうちに、本作は個々のリスナーそれぞれが「自然の循環の一部」であることを、音楽を通して実感するためのフィルターであることを理解することになるだろう。
9. Cathedral Bells『Ether』

Label – Spirit Goth Records
Release – 2021/01/29
フロリダ発、You Blew It!などのメンバーとして知られるMatt Messore率いるシューゲイザー/ドリームポップ・バンドの2ndアルバム。リヴァーブがもたらす幻想性を最大限に引き出したような音像は深い陶酔感をもたらし、情報過多な日常生活で知恵熱を患い気味になった頭を鎮める冷却装置として、遺憾なく力を発揮する。全体的にどこかゴシック/ポストパンク調でもあり、平面的なリズムからはコールド・ウェイヴの手触りも感じられる。至上のドリームゲイズ。
8. 파란노을(Parannoul)『To See the Next Part of the Dream』

Label – Longinus Recordings
Release – 2021/02/23
韓国の宅録ソロ・シューゲイズ・プロジェクトによる2ndアルバム。いずれも韓国語で「paran」は「青」、「noul」は「夕暮れ」の意。思春期に多大な影響を受けたという『リリイ・シュシュのすべて』の会話のサンプリングから幕を開け、印象的なジャケットも同作のワンシーンを使用するなど、死体と化した青春をなお引きずる亡霊のような作品。しかし、その「弱さ」が「美しさ」に変換された稀有なアルバムでもある。生音を使用せず、全てDAWで完結させたという驚異のエモ・ナード・シューゲイザー。飛べる。
7. Claud Super『Monster』

Label – Saddest Factory
Release – 2021/02/12
ブルックリンのSSW、クロード・ミンツのソロ・プロジェクトによるデビュー・アルバム。フィービー・ブリジャーズのレーベル《Saddest Factory》より。柔らかい自然体のベッドルーム・ポップでありながら、LGBTQの「Q(=クィア)」としてのアイデンティティも忍ばせ、世界とコネクトしようとするパーソナルな側面も強い(だからこそ「自然体」なのかもしれないが)。しかしそれ以上に儚さを内包する天性のヴォーカルが美しく、それらの複合的な要素が本作のポップ・ミュージックとしての強度を不動のものとした。ちなみに同年代のクレイロも参加するなど、「Z世代」を代表するアーティストとしても存在感を発揮。
6. White Flowers『Day By Day』

Label – Tough Love Records
Release – 2021/06/11
UKプレストン出身の男女デュオによるデビュー・アルバム。まるで熱を帯びる現行ポストパンクが内包する性急さを永久凍土の下に封印し、ゴシックの要素だけ抽出したかのようなサウンドは荘厳で、さながら体温を完全に奪われたコクトー・ツインズのようなモノクローム・サイケデリアとして淡々と展開される。その様は呼吸を忘れるほど美しい。ダークサイドのドリームポップとして語り継がれるべき名盤。
5. 揺らぎ『For you, Adroit it but soft』

Label – FLAKE SOUNDS
Release – 2021/06/30
関西〜関東を拠点に活動する3人組の1stアルバム。シューゲイザーやポストロックを想起させるサウンドを基調としながらも、エモやスロウコア、打ち込み、環境音などの新しい要素を貪欲に取り込み、とにかく自由に鳴らしたという会心作。外部ミュージシャンとのコラボもバンド内に新たな風を吹かせ、「轟音シューゲイザー・バンド」という枠には到底収まらない、動的/静的を行き来するスケールの大きさを改めて提示した渾身の1枚。
【Interview】揺らぎ『For you, Adroit it but soft』インタビュー 4人の心情と化学変化がもたらした自由なアルバム
4. ミツメ『Ⅵ』

Label – Self Released
Release – 2021/03/24
東京を拠点に活動する4人組の6thアルバム。個々のリフやフレーズの数々がこれまで以上に際立ち、それらは複雑に絡み合いながも最終的にはリスナーのスイートスポットを恐ろしいほど正確に狙ってくる。一聴してシンプル、注意深く耳をすませば技巧的。しかしそこには奇を衒ったものは一切存在せず、あくまで飄々としている。これぞ現行インディー・ロックの理想郷にして最高峰と言うべき作品。
3. Alice Phoebe Lou『Glow』

Label – Self Released
Release – 2021/03/19
南アフリカ出身、現在はベルリンを拠点に活動するSSW、アリス・フィービー・ルーの3rdアルバム。彼女が奏でるジャジーでクラシカルな感触のインディー・ロックは、ドリームポップの要素も垣間見える奥深いものだが、アレンジはインディー・フォークにも通ずる至ってシンプルなもの。しかしレコーディングはアナログにこだわり、サブスクで聴くだけでもレコードに針を落としているような質感が作品全体を覆う。
何より彼女自身の存在に求心力があり、あどけなさが残る無邪気な佇まいや、様々な表情を見せる流麗なヴォーカルも実に魅力的だ。本作に満ちた愛と開放感は、苦しみや悲しみの果てにあるカタルシスとして、悩めるリスナーのざらざらした心を洗い流してくれるに違いない。
2. butohes『Lost in Watercycle』

Label – FRIENDSHIP.
Release – 2021/06/16
東京発の4人組、ブトースの1st EP。国内外のポストロックやエモ、シューゲイザー、アンビエントなどの要素を昇華したサウンドを引っ提げ、満を持してデビュー。潮風のように流れていくギターと縦横無尽なリズム隊が織りなすアンサンブルの跳躍、そして響きを重視した幻想的な詞作が、本能レベルで脳に快楽物質を発生させる。
一聴すると低体温な音像だが、その中には確かな熱量──ある種の「闘志」のようなものが宿っており、今後間違いなくシーンを席巻するバンドとして成長していくことは自明である。ちなみにバンド名の由来は「暗黒舞踏」らしい。内省で踊れ。
1. Japanese Breakfast『Jubilee』

Label – Dead Oceans
Release – 2021/06/04
フィラデルフィアを拠点に活動する韓国系アメリカ人アーティスト、ミシェル・ザウナーによるドリームポップ・プロジェクトの3rdアルバム。癌を患った母親の治療中に製作した1st、母親の死を乗り越えるための2ndを経て、幸福を掴むための「祝祭」を本作で迎えた。
シューゲイザーやドリームポップを飛び超え、内省的な音像を残しながらもホーンやストリングス、シンセ・ポップ、ディスコ、ファンクなどの要素も取り入れてポップネスに振り切ったサウンドが眩しい。ジャケットのモチーフとしては珍しい「柿」がフィーチャーされているのも印象的。
社会と向き合うことで自分自身の限界を打破し、自己実現へと繋げていく気概に満ちており、一方で世の中から消え去りつつある祝祭のムードを共有しようと、そっと手を差し伸べる優しさも込められている。今こそ聴くべき名盤。
* * *
今回挙げた50作品の中から1曲ずつセレクトしたプレイリストを作りました。よろしければご活用ください。
對馬拓

