【2021年1月】現行ポストパンク、Tough Love Records、LAUSBUB【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

【2021年1月】現行ポストパンク、Tough Love Records、LAUSBUB【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】

2020年の1月からサイト内連載としてスタートした「おすしたべいこ的マンスリーレコメンド」。昨年は、月ごとにリリースされた新譜を六枚ずつピックアップして紹介するディスクレビュー形式でお送りしました。

過去の記事はこちらから。
おすしたべいこ的マンスリーレコメンド

そんな本連載ですが、今年からはディスクレビューにとどまらず、より充実した内容でお届けします。その月の新譜は紹介しつつも、最近話題になった作品や今後注目していきたいアーティスト、良質なレーベルなど、様々なトピックについて偏愛的にピックアップしていこうと思います。2021年も何卒お付き合いください。

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特集:最新の現行ポストパンク事情

shame(bandcampより)

ここ1〜2年、ポストパンクがリバイバルに匹敵するような盛り上がりを見せていることは、熱心なリスナーの皆様におかれてはすでにお気づきかもしれない。

このムーブメントは何を起点にもたらされているのか--はっきりとした因果関係は不明だが、単に「ブームは繰り返される」という一言で片付けるのは早計ではないだろうか。

思うに、かつてパンク・シーンを多様に拡張させてきたように、ポストパンクには様々なジャンルを内包できるポテンシャルが宿っており、古今東西の音楽と自由に接続できることが容易になったこの時代において、非常にマッチする様式だと言えるのかもしれない。あるいは、従来ポストパンクが持つ瞬発力や爆発力が、社会全体を覆う閉塞感へのある種のカウンターとして機能している節もありそうだ。

いずれにせよ、バンド・シーンの中でも、ポストパンクが多種多様な果実が実る豊かな土壌となっていることは明らかだ。ここでは、昨年と今年1月の最新作を中心に、ポストパンクの注目作を紹介していく。

現行ポストパンクの近作

Public Practice(bandcampより)

まず、直近のポストパンク周辺の作品として、2020年にリリースされたアルバムを振り返ってみる。

ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するBambaraが昨年2月にリリースした4thアルバム『Stray』は、冷徹なサウンドと色気あるヴォーカルがスリリングな作品だ。ゴス要素の強い作風はポストパンクの暗黒面を担っている。

同じく2月にUK・リーズ出身のMushがリリースした1stアルバム『3D Routine』は、Bambaraとは全く毛色の異なるサウンドを楽しめる。軽快なギター、うねるベースライン、素っ頓狂なヴォーカルが中毒性をもたらすウキウキな一枚だ。

一方、Bambaraと同郷にしてレーベルメイトのPublic Practiceが5月にリリースした1stアルバム『Gentle Grip』は、ニューウェイヴ色の強い軽快なギターサウンドを展開しながらも、テンションの低めな女性ヴォーカルも相まって絶妙な脱力感を醸し出している。どことなくディスコパンクを彷彿とさせるサウンドも特徴。

また、ウクライナ出身のPovodが9月にリリースした最新アルバム『Пустой и бесполезный』は、シューゲイザーとポストパンクを折衷させるという近年の大きな潮流において、高い完成度を誇る作品の一つだ。この潮流は、初期のWestkust(ウェストカスト)、Agent blå(アゲント・ブロー)などスウェーデンのバンドや、後述するフィンランドのRadio Supernovaなど北欧のシーンにも存在する。

このように、昨年のアルバムを数枚挙げるだけでも、サウンドの多様さを垣間見ることができる。そして、ポストパンクの波が押し寄せているのは、ここ日本も決して例外ではない。

TAWINGS(bandcampより)

2019年にセルフタイトルとなる1stアルバムをリリースしたTAWINGS(トーイングス)は、その筆頭格の一つだろうか。ニューウェイヴやポストパンクを基調としながら、ドリームポップの要素を取り入れたサウンドも展開し、存在感を発揮している。

また、昨年それぞれアルバムをリリースしたSTRAMとMississipi Khaki Hair(ミシシッピ・カーキ・ヘアー)、グランジの要素やサイバーなアートワークで異彩を放つNEHANNなど、ダークなポストパンクを鳴らすバンドの活躍も目覚ましい。

特に、NEHANNがKiliKiliVillaから今月27日にリリースした新曲『Star』は、ダウナーながらもダンサブルなナンバーで、印象的なギターリフとメロディアスなヴォーカルが特徴の佳作だ。


2021年1月の最新アルバム

Goat Girl(bandcampより)

さて、そんな注目の現行ポストパンク・シーンだが、今月の最新リリースもいくつか紹介したい。

まず挙げたいのは、サウス・ロンドン出身のshameが1月15日にリリースした2ndアルバム『Drunk Tank Pink』だ。タイトなドラムとギターリフの応酬が繰り出すパーカッシヴでダンサブルなサウンド・スケープは、現行ポストパンクの中でも特に優れた内容として、音楽ファンから熱い視線を注がれている。一聴して荒々しいように思えて、実は緻密なアンサンブルも見事だ。

同日、フランスからこっそりドロップされた作品もある。Allein in der Badewanneの1stアルバム『Steriles Land』がそれだ。shameと比べれば音数が少なく、徹底してダウナーなサウンドが印象的だ。随所にテクノ要素をまぶしたような音像からは、‘‘Joy Division化したNew Order’’というパラドックス的な現象も目の当たりにできるだろう。ちなみにバンド名はドイツ語で、「Alone in the bathtub」という意味。風呂は命の洗濯、といったところか。

一方こちらも同日リリースだが、シューゲイザーとポストパンクを折衷させた最新形が、フィンランドのRadio Supernovaの2ndアルバム『Takaisin』だ。ポストパンク由来の性急さと、目が覚めるような轟音ギターが高次元で交わる痛快な傑作として、幅広いリスナーに知られるべきだろう。

そして、この文脈で欠かせないのが、shameと同様にサウス・ロンドンを代表する存在となったGoat Girlだ。今月29日にリリースされた待望の2ndアルバム『On All Fours』は、ポストパンクがジャンルを越境する様を最も端的に示す作品の一つではないだろうか。インディーロックからグランジ、果てはジャズに至るまで、実に様々な要素が溶け込んでいる。怪しげなシンセ・サウンドや気怠いヴォーカルは、Goat Girlというバンド名も相まって、彼女たちの呪術的な雰囲気をさらに深めている。

現在のポストパンク・シーンは、掘れば掘るほど金塊にぶつかる、まさにゴールドラッシュ状態。その一端がお分かりいただければ幸いである。


今月の注目レーベル:Tough Love Records

Tough Love Recordsは、2005年にUK・ロンドンで設立されたインディー・レーベル。これまで、The StroppiesやTOY、Ulrika Spacek(ウルリカ・スペイセク)など、インディーポップやネオサイケ、シューゲイザー周辺の作品を多数リリースしてきた。

レーベルのロゴ(bandcampより)

昨年4月には、ニューヨークを拠点に活動するPeel Dream Magazineが2ndアルバム『Agitprop Alterna』をリリースした。My Bloody Valentineや初期のStereolabなどを折衷したサウンドが、シューゲイザーやインディーロックのリスナーを中心に支持を集めたことも記憶に新しい。

そんなTough Love Recordsからの注目作として、UK・プレストンを拠点に活動するドリームポップ・バンド、White Flowersが1月15日にリリースしたEP『Within a Dream』を挙げたい。スロウコアにも通ずる、水面を漂うがごとく展開されるサウンド・スケープと、今にも消え入りそうなハイトーン・ヴォイスが非凡な美しさを放っている。いずれリリースされるであろうフルレングス作品を否応なしに渇望させる内容だ。

また、2月にはオーストラリア・パース出身のRat Columnsの新作アルバム『Pacific Kiss』、3月にはロンドンを拠点に活動するアーティスト、William Doyleの新作アルバム『Great Spans of Muddy Time』など、注目のリリースが控えている。今後もTough Love Recordsの動向に注目していきたい。

Tough Love Recordsのリリース・ページ(bandcampより)

コラム:LAUSBUBはYMOの夢を見るか?

LAUSBUB 3rd Single『Telefon』ジャケット

1月中旬頃、突如としてTwitter上でバズったユニットがいる。北海道は札幌市在住の高校生によるニューウェイヴ・テクノバンド、LAUSBUB(ラウスバブ)である。現役の女子高生二人組が、YMOや電気グルーヴといった往年のテクノポップに影響を受けたサウンドを鳴らしている--その衝撃は瞬く間に拡散され、ネット上の音楽ファンを熱狂させた。ついには、3rdシングル『Telefon』がSoundCloudの週間チャートで1位にランクインするという快挙を成し遂げたのだ。

https://twitter.com/officialausbub/status/1351828216680386561

個人的な話ではあるが、彼女たちが通う高校は著者の実家近くだったため、とても親しみがある。そんな場所から、こうして大きく注目される存在が現れることは素直に嬉しい。勝手に誇らしくも思う。

そんな彼女たちは、実力も折り紙付きだ。2020年には、北海道高等学校軽音楽連盟が主催する「令和2年度 石狩地区軽音楽新人大会」で優秀賞を獲得。その後出場した「第4回 全道高等学校軽音楽 新人大会」では奨励賞に輝いている。

上記のプロフィールにも記載があるが、驚くべきことに、彼女たちはすでにコロナ禍における遠隔レコーディングの方法を確立させているようだ。また、あえてアナログシンセサイザーを多用し、ライブでは生楽器を使用するなど‘‘人力テクノ’’的な要素が強いのも、時代と逆行しているようで面白い。しかし、それは単なる逆張りなどではなく、YMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』をオマージュしたアーティスト写真からも分かるように、先人たちが開拓したテクノ・ミュージックへの深い造詣、そして何より愛ゆえ、だろう。

YMO『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』ジャケット

LAUSBUBがここまでバズったのは、リリースのフォーマットがSoundCloudだった、という点が功を奏したとも言えそうだ。Apple MusicやSpotifyといったサブスクリプション型の配信サービスや、実際に作品を配信/フィジカルで販売し利益を得られるbandcampなどが台頭する昨今において、SoundCloudは下火のように思われた。しかし、誰でも気軽に(しかも無料で)聴けるフォーマットだからこそ、ここまで爆発的に拡散されたという側面があるのは事実だろう。そして、他のサービスに比べて圧倒的な作品数を誇るSoundCloudには、まだまだ多くの原石が輝く日を待ち望んでいるに違いない。

おすしたべいこ