西暦2022年元日、 – 起動(ジェネシス) – がアナウンスされ、活動が表面化したロック・バンド、Ellen Ripley hypersleep(エレン・リプリー・ハイパースリープ)。2月16日には6曲入りの1st EP『RIPLEY e.p.』が配信リリースされた。
「ポジティブな懐古主義」を掲げてニューウェーヴ、とりわけネオサイケの影響下にあるサウンドを鳴らすこのバンドは、sugardropやalicetalesのメンバーとして活動しているnk(Vo. Gt.)を中心に結成。メンバーは17歳とベルリンの壁のフロントマンであるYusei Tsuruta(Gt. Syn.)、nkの弟でありalicetalesで共に活動するShuntaro Nakamura(Ba.)、I’d tap thatで活動するShuichi Ohata(Dr.)と、東京のインディー・ロック・シーンで精力的に活動するメンバーが集まった。
今回は、バンド起動の中心人物であるnkにインタビューを敢行。nkの音楽趣味と知識は幅広く、sugardropやalicetalesで鳴らすジャンルに留まらないことはファンにとって周知の事実だったし、彼のSNSをフォローしている方ならニューウェーヴやポストパンクへの並々ならぬ愛をご存じかもしれない。
私事だが、nkとは約15年前、彼がsugardrop加入直後に知り合い、一時期はUSTREAMで「樹液ラジオ」というチャンネルを一緒に運営していた仲である。また、一時期は同じ職場で働いていたこともある。
今回は前後編に分け、Ellen Ripley hypersleepをスタートさせた真意と、元樹液クルーだからこそ聞ける、彼のパーソナルな部分に迫った。
インタビュー/文/写真=仲川ドイツ
編集=對馬拓
Ellen Ripley hypersleep
Shuntaro Nakamura(Ba.)/Yusei Tsuruta(Gt. Syn.)/nk(Vo. Gt.)/Shuichi Ohata(Dr.)
nk:alicetalesを始めるもっと前、10年以上前からずっと宅録をやってたんですね。それこそ仲川さんと一緒の職場の頃からですよ。仕事が終わって家に帰って宅録する、みたいな生活をしていました。
nk:今回発売したEPも6曲のうち、半分はその頃に作ったものが原曲です。ただ、その頃はもっとポップな音楽をやりたかったので、段々とalicetalesでやってるような方向性にシフトしていきました。でも少し前からメンバー内の都合でalicetalesの活動を休まなければならなくなって、そのタイミングで昔録ったデモを聴き直してたんです。それで、今これをバンドでやってみたら面白そうだな、と思ったのが始まりですね。
nk:そうです。まず、ベースは弟のShuntaroと一緒にやることに決まっていました。なんたって、alicetalesのスタジオでも「最近これ練習してるんだ」って言ってデュラン・デュランを弾き出すようなヤツですから、(Ellen Ripley hypersleepの方向性ならば)彼が1番話が早いんですよ。笑 次にギターのTsurutaなんですけど、彼はずっと「ベルリン以外のサイドプロジェクトもやってみたい」って言ってたのを知ってて。
nk:そうですね。当時は連絡先を知らなかったのでInstagramのDMでやり取りしてたんですけど、「ニューウェーヴ好き?」って送ったら「ニューウェーヴは分からないけどポリスなら聴くよ。バンドやるの?」って返信が来て。無事、一緒にやることになりました。
nk:彼はShuntaroの紹介なんですよ。Shuntaroに「周りにセンスの良いドラマーいる?」って聞いたら、「大学の後輩でアークティック・モンキーズ好きなヤツがいるよ。たぶんLillies and Remainsとかポストパンクも知ってると思う」って。それでOhataと一緒に飲みに行って「こういう方向性でやりたいんだけど一緒にどう?」って誘ったら「是非やりたい」って言ってくれて、このメンバーになりました。
nk:彼はギターだけ弾くバンドをやりたい、っていう願望があったみたいですよ。結構「ギターヴォーカルあるある」らしいんですけど。だから、Ellen Ripley hypersleepで彼がコーラスをやることはないですね。
nk:Ellen Ripley hypersleepはalicetalesでは出さなかった部分、自分のバックボーンになった文化を出していこう、っていうテーマがありました。まずalicetalesでは、いわゆるエヴァーグリーンなギター・ポップがやりたかったんですね。そしてもう1つは、自分が10代後半の頃に受けた影響──例えば当時好きだったアニメだとか、ゲームの文化だとか、そういうものをインフルエンスとして入れていこう、っていうのがコンセプトでした。
なので、Ellen Ripley hypersleepでは20代以降に受けた影響を出していくことをテーマにやっていこうかなと思いました。それこそ音楽的な面以外でも、好きな映画だとか洋服だとか、ありきたりですが、耽美な世界観やシリアスな雰囲気とか。そういったものをこのバンドで今後も提示したいと考えています。
nk:そうですね。1作目の『エイリアン』ではサブキャラだったんですけど、『エイリアン2』からは主人公になったキャラですね。バンドの公式では「『エイリアン2』の主人公が由来です」ってことでアナウンスしています。
nk:そうですね。ただし今回は、他にもたくさん候補があって。メンバーが集まった時に候補を見てもらって、その中で多数決で決まったのがEllen Ripley hypersleepだったんですよ。ちなみに、他の候補はこんな感じでした。
nk:俺はこの中だと「xenophilia」が良かったんですよ。あと「Rebelyell」! これはビリー・アイドルからですね。でも、Ellen Ripley hypersleepにするとエイリアン好きの人からイジってもらえるかな、って考えはありました。
nk:そこに関しては正直あまり考えてないですね。笑 それこそ昔、仲川さんに言われたことなんですけど、「ニューウェーヴとカレーは似てる」って。覚えてます?
nk:カレーってインドカレーもあれば、ネパールカレーもある。ルーを使った日本のカレーもある。もしかしたらアメリカにも、アメリカのカレーがあるかもしれませんよね。「カレー」って一緒くたにされてるけど、それぞれに微細な違いがあって。「カレー食べにいこうよ」って言っても、インドカレーかもしれないし、ゴーゴーカレーみたいな店かもしれない。根幹にある「スパイス」って部分は同じだとしても、作り方のアプローチは色々ある、みたいな。
nk:今回のEPを聴いてもらえたら分かると思うんですけど、微妙に各曲の要素がバラバラなんですよ。(EP全体のカラーを統一している訳ではなくて)それぞれの曲でやりたいことをやってる。そこで「ニューウェーヴはカレー理論」を思い出しました。それと、ポストパンクが好きでストレートにそういう音楽をやっているバンドに対して、Ellen Ripley hypersleepの音楽性で「ポストパンクです」って言うのは少し失礼かな?とも思いました。自分たちのことをポストパンクって呼ぶことで聴く人の間口を狭めたくない、という感覚もありましたし。
『RIPLEY e.p.』ジャケット
nk:そうですね。Sad Lovers & Giantsみたいな曲を作りたいな、ってことで彼らを意識しています。ニューウェーヴのような音楽をやるにあたって、印象的なメロディーよりも、ギター・リフなどにこだわった曲作りをしなきゃいけない、という意識で作りましたね。
nk:《Captured Tracks》はめっちゃ好きなんで、そう言ってもらえるのは嬉しいですね。どこら辺にそれっぽさを感じました?
nk:なるほど。まぁ、俺は割とネアカなんで、意識して暗い曲を作ろうと思ってもあんまり暗くならないっていう。笑
nk:ウチの弟(Shuntaro)にこの曲聴かせた時も「ラルクにもこんな感じの曲があるよ」って言われて。それまで全然聴いたことなかったんですけど、聴いてみたら本当に似てました。笑
nk:撮影は皆様ズパラダイスさんにお願いしました。彼に撮影を依頼した時「こんな感じで撮りたいと思います」って、LUNA SEAの「TONIGHT」のMVが送られて来たんですよ。私はあまりLUNA SEAは詳しく分からないのですが、この曲はとても好きな曲だったので嬉しかったですね! これは必見なんですが、俺が着てるTシャツはsugardropの橋口さんから誕生日にもらったFACTORYのTシャツです。とても気に入っています。
nk:こちらからリファレンス的に見せたのはLillies and Remainsの「Devaloka」のMVですね。でも当日に土壇場で見せたので「部屋の広さが足りない」と言われてしまいました。ちなみにその日、パラダイスさんは機材を忘れて30分遅刻してました。笑
nk:そうですね。2007〜09年辺りのポストパンク・リバイバルの、どちらかといえばアンダーグラウンドだったバンド、例えばneils childrenとかPROJECT:KOMAKINOなんかのソリッドなポストパンクをやりたくて作った曲ですね。なんか元ネタ紹介みたいになっちゃってるな。笑
nk:「ジョーンズタウン」って読みます。由来について書くとちょっとアレなんで…ネットで検索してください。
nk:そうですね。俺の方からは特に指定せず、彼の好きなように弾いてもらってます。
nk:それについて言及してくれたのは、今のところ仲川さんだけです。笑 この曲にはエピソードがあるんですが、実は今回のEP、元々は1〜3曲目と5・6曲目の合計5曲でリリースする予定だったんです。でもリリースに向けた打ち合わせの時に「5曲って少ないからもう1曲欲しいよね」って急遽1曲増やすことになって。そこで「じゃあどんな曲にする?」ってなった時に「ニューウェーヴ・バンドって、たまに意味不明なインストを挟みがちだよね」って話になったんです。
nk:そうです! ニュー・オーダーっぽいエッセンスも欲しかったんですよね。それでTsurutaに作曲をお願いしました。俺がプレイリストを作って「ここに入ってそうなインスト曲を作れ!」って無茶苦茶なオーダーをしました。これがその「100日後にDAFになる鶴田」ってプレイリストです。
nk:でも、この中だと重要なのはLiaisons Dangereusesですね。Tsurutaに「元DAFのメンバーがやってるんだ」って色々説明して。それとその頃、電気グルーヴがYouTubeでやってた「Roots of 電気グルーヴ」のDAFの回を観ると。それでTsurutaも「どうやらDAFはKORGのMS-20っていうシンセを使ってるんだ」とか、自分で調べてくれて。
nk:今回のインタビューにあたって、この曲のことをTsurutaに聞いてきたんですけど、実はそこも仕掛けがあるらしいんですよ。この曲のキーは、前の曲「jo nest own」のキーに合わせて作ってて、BPMは次の曲「Automatic」に合わせて作っているそうです。
nk:特にDJ文化に馴染みがある訳ではないみたいだし、俺も今回彼に話を聞いて初めて知りましたけどすごいですよね。なんでもっと早く言ってくれないんだっていう。笑 このEPの中で、1〜3曲目は10年前くらいには曲としては出来上がってたもので、5・6曲目はこのバンドを始めてからスタジオに入って作った曲なんですよ。なので1〜3曲目と5・6曲目では聴いた時に印象の違いがあると思うんですけど、それぞれを前編・後編として捉えて、この「undertake」がうまくインタールードの役割を果たしてくれたかなと思っています。
nk:そうですね。このビートをやりたかったというのがまず前提にあったのと、イントロのギター2本は左右でそれぞれ別のリフを弾いてて、ハモっている訳でなく、別のリフとして存在していく、みたいなことをやってます。それこそ《Captured Tracks》のDIIVなんかもギター2本でそういったことをやってますよね。
nk:それは言い得て妙ですね。ちょっとバンドっぽい曲もやりたいな…と思って作った曲なんですが、バンドでやるのは1番難しい曲ですね。それと、アウトロにギター・ソロの音に寄せたサックスの打ち込みを入れてるんですけど、それはThe 1975みたいなことをやりたかったっていう。笑
nk:ああいうポップスなのにスタジアム・バンドなのって最高じゃないですか。ステージがデカいのと、そのステージで出す音がデカければデカいだけ良いんですよ。
nk:そう言ってもらえると嬉しいです。alicetalesはアメリカの中学生や高校生がガレージで演奏しているようなイメージというテーマがあったので、Ellen Ripley hypersleepではもう少しスケールがデカいことをやってみようっていう気持ちはありましたね。
nk:そうですね。結核とか、広義だと精神病棟とか。今のご時世、コロナ病棟も当てはまりそうですよね。とある場所を車で走っている時、とても綺麗な建物を見かけたんですけど、あとで調べたらサナトリウムだと知って。「外観は綺麗だけど、建物の中はどうなってるんだろう?」って想像したらすごく興味が湧いて。ちょうどこの曲を書いてた頃にそんなことがあったのでタイトルに付けました。とはいえ、歌詞には特に意味はないですけど。
nk:サウンド面については、さっき仲川さんが言ったような、スタジアムとかデカい会場をイメージして作った部分もあります。欲深いことを言うならば、この曲はバンドのアンセムになるようなスケールのデカい曲を書こうと思って作りました。
nk:そうですね。今回のEPの曲に関しては、宅録の時点である程度完成していたものだったんですが、実際にバンドアレンジをするためにスタジオに入ると、ホントもうケミストリーの連続でしたね。
nk:やはりTsurutaは第一線のシューゲイザー・バンドをやってるだけあって、音の空間デザインというか、それぞれのバランスについて考えるのがすごく上手いですよね。音楽選びのセンスも良いし、共通言語として近い音楽的素養があるのでこちらが伝えたことに対しての理解もめちゃ早いんですよ。加えて、彼がやってる17歳とベルリンの壁はEllen Ripley hypersleepとヴォーカリゼーションが割と近しいバンドなので、そういった点もサウンド面のバランス感覚で良い相乗効果が出てるんじゃないかなと感じますね。
nk:それと、Ohataはドラムがシャープなのに薄くなくて、俺が苦手なパターンとかも揚々とこなすのですごく心強く思ってます。一つひとつのパーツの音が良いんですよ! 自分はsugardropではドラムですが、自分以外のドラマーとは今までalicetalesのtaskとしかやったことなかったんです。Ohataはtaskとは違った面の良さがある、素晴らしいドラマーだと思います。
Shuntaroはなんというか、常に俺の80点を120点にしてくれるような存在なので、良い意味で言うことがありません。笑 バンドにおける安定要素というか、味の素的な感じですかね。あいつのベースじゃなかったら、全然違うバンドになってると思います。結果的にこのメンバーでしか出し得ない音にはなってるのかな、と思いますね。
nk:…難しいな。1分考えても良いですか?笑
nk:アレ、最高ですよね! 俺も分かる人だけに分かる音楽じゃなくて、色んな人に聴いてもらえる音楽にしたいと思ってます。とはいえ音楽性にしても、自分のヴォーカリゼーションにしてもメインストリームのものとは違うので、とっつきにくい部分はあるのかもしれないんですけどね。広義での「ポップス」という部分を意識して、これからも活動していきたいと思ってます。
<後日公開の後編では、sugardropやalicetalesでの活動、nkのパーソナルな部分に迫ります。乞うご期待!>
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