musit的マンスリーレコメンド/2021年7月

musit的マンスリーレコメンド/2021年7月

musit所属ライター陣が、月ごとに新譜をそれぞれセレクトしてレビューを行う月末更新連載。2021年7月は、DYGLが2年ぶりにリリースしたアルバム、松本隆の作詞活動50周年を記念したトリビュート、待望の新作となったビリー・アイリッシュの2ndアルバムなど、計6枚をピックアップした。

DYGL『A Daze In A Haze』

Label – Hard Enough
Release – 2021/07/07

Ykiki Beatのメンバーらを擁するインディー・ロック・バンド、DYGL(デイグロー)から届いたおよそ2年振りとなるアルバムは、彼らに根付いていた印象を大きく塗り替える傑作となった。

ヴォーカル・秋山の無骨な歌声、またサウンド面における荒涼とした空気感からUK由来のガレージロック・バンドであることを深くイメージ付けていた彼らだったが、本作は一転して多幸感溢れるポップナンバーに富んだ作品に仕上がっている。

晴れた日の野外でシンガロングしたくなるような「Banger」、2005年に発表されたウィーザーの「Beverly Hills」を彷彿とさせる「Wanderlust」、そして先行配信時から話題を呼んでいた、夜の寂寥感を優しくなだめるかのように深く沁み入る「Sink」。また作品全体を通して‘‘room’’という単語が頻出していることから、本作が新機軸を目指したものという位置付けのみならず、時代背景を投射しているアルバムであることも読み取れる。パンデミック以降、世界全体に目を向けるようになったからこそ構築できた本作におけるボーダレスな音楽性からも、本作が彼らの更なる飛躍に繋がる一手であることは自明だろう。

(翳目)

Koreless『Agor』

Label – BEAT RECORDS / Young
Release – 2021/07/09

Koreless(コアレス)名義で活動するプロデューサー、ルイス・ロバートの個人名義デビュー・アルバム。ロバートの出身地ウェールズの言葉で「開く」を意味する「Agor」をタイトルに選んだこの作品は、およそ現行エレクトロニカの世界に新たな可能性を見い出し、彼のキャリアの本当の始まりを意味するものとなっている。これまでカリブー、モグワイ、ジェームズ・ホールデンなどのサポートアクトを務め、2019年にはFKAツイッグスのアルバム『Magdalene』に共同作曲者として参加するなど着実にキャリアを重ねてきた彼だけに、デビュー・アルバムにして既にその芸術性が確立されている。

先行のプロデューサーたちの築き上げてきたものをくまなく理解しているという点で、エレクトロニカの入門アルバムにも最適だ。テリー・ライリーやジェームズ・ホールデンなどの民族音楽を取り入れた電子音楽の体系にも基づき、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなどに見られるサンプリングの緻密なカットアップによるリズムメイクや、ドローンの多用を行っている。それでいて有機的なポップネスを保っていることはほとんど奇跡と言っても良いのかもしれない。

(鈴木レイヤ)

V.A.『風街に連れてって!』

Label – 日本コロムビア
Release – 2021/07/14

松本隆の作詞活動50周年を記念したトリビュート・アルバム。今をときめくYOASOBIの幾田りらは松田聖子の軌跡を追いかけ、甘美に「SWEET MEMORIES」を歌い上げる。クレイジーケンバンドの横山剣はお馴染みのハスキーな歌声で名曲「ルビーの指環」をジャジーに紡ぐ。昨年女性ヴォーカルの楽曲カバーで新境地を開花させた宮本浩次は、竹内まりやの「SEPTEMBER」を切なくメロウに、GRIM SPANKYやB’zはシャウトの似合うパンチの効いた歌声で力強く往年のナンバーに息を吹き込む。

アーティストを尊敬し、賛辞を贈る。トリビュートは「称賛・賛辞・貢物」を意味する言葉だ。音楽家が紡いだ楽曲や詞(ことば)を最大限尊重し現代にリボーンさせるために、参加するアーティストは個々の持ち味を存分に活かす──トリビュート・アルバムには、そのプロフェッショナルなわざの妙が詰め込まれている。

言葉の持つ音や匂いまで自由自在に操り、深い情緒をもたらす名手・松本隆への「賛辞」を形にした本作。彼への尊敬に代えて各々の表現をするアーティストたち。1人のリスナーとして「称賛」を込め、拍手を贈りたい。彼が音楽界に刻んだ功績は多くの人々の心に深く残り続けるはずだ。

(安藤エヌ)

Yves Tumor『The Asymptotical World EP』

Label – Warp Records
Release – 2021/07/15

エレクトロ・ミュージックの垣根を越えて、ポップ・ミュージックをフリー・フォームにアップデートし続けるアーティスト、イヴ・トゥモアの最新EP。もちろん今作も名門レーベル《Warp Records》からのリリース。

先行シングル「Jackie」含む冒頭2曲はバレアリックな質感が心地良いチルウェイヴ。これまでも近い楽曲はあったが、ここまでストレートなのは珍しい。続く3曲目「Secrecy Is Incredibly Important To The Both of Them」は初期ニールズ・チルドレンやPLASTICZOOMSを彷彿させるダークなポストパンクで、途中のドラマチックなコード進行はさながらLillies and Remains。あれ、Warpからのリリースだよね?

90年代後半のミクスチャー・ロックのような「…And Loyalty Is A Nuisance Child」など、これまで以上にロック色が濃い楽曲ばかり。ヴィジュアル面を含めてジェネシス・P・オリッジやグラム・ロックへの傾倒も見られるが、これら全てが幼い頃から彼を構成してきた要素なのだろう。

今作は個性の強さ故にアルバムに収められなかった楽曲集か、それとも今後の方向性の示唆なのか。次作への期待も高まる。

(仲川ドイツ)

Midwife『Luminol』

Label – The Flenser
Release – 2021/07/16

米コロラド州デンバー出身のMadeline Johnstonによるソロ・プロジェクト、ミッドワイフの3rdアルバム。

シューゲイザーやドリームポップを想起させる幻想的なギターが印象的だが、それもそのはず、本作にはザカリー・コール・スミスをはじめとしたDIIV(ダイヴ)のメンバーや、Have a Nice Lifeのダン・バレットらが参加。「Promise Ring」から「Christina’s World」に繋がる流れは深くエコーがかかったヴォーカルも相まって、まさに彼女が掲げる「ヘヴンメタル」を体現し、崇高な様相を呈している。

「Luminol(ルミノール)」は犯罪捜査などに使用される化学物質で、血液に反応すると青い光を放つ。本作がパンデミックによる隔離期間中に制作された事実を踏まえると、長く苦しい時間の中で負った傷を決してないものとせず、むしろ称えていこうとする気概さえ感じられるだろう。ジャケットの女性はMadelineの母親で、レコーディング当時の彼女と同じ年齢の頃に撮られた写真を加工したものだというが、まさに「背水の陣」──突如として行き場を失った私たちを端的に示すと共に、本作は目の前の困難を乗り越えていくためのメルクマールでもあるのだ。

(對馬拓)

Billie Eilish『Happier Than Ever』

Label – Darkroom / Interscope Records
Release – 2021/07/30

ビリー・アイリッシュ、待望の2ndアルバム。大ヒットだった前作から約2年、期待されすぎた新作がどうなるのか気になっていた矢先、公開されたジャケットに衝撃を受けた。前作の不穏な雰囲気とは打って変わった華美なビリーの写真は、女性らしく艶やかでありながらも、瞳に光はなく虚構を見つめる。メディアからアイドルスターとして扱われるビリーの、無言の抵抗だろうか。

曲についても明らかに変化があった。これまでのビリーはどこか不穏でエッジの利いた楽曲が多かったが、今作では刃のような鋭さは身を潜め、彼女の歌にフォーカスされたのだ。これについて彼女は「これまでに制作してきたものは、大好きなものばかりだけど、自分自身との戦いだったような気がする」と述べている。若干17歳にして世界のポップアイコンになった(なってしまった)彼女は、周りからの大いなる期待に不必要なプレッシャーを感じたはずだ。それを乗り越え自分を見つめ直し作られたのが今作なのだ。

表題曲「Happier Than Eve」はアコースティック・ギターと歌のみのバラードから始まり、後半では心の闇を吐露するかのような轟音のギターと彼女の叫びがこだまする。彼女のアルバムに対しての心情そのものを示すかのようだ。

(Goseki)

 

musit編集部