Wolf Alice『Blue Weekend』--10年代インディーの残像を置き去りにする傑作

Wolf Alice『Blue Weekend』--10年代インディーの残像を置き去りにする傑作

若手ロック・バンドが大量にチャートへ出現した2010年代前半、1つでもコールドプレイやミューズの域へ達しただろうか? 否、多くが勢いに乗り切れなかった。さらに酷いことには勢いを失い空中で飛散したバンドも多く見られた、どうにかしようとして張りぼてのようなロックをやりだしたバンドを除いて、あの時代からスタジアム級のロック・バンドは生まれていない。ロックにあるポップネスの価値が暴落してしまったのだ。

しかしその中でしぶとく走り続け、ただ着実に足を伸ばしているキタサンブラック並みに地力のあるバンドがいる--ウルフ・アリスだ。

作っている音楽の質とは裏腹に、何かと舐められているように見えるウルフ・アリスだが、最新作『Blue Weekend』が全英ナンバーワンを獲ったこの機会に、俺がオッズの潮目を変えようと思う。

デビュー当時からWolf Aliceが特別だった理由

ウルフ・アリスといえば金髪でシュッとした女性ヴォーカルのインディー・ロック・バンドで、脇を固める男3人のルックスも割に決まっているという風な印象があるだろう。このバンドを見る上でやはりキーとなってくる1人にヴォーカルのエリー・ロウゼルが挙げられる。

バンドのフロントマンとして時にショートカットにタンクトップというラフな格好でマイクを握り、時に白いドレスで静かに歌う。ここで彼女を描写するに相応しい単語は「フェミニズム」ではないはずだ--彼女のそれは性差を凌駕したところにある「個人性」だ。エリーが何かのカテゴリーに収まらずエリーであること、シャウトからソプラノのコーラスまでできる幅広い声質もこのバンドを唯一無二のものとしている。

ステージで次に目立っているメンバーを考えると、ハンサムで高身長なベースのセオ、或いは美しいヴォーカルを時に披露するドラムのジョエルが挙げられる。セオはマイクをとりMCで客を煽れば、ステージで最も躍動、さらにアーティストの対外的な宣伝などでも前面に立ってそのキャラクターを売っている。ステージ最奥に風格ありげに座るジョエルのドラムはシンプルでパワフル、そして繊細に曲の情緒を増幅しコーラスまで行う。彼こそがバンドのライブにおける縁の下の力持ちに違いない。

しかし、ソングライティングの面でウルフ・アリスを見つめる限り、エリーという主人公格の才能に音楽で均衡を取っているメンバーは紛れもなくギタリストのジョフ・オディだ。『Blue Weekend』という近年稀に見るスケールのロック・バンドとなる可能性を秘めた作品への道のりは、エリーとジョフの軌跡とも言えるだろう。

ウルフ・アリスの音楽面での特徴はトレンドの変化に負けない筋力であり、その根源にあるのは80〜90年代の実直なロックを真に受けすぎた彼らのカルト志向だ。

アコースティックなアプローチの光る初期作品からメロディーセンスは多いに評価されてきたが、それを押し上げたのがジョエルが常にこだわり続けたギターの「音」だった。シューゲイザー・バンドさながらのこだわったギター・サウンドと、シンセサイザーや打ち込みをフル活用したドリームポップ的アプローチにおいてウルフ・アリスはデビュー当時から他のインディー・ロック・バンドらと一線を画していたのだ。

ジョフのサウンドメイクの才能はステージ上でも輝いている。ステージの前方にも関わらず、ほとんど観客とのコミュニケーションを取らずに黙々とギターを弾き、忙しくラップトップとエフェクターを弄っている。スタジオアルバムでの緻密な音の層がステージに立った途端にぺらぺらになってしまう若手バンドも多いが決してそれは悪いことではない。ライブで必要なものは勢い、情熱なのだから。しかし、ウルフ・アリスに限ってはデビュー後初来日の時点で、既に分厚い音の洪水を小さなライブハウスに繰り広げていたのだ。

《Dirty Hit》の異端児

彼らの所属するレーベルは、The 1975擁するイギリスの《Dirty Hit》。レーベル第2のビッグネームであるにも関わらず、ウルフ・アリスが所属していることを知らない人も少なくない。Dirty Hitはその名の通り泥臭くヒット曲を量産するレーベルで、良くいえば社会に敏感、悪く言えば流行乗りな音楽が多い所がある。ペール・ウェーブスやThe 1975、ノー・ローム、ザ・ジャパニーズ・ハウスなど、どのバンドも常にオリジナリティのある切り口で一目で新しいと分かる音楽を送り出している。SNSなどの現代的立ち回りに加え、ロックの歴史に対する分かりやすいリスペクトもリバイバルの波にうまく重なっている。つまりは非常に洗練されたインディー・レーベルなのだ。

ただ、その面々でウルフ・アリスだけが1つ浮いている。なぜかと言うに、彼らは一際おしゃれじゃない、多少じめじめとした匂いのする音楽をやっているからだ。悪く言うと彼らはレーベルメイトに比べて、現代のロックから外れたポップ音楽シーンまで、自分たちの愛する過去のロック・ミュージックを引っ張れていないのだ。往年のロックファンに聴かせても頷くかもしれない、実直な歴史の延長に乗っている音楽をやっているのだ。しかし、これは短所ではない、ヒットを飛ばすことはもちろん大切だが、後世に残る音楽になるためには確かに縦で言えば歴史に、横では地理的シーンに足を付けている必要がある。

それにウルフ・アリスはDirty Hit的でない形で売れているし、個人的にレーベルのアーティスト一覧にもウルフ・アリスのように、まるでMerge Recordsから出てきたかのような奴らが1人いた方が、分厚く見えて良いのではないかと思う。

ロックダウンを追い風に制作された『Blue Weekend』

イギリスのロックダウンが緩和され、ゆっくりと日常へと変わっていく中、2021年6月4日にウルフ・アリスの3rdアルバム『Blue Weekend』がリリースされた。これまでの2枚のアルバムに比べて大幅にダイナミックな作品となった今作。インディー感が多少薄まり、大味でヘヴィーにすら感じられる曲が続く。

「ブルーは良い色だが、同時に悲しみも意味する」とエリーはNMEのインタビューで語っているが、「青い週末」というタイトル通り、凛とした「青」と悲しみの「青」が同居した音色が、ひりひりするような感覚をもたらす作品となっている。

2020年、アルバムのレコーディングは原点に立ち返る意味で、2014年のEP『Creature Songs』のレコーディングも行ったベルギーのICPスタジオで始められた。プロデューサーには、アーケイド・ファイアやフローレンス・アンド・ザ・マシーンのアルバムを手掛けたMarkus Dravsを起用。

また、ベルギーでのレコーディングの背景には地元を離れて集中して取り組むという意味も込められていたらしいが、これは思わぬ方向に転んだ。新型コロナウイルスでヨーロッパ各国においてロックダウンの措置が取られていたというニュースは記憶に新しいが、バンドはまさにベルギーのスタジオでその状況に陥った。帰ろうにも帰れないのでメンバーは本来想定していた以上にレコーディング、音楽製作に集中することになったのだ。洗練されたダイナミックなアルバムが作れた一因に今回の特殊な状況もあったに違いない。

レーベルと契約した際の瑞々しい感情に立ち返りたかったという視点から見ると、「Delicious Things」や「Safe From Heartbreak (if you never fall in love)」などの曲で、デビュー前の作品で色濃かったフォークの要素に気が付くはずだ。しかし、それらも単に当時の焼き直しではなく、2枚のアルバムを世に送り出し進化を続けて来たウルフ・アリスを踏まえたものになっている。

楽器のない友人の家でラップトップのミュージックタイピングで書いたという「The Last Man On Earth」は、アルバムのクライマックスとも言える壮大な1曲。「2ndアルバムでもストリングを取り入れようという話はあったけれど、ストリングスを使うほどのキャリアじゃないだろうって話になった。でももう3枚目、メンバーも30代になろうとしている。そろそろ正直にやってみよう」と3FMでのインタビュー(YouTube)では語っている。前作でまだそのレベルになかったという点は懐疑的だが、確かにこのアルバムにはストリングスの壮大な1曲が上手くはまっている。この曲を聴く限りバンドが着実に進化を遂げたのは明白で、近年激減していたロック・バンドによる全英チャート1位を達成したのも納得である。

新しいWolf Aliceの再来日を力強く待とう!

もはやインディー・バンドの領域から飛び出して、1つ貫禄すら漂うウルフ・アリス。最新作『Blue Weekend』を聴いて感じるものは、多様な頼もしさだ。既に作曲は完了していたとはいえ、ロックダウンの状況下にそれらを結晶化させ、このタイミングで我々の元に届けられたこと自体が勇気を与える行為ではないだろうか。タフなことは承知だ、この酷い状況において僕らにできることは、とにかく対応しながら力強く生きることだけなのだ。現在バンドは一足先に最悪のシチュエーションを抜けたイギリスでツアーを行っている。これまで4度彼らのライブに赴いている筆者としては、ライブ・バンドとしてのウルフ・アリスの進化もいち早く目撃したいところだ。

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RELEASE

Wolf Alice『Blue Weekend』

Label – Dirty Hit
Release – 2021/06/04

鈴木レイヤ