musitライター陣が選ぶ今月のレコメンド/2021年9月

musitライター陣が選ぶ今月のレコメンド/2021年9月

PELICAN FANCLUB  – 『Who are you? / 星座して二人』(Single)

Label – Ki/oon Music
Release – 2021/09/01

今年11月、メジャーデビュー3年目を迎える彼らが次なる一手として世に送り出した両A面シングル。既に2作品のタイアップを経験している彼らだが、今回『BORUTO』のEDとして制作された「Who are you?」は彼らが現在3人編成であることを忘れてしまいそうなほど強烈な音楽への躍動感を読み取れるナンバーに仕上がっている。また、過去にタイアップとして制作された「ディザイア」「三原色」然り、本楽曲においても原作のストーリーや作者の意思を最大限汲み取りながら“帰れない それでいい ”とフロントマン・エンドウアンリの覚悟が示されている点も1つの聴き所ではないだろうか。

一方、兼ねてから親交があるというyonige・牛丸ありさをゲスト・ヴォーカルに招いた「星座して二人」では冬の星空を見上げながら互いの似ている部分を探り合うような、閑静かつ抽象的な楽曲に仕上がっている。さらに、今年4月に1st EP『泳ぐ真似』をリリースし各方面から話題を集めたKabanaguによるリミックスも必聴。彼が音楽制作の根幹に持つ破壊的衝動と予定調和を許さない展開は既存のリスナーにとって新鮮な音楽体験になることは言わずもがな、バンドにとっても自身の中に新たな側面を見るようなナンバーであると思う。

(翳目)

 

F.S. Blumm & Nils Frahm – 『2×1=4』

Label – BMG/ADA
Release – 2021/09/03

マルチ奏者F.S. ブルム(F.S. Blumm)ことFrank Schültgeと、ポストクラシカルの大御所ニルス・フラーム(Nils Frahm)の5年ぶり4枚目のコラボアルバム。これまではフォークトロニカ的アプローチや、それぞれのソロ作品と地続きのオーガニックな感触のあるものだったが、本作では大きく方向性を変えた。Nilsにおける純粋なエレクトロニカの側面や、ダブをフィーチャーしたBlummの過去のプロジェクトに接近するかのように、2人に影響を与えたダブの手法、そして80年代的なリズムマシンのビートを導入したのだ。

タイトで硬質なビートと深く沈み込むようなリヴァーブは懐古的でなく、むしろ現在彼らが活動するベルリンに根付くダブテクノ/ミニマルダブのシーンと共鳴したような印象を受ける。とはいえ肉体的にはなりすぎず、ベッドルーム・ミュージックとしても機能する所に彼ららしさが滲み出ていると言えるだろう。

先日残念ながら鬼籍に入られたダブ界の偉人リー・スクラッチ・ペリー(Lee “Scratch” Perry)は、かつて「私は魔術師である」と発言したそうだ。BlummとNilsの2人も本作のコンソール上での実験を通して「2×1」から「4」を生み出せる魔術師となったのかもしれない。

(仲川ドイツ)

 

Petey – 『Lean Into Life』

Label – Terrible Records
Release – 2021/09/03

シンセポップからデス・キャブ・フォー・キューティー譲りのエモ風インディー・ロックを奏でるロサンゼルスのミュージシャン、Peteyのデビュー・アルバム。1st EP『Car Practice』のミニマリスティックなポップ・サウンドとのシャウト・ヴォーカルに抱いた大きな期待が、2年の時を経て遂にフル尺のアルバムに完成した。

“カリフォルニアで鬱病になるならだいぶマシ ”

感じやすく純粋な「雨にも負けず」を地で行くアメリカ人・Peteyの自伝的/シルヴァー・ジューズ的「California」から始まり、変貌に変貌を重ね今やTikTokでバズり現在100万フォロワーを擁する特大コンテンツとなった彼が織りなすスケール感もある表題曲「Lean Into Life」まで、とにかくポップセンスが押し込まれた楽しすぎるアルバムになっている。

「野心はない。カリフォルニアに住み生き延びるために地元を出てきた」と言う彼だが、衝動的に録音した冒頭2曲から、地元の友人の後押しと、持ち前のポップセンスでここまで駆け抜けてきた。やっとリリースされた1stアルバム、いつの間にか形成されていた巨大なファンベース、今後の彼はどんなキャリアを進むのか誰にも想像できない。

(鈴木レイヤ)

 

Mega Shinnosuke – 『CULTURE DOG』

Label – Self Released
Release – 2021/09/06

2000年生まれのクリエイター・Mega Shinnosuke。ヒップホップやファンク、シューゲイザーなど多数のジャンルを織り込んだ『HONNE』、また一転して厚みのあるロック・サウンドでさらに多くのリスナーの心を射止めた『東京熱帯雨林気候』と2作品のEPを発表し、今月満を辞して自身初となるフルアルバムをリリースした。

本作は現代を生き抜く人々への応援歌ともとれる「Thinking Boyz!!!」を筆頭に、甘くメロウなサウンドに乗せて揺蕩うように歌う「Lead 2 Love :)」、良い意味で泥臭いインディー・ロックの雰囲気を匂わせる「School」…とやはりジャンルの垣根を悠々と飛び越えながら展開される。中でも「お洒落すぎてどうしよう」は80年代のディスコ・ソング調に“飛び出せ原宿street please me メンション Instagram”と、彼と同年代のリスナーへもリーチするキラー・フレーズが光り、正直相当ズルい。

ラストを飾るのは2019年に発表された「明日もこの世は回るから」。“今、走り出そうぜって言ってんの ”--新世代の気鋭なクリエイターとして彼がこの先どう成長を見せてくれるのか、既に楽しみで仕方がない。

(翳目)

 

ヒグチアイ – 『悲しい歌がある理由』(Single)

Label – ポニーキャニオン
Release – 2021/09/08

「働く女性」をテーマに3ヶ月連続でリリースされる楽曲の第1弾、ヒグチアイ「悲しい歌がある理由」。聞くところによると、彼女の音楽を「辛くなるから聴けない」と言う人もいるらしい。だが、そう言わしめるほど、確かな観察眼とそこから生まれる描写は鋭利で、時に心の奥深くに刺さりすぎてしまうのかもしれない。

「応援したい」「支えたい」という思いの込められた楽曲は、人々の心に寄り添える。しかしヒグチアイの音楽は、そういった自分とは違う「他者」からのメッセージとして寄り添うものではない。徹底したリアリティの上で際立つ歌詞がリスナーと音楽との間に近接的な関係を生み、苦悩を抱えた人々と「共に生きる」という、揺るがない意志を根幹に感じさせるのだ。

本楽曲は、現代を生きる女性に降りかかる暴力と呪縛を描いている。優しい歌声で弾き語られる音楽はリスナーとアーティストを一心同体にし、女というだけで経験するあらゆる苦しみを拭い去りたい、という歌い手の切なる願いがそこに垣間見える。

“もう許していいんだよ ”という、呪いからの解放と許し。ヒグチアイというアーティストが歌うからこそ意味のある歌詞は、今この時、泣くことを許されない女性たちのすぐ傍で、傷ついた身体を抱擁するように囁かれる言葉にほかならない。

(安藤エヌ)

 

Bearwear & THEティバ – 『Bearwear/The tiva』(Split)

Label – Self Released
Release – 2021/09/08

​​THEティバとBearwearのスプリットEP。同世代で結成当時から親交が深く、互いに2人組ユニットなど共通点が多い2バンドのクロスオーバーは、もはや疑問の余地もないほどの名作となった。

THEティバの「Laid Back」ではBearwearのKazma Kobayashiがヴォーカル、「Down the river」ではKou Ishimaruがベースでそれぞれ参加。一方Bearwearの「Far East」ではTHEティバの明智マヤがヴォーカルを務め、さらに「forever and a day」ではTHEティバの代表曲「Go back our home」をサンプリング、フィーチャーしている。バンドどうしが密接にリンクし、普段とは違う表情が映し出されているのだ。

明智は普段英詞で歌っているが、「Far East」では日本語詞も披露。彼女の歌声は独特の粘り気がありクールな印象だが、日本語で歌う彼女は温かみがあり、はっぴいえんど時代の細野晴臣を彷彿とさせる。

互いの曲を持ち寄っただけのスプリットはいくらでもあるが、ここまでお互いの領域に踏み込んだ作品は貴重だ。両者が合体した新しいバンドの新しい作品、という方がしっくりくる。このEPの続編が出ることを望むファンも少なくはないだろう。私もまたその中の1人である。

(Goseki)

 

クレイジーケンバンド – 『好きなんだよ』

Label -UNIVERSAL SIGMA
Release – 2021/09/08

クレイジーケンバンド初のカバー・アルバム。タイトル通り横山剣が愛した70年代〜90年代前半の有名曲から少しマニアックな曲まで、全18曲のカバーが収録されている。

前半は「プラスティック・ラブ」(竹内まりや)などのシティポップやニューミュージック、あるいはその周辺のミュージシャンが携わった「冬のリヴィエラ」(森進一)、「時間よ止まれ」(矢沢永吉)といった曲が中心だ。

2010年代以降、世界規模で急激に評価が高まったシティポップ。例えば松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」のように埋もれた名曲が突如大ヒットする面白い現象もあるが、未だ話題に上らない曲もある。横山剣はそんな曲たちにスポットを当てたい気持ちもあったのかもしれない。

後半は歌謡曲が中心。原曲のエッセンスはしっかり残したまま「これってオリジナル曲じゃないの?」というくらいCKB節になっているから凄い。

それにしても音楽の力は不思議だ。恥ずかしながら「最後の雨」(中西保志)は歌手もタイトルも知らなかったが、再生した途端、中学時代よく釣りに連れて行ってくれたM君のお父さんが、車で流していた記憶を一瞬にして蘇らせた。中西圭三って良い曲歌うなぁ…と思っていたことも含めて。剣さん、ありがとう。

(仲川ドイツ)

 

Kero Kero Bonito – 『Civilisation』

Label – Polyvinyl
Release – 2021/09/10

ロンドンを拠点に活動するエレクトロ・ポップ・トリオ、ケロ・ケロ・ボニト。本作は『CivilisationⅠ』(2019)、『CivilisationⅡ』(2021)という2枚のEPをコンパイルしフィジカルでリリースされたもの。

彼らのサウンドは「Flyway」に代表されるようにエレクトロ・シューゲイザーの文脈にも跨ってきた。それは昨年3月に来日していたフランスのピコピコ系シューゲイザー・バンド、テープワームスと筆者がディスクユニオンへ赴いた際、メンバーのテオが彼らのアナログを買っていたのが象徴的だが、そのつもりで聴くと面食らう。

今作は遊び心溢れたアレンジ、Vaporwave以降の感覚、オリエンタルなメロディが全体を覆う。9月28日にリリースされたサッカー・マミーとのコラボシングル「rom com 2021」のアートワークではニンテンドーの「Mii」でメンバーを再現していることが示すように、彼らのサウンドがゲーム音楽の影響下にあるのも明らか。

日英ハーフのサラ・ミドリ・ペリーによるキュートなヴォーカルと時折日本語を織り交ぜる詞作も健在で、今作も「The River」「Well Rested」で不思議な日本語のポエトリーラップを披露。とにかく耳が楽しいベクトルに振り切った会心作だ。

(對馬拓)

 

Homeshake – 『Under The Weather』

Label – SHHOAMKEE / Sinderlyn
Release – 2021/09/10

マック・デマルコの元サポート・メンバーで、現在はソロで活動するカナダ・モントリオールのピーター・セイガーによるベッドルーム・プロジェクト、ホームシェイクの5thアルバム。

ヨレヨレのシンセ、ローファイな音像、「I Know I Know I Know」に顕著なレイドバック感、ソフトタッチのようなビート。倒れ込む身体を優しく包み、そのまま眠りに落ち、気付けば午前4時--みたいな、「人をダメにするソファ」さながらの音だ。「Half Asleep After The Movies」なんて、そんなものは究極の幸せでしかない。

チル的なサウンドがレイヴ・カルチャーへのアンチテーゼ、もしくは熱気を帯びたフロアをクールダウンさせる音楽なら、ホームシェイクはまさにチルウェイヴ以降のサウンドだろう。しかし厳密に言えば、この音楽は真夏のベースメントを急速冷却するためものではなく、残暑を攫う秋の涼風を運んでくれるようなニュアンスがある。あるいは夏の耐え難い酷暑をコロナ禍とするなら、ホームシェイクはそこからエスケープするためにそっと手を差し伸べているのかもしれない。

とにかく、本作にはそんな優しいテクスチャーが備わっている。その下地には、これまで着実にリリースしてきた作品が裏付けとして存在しているのだろう。

(對馬拓)

 

平手友梨奈 – 『かけがえのない世界』(Single)

Label – Sony Records
Release – 2021/09/24

欅坂46のセンターからソロ活動に移行した平手友梨奈が、配信限定の1stシングル「ダンスの理由」に続いて発表した本作。ミュージカル調のダンス・ナンバーで彩られる世界観の軸は、唯一無二の存在感を放つ彼女にしか語れない「有限の愛」である。

“Love is… 永遠なんかじゃないってこと ”

本作で歌われているのは、愛が完結したあと、自分にとって本当に大切な人はどこにいるのかと彷徨う主人公の姿だ。人と人との関係性が確固たるものから流動的なものへと変容している現代。愛に限りがあると歌うラブソングも比例して増加傾向をたどる中、本作には「彼女だから歌える」説得力のようなものが感じられる。

並外れた強い意志によって身体表現を高みに押し上げ、孤独になったとしても怯まず、自身の存在意義をダンスで、歌で叫び続けるソウルを持ち続けてきた平手友梨奈。そんな彼女が歌う愛は、絶対的なものでもなければ束の間の陶酔を呼び起こすような甘いものでもない。

孤高ゆえ去られる主人公、前途に突然失われる愛。「君がもういないこと」の苦しみを、称えるべき孤独の上で踊り歌う。平手友梨奈というカリスマ性を持った人物にしか歌えない音楽があることを証明してみせた、力強いアイデンティティ・ソングだ。

(安藤エヌ)

musit編集部