musit的マンスリーレコメンド/2021年11月

musit的マンスリーレコメンド/2021年11月

2021年下半期より、musit所属ライター陣が月ごとに新譜をセレクトし、レビューを展開してきた本連載だが、今月よりさらにパワーアップ。新たなレビュアーとして、大阪を拠点に活動するロック・バンド、colormal(カラーマル)のフロントマンであるイエナガを迎えてお送りする。

2021年11月は、Total Feedbackでのレコ発を成功させたsugardropをはじめ、満を持してセルフタイトルとなる1stアルバムをリリースしたYONA YONA WEEKENDERS 、ポストロック・シーンに堂々の復帰を果たしたMaybeshewill、小松菜奈との結婚を発表したことでも話題の菅田将暉、2年ぶりの新作となった土岐麻子、塔本圭祐(ex. Kidori Kidori)のソロ・プロジェクトであるSuhm、現行エレクトロニック・ミュージックを牽引するAlva Notoなど、計9作品をピックアップ。

sugardrop『EVENTUALLY』

Label – TESTCARD RECORDS
Release – 2021/11/03

3rdアルバム『GET THINGS GOING』(2019)、打ち込みを取り入れたEP『I.S.O.L.T』(2020)と精力的にリリースを重ねてきたsugardropの4thアルバム。

今作は『I.S.O.L.T』を引き継ぐ煌びやかな電子音をアクセントとして取り入れつつも、全体的にはUSオルタナを想起させるざらついたギターと泣きメロの応酬を展開。キャリアに裏付けられた安定感と洗練さ、そして随所に見え隠れするシューゲイズ的要素で聴く者を惹き付ける。タイトル通りファジーなギターが唸る「fuzzy」、For Tracy HydeのギタリストであるU-1が参加し色を添える「phases」、疾走感とドリーミーな音像が同居した「curse」など、ほぼキラーチューンと呼んで差し支えない内容で一気に最後まで駆け抜けていく。そして「outro」のチルゲイズでフィニッシュ。文句なしの1枚である。

なお、13年活動を共にしてきたベースの蓮井氏は、11/28のTotal Feedbackをもってバンドを一時離脱。sugardropは今作のレコ発として開催された本公演のトリを務め、Wアンコールにも応える盛況ぶり。皆に見送られながらステージを立ち去る蓮井氏の晴れやかな姿が印象的だった。

(對馬拓)

YONA YONA WEEKENDERS『YONA YONA WEEKENDERS』

Label – SPEEDSTAR RECORDS
Release – 2021/11/03

セルフタイトルを冠する1stフルアルバム。別々のパンク・バンドで活動していたメンバーが一同に会して結成され、あたかも突然変異したようなバンドだが、メロディーセンスや演奏技術はどこにも引けを取らず、1度ライブを観れば自然と体は揺れ、喉が渇き、酒を飲みたくなる。

まさに「音を楽しむ」を体現する彼らの根底にあるものは友情だ。ヴォーカルの磯野くんは以前JUNK FOOD PANICというメロディックパンク・バンドでマイクを握っていた。今とは全く違う直球無垢なスタイルで人気を博したが解散し、1度は音楽から離れ就職。しかし運悪くブラック企業に勤めてしまい、心身共に疲弊した彼を救ったのがベーシストのシンゴだった。その2人を中心に親好の深いメンバーが集まったのがYONA YONA WEEKENDERSである。

彼らは今作の前に3枚のEPをリリース。1作目『夜とアルバム』は名前の通り「夜に聴きたいアルバム」、2作目『街を泳いで』は「ある日の休日」、3作目『唄が歩く時』は「これまでとこれから」とそれぞれ異なるコンセプトがあった。そんな3部作を経たフルアルバムでは特別にコンセプトは銘打っていないが、あえて言えば「つまみになるグッドミュージック」だろうか。これはバンドのコンセプトでもあるが、セルフタイトルを冠する今作にはぴったりなテーマだ。

(Goseki)

Mikado Koko feat. Alice Voxel™『NFT Remixes』(Single)

Label – Self Released
Release – 2021/11/10

大阪在住のエレクトロニック・コンポーザー、ミカド・ココが今年9月にリリースしたアルバム『Alice in Cryptland』収録曲「NFT」のセルフ・リミックス。

まず元になった『Alice in Cryptoland』について。この作品は今年出版150周年となったルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』を題材に制作された、本人曰く「ナンセンス・ポエトリー・アルバム」。英国アナーコパンク・バンド、CRASSの元メンバー、ペニー・ランボーとイヴ・リバティーンが参加しているのも注目ポイント。全体を通してメランコリックな質感のトラックにポエトリーリーディングが載る、バッド・トリップ感溢れるフリーフォームなエレクトロ・ミュージックだが、8bitサウンドが特徴の「NFT」は比較的フロア向けなテクノ・トラックだった。

『NFT Remixies』は「NFT (ETH Acid Remix)」「NFT (XTZ Acid Remix)」という、ドープなアシッドテクノに生まれ変わった2トラックが収録されている。さらにフロア向けになっていると思いきや、どちらのトラックもアガってきたところで寸止めされる、最高にかっこいいのに最高にモヤモヤするイジワルな仕上がりだ。M気質のある読者諸兄にはとってもオススメですよ。

(仲川ドイツ)

Maybeshewill『No Feeling Is Final』

Label – The Robot Needs Home Collective
Release – 2021/11/19

イギリス・レスターのポストロック・バンド、Maybeshewill(メイビーシーウィル)の復帰作。2005年に結成され、Monoや65daysofstaticのようなサウンドでポストロック・シーンの先頭に立ってきた彼らは2016年に突然解散。そのまま伝説になるかと思われていた彼らは、2018年ロバート・スミスの熱望によりMeltdown Festivalで一夜限りの再結成ライブを敢行した。モグワイ、シガー・ロス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ナイン・インチ・ネイルズという面々と共にスミスのキュレーションするライブに招聘されたMaybeshewill。もちろん、あのまま終わるわけにはいかなかったのだ。

『No Feeling Is Final』は解散前のアンビエントでエレクトロニカなサウンドとは一転し、よりヘヴィーな意欲作となった。シンセサイザーの浮遊感あるサンプリングなども鳴りを潜め、生の楽器の音を感じさせる曲を多く収録している。大胆にピアノから、マスロック譲りのドラムで激しく展開すると、ギター・ノイズで頂点に達する。Maybeshewillらしさよりも、むしろ久しぶりに放たれた壮大なポストロック・アルバムという趣が強く、新たに始まったキャリアがどこへ向かっていくのかはまだ誰にも予想できない。

(鈴木レイヤ)

あいみょん『ハート』(Single)

Label – WARNER MUSIC JAPAN
Release – 2021/11/24

あいみょんの曲を聴くと、なぜこんなにも恋がしたくなるのだろう。今月24日に発売されたニューシングル「ハート」を聴いて、何度目かの疑問を覚えた。

あいみょんの歌は果実のようだと思う。彼女はきっと、リスナーと同じ場所に生きて、同じように恋をして、相手の気持ちが分からず不安になったり、自分に自信が持てなくなったりしている。それはとても普遍的で、多くの人が経験する「なんてことのない、オーソドックスな」そんな恋愛の形を、甘さや苦さはそのままに濃縮還元して歌に乗せる。熟れすぎても美味しくない、かといって若いままでは苦いような恋の一番旬な時期を、彼女は逃さない。重みでやわらかい土の上に落ち、果汁を滴らせ──まるで人恋しさで泣くように──朝日を受けてとびきり輝いている。

「ハート」に歌われているような“近くにいればいるほどなんだか胸が痛い ”恋だったり、“眠たい夜に眠れない夜 ”があることを、あいみょんという歌い手は知っている。日常のつつがなさと似ていて、なんら特別な装いもなく、ふと訪れる感情も。誰しもが覚えのある「特別じゃない」恋を歌えるアーティストだからこそ、あいみょんは恋多き若者たちのディーヴァとなりえているのだろう。

(安藤エヌ)

菅田将暉『ラストシーン』(Single)

Label – EPIC
Release – 2021/11/24

「さよならエレジー」「糸」「虹」に続く作詞/作曲・石崎ひゅーい、歌・菅田将暉のコラボレーションが、2021年初のCDリリースとして再び披露される。「ラストシーン」と銘打たれた本楽曲は、冬の澄み渡る空を想起させるギター・リフが爽やかなナンバーだ。

少しずつ年末の気配が漂ってきたこの頃、2021年という年を改めて回顧する人も多いはず。ある人にとっては息苦しく、またある人にとっては日常にひそむ些細な幸福に気づいたであろう、コロナ禍の2021年。

“大丈夫さ 小さく頷いてほしい
手に入れたモノも失ったモノも
その先で輝くモノも いつかきっとさ ”

全ての人にとっての「ラストシーン」が“凛とした青 ”であることを、この曲は祈っている。ままならない1年をともに生き抜いた人々への賞賛と、新たな1年への希望が、ストレートなリリックに散りばめられている。

“2021年しるしをつけよう ”

印象的なリフに彩られながら間奏の結びに歌われるこの言葉こそが、歌い手と創り手からの切実なメッセージであることに気づく。どこまでも鮮やかな青い光景を、私たちは胸に抱いて2022年を迎える。美しいその光景は、私たちにとって1つの救いであり、また脅威や困難にも負けない揺るがぬ真実を映している。

(安藤エヌ)

土岐麻子『Twilight』

Label – A.S.A.B
Release – 2021/11/24

「黄昏(トワイライト)を贅沢に過ごしてほしい」と本人が思いを込めた、約2年ぶりのオリジナルアルバム。

黄昏時とは薄明かりの夕方を意味するが、英訳に用いられる「Twilight」は日の出へと向かう時間帯のことも指す。前作『PASSION BLUE』までのシティポップ三部作では、シティガールとして街の中から変わりゆく景色を切り取ってきた彼女だが、今作はどこか視点が俯瞰へと移されたように感じる。前作からトオミヨウとのタッグが継続されつつも、新たに関口シンゴやTENDREを迎え、サウンドの面でもネオソウルの温度感を孕んだ新たな一面を覗くことができる。

“土砂降りのこんな日を あなたがどんなふうに 過ごしているのだろうかと 思うと胸がくるしい ”

新型コロナウイルスが生み出した人との距離を、これまで街の中から主人公の一人として物語を紡いできたアーティストが歌うにはあまりに切実な内容である。変わってしまった生活は斜陽のようであり、そこから立ち直りゆく昨今は日の出前のようでもある。それらをどちらとも決めつけず、ただトワイライトの中であると歌い上げることは、名うてのシティポップアーティストである彼女にしか成し得ない感覚であると言えるだろう。

(イエナガ)

Suhm『Suhm1』

Label – Bideo Records
Release – 2021/11/24

Kidori Kidoriが活動の終焉を迎えたのは2017年の7月。その後約5ヶ月の時を経て、マッシュ、もとい塔本圭祐が「Suhm」名義でソロ・プロジェクトを始動。突風の如く駆け抜けたバンド時代とは裏腹にマイペースな楽曲制作を行っていたが、今月ついに1stアルバムをリリースした。タイトルは自身の名義を冠した『Suhm1』。

「眠れない夜」がテーマの今作。そのコンセプトをなぞるように浮遊感のあるメランコリックなサウンドと、夜の底まで深く沈みゆく内省的な歌詞が聴き手の心を奪う全8曲はUKロックやファンク、テクノなどを織り交ぜてアグレッシヴなメロディを主体に展開されたKidori Kidoriとは非対称的だ。しかし「僕の死体はジャケにして」や旧知の間柄である橋本薫(Helsinki Lambda Club)をラッパーに迎えた「不死身でいて」で歌われる諦念さえ含まれた死生観、また「あわ、クラゲ、ニコチン」の揺蕩うような気怠さは、夜ごと感じる寂寥や1人反省会も忘れて安堵の表情で身を委ねることができる。度々配信を行い、聴き手と対話をしながら不安を分かち合って完成された今作で描かれるのは、夜の静寂を映すと共に、項垂れた夜を救う純然たるベッドルーム・ポップだ。

(翳目)

Alva Noto『HYbr:ID vol.1』

Label – NOTON
Release – 2021/11/26

ドイツの電子音響/IDMレーベル《Raster Noton》総帥、アルヴァ・ノトの新作は、​​ベルリン国立バレエ団によるコンテンポラリー・バレエ作品「Oval」(2019)への提供曲を収録した「HYbr:ID」(ハイブリッド)シリーズ第1弾。パルス、ドローン、ノイズ、冷たい金属を想わせる電子音で構築された純米大吟醸、しかも雫採り……のような、抽象的かつ研ぎ澄まされた作品。「Hadron」「Collider」など量子力学の用語が並ぶタイトルには想像力が掻き立てられます。

「Oval」は一部をYouTubeで視聴可能。無機質な音、デジタルアート的な映像、コンテンポラリーなダンスという組み合わせは、cyclo.でのパートナー、池田亮司が在籍したダムタイプの代表作「S/N」を連想させますが、ダンスは意外にも肉体的。それぞれの「舞踏」へのアプローチの違いが興味深いです(素粒子が意外とアクティブでアヴァンギャルドな性質なのも関連するかも)。

CDやアナログ盤でもリリースされましたが、個人的には断然CDがおすすめ。音の立ち上がり、アタックが全然異なり、アナログ盤の音質が絶対的に有利ではないことを教えてくれます。また、フィジカルには収録された9曲それぞれの音と音響記号に基づいたグラフィック図形譜も付属され、視覚的にも楽しめます。

(仲川ドイツ)

 

musit編集部