musit的マンスリーレコメンド/2021年12月

musit的マンスリーレコメンド/2021年12月

2021年下半期より、musit所属ライター陣が月ごとに新譜をセレクトし、レビューを展開してきた本連載。年内最後となる12月は、先月より参加しているイエナガ(colormal)に加え、butohesのベーシストとして作詞も手掛けるFgをレビュアーに迎えてお送りする。

2021年12月のラインナップは、《Dirty Hit》からデビューを飾ったNo Rome、今年2作目となるアルバムでシーンを賑わせるunderscores、ソロ・プロジェクト移行後初となるアルバムをリリースしたKIRINJI、映画『ドライブ・マイ・カー』の劇伴も記憶に新しい石橋英子が参加したRNAなど。

No Rome『It’s All Smiles』

The 1975擁する《Dirty Hit》からリリースされたデビュー・アルバム

Label – Dirty Hit
Release – 2021/12/03

フィリピン出身、The 1975擁する《Dirty Hit》所属のノー・ローム(No Rome)。EPのタイトルに現代芸術家・因藤壽の名を掲げたり、Twitterで「中田ヤスタカといつか仕事をしたい」と発言したりなどアジア的な親しみを感じる彼だが、デビュー・アルバムはそれを確信に引き寄せる。

Dirty Hit印と言うべき、コンプ感満載で大胆にクリップ(音割れ)も組み込んだ音像。beabadoobeeとのコラボ曲「Hurry Home」でも片鱗が見えていたが、楽曲全体のコード感をループ基調ではなく大きなストーリーに沿って組み立てる技法はさらに進化。大胆なグリッチやエディットは絵画を観るようだ。

Mura Masa『R.Y.C』もそうだが、ロック・バンド出身でないアーティストが扱う歪んだギターやベースは、どうしてここまで自由なのか。今作もその奔放なギターにオルタナティヴの血脈が流れていることを、情けなくも嬉しく感じてしまう。

“When she comes around / I never try / I never want to / But I love her so”

どこか諦念めいた歌詞は谷川俊太郎『あのひとが来て』を想起させた。愛する人や音楽における憧れに近づいても、諦めを抱いて俯瞰してしまう。このバランス感覚がDirty Hit的音像で鳴らされることに胸を打つ人は多いはず。

(イエナガ from colormal)

underscores『boneyard aka fearmonger』

3月リリースの『fishmonger』に続く2021年2作目のアルバム

Label – Self Released
Release – 2021/12/03

米在住のトラックメイカー/プロデューサー、underscoresの本年における快進撃は見事なものだった。ギター・ロックを重点に置きながらもヒップホップやポップ・パンク、アンビエント、ハードコアなど複数ジャンルを縦横無尽に駆け巡り、湧き出る創作意欲と激しい衝動を叩きつけた『fishmonger』から約9ヶ月後のリリースとなった本作。

窓ガラスを鉄パイプで粉々に叩き割り、満面の笑みを浮かべながらクラブへ誘う厄介な友達のような「Everybody’s dead!」を筆頭に、キュートなエレクトロ・ポップの音像を志向した「​​Girls and Boys」、冒頭約10秒で鳴るクラブ・ミュージックから突然ベッドルーム・ポップ調の美しいバラードへと切り替わる「Gunk」──と、本作でも自由奔放でルール度外視のアルバム構成は健在。また、前作から続く楽曲の節々で登場する“Cerebrity?”の合言葉も、underscoresという1人のアーティスト性を象徴するに相応しく思う。多くの音楽リスナーが年間ベスト・アルバムを決めるこの時期に場内荒らしの如く飛び込んできた、Hyperpopのさらなる地殻変動を約束するような1枚である。

(翳目)

KIRINJI『crepuscular』

ソロ・プロジェクト移行後初、振り幅の広さを見せる最新アルバム

Label – UNIVERSAL MUSIC
Release – 2021/12/08

堀込高樹のソロ・プロジェクトに移行後、初となる新作アルバム。いきなりドキッとさせられるタイトルの「ただの風邪」が暗示するように、ここ2年ほどのコロナ禍を経て堀込自身が感じたものを間接的に(あるいは真正面から直接的に)楽曲に落とし込んでいる。特に「再会」は軽快なトラックと、「夢オチ」を描くことでソーシャル・ディスタンスを強いられる我々を見事に照射した詞作のコントラストが切なく、胸に染み入る。

サウンド的にはテーム・インパラなどの現行サイケをリファレンスとし、ダンサブルかつ音響的に面白いものを追求した本作。Maika Loubtéのフランス語詞が印象的な「薄明」や、Awichのラップが冴え渡る「爆ぜる心臓」などの客演を含め、キャリア史上最も振り幅の広い楽曲群を収録。KIRINJIとしてのアイデンティティを拡張させた1枚と言える。

「crepuscular(クリパスキュラー)」は「薄明薄暮性」という意味で、主に明け方と夕方に活動する動植物の性質を指す。思えば今年20周年を迎えたビョークの自己内省のアルバム『Vespertine』も「薄暮性」という言葉をタイトルに冠していた。全く異なる両者の作品が交わる2021年という時代に、何か不思議な力が作用している気がしてならない。

(對馬拓)

RNA『A Taste of…RNA』

石橋英子らを擁するノーウェーヴ・バンドのライブが音源化

Label – […]dotsmark
Release – 2021/12/08

石橋英子、コサカイフミオ、草深公秀によるスーパー・ノーウェーヴ・バンド、RNAが2018年に六本木Super Deluxeで行ったライブの音源化。バンド名は、かつてNYで活動したノーウェーヴ・シーンの代表的バンド、DNAのオマージュだろう。

この作品を聴くにあたり、ふと「そもそもノーウェーヴとは何だ?」と疑問を持った。というのも、このジャンルはブライアン・イーノがプロデュースした伝説的なコンピレーション・アルバム『NO NEW YORK』とほぼ同義語と言って差し支えない。そしてここに収録されたグループ、先に挙げたDNA、マーズなどのバンドは演奏技術がない故にノーウェーヴになったはず。その証拠に、ザ・コントーションズはそこそこ演奏技術があるジェームス・チャンス(と当時の妻のアニヤ)がグループの主導権を握ってディスコ化した途端つまらなくなっ…失礼、ノーウェーヴとは呼ばない音楽になった。

では、このベテラン・ミュージシャン3人の演奏は? 私はノーウェーヴだと感じた。何故ならこの作品で聴くことができる<楽音/非楽音の境界を無視して音を使って、純粋に芸術性を追求する>という行為もまたノーウェーヴの本質だと思えたからだ。

Don’t think. Feel…答えは常に演奏の中にあるのだ、多分。

(仲川ドイツ)

Bearwear『The Incomplete Circle』

日本語詞など独自の進化を感じさせる1stフルアルバム

Label – ZAYA RECORDS
Release – 2021/12/15

『The Incomplete Circle』は、Bearwearの新しい進化が垣間見えた2021年の大名盤となった。

私から特筆したいのは歌詞だ。海外に通用する発音とリリックセンスが物語るように、ヴォーカルのKazmaは今まで英詞にこだわっているように思えた。そのため、THEティバと出したスプリットEPの楽曲「Far East」で明智マヤが日本語を歌った時には驚いた。

今作では、ついにKazma本人が日本語を歌う。彼らは海外に通用する音楽を諦めたのかと言えば、それは断じて違うだろう。この変化は、コロナ禍で海外との間に大きな見えない壁が生まれてしまった今、改めて日本で活動する意味を考えた結果のように思える。Kazmaの歌う日本語はそれほどまでに日本らしい美しい言葉で綴られているのだ。「Circle」の“さざれ石ぼくらは 転がりながら進んでいく まだハダカさ苔もむさずに”という歌詞も国歌を彷彿とさせる。また、自動翻訳機で読み上げられる異色のポエトリーリーディングと時折混ざり込むKouの声が心地良い「umi」も、そこで描かれている孤島は日本を意味しているのではないだろうか。

この発想力は今後の彼らの大きな武器になるだろう。独自の進化を遂げた彼らは、この先日本のインディー・シーンを牽引する存在となるはずだ。

(Goseki)

NOUGAT『40 MINUTE MEDITATION』

ツイン・ベース・フォーピース・バンド、その名もNOUFAT(ヌガー)の2ndアルバム

Label – LIKE A FOOL RECORDS
Release – 2021/12/15

針金と木材が無骨に、しかし緻密に組み上げられたオブジェ。触れてみると、人肌より少し冷たいくらいの温もりがある。その整然とした歪な姿に、なぜかノスタルジアを覚える。どこか人懐っこい繰り返しの途中に、目が離せないような亀裂を見つけ、胸に握り拳を当てる。別の角度から覗くと、鉄と木の細い継ぎ目があり、その繊細さから寂寥の念に胸が冷たくなった。

まず2本のベースがどのように役割分担しているのかを確かめながら聴き、今度はなるべく全体を聴いてみた。珍しい編成のバンドだからかっこいいのではなく、全ての楽器がその役割を全うしている、この音像の全景に心奪われたのだと気づく。全てのリフの構築美と、遠くにぽつんと佇むようなヴォーカル、隙間にベールのようなコーラスが挟まる、そして全ての楽器が空間を埋めた時、鮮烈なギター・ソロが刻み込まれる。ルーツとして挙げられているバンドには明るくなかった私でも、容易に脳を穿たれてしまった。

感情を押し殺しながら日々をとぼとぼ歩きつつ、ふとしたときにどうしようもなくバーストしてしまう。まるで人間のような、でもそうではないような、けれど間違いなく私たちに寄り添う音楽だ。

(Fg from butohes)

銀杏BOYZ『GOD SAVE THE わーるど』(Single)

「MajiでKoiする5秒前」のシューゲイズ・カバー(?)を収録

Label – UK.PROJECT/初恋妄℃学園
Release – 2021/12/15

2020年リリースの最新アルバム『ねえみんな大好きだよ』に収録された「GOD SAVE THE わーるど」をシングルカット。カップリングを2曲加え12インチとしてリリースされた。

UCARY & THE VALENTINEがプログラミングを手掛け、打ち込みのトラックが神秘的でスペーシーな雰囲気を醸し出すエレクトロ・シューゲイザーに仕上がった表題曲をシングルにする辺り、峯田和伸本人もお気に入りのナンバーなのは想像に難くないが、今回両手を挙げて賞賛すべきは、広末涼子が1997年にリリースした1stシングル「MajiでKoiする5秒前」のカバー。男性ヴォーカルによるカバーの発売は初めてだというが、これがもう、イントロが始まる瞬間から銀杏BOYZのカラー、というかシューゲイズをまぶしたギターが押し寄せてくるのだから、思わず笑ってしまう。原曲の作詞/作曲は共に竹内まりやだが、最初から峯田が書いた曲だという錯覚すら覚えるのだ。「原曲超え」という表現は安易に使いたくはないが、リスペクトを込めた上で完全に自らのものにしてしまった、とても稀有な例なのではないだろうか。

なお、カップリングには荒井優作による表題曲のリミックスも収録。こちらも好き勝手やっており、なかなか好感触。総じて名シングルである。

(對馬拓)

* * *

予告

2022年1月、本連載のレビュアー陣による「年間ベスト」記事を公開予定。2021年リリースの作品から個人的な年間ベスト・アルバム(EP含む)を5枚選出し、1年を振り返る企画となっております。ご期待ください。2022年も「musit的マンスリーレコメンド」をよろしくお願いいたします。

musit編集部