スティーヴ・ヴァイ、10年振りの新作スタジオ・アルバム『Inviolate』発売──進化を続けるギタリスト

スティーヴ・ヴァイ、10年振りの新作スタジオ・アルバム『Inviolate』発売──進化を続けるギタリスト

皆さんは稀代のギタリスト、スティーヴ・ヴァイをご存じでしょうか。

アルバム『The Ultra Zone』ではB’zを客演に迎えているほか、テレビドラマ『医龍-Team Medical Dragon-』の挿入歌に「Building the Church」が使用されたり、バラエティ番組でも「Bad Horsie」などの楽曲が多く使われたりしているため、彼の存在を知らなくても、1度くらいは彼の曲を耳にしたことはあると思います。

そんなスティーヴ・ヴァイですが、先月ニュー・アルバム『Inviolate』を発売しました。前作の『Modern Primitive』は長年温めていたアイデアを形にしたものだったので、「書き下ろし」という意味では2012年リリースの 『The Story of Light』以来、 10年振りとなります。

彼らしい圧倒的なテクニックに打ち出されたアイデアとユーモアに溢れる作品に仕上がっている本作。スティーブ・ヴァイ自身も、インタビューで‘‘「俺の作品は長いものが多いし、コンセプトがたくさんあったり、ストーリーを軸に遊んだりしている。今回はそういう要素が一切ない。今回は、俺がみんなの前で演奏できるように形にして録音したいと思ったかなり濃いインストゥルメンタル曲だけが9曲入っているんだ。」 ‘‘(引用:https://gekirock.com/news/2021/12/steve_vai_inviolate.php)と発言していたように、ツアーでプレイすることを前提とした曲が多数収録されています。それでは、本アルバムの中でギタリストとして気になった楽曲を紹介していきたいと思います。

M1「Teeth Of The Hydra」

今作のオープニングを飾るこの曲は、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観た時のインスピレーションをギターに落とし込んだ楽曲で、5年もの月日をかけて開発された脅威のトリプルネック・ギター「The Hydra」を使用するために書き下ろされています。曲のイントロも映画のPR動画をオマージュするなど、作品に対するリスペクトが感じられます。

「The Hydra」はその名の通り多頭を持ったギターで、12弦ギター・9フレット以降はフレットレスにサスティナー・ピックアップを搭載。また、メインのメロディを弾く7弦ギター、4弦ベースの3,4弦はフレットレスという仕様に加え、ボディに13弦のハープ弦、ピエゾ、MIDIなど搭載した豪華な仕様となっており、実際曲を聴いていると所々でハープをかき鳴らしている音、ブレイク後のソロ回しでフレットレスのベースの音、12弦フレットレス・ギターの音が聴こえます。

MIDIとLANケーブルが挿せるポートも搭載しているため、楽曲の中で鳴っているSEもこのギターで鳴らしているのかもしれません。

そのほかにもLEDに加え、ニキシー管のようなライトが搭載されており、ステージを華やかに彩ってくれそうです。ギターのイメージが先行してできあがった曲という点も面白いですよね。

M3「Little Pretty」

スティーヴ・ヴァイにしては珍しく、「Gretsch G6118T-60」を使用した曲です。

スティーヴ・ヴァイといえばIbanez社のギターのイメージがありますが、ほかにも「Gibson Firebird」 「ES-335」 「Fender Jaguar」など自分が愛したギターを多数コレクションしており、その中の1本がこのギターだそうです。

「ずっと壁に飾っていたが、ふと手に持った際にこの曲のリフにハマったため、急遽リペアに出した」と語っているように、ほどよく低出力でホロウボディによる軽やかさときらびやかなギターの音色が、この曲のジャカジャカした弾き方をするリフとマッチしています。耽美なコードアルペジオもホロウボディならでは。

なお、本楽曲のスタジオMVではIbanezのホロウボディを弾いています。

M4「CandlePower」

2020年6月6日の60歳の誕生日に公開された曲。この曲は1995年にリリースされたEP『Alien Love Secrets』に収録されている「The Boy from Seattle」を彷彿させるような爽やかなクリーン・トーン のカッティングが印象的な楽曲で、シングルコイルのピックアップが搭載されたストラトキャスター系ならではのサウンドです。

本人もこの曲は挑戦の曲と発言しており、「ストラトキャスターは自分にとっては上手く弾けないギターだが、独特なトーンが好きなため、あえてストラト・スタイルのギターで弾く」「クリーントーンのみで弾く。過去数回やったことはあるが、あまり自分にとってはノーマルではない」「(ヴァイのプレイの特徴と言える)アーミングプレイをあえて行わない」「フィンガーピッキングのみで弾く」という4つの縛りを課しており、いつもとは違ったスタイルに挑戦し、新たな世界を開きつつも、それさえ自分の新しいスタイルとして取り込んでいく姿勢に感銘を受けました。

エフェクターでコンプレッサーとリヴァーブをかけ、ギターはストラトキャスターでピックアップセレクターのハーフトーンで弾けばこういった雰囲気を出すことはできますが、ベンドのテクニックやセンスは巧みな技です。

M7「Greenish Blues」

ヴァイにしては珍しいブルース・ナンバー。バックに流れるオケは、正統派のブルース進行の上に大胆なアーミング、ワーミーペダルでのギミック的な音、タッピング、スケール・アウトと徐々に盛り上がっていく演奏。

これぞスティーヴ・ヴァイと言うべき曲に仕上がってます。

ちなみにデビュー当時からスタジオアルバムの7曲目はバラード・ナンバーの指定席となっており、2000年には7曲目だけを集めたコンセプトアルバム『7th Song』が作られているほど。

M8「Knappsack」

配信されている動画内で、手術後の右手を三角巾で吊った状態で左手のみを使ってハンマリング、スライド、ベンドアップを駆使し、ノンピッキングで演奏をするこの曲はまさに神がかっていて圧巻の一言。

この曲は右手の治療時期に届いたIbanezの新しいシグネーチャーギター「Onyx Black PIA」を非常に気に入っており、なんとかして弾きたいという思いから書き上げた曲。左手だけでもレガートが弾けるとコメントしていましたが、かなり難易度の高い曲になってます。

動画内では1曲弾ききっていましたが、さすがに録音は張り合わせだと信じたいと言うほど高い技術の詰まった内容です。右手を痛めたことのおかげでこういった反響を呼ぶパフォーマンスができたと語る彼は、逆境の時でもアイデア次第ではチャンスにもなり得ると教えてくれているように感じます。

まとめ

このアルバムを作る前、スティーヴ・ヴァイはアコースティック・ギターと歌モノのアルバムをレコーディングしていたらしいのですが、ツアーを早く始めたいという欲が強くなり、一旦ツアーに出るという目標を達成するために今作を作り上げたとのこと。確かに不朽の名盤『Alien Love Secrets』のような、ライブを意識したピュアなギター・トーンが詰まったアルバムになっています(アコースティック・アルバムも気になるので、そのうちリリースされることをを心待ちにしています)。

個人的にはスティーヴ・ヴァイの名を一躍有名にしたアルバム『Passion and Warfare』と、スティーヴ・ヴァイがボーカルに初挑戦した『Fire Garden』 もおすすめですよ。

Ot3