【連載】Black Country, New Road/Big Thief/米津玄師/Parannoul ──musit的マンスリーレコメンド【2022年2月】

【連載】Black Country, New Road/Big Thief/米津玄師/Parannoul ──musit的マンスリーレコメンド【2022年2月】

2022年2月にリリースされた新譜の中から、musitのレビュアー陣がおすすめしたい作品をピックアップ。全作品にコメントを付けて紹介する。新譜のディスクガイドとして、是非参考にしていただきたい。

2月のレビュアー

安藤エヌ/翳目/對馬拓/仲川ドイツ/Fg(butohes)

崎山蒼志『Face To Time Case』

Sony Records
2022/02/02

2002年生まれのシンガーソングライター・崎山蒼志による、約1年振りのメジャー2ndアルバム。前作ではアバンギャルドな音像をストレートにぶつけていた印象を持ったが、今作においては純粋なポップスに近寄ろうとする姿勢が窺える。しかし、それであっても変わらず膨張していく熱量を感じることは確かだ。

「舟を漕ぐ」「嘘じゃない」ではドラマチックなサウンド・アプローチを展開。しかし歌モノとしての枠からは外れておらず、日本語の甘美さを十分に堪能できる味わい深い楽曲が並ぶ。一方、アコースティック主体のメロディで構成された「Helix」や「逆光」では、崎山自身がデビュー当時から携えていた装飾を減らすことで表現する鋭利な音像を浮かび上がらせる。また以前より同世代のミュージシャンらとタッグを組んでいた崎山だが、本作でも石崎ひゅーいやたかはしほのか(リーガルリリー)との共作を収録。前者は甘くクリーンなサウンドがある意味「王道な」Jポップに感じるものの、崎山が自身の中に新たな可能性を見出すためにあえて志向した、今作における挑戦の曲と捉えていいのかもしれない。後者においては現実との対峙を綴る歌詞でありながら、たかはしと崎山のハーモニーが不思議とファンタジーな世界観をもたらす。

自身の音楽性を更に拡張しながら制作された本作。メジャー・デビューを始め、タイアップや多数のコラボレーション等、見える景色が変わったからこそ自身を立ち返ることができたのだろう。また同時に1人のミュージシャンとしてのチャレンジ精神も劣ることなく真摯に作り上げられた、メジャー2枚目に相応しい内容に感じた。

(翳目)

Black Country, New Road『Ants From Up There』

Ninja Tune / Beat Records
2022/02/04

ロンドンの音楽家集団、Black Country, New Roadの2ndアルバム。様々な音楽メディアからの賛美を獲得したデビュー作『For the first time』からほぼ1年後に届けられた本作は、アレンジやアンサンブルの精度が増し、やや力技で押し切った部分もあった前作からネクストレベルに上がった印象。

彼らの魅力のひとつは多国籍/無国籍感。前作のように1曲目からクレズマーを披露することはなかったが、ジプシー音楽のようなフレーバーは随所に散りばめられている。アルバムは短いインスト曲「Intro」(そのままじゃん!)から、既に彼らのライブでのアンセムだというシンガロング必至な「Chaos Space Marine」に繋がり、明るく楽しく幕を開ける。穏やかでフォーキー、時に室内楽のような美しい曲を挟んでアルバムは進むが、同時に孤独や不穏の影も感じられる。そして終盤ではエモーショナルに爆発する場面も。

アルバムのタイトルは、直訳すれば「這い上がる蟻たち」。美しいだけではない人生の悲喜交々を働き蟻の一生に重ねているだろうと安直にイメージしたが、彼らのネーミングって結構ストレートだったりするので、もしかしたら本当にそうなのかも。

ところで。去る1月31日にメイン・ヴォーカルで作詞担当のアイザックが脱退した、という残念なニュースが発表された。バンドはヴォーカル・パートを振り分けて進んでいくそうだ。雨上がりに飛び立つ羽蟻のように、其々の道を行く彼らに今後も期待したい。

(仲川ドイツ)

中村佳穂『Hank』(Single)

AINOU
2022/02/04

3/23に発売される3rdアルバム『NIA』から、先月リリースの「さよならクレール」に続き先行配信された楽曲。様々な作品に参加しているギタリスト・西田修大が、曲の原型を持ってきたというだけでなく、君島大空もギタリストで参加。この2人がギターを演奏し、そこに歌を乗せている楽曲制作の様子は、中村佳穂のツイッターにて公開されている。

2本のギターから奏でられる、ふんわりとしたアルペジオが重なり、生まれたぼんやりとした夢のような空間。そこに、中村佳穂の抑制された、ささやくような歌声が現れ、ふんわりとした層が重なってゆく。更にストリングスが加わり、あたたかい霧が飽和したのち、音が収束していく。ほかの楽曲より本来の歌の凄みが上手くパッケージングされていると感じた。

Hankという単語にはいくつかの意味があるが、本楽曲においては「(糸や髪の毛などの)ひと束」「輪」のことを指しているのだと思われる。淡々とした四行詩の形式で表記される歌詞は、同じ言葉で繋がりながら、変容する。基本的にはやさしい言葉の連なりに見えるのだが、個人的には“幾千の美しい朝たち ”というフレーズから、田村隆一の『四千の日と夜』という詩を思い出してしまった。

すると、この楽曲は人知の及ばない領域にまで“救われるためだよ きっと ”という彼女の言葉を届けようとしているのではないか、と思えてきた。優しさは、極まるほどに、おそろしさに近付いていく。ただ楽曲の温かさが余計な解釈、本来の意味すらも溶かしてゆくようで、何度も聴いてしまう。

(Fg)

米津玄師『POP SONG』(Single)

SME Records
2022/02/07

世を達観するエッセンスを含みながらもキャッチーな音楽で人々を魅了し、現代のJ-POPを語るに欠かせない人物となった米津玄師。才気溢れる彼が次なるクリエイトの題材として選んだのは「遊び心」だ。PlayStationの新CM曲として起用された、今月7日リリースの「POP SONG」。任天堂のゲーム『スーパーマリオブラザーズ』の35周年テーマソングとして制作された星野源の「創造」同様、ファニー&ポップなサウンドが耳に楽しい。

しかし両者を聴き比べると、星野源と米津玄師とではゲームというものへの解釈とアプローチがそれぞれ異なることに気づく。「創造」はクリエイティブ精神を鼓舞し、全ての表現者へ創る歓びを感じさせるリスペクトフルな曲となっているのに対し、「POP SONG」は米津イズムの根底にあり続ける仏教的な「悟り」の精神が垣間見える。

“1 2 3で愛を込めて もう一生遊ぼうぜ
準備してきたもの全てばら撒いて
そうさどうせ何もかも 全部くだらねえ ”

彼にとっては人生の全てがゲームなのであり、浮世を渡り遊ぶことこそが愉悦なのだ。「くだらない」と繰り返す歌詞からは、米津がボカロPであったハチ時代から歌い続けてきた、諸行無常の世をのらりくらりと遊び尽くし、最後には悟りを開く人間の姿が見えてくる。

遊んでいるように見えて、実は深い。「米津ワールドfeat.遊び心」とも言える、かつて子どもだった全ての大人に贈りたい、ユーモアに富んだ1曲だ。

(安藤エヌ)

Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』

4AD
2022/02/11

聴けば理解する、「無垢な魔法」という彼らを形容する言葉が一切の衒いもなく、誇張表現でもないことを。5thアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』(エイドリアン・レンカーのソロ曲「Anything」の歌詞に類似フレーズがある)は2枚組/20曲/1時間20分という長尺だが、飽きるかもしれないという不安も杞憂に終わるはずだ。

ロッキー山脈など、4つのスタジオで別々のエンジニアを迎えてレコーディングし、そこで生み出された45曲から表情豊かな20曲を厳選。トラディショナルなフォーク精神が根幹にあるが、インディーへの眼差し、実験的/野心的で「魔法」を生み出そうとするイノセンスも宿っており、それらが過去最高の純度で表出している。

序盤、パーカッシヴなサウンドを追求したプリミティヴな「Time Escaping」で聴く者を引き込み、鮮やかに発色する音像と軽快なタッチのドラムが高揚感を与える「Little Things」を経て、シューゲイザーにも通ずる揺らぎのあるギターをダイナミックに鳴らす「Flower of Blood」から低音を強調したダークな「Blurred View」へと繋がる前半だけでも感服だが、爪弾かれるギターと緩やかにうねるベース・ラインから綿密に構築された圧巻のアンサンブルへとなだれ込む「Simulation Swarm」も終盤を飾る名演だ。

彼らはフォーク・サウンドにおける飛躍の可能性を示しただけではない。とにかく音が楽しく豊かなのだ。バンドとして音を紡ぐ喜びが溢れている。こんなに幸せなアルバムがあるだろうか。

(對馬拓)

JYOCHO『しあわせになるから、なろうよ』

No Big Deal Records
2022/02/16

JYOCHOの2ndフル・アルバム。なんと8曲入り(うち2曲はインストで、前後の曲と繋がっている)で26分。楽曲に詰め込まれる情報量が多いため、極端に短いとは感じなかったが、慣れてくると一瞬で終わってしまう。

全パートのリズム・フレーズが繊細に組まれ、曲ごとに別々の宇宙を作り出しているのは相変わらずだが、今作ではギターの役割の変化が顕著だ。エレキギターによる音の幕、空間系で単音を飛ばすプレイやアルペジオのほか、M5「碧に成れたら」ではライブでの再現性を度外視した音響処理も取り入れられている。ピアノが前に出る楽曲も増えた。本作はCMやアニメのタイアップとなった、曲調が明るめでタッピング・ギターが特徴的な楽曲と、近年増えていたシリアスなトーンの楽曲とがバランス良く収録されている。

だいじろー(G. Cho.)の脳内にある哲学が反映された歌詞は、普段のマクロな視点よりも、「私たち一人ひとり」というミクロなものに目を向けている。例えばM6「悲しみのゴール」の“血縁を横目に 朝食済まして 歯車に向かう ”という部分は、かなりシンプルに日々の営みを言葉に置き換えていると読める。本作はミクロとマクロの視点が交互に連なった歌詞が多いため、世界の法則と普遍的な生活、日常が響き合うという書き方になっているようだ。個人的にはM2「みんなおなじ」の“誰もが違うという おなじは 苦しいこと”というフレーズに共感できたことに驚いた。とはいえ、おそらく説明されても全貌を把握できないであろう歌詞が無数にあり、繋がりも読み解けない。聴き馴染むほどに真意から遠ざかって行く気がするが、入門編としてもおすすめできる作品だ。

(Fg)

ステレオガール『Spirit & Opportunity』

地理学レコーズ
2022/02/16

全ての楽器がバランス良く、包み込むように鳴っている。既存曲も広いスケール感を持っていたが、ミックスや細かい楽器のフレーズ選びなどがその広さにようやく追いついてきたように思える。しかし、突飛なことをやっているような違和感はないのが、オリジナリティを更に深めたことの証拠だろう。なんとなく、Suchmosの持つロックンロールのアティテュードと近いものを感じた。

インタビューでは、リスナーに何かを訴えかける目的はないという旨が語られていた。共感を求めず、孤高でも孤独でもなく、ただそこに在ることの潔い美しさ。それがステレオガールのロックンロールなのかもしれない。

淡々と紡がれる歌詞には独特の終末感があるが、本人たちが絶望しているという風ではない。また、ヴォーカル・毛利が作詞を手掛けたM5「スクーター」の“そしてまた育つわ 絶望の種から 実際の影から 三階の花から ”というフレーズやM6「I Don’t (but someday)」の“そう 思ってたことは いつの日か だれか 毛布をかけてあげること まだ あきらめられないこと ”という歌詞にノックダウンされた。

以前寄稿したコラムで、「大人」という立場で今を生きる若者たちに向けた慈愛の視線のようなものを歌詞から汲み取ったことがあったが、いざ当事者である今の若者たちの言葉を見ると、現状に答えも方法もなく、ただ目の前にある現実と対峙していて、その姿がロマンも滲む表現で書き残されている。ただ、どこかを目指す歌詞も登場しているため、うずくまっている訳ではない。コロナ禍を脱した世界でステレオガールが何を鳴らすのか、今から楽しみになっている。

(Fg)

Blue Hawaii『My Bestfriend’s House』

Arbutus Records / PLANCHA
2022/02/18

バンド内で恋仲になるも破局、しかし音楽活動は変わらず共に行う──こうしたケースは欧米では珍しくない。具体的に挙げるなら、シューゲイザーのレジェンドであるSlowdiveやMy Bloody Valentineもその一例である。もちろんSonic Youthのように離婚と共にバンドが崩壊してしまうこともあるが…(あんなに哀しいことはなかった)。

カナダのエレクトロポップ・デュオ、Blue Hawaiiの二人も、一時は私生活のパートナーどうしだったが破局を迎えたという。しかし彼らの場合、そうした関係性の変化をかなりストレートに作品へと落とし込む、ある種のドキュメンタリー性を持ち合わせている点が特異だ。その最たる例が2013年のアルバム『Untogether』で、まずタイトルから直球だが、互いの幻を抱き合うようなジャケットを眺めながら内省的なエレクトロニック・サウンドに耳を傾けていると、なんともしんみりしてしまう。

近年の彼らはまた一味違う。開き直った(?)のか、2020年のEP『Under 1 House』(これまた意味深で「一つ屋根の下」的な意味を勝手に想像してしまうタイトルだ)のジャケットで二人はなぜか上裸になり、ノリの良いハウス・ミュージックで僕らを踊らせてくれたのだ。今作『My Bestfriend’s House』(もしかして二人は「親友」になれたのかも?)も、まさにそんな享楽性を志向しつつ、シルキーでスタイリッシュなサウンドにまとめ上げた作品となっている。何しろ1曲目のタイトルが「L.O.V.E.」ときた。泣かせてくれるじゃないか。

(對馬拓)

unlucksi『みらいをはなそう』

Maltine Records
2022/02/18

トラックメイカー・unlucksiが《Maltine Records》からリリースした4曲入りのEP。同レーベルからは2020年にHyperpopをモチーフにしたコンピレーション・アルバム『???』へ参加しているほか、In The Blue Shirtの代表曲「Fork in the Road」のリミックスも界隈のリスナーにおいては深く印象に残っていることと思う。筆者も以前足を運んだDJイベントにて彼のパフォーマンスを観た際、過剰にエフェクトのかけられたエモーショナルな音像とカットアップに鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた記憶があるが、その感覚は本作において確信的なものに変わった。

エレクトロニックな音を終始展開しながら、自己内省のように鳴る深くリヴァーブの施されたギター・サウンド。一方、「Invisible But Here Is」に見られる“ここで生きてる/ここで生きていく ”というフレーズと重なり合うように響く流麗なピアノの音色からは、背くことのできない「生」や、それに伴う孤独心を表しているように感じる。

未来を「話す」と「離す」のダブルミーニングであるというタイトル。「死生」というセンシティブなワードをコンセプトに用いた本作からは、彼が1人の人間であることに対して抱く不安さえ如実に感じ取られ、聴き手の人間的な感情を喚起させる。希死念慮、戦争、性道徳。それらについて、私たちは今話し合うと同時に、遥か遠くへと切り離さなければならない。

(翳目)

Parannoul(파란노을)『White Ceiling / Black Dots Wandering Around』

Self Released
2022/02/23

「何聴いてるの?」「リリイ・シュシュ」──世界的なバズを記録したアルバム『To See the Next part of the Dream』のリリースから丸1年。未発表曲や「흰천장 (White Ceiling)」のデモ・バージョンを収録したアウトテイク集が発表された。(当方ハングルは全く読めないため、翻訳機能を使用した拙い日本語訳の表現を借りるならば)本人曰く「粗悪だった昨年のアルバムからも脱落した曲だからクオリティがあまり良くないので、その点を勘案して聴く方だけ聴いてください」とのこと(Parannoulのブログを参照)。

だが心配はいらない、事前情報を一切知らずに聴いたら、おそらく彼の持ち味とクリエイティビティが詰め込まれた全くの新作だと信じて疑わないであろう出来なのだから。確かにアルバムと比較すると幾分クオリティは見劣りするかもしれないが、スーパーカーやナンバーガールを彷彿とさせるキャッチーなギター・リフとヴォーカル・メロディが印象的な「그곳에는 낭만이 있다 (Soft Bruise)」や、ピアノの弾き語りと共に進行し中盤からノイズがバーストする「성장통 (Growing Pain)」を筆頭に、粒揃いの楽曲が並ぶ。「언젠가 (Someday)」は一部のメロディを「아름다운 세상 (Beautiful World)」に転用していたり、完成版は10分だった「​​흰천장 (White Ceiling)」のデモは17分にも及びアレンジも異なるなど、アルバムと併せて聴くことでより深みも増していく。DAWを駆使して紡がれたローファイなサウンドに溺れながら次なるアルバムを待ちたい。

(對馬拓)

musit編集部