PELICAN FANCLUB、過去を肯定し未来へ連れ出す飛躍作『解放のヒント』レビュー(メジャー1stフル・アルバム『解放のヒント』発売記念②)

PELICAN FANCLUB、過去を肯定し未来へ連れ出す飛躍作『解放のヒント』レビュー(メジャー1stフル・アルバム『解放のヒント』発売記念②)

「ヒント」とは、問題を解決、または何かを創作するために必要な手掛かりのことを指す。不安や苦悩が散乱した中から1つの答えを導き出すためには、私たちはまずその「ヒント」を掻き集めなくてはならない。

千葉県出身の3人組ロック・バンド、PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)が今月2日にリリースした、メジャー1stフル・アルバム『解放のヒント』。このアルバムにも、上述した沢山の「ヒント」が隠されている。全16曲、約56分。バンドのフロントマン・エンドウアンリ(Vo. G.)が「過去の自分を抱き締めるために作ったアルバム」と語る姿を見、これまで彼らが歩んできたキャリアとメジャー・シーン以降の彼らを結び付ける飛躍作であることを確信したと同時に、今作を受け渡された聴き手においても、不条理に流れ行く時間の中で自らを肯定する救いの一手となる作品になることを感じた。

エンドウ、カミヤマ(Ba.)の両名が中学時代に掲げていたメジャー・デビューの夢を成就させてから約4年。一時は「ポスト・BUMP OF CHICKEN」とも囁かれ、またメジャー移籍以降は同レーベル所属のKANA-BOONの後輩的存在として認識されていたPELICAN FANCLUBが、現行の国内ロック・シーンから切り離すオリジナリティを確立させるまでにどんな「ヒント」を掴み取り、その歩を進めてきたのだろうか。本稿ではメジャー・デビュー以降の彼らの心理的変化を読み解きながら、彼らの最新作『解放のヒント』の内部に迫っていきたい。

葛藤と苦悩の上に打ち立てた新たなバンド像

‘‘「ヒントを手にして何かを得る、何かを得て心を解放する、そしてその先にまたヒントがある。その環のなかに僕らがいて、それぞれが主人公として生きていく。過去と未来を接続するのはいつだって、答えではなくヒントだと僕は想う。この作品は僕のことを歌っている。しかし、同時に君のことを歌っているのかもしれない。解放のヒントの先で、君以外の全てが景色に変わりますように。」’’

上記はリリースに際して、エンドウがオフィシャルで発表していたコメントだ。今作を作り上げていく工程の最中、既に次回作への意欲が湧いていたというほどに彼らの楽曲制作に対する熱量は増幅する一方だったが、そこに至るまでには無数の葛藤と苦悩があった。

発売当日の夜にMVが公開となったリード・トラック、M3「新世解」。メロディ自体は出来上がっていたものの、そこに嵌め込むための歌詞を書き上げるのには10ヶ月もの時間を要した。‘‘美意識と自意識が交わる交差点’’とはおそらく、デビュー当時に抱えていた「(楽曲制作に対する)美意識」と、聴き手に寄り添える音楽のクロスポイントを常に目指していたことを表すフレーズではないだろうか。‘‘この喜びも あの悲しみも 今夜くらいは剥き出しにして’’──幾つものアクセサリーを身に纏い、着飾ることで自身の精神性、またラディカルな思想を表現していた『ANALOG』(2015)や『PELICAN FANCLUB』(2015)から一転、気恥ずかしさを覚えながらもメンバーの後押しを受け、ストレートな言葉を用いて感情をリスナーの耳へ泳がせた『OK BALLADE』(2016)。自身の殻を破った先の景色との邂逅の末に完成させた本楽曲からは、エンドウアンリという1人の表現者が抱えていたリアルな葛藤が吐露されながら、行く先を見据える強硬な覚悟が感じ取られる。

フューチャー・ベースの質感を持ったイントロと、エンドウが敬愛する小林祐介(THE NOVEMBERS)からのインスパイアを感じるシャウトが耳に新しいM1「儀式東京」、「新世解」の前日譚とも捉えられる、サイバー・ストーリーのような歌詞にメロディックなサウンドを施したM3「俳句」では、両楽曲共に「PELICAN FANCLUBとは何か」といった自己内省が歌われている。何を表現し、何を歌い、どんな物語を紡ぎながら行く先を切り拓いていくのか。それはおよそ7年前に彼らが歌っていた‘‘表現の自由って何?’’(「Dali」)という疑問を再提示するものであると同時に、デビュー当時から現在に至るまで随所で位置付けられてきた「多幸感溢れるドリームウェーブ・バンド」や「ポスト・BUMP OF CHICKEN」などといった、既に飽和状態にある属性へカテゴライズされることからの脱却を試みているようにも思える。

既存のイメージを打ち壊す探究心がもたらした変化

特に近作で散見されるエレクトロニックな音像を志向するようになった点に関しては、2020〜2021年頃のライブのSEにイギリスのIDMプロデューサー・Iglooghostの楽曲「White Gum」を使用していることからもエンドウの音楽的嗜好の変移を裏付けている(以前まで使用していた、Rideの「Leave Them All Behind」からバンドの意思をダイレクトに訴求するSEの役割を受け渡された楽曲、という点で見ても、この変化は実に強烈な色彩作りとして意味を為している)。それ以外にも近年では(おそらくパンデミックの影響も関与していると思うが)リョウコ2000やTelematic Visions等宅録音楽を軸に活動を展開するミュージシャンらをフェイバリットに挙げているだけでなく、昨年リリースされた「Who are you?」の両A面カップリング曲「星座して二人」に関しては同年春に発表したEP『泳ぐ真似』が大ブレイクし、また本人も兼ねてからバンドのファンを公言しているトラックメイカー・Kabanaguがリミックスを提供。幅広いシーンに触れながらバンド然とした像を自ら打ち壊し、悠々と飛び越えようとする姿からは、ほぼ全ての作詞/作曲を手掛けるエンドウの飽くなき音の探究心を感じるほか、オフィシャルなリミックスとしてはAvec Avecによる「Dali」以来となり、その面でもアルバム・コンセプトである「過去の許容と肯定」、そして未来への接続が図られているように思えてならない。

話は逸れたが、本アルバムにはオリジナル版の「星座して二人」が収録されている。兼ねてから親交のある牛丸ありさ(yonige)とエンドウのディープで溶け合うような歌声、ダンサブルなメロディが煌々と輝く美しい情景描写を映し出すミドル・チューン。是非リミックス版と併せて聴いて欲しい。

「星座して二人」同様、天体をモチーフにした歌詞が艶やかなメロディで展開されるM5「ユーラ・グラビティ」。ライブ・ステージにおいて歴代のアンセムとなった「Dali」や「ハイネ」、「M.U.T.E」などといった過去作からの流れを感じるほか、昭和歌謡を思わせるウェットな質感はエンドウが昨年から弾き語りの際に度々カヴァーを披露している久保田早紀「異邦人」がモデルにあることを想起させ、マンネリ化に抗うトリッキーな楽曲であることを感じる。更には(これは言わずもがなではあるが)、タイトルにある「ユーラ・グ(ラビティ)」が歌詞の‘‘揺らぐ’’というフレーズに掛かっている点は、歌詞を読まなければ理解し得ないダブル・ミーニングで構成された『PELICAN FANCLUB』(2015)収録の「Chilico」や『Home Electoronics』(2017)収録の「ダダガー・ダンダント」(‘‘駄々が 段々と’’)と同じ手法を採用しており、当時から変わらないSF×言葉遊びが織り成すエンドウのユーモラスな感性に触れることができる。

メジャー以降で撒いた「ヒント」から得た受容と肯定

ノイジーなサウンドに果敢な歌声、また変拍子のコーラス・ワークが耳に残るM6「Meta」、‘‘地球の裏側の海の味を知ってる? それはまるでラズベリー’’と独特な視点が紡ぐ比喩を混ぜ込んだ、ドラマチックなミディアム・ナンバーのM7「海は青くなかった」、バンドの根幹にあるシューゲイザーの精神を真っ青に染め上げたような疾走感溢れるM8「青色のカウントダウン」を経て、終盤にかけてはメジャー以降のシングル曲が集中する。

前述した通り、今作は「自分を見つめ直すこと」を打ち立てて作られたコンセプト・アルバムだ。しかしその構想の出発点はメジャー以降のバンドの在り方、及び向かう先を悩んでいたエンドウが自らの色とは何かを探るべく制作を手掛けた「三原色」(M9,2019 アニメ『Dr.STONE』第1期OP)であり、その燃える衝動を「ディザイア」(M14,2020 アニメ『炎炎ノ消防隊』第2期ED)に託し、更に「Who are you?」(M13,2021 アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』ED)=自分たちは一体誰なのかを問い質したという、彼らが彼らたらしめるものを探し当てるべく「ヒント」を撒きながら着実に今作を完成に導いてきた背景がある。M10「Amulet Song」(2020)で歌われる‘‘いつまでもここで生きていたい’’‘‘間違いの全て 正解だったんだ’’というフレーズからも、本作のキーワードが「受容」と「肯定」であることが十分に理解できるはずだ。

今回新たに収録された楽曲群のうち、(私を含めて)最も彼らのフォロワーの胸を突いた楽曲がM11「透明願望」だろう。

瑞々しく爽やかなメロディラインに乗るのは、これまで彼らが発表してきた楽曲のセルフ・オマージュと思しきフレーズの数々だ。「三原色」や「ノン・メリー」、更にデビュー前の幻の名曲「最後の青」で歌われる‘‘もう愛しかないから (水になって僕は飲まれたい)’’の歌詞を引用。そして後半では今作の核とも捉えられる‘‘どの答えにもヒントを頂戴 信じれるか僕が決めるから この人生は一度きりだと 信じれるために見る夢’’と高らかに歌い、PELICAN FANCLUBという純然たるロック・バンドが今日に至るまで連続性の上に成り立っていることを確信した。

エモーショナルなナンバーで一気にピッチを上げ、1人残された舞台上で余韻に浸るようなミディアム・バラードのM13「騒がしい孤独」へ。‘‘気付いたよ ごめんね 受け入れたい今日までを’’のフレーズからは、彼らが積み上げてきたキャリアの中で拭い切れていなかった後悔を許容する強さを備えた存在へと成長していることを察する。その自らを肯定する力を手に入れた上で、聴き手側に寄り添える優しさを差し出す暖かな勇気を綴ったM16「少女A」で本作は幕を閉じるのだが、リスナーの目線で紡ぎ出す新たな視点を持った本楽曲は、彼らが中心となって幾重にも折り重なっていく輪を形成していく様を描き出した、躍動と希望に満ちたポップ・ナンバーだ。

彩度を増しながら成し遂げた自らの解放

楽曲以外の観点で言及すると、本作のジャケット・イラストは「三原色」のモチーフを彷彿とさせる、赤、青、緑の球体が幾何学模様のようなデザインで描かれている。この3色はエンドウ、カミヤマ、シミズ(Dr.)の3人が引き起こす化学反応を意味しているほか、2014年リリースのタワーレコード限定シングル「Capsule Hotel」から長く続いている球体をモチーフにしていることから、絶え間なく変化を繰り返しながら徐々にその彩度を増している姿を示唆しているように思えてならない。

「Capsule Hotel」

2017年に行われた、『Home Electoronics』のリリースツアーでエンドウが「PELICAN FANCLUBはこれからもっと大きくなる。だから着いてきて欲しい」と語っていたのが印象深く記憶に残っている。私もまさかこんな風に有言実行してしまうとは思っていなかったので、今はただ当時彼が豪語していたその言葉を何度も反芻しながら本作に耳を傾けている最中だが、PELICAN FANCLUBにとっての「音楽」とは自己内省のプロセスを経て自らを解放するための活動であり、無数のヒントを掻き集めながら宇宙で最も美しいアンサーを奏でる日を迎えるための手段なのだ、と思った。

後悔と苦悩に苛まれた自身を許し、未来へと導くための架け橋として作られた『解放のヒント』。情動的なエネルギーの放出がなされた今作は、彼ら自身の「ヒント」としてバンドに新たな息吹を吹かせると共に、リスナーの手を取ってどこまでも連れて行く。そうして辿り着いた先で彼らと答え合わせを行うべく、今は本作への理解をより深めながら、限りある時間で彩られていく景色への期待を胸に馳せようと思う。

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解放のヒント

翳目