【連載】Aldous Harding/mol-74/Rex Orange County/矢川葵 ──musit的マンスリーレコメンド【2022年3月】

【連載】Aldous Harding/mol-74/Rex Orange County/矢川葵 ──musit的マンスリーレコメンド【2022年3月】

2022年2月にリリースされた新譜の中から、musitのレビュアー陣がおすすめしたい作品をピックアップ。全作品にコメントを付けて紹介する。新譜のディスクガイドとして、是非参考にしていただきたい。

3月のレビュアー

翳目/對馬拓/仲川ドイツ/Goseki/Kaede Hayashi/Kensei Ogata/Fg(butohes)

mol-74『OOORDER』

SME Records
2022/3/2

メジャー2ndフル・アルバムとなった本作。フロントマンである武市(Vo. Gt.)以外のメンバーが制作を手掛けている楽曲が多く収録され、開けたポップスとしての意識が高まり、いわゆる「邦ロック」的な楽曲が増えた代わりに、インディーズ時代から続いてきた季節(主に冬)を感じさせる音色は、今作においては息を潜めていると言わざるを得ない。

ただし、既に確立されている、歌モノの裏で鳴っていても違和感なく、奥行きも伴わせるシューゲイズ/北欧ポストロック寄りのギター・アプローチは本作にも健在だ(特にM2「Renew」、M6「Answers」のサビなど)。『BORUTO』のEDに起用された「Answers」にしても、『ブルーピリオド』の主題歌となった「Replica」にしても、ベールがかかったような音像、各パートの楽器の明瞭な響きなど、稀有なサウンドをタイアップ作品でも鳴らしている点で、メジャー・シーンでは貴重なバンドになっている。

個人的にはurema時代から高橋(Ba. Cho.)のファンで、メジャー・デビュー後もベースでの和音やアルペジオのプレイが残っていたため、安堵と興奮があった。手掛けたうちの1曲であるM7「鱗」は、彼と仁木稔貴による2人組ユニット・Seebirdsでのスタイルが色濃く残っているが、違和感なくmol-74の楽曲としても聴けた。

水底から光のある場所まで浮上していくイメージで作られたという本作。光の届く場所でも無二の音像を保ったまま、より広いステージを彼らの音で埋め尽くしてほしい。

(Fg)

彼らはodolや雨のパレード、SHE’Sといった同世代のロック・バンドと共鳴し、互いに感化し合いながら徐々に彩度を増していったという印象があるが、今作はこれまでにリリースされたどの作品よりも多面的なトラックで構成され、聴き手の胸の中へ深く潜り込んでいくような内容であると感じた。

武市(Vo. Gt.)のファルセットを持続させる歌い方はさらに進化し、ストレートな歌詞に熱を持たせた、ある種飾り気のない歌い方へと変化している。楽曲面においても、ヴァイオリンやピアノを取り入れた雄大なM7「鱗」などバンドにとって新鮮味のある楽曲が並ぶほか、M8「ニクタロピア」では“変われない 変わりたい僕たちを ”と祈るように歌い、本作がコロナ禍以降の生活で生まれた閉塞感から抜け出すため、またメジャー・デビューから約3年もの月日の中で自身を立ち返り、バンドの新たな舵取りをすべく制作されたものと推察する。

インディーズ時代からの同期である(偶然にも同日フル・アルバムのリリースとなった)PELICAN FANCLUB同様、『BORUTO』や『ブルーピリオド』などとタイアップ作品が増えたことから慎重に作り込んでいる面も窺えるが、メンバー3人が目線を揃え、次なるフェーズへ進むために打ち立てたものであることは確かだろう。アルバム・ジャケットのように暖かな光が照らす先へ聴き手を連れ込んでいく、多幸感に溢れた意欲作だ。

(翳目)

Rammellzee『Krayzay』

Adhoksaja Records
2022/03/06

2010年に逝去したRammellzee(ラメルジー)のリミックスEP。2015年に発表された「Crayzay」が3バージョン、本作でもリミックスを手掛けるTeddy Bassの『Tattoos』(2018)収録のRammellzee参加曲「Puzzle Master」が2バージョン収録されている。

ここで少しRammellzeeの解説を。70年代後半からNYでグラフィティ・アーティストとして、またラッパーとしてもヒップホップ黎明期から活動。当時の姿は映画『Wild Style』(1982)で観られる。また、バスキアがジャケットを手掛けてRammellzee vs K Rob名義でリリースされた『BEAT BOP』はヒップホップ史上最も高価なレコードとも言われる。

「ゴシック」と「ヒップホップ」。Ghostemaneなど、デストラップが認知された現在ではこの2つの要素が同居した音楽は珍しくないが、「Gothic Futurism」(ゴシック・フューチャリズム)を創作テーマに掲げたRammellzeeは、形は違うとはいえ圧倒的な先駆者であろう。本作では「Crayzay -Drip Trap Remix-」などデストラップ的解釈が施されたリミックスを聴けるのが面白い。

彼の死後、様々なレーベルから作品がリリースされることについて、情報が少なすぎて権利関係など不安になる部分もあるが、本作のような新解釈も含めて、後世まで聴き継がれる環境ができることは素直に嬉しい。

(仲川ドイツ)

weakness『Twilight』

Self Released
2022/01/15(配信)
2022/03/07(CD)

千葉を中心に活動するネオソウル・ポップ・バンド、weaknessの1st EP。サブスクリプション・サービスでは先行して配信されていたが、3月に待望のフィジカルがリリース。

ダブを基盤とした軽快なポップさと初期KIRINJIを彷彿とさせる歌声は聴く人の耳を優しく撫で、顎を揺らす。ドラム&ベースのグルーヴが秀逸であり、節々にブラック・ミュージックの影響を感じるが、特に力強いドラムリフから始まる「Slowly」では、聴く側も後ろのめりになってしまいそうなくらいの後ノリをドラムとベースできっちりと合わせ、独特のグルーヴを生み出している。演奏しているようにも、リズムを使って遊んでいるようにも思える2人のノリ感は、他では聴けないだろう。

そこへ、軽快かつテクニカルなギターが乗っており、演奏隊のみで曲として完成しているかのようにも思えるが、しっかりとヴォーカルのスペースは空けられている。あくまで歌が主役であり、清古竜也(Vo. Gt.)の伸びやかな歌声が常に曲の中心に位置する。耳障りの良さを追求した境地と言えるだろう。

メンバーのルーツとしてスピッツ、フィッシュマンズなどが挙げられているのだが、まさしくフィッシュマンズの演奏に草野マサムネの歌声を乗せたような心地良さが、このバンドにはあった。

残念ながら、現在ライブ活動は行っていないようだが、今後、千葉だけではなく様々なシーンで重要なバンドになるだろう。フジロックのステージで飄々と演奏する姿が目に浮かぶ。

(Goseki)

Fuvk『split death』

Z Tapes
2022/03/11

テキサスのオースティンで活動を続けるSSW、Fuvkのニュー・アルバム。2017年から《Z Tapes》よりEPを5枚、2021年にはアルバムを2枚、そして今作と、驚異的なスピードで制作とリリースが続いている。

2021年のフル・アルバム『imaginay deadline』ではローファイ・ヒップホップやドリームポップ的なアプローチで彼女の音楽性の広さが発揮され、パンデミックで制作された前作『twentytweny』は初期のGregory and the HawkのようなUSニュー・フォーク的文脈に回帰した弾き語り+@のアプローチだった。

今作『spilit death』も前作に近い雰囲気だが、しっとりと弾き語りから始まり、曲ごとに楽器が加わり曲のテンポ感と共に徐々に静かな熱量を帯びていくアルバムである。しかしアレンジは初期のシンプルさとも違い、いわゆる「Less is More」的な、最低限で最大限に楽曲の素晴らしさが引き立つような円熟したアレンジに進化している。元々エモやギター・ポップの影響も汲み取れたが、「small talk」や「winter storm of ‘21」では00’sポップパンク/ピアノエモ的なメロディーラインのルーツも感じられ、元来のメランコリックで内省的な美しさからひとつ突き抜けたような明るさがある。

遂には先日開催された2022年の『SXSW』にも出演。本国でも着実に広がりを見せている。日本でもJay SomやPhoebe Bridgers、Clairoを聴くようなインディー・ポップ・ファンはもちろん、そうでなくともたくさんの人に広がって欲しい。

(Kensei Ogata)

Horsegirl『Anti-glory』(Single)

Matador Records
2022/03/11

Sonic Youthを共通言語に2019年にシカゴで結成され、メンバー全員がまだ10代ながらもPavement、Yo La Tengo擁する名門《Matador Records》の契約を掴み取ったインディーシーンの新星、Horsegirl。本人自らが愛を公言するように80、90年代のインディーシーンを彷彿とさせるサウンドはここまでオルタナ、シューゲイザーとジャンルを横断してきたが、「Anti-glory」ではそれに加えて、緊張感を抱えた“Dance, dance, dance, dance with me”と反復するシンプルなフレーズがスリリングなポストパンクの片鱗を見せている。

全体としてはミニマルだが、突如として訪れる鋭いサウンドやフックのあるフレーズはSquidやshameなどサウス・ロンドンから始まった、昨今のポストパンク・シーンと共鳴しているように感じてならない。その点で本楽曲はある意味、サウス・ロンドンから世界へと広がったポストパンク・シーンの熱を帯びて、新たな広がりを見せてくれるようにも感じる。

この「Anti-glory」も収録されるデビュー・アルバム『Versions of Modern Performance』はDinosaur Jr.、Sonic Youthを手掛けてきたジョン・アグネロをプロデューサーに迎え、6月にリリース予定。世界最大級の複合型フェス『SXSW』にも出演を果たしているほか、US/UK/EUツアーも決定しており、今後の活躍に目が離せない。

(Kaede Hayashi)

Rex Orange County『Who Cares?』

RCA Records
2022/03/11

UK稀代のポップ・ソング・メーカー、Rex Orange Countyの約2年ぶりとなる4thアルバム。前作『PONY』はどちらかというとネオソウルのようなR&Bに近い印象があったが、今作はより純度の高いポップス作品に仕上がっている印象。11曲で35分という短さながらもそれを感じさせない内容の濃さがある。

全体を見るとM1「KEEP IT UP」やM3「WORTH IT」、M4「AMAZING」などオーケストラのようなストリングスに導かれる曲が多く、それでいてどこか懐かしいバンドサウンドが心地良い。またM2「OPEN A WINDOW」では、無名時代のRex Orange Countyに惚れ込みスタジオに呼んだというTyler, The Creatorと彼の4thアルバム『Flower Boy』以来となる共演も果たしている。共に各シーンのトップを走るようになったお互いの持ち味が遠慮なく出ていて、ヒップホップ要素は少なくともその存在感をしっかり残し、ポップスと絶妙なバランスで繋いでいる。ソングライティングの面でもその才能は遺憾なく発揮されていて、「今までで一番ひどいことを言ったのは自分自身に対してだった」とインタビューで語った彼は、アルバムを締めくくる表題曲「WHO CARES?」で「誰が自分を気にするのか(気にしてあげられるのは自分だけ)」と、自己愛の大切さを歌う。

何より聴いているだけで元気がもらえる、笑顔になれるというのはポップ・ソングの魔法だと思う。春の陽だまりのような優しさに溢れる今作は、この季節にぴったりのアルバムだ。

(Kaede Hayashi)

Charli XCX『Crash』

Atlantic Records / Asylum Records / Warner UK
2022/03/18

世界を魅了するポップ・アイコン、チャーリーXCXによるニュー・アルバム。コロナ禍以降の彼女の私生活を反映させた、鋭利でアヴァンギャルドな狂騒を描いた前作からベクトルを変え、全12曲が煌びやかでエッジの利いた音像に仕上がっている。

本アルバムは前作、前々作の質感を残しながらも明るみに満ちたM1「Crash」から幕を開ける。「Tears」(『POP 2』収録)や直近の彼女の作品における出発点となった「Gone」(『Charli』収録)でも既に共演を果たしている、Christine and the QueensとCaroline Polachekを客演に迎えたM2「New Shapes」では80年代のシンセ・ベースのリフが耳に新しいが、これまで幾度となく共演を重ね、多くのクリエイターと信頼関係を築いてきた彼女だからこそ表現できる楽曲のように思う。また共演者の面で言えば、長年の友人であるRina SawayamaをフィーチャーしたM5「Beg For You」にも注目しておきたい。“私はあなたの虜なの”と熱狂する愛を交互に歌う2人の艶やかなヴォーカルが今作の中でも一際異彩を放っているが、彼女がこれまでにドロップした作品全体で見ても、ヤングな可愛らしさを前面に押し出していた2ndアルバム『​​SUCKER』からの心理的変化が窺える。

デビューから約10年、キャリアを重ねる中で音楽性の再構築を繰り返していた彼女の一つの到達点、そして同時に新たな章の始まりであることを知らせる今作。混迷する時代の中で前進を止めない彼女の姿に救済さえ感じ得るような、最高のポップ・アルバムと言えよう。

(翳目)

chelmico『Meidaimae』(Single)

Warner Music Japan
2022/03/18

2021年もEPや鈴木真海子のソロ・アルバムのリリースと話題に事欠かなかった2人組ラップ・デュオ、chelmicoの今年初となる新曲は、彼女らにとって久々のラブソング。「明大前」といえば、ここ数年ですっかり恋愛関係の舞台となる街になったような気がする。映画『花束みたいな恋をした』で主人公たちが出会ったのは終電の明大前駅であるし、人気ライター・カツセマサヒコ著『明け方の若者たち』で「僕」と「彼女」が初めてまともな会話を交わしたのも、明大前のくじら公園だった。文字通り明大前を冠する今作は、友達以上恋人未満の素直になれない関係性を歌っている。

“わざと無視 きみの返事 絵文字、文法、最近の流行り 最強のあざとさが今欲しい”から始まるヴァースでは相手に対して強気でいられるのに、フック前の“私と君これでいいの? 最高のふたりになれるのに”から畳み掛けるように入る“あの時なんて言えたかな 素直に返せばよかったのにね”というリリックへ繋ぎ、素直になれない自分のもどかしさが全面に出ていくような心情から欲求へ移行する構成が見事であり、また同時に切なさを匂わせる。

さらに、今作はtofubeatsがトラックを提供、初の共作となる。メロディ面では全体を通してtofubeatsならではの独特なドラムで進行していくが、フック前からピアノやコーラスが加わり一気にメロウ且つエモーショナルな彼らしいサウンドに切り替わるのは流石だなと感じた。chelmicoのラップに注目してもtofubeatsのトラックに注目しても良質な、一曲で二度美味しい楽曲になっている。

(Kaede Hayashi)

downy『枯渇』(Single)

rhenium records / LeRock
2022/3/18

レコーディングをしたことはSNSでの報告で知っていたものの、その後すぐに音源がリリースされた印象があり、かなり驚いた。しかし、驚きはそれだけでは終わらない。

1音目から瞭然、最も攻撃的な楽曲のうちの1つだといえる。7thアルバムの楽曲「Stand Alone」などで復活した初期のハードコア的アプローチ、さらに意図的なプログレの要素もよりはっきりと表現されている。キメの要素はより過剰になり、聴く人によっては混乱するかもしれないが、彼らが長年追求してきたループが生み出す心地良さが健在な上、歌のある箇所は変拍子ではないため、歪な輪が真円より速く転がっていく、独特の揺れを伴うドライブ感がある。酔いやすい人は酔うかもしれない。

故・青木裕は青木ロビン(Vo. Gt.)がデモに入れていたシンセの音をギターで再現(いや、それを上回る演奏を)してきたというが、本作はそのシンセがシンセとして鳴らされている。zezecoの新譜がリリースされたこともあり、長年見えてこなかったdownyの原型に近いと思われる音が、活動から20年以上経った今になってようやく露わになっているのではないか、と想像して楽しんでいる。

これまで、基本的にアルバムとして出すことを前提とした楽曲制作を行ってきた彼らが単発で作品を出すのは非常に珍しい。今作含め3ヶ月連続のシングル・リリースとなるとのことで、何の制約もない状態で現体制のdownyが新たに産み落とす唯一無二の異形たちが、楽しみで仕方がない。

(Fg)

矢川葵『See the Light』

anon
2022/03/23

どれほど待ったか。Maison book girlが失われた世界線において、矢川葵のカムバックをどれほど切望したか。「昭和歌謡/80年代アイドルソングを現代に歌い継ぐ」というコンセプトで再出発するために実施したクラウドファンディングは見事1,000万円を達成したが、それは筆者と同じように「またステージで歌う矢川葵を見たい」と率直に強く望む者が大勢いたことの、何よりの証左だったはずだ。

1st EPとなる本作は、松田聖子「瞳はダイアモンド」と中森明菜「スローモーション」のカバーに加え、矢川サイドのラブコールで実現した堂島孝平による作詞/作曲の「ほんとはThink Of You」を収録。同曲は「架空のパーラーのCMソング」をイメージして制作され、Bメロにクリシェ(※)を使用するなど、80年代へのオマージュが詰め込まれている。しかし単なる当時の再現のみに留まることは当然なく、ブクガ時代に培った表現力で矢川葵としてのオリジナリティを発揮し、純粋なソロ・アイドルとして最高のリスタートを切っているのだ。

※コード進行において、コードの構成音の1つを半音(もしくは全音)ずつ変化させていく手法。「瞳はダイアモンド」でも多用されている。

そのオリジナリティは、3月27日に東京キネマ倶楽部で開催された初のソロ・コンサートでも実感できた。特にブクガ後期における矢川の歌唱力には圧倒されたが、緩急のある「瞳はダイアモンド」のサビに代表されるように、情感の込め方がさらに高い水準へ到達したと感じるのは、やはりこれまでのキャリア、そして努力の賜物だろう。昭和と令和を接続する稀有なアーティストとしての今後の表現活動を、熱い胸に信じている。

(對馬拓)

Camp Cope『Running with the Hurricane』

Poison City Records
2022/03/25

オーストラリアのフィメール・オルタナティヴ・ロック・トリオ、Camp Copeの3枚目となるフルアルバム。

シンプルなギターとそれに代わって歌うようなメロディーを鳴らすベース・リフ。大振りでシンプルながらしっかりとグルーヴを作り上げるドラム。そしてそれに乗せて力強く、威風堂々と歌い上げるヴォーカルが特徴であり、彼女たちは自らの音楽を「パワーエモ」と表現している。

それぞれの楽器の技術としては拙く粗のある演奏だが、3人の音が重なると不思議と重厚で他の者には出せないグルーヴが生まれる。表題曲「Running with the Hurricane」でも分かるようにCamp Copeの楽曲は主にベースが旋律を奏で、ギターは伴奏に徹するスタイルだ。ベース・ラインとジョージア・マクドナルドの張り上げる歌声がまるでパズルのピースのように一致することで、トリオという最小の編成ながら存在感が際立つ。「パワーエモ」という言葉にも説得力が生まれるのだ。

また、女性の独立、女性軽視への反発を猛々しくも可憐に歌うCamp Copeはこれまで多くの人々に勇気と力を与えてきた。ジョージアはギリシャ人の家系で体質柄、体毛が濃い。2019年に来日して共演した際に聞いた話だが、アーティスト写真などを撮影する時、カメラマンに「目立つから体毛を剃ってほしい」と指摘されるが彼女はそれを断固拒否したという。「毛の一本まで私だからしっかりと映して」と。体型や体毛など一般的に女性として評価されるような外見は無視し自分の思う姿で歌うその様は、これからのフェミニズムの新しい指標になるのではないだろうか。

(Goseki)

Guerilla Toss『Famously Alive』

Sub Pop
2022/03/25

ソリッドなサウンドとブチキレヒステリックヴォーカルが特徴的な不穏系(?)ポストパンク・バンドとして2012年にボストンで誕生したGuerilla Toss(ゲリラ・トス)。今作は名門《Sub Pop》からのリリース。Talking HeadsやPLASTICS直系の捻くれたニューウェイヴ・サウンドを展開した前作『Twisted Crystal』から40年の時空を飛び越え(実際には4年)、最新型のエレクトロポップ・サウンドを鳴らすバンドに大変貌を遂げた。

今作はとにかくポップ・センスがブッ壊れている。きっと素直に演奏すれば爽やかな夏のエレクトロ・アンセムになりそうな曲たちなのに、いちいち違和感で塗り潰してくるアレンジが素晴らしい。例えば「Live Exponential」でのチューニングのズレたようなシンセ、「Pyramid Humm」での浮遊感のあるヴォーカルにノれないビート。

それぞれの手法自体は目新しくはないが、それをポップ・ソングで展開することが非常にいじわるで、俗に言えばとても「今っぽい」のではないか。シンセ・ベースとドラムがうるさくてヴォーカルが聴こえにくいし、曲が短くて多幸感に浸り始めた頃に終わってしまう。いちいち素直じゃなくてホント痛快。

表面上のメロディーとサウンドだけ聴けば、初期から彼らを知るリスナーは「えらい垢抜けちまったな」と思うかもしれない。だが、彼らのアヴァンギャルドさはジャケットの謎の物体(カビ?)のようにドロッと変容したポップさの中に潜んでいる、と私は感じた。

(仲川ドイツ)

Aldous Harding『Warm Chris』

4AD
2022/03/25

ニュージーランド出身のSSW、ハンナ・シアン・トップによるソロ・プロジェクトの4枚目。当然、この作品を「オーセンティックなインディー・フォーク」という一言で片付けられるはずがなく、パストラル(牧歌的)、シリアス(内省と厳粛さ)、エキセントリック(奇抜さ)を自在に伸び伸びと行き来してきた彼女の成熟、大きな1つの達成すら感じさせる。

控えめながらも豊かに響くアレンジ、時に「そこを行くのか」と裏切られるコード進行、同じ人間から発せられているはずなのに疑ってしまうほど曲ごとに変化する声色、そして掴み所がなく、翻訳してみると余計分からなくなる歌詞。ストレンジなMVも相変わらずだ(爬虫類好きは必見)。

しかし、特に奇抜な面においては、おそらく戦略的に狙ったものではない。言うなれば、内なる変態性がボロンと飛び出してしまっている──その状態に、我々はゾクゾクしてしまう。

インタビューは苦手として応じないことも多く(というより、あまり「説明」を必要と感じていないらしい)、彼女の音楽は文脈や意図を超えて、より謎めいたまま、聴き手の感性にヅカヅカと侵入してくる。サラサラっと水を飲むように聴けてしまうが要注意、その中に溶け込んだ怪しい錠剤で気分が良くなる、そんな感覚だろうか。

普段はシューゲイザーなど、轟音で、いわゆるウォール・オブ・サウンド的な音楽をひたすら浴びていることが多い筆者にとって、ここまで音数が抜かれているにも関わらず心を乱そうとしてくる音楽は、より貴重で興味深い。

(對馬拓)

サカナクション『アダプト』

Victor Entertainment
2022/03/30

2021年11月より始動した2章構成のプロジェクト【アダプト】【アプライ】の第1章を締めくくるコンセプト・アルバム。「適応(adapt)」というタイトルが示唆するように、ニュー・スタンダードが求められる時代において、魚のように泳ぎ回りながら環境に適応し「音楽のアップデート」を試みる柔軟な姿勢が打ち出されている(※)。

※詳しくは初回限定盤に付属するブックレットを参照されたい。メンバー自らの口で今作のコンセプトについて詳細に語られている。

本作はオンライン・ライブ→リアル・ライブ→作品のリリースといった新しいフローの追求のみならず、サウンド面における「適応」も顕著。「月」というお馴染みのモチーフが紡がれる「月の椀」やラストのサビで合唱する「プラトー」といった十八番の一方、オリエンタルなムードにレイドバックするギターとダブの要素が心地良い「キャラバン」、アフロ・ビートやメロディにTalking Headsへのオマージュを感じる「ショック!」で新境地を開く。

Rei HarakamiとBoards of Canadaを足してKraftwerkで割ったようなインスト「エウリュノメー」ではモールス信号でメッセージを隠したり、飛び道具的に思えるアプローチも自然。冒頭を飾る「塔」も聴き方によってはエレクトロ・シューゲイズ的だ(これは筆者の耳がすぐにそうした文脈に繋げる癖が付いてしまっただけかもしれないが、「ネプトゥーヌス」「流線」「multiple exposure」などサカナクションにはドリームポップ/アンビエント・シューゲイザーっぽい楽曲がいくつか存在する)。

ともあれ、2007年のデビューから今もなお実験的かつ刺激的な姿勢を貫く彼らにはいつもワクワクさせられる。対となる第2章はいかに?

(對馬拓)

ゆっきゅん『DIVA YOU』

GUILTY KYUN RECORDS
2022/03/30

電影と少年CQのメンバー、ゆっきゅんによるソロ・アルバム。昨年5月にセルフ・プロデュース『DIVA Project』を始動させ、その第1弾としてドロップしたシングル「DIVA ME」がアルバムの冒頭を飾る。“寝る前にメイク落とせたし”と疲労困憊の私生活の中で小さな自己肯定を積み上げながら、“でも急な代引きは払えない”と日々のトラップにNOを出す。浜崎あゆみや大森靖子といった、シーンを代表する歌姫たちに刺激を受けながら自己愛を育んでいったゆっきゅんが紡ぐ言葉は、理想像を掲げながらも現実直視を避けられない我々の明日を照らす。

M3「好きかも思念体」においてもエレクトロニックなダンス・チューンを展開しながら、“パフェにする?えーやっぱ恋にする?主体的ィ♡無理ィ♡”と選択の自由が伴っていることを前提とした恋愛感情を歌う。M4「BAG IN BAG」ではヴォーカル・トーンの幅広さに心底驚いたものの、この表現幅こそが「個人の人生を表現する」ものとして始動した『DIVA Project』たらしめるものであることを思うと合点がいくのではないだろうか。

終盤では昨年配信リリースされた「DIVA ME」のリミックスver.を収録。ウ山あまねによるloginやA.G.Cook由来の金属音を取り入れたアヴァンギャルドな音楽性、リョウコ2000の混沌の渦に落とし込むような高速レイヴ、田島ハルコのエンターテイメント性に溢れたダンス・ポップと三者三様に楽しむことができる。時空を超えたリスペクトを感じる本作は我々をどこまでも連れて行き、その手を決して離さない。

(翳目)

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マンスリープレイリスト

本記事で紹介した作品から1曲ずつセレクトしたプレイリストを公開中。

musit編集部