痛みがいつか癒やされる日を夢見て──Foals『Life Is Yours』

痛みがいつか癒やされる日を夢見て──Foals『Life Is Yours』

Foalsは、2005年にイギリスのオックスフォードで結成されたインディー・ロック・バンドだ。メンバーはヤニス・フィリッパケス(Vo. Gt.)、ジミー・スミス(Gt.)、ジャック・ビーヴァン(Dr.)の3人。これまでに発表した6枚のオリジナル・アルバムは、全て全英チャートトップ10入りを果たしている。2019年に発売された、2枚組の『Everything Not Saved Will Be Lost』シリーズの『Part 2』は初の全英1位を獲得した。そんな彼らが今月17日、最新作『Life Is Yours』を発表。今作はロックダウン期に制作されたアルバムで、ディスコ・サウンドやダンスミュージックの猥雑なエネルギーを持ち込んだ肉体性にフォーカスした作品であると同時に、彼らならではのスタイルが凝縮されたポップな曲に溢れ、彼らのキャリアを網羅した素晴らしいアルバムとなった。

「反時代的」ともいえる、自身の感情を描くことにのみ挑戦し続ける

マグマのように胸中深く沈潜していたパッションが不意に噴出するのを正面きって受け止め、音楽として果敢に鳴らすこと。まるで泡のように現れては消えていく、様々なトレンドやムーブメントを鋭敏に嗅ぎつけることが重要視される現代においても、Foalsは「反時代的」ともいえる自身の感情を描くことにのみ挑戦し続ける実直なバンドだと思う。そして彼らは、そのキャリアに相応しい技量をもって、彼らのパッションを世界中の誰もが共感できる普遍的な状態にまで昇華することに成功したアルバムを作り上げた。それが『Life Is Yours』だ。

だが、彼らがここまで辿り着くには、幾多の困難と葛藤があった。それは、2005年にデビューして以来、彼らは「自分たちのリアル」を奏でようとしていたけれど、どこか時代の求めるリアルとは位相のずれた音を鳴らしていたような気がするからだ。彼らは地元・オックスフォードで水の合わないハードコア・コミュニティにそっぽを向いて、ポップなサウンドを目指しデビュー。彼らが登場した時は、Klaxonsを代表とする「ニューレイヴ」や、そのトレンドを察知して時代の風と共に舞い上がった「ニューエキセントリック」(覚えていますか?)がムーブメントとなる世界の片隅に立ち尽くしながら、アフリカ音楽やクラウト・ロックを取り入れつつ、ダンサブルなマス・ロックを鳴らして多くのリスナーを獲得しようとしていた。彼らの代表作でもある3rdアルバム『Holy Fire』(2013)では、2010年代のスタジアム・ロックと呼んでも過言ではない音楽の快楽原則のパターンを突出させたEDMに対抗すべく、ダイナミックなサウンドスケープを描くギター・バンドになろうとしていた。しかし、いつの間にかそれらのムーブメントも下火になり、あとは荒涼とした荒野に取り残されている、彼らの茫洋とした姿があっただけだった。

それでも、彼らのこれまでのアルバムを聴いていると、バンドが体現しようとする理想を現実に落とし込むことができない「もどかしさ」が、リスナーの感情を揺さぶらせ、巨大なセールスに結びついていると感じさせてくれる。それは徹底して、己の内的な感情の高ぶりのみを表現するための着火剤となる彼ら自身の満たされない野心や、「もっと多くの人に聴いてもらえる音にしたい」という屈折した想いが、彼らの人気に繋がっている気がするのだ。リスナーの琴線に触れる音楽とは存外、そんな想いの集積でできあがっているのではないか。それは、突き詰めれば「共同体を築いた」とも言えるかもしれない。

最新作に限らず、彼らのどのアルバムにも通底して言えることだが、時代との齟齬よりも己のこだわりを大切にし、偏執的なミニマルのギター・リフを繰り返しているのを聴いていると、彼らは自身のパッションに対してストイックに向き合い、回り道をしながらでも己の道を探り出して歩いていこうとする身振りが見受けられる。だからこそ、彼らの感じている「もどかしさ」こそが、音楽を続けるためのエネルギーになり、「強み=アイデンティティ」になっているのである。そういう意味で彼らは不器用であるとも言えるし、今どき珍しい家内工業的な職人気質のバンドであり、己の志向する道を極めんとする求道者たる旅人でもあるのだ。

例え同世代のアーティストが次々とシーンの中心から遠ざかり、どこか静かな孤立状態にあっても、彼らは自身の冷めることなき情熱を抱き続けたおかげで、着々と地歩を固めつつある印象を受ける。彼らの生み出す作品は、一作ごとにリスナーや仲間のアーティストの敬意と関心を集めている。彼らが醸し出す「なんでもやってやれ」感がカオティックな作品を生み出すのだろう。ディスコだろうが、クラウト・ロックだろうが、マス・ロックだろうが、なんだって取り入れて、不器用な筆致のまま音楽として吐き出すと、彼らにしか出せない凄みが出るようになった。そうして彼らは世界の音楽シーンにおいても稀有な存在となったのだ。 

己の出自を再度確認し、それでいて新たな地平に

今作はロックダウン期に制作を始めた作品だが、ロックダウンの閉塞感から描かれる内省モードとは真逆にカラフルでオープン、肉体が思わず反応してしまう即効性を重んじた、極めてポジティブなアルバムとなった。表題曲になっている「Life Is Yours」(M1)からダンサンブルだし、ヤニスの声の力強さも健在だ。アルバムの先行曲として発表された「Wake Me Up」(M2)では、70年代のディスコ・サウンドを取り入れている。今作には徹底して「踊る肉体=移動する肉体」が強調されているが、それは彼らにとっては原点回帰の意味合いも込めているはずだ。

その証拠に、セルフ・プロデュースでのリリースとなった『Everything Not Saved Will Be Lost』シリーズとは異なり、本作には複数のプロデューサーが参加し、彼らのこれまでの音楽的蓄積を批評し解体しながらFoalsらしさを抉り出して演出している。Portugal. The ManやFlorence + The Machine、Cage the Elephantなどエッジーな音楽を手掛けるジョン・ヒルを招くほか、「2am」(M3)には、Wet Legやblack midiなど刺激的なインディー・バンドに参画しているダン・キャリーが彼らの音作りに協力している。また、サム・スミスやエミリー・サンデーといった国民的歌手からMura MasaやNaoなど気鋭アーティストへの楽曲提供を行っているA. K. Paulや、かねてから共闘しているマイルズ・ジェームズが「2001」(M4)で手腕を振るっている。 

この辺りの人選も、彼らが目新しさよりもバンドの内面と向き合い、ロックダウン期の内省をくぐり抜けて、自己批評の先に自身のシグネチャーを確固たるものにしようとした証左と言うべきだろう。例えばドラマーのジャック・ビーヴァンがアップしている、デビュー時によく聴いていた曲のプレイリストを眺めてみると、その当時から既にBattles、TV on the Radio、LCD Soundsystemといったポスト・ロックやディスコサウンドの影響下にあるアメリカのバンドや、JusticeやAphex Twinなどクラブ・ミュージックも積極的に聴いて栄養にしていたのが分かる

つまりは、彼らのインスピレーションの滋養となっていた全てが今作に至る必然となっているのだ。そういう意味で、彼らはデビュー以来、少しもブレてはいない。戸惑いもあったし、迷いもあったけれど、彼らは己の出自を再度確認し、音楽的素養をアップデートし続け、それでいて新たな地平に突き進もうとしているのだ。

 

今作で最もポップな「2am」(M3)を筆頭に、「2001」(M4)はパンデミックの渦中の閉塞的な状況から解放されたいと願う、幽玄的でファンキーな曲だし、踊れる曲が満載である。アフリカ音楽をリファレンスしたと思しきグルーヴを感じさせる「Flutter」(M6)、イビサ島経由のバレアリック・ビートを取り込んだ「Looking High」(M7)、ハウス、ガラージなどをリファレンスした「The Sound」(M10)を含め、収録曲全てが煌めいていてポップ。そして、ロックダウン以前の夏に想いを馳せながら、その瞬間は消え去ってしまったと悲しみつつ、それでも困難を乗り越えて未来を見据えようとするオプティミズムの最果てを歌った「Wild Green」(M11)でアルバムは幕を閉じる。

彼らは人々の「物語」を提供するアーティスト

今作を聴いて改めて感じることは、彼らは人々の「物語」を提供するアーティストであるということだ。物語とは「あなたと私の人生が交差し、ねじれながら未来に向かう道筋」を描くことである。彼らはどのアルバムでも「あなた」と「私」の人生を繋げたいと願っていた。だからこそ物語が必要だったし、そんな真摯な想いが彼らのパッションの源流となった。それは疼きと言えるかもしれない。パンデミック以降の世界が差し出した物語は、不幸にして、人々を脅かすものでしかなかった。その物語は、個人の許容量を超えた「痛み」を共有することだった。無音の中で縮こまって体をこわばらせるしかなかった。彼らはそんな物語にNOと言うべく、「音楽=彼らの紡ぐ物語」を聴く快楽を感じさせるアルバムを上梓したのだ。

このアルバムには、時代から取り残された一人ぼっちのFoalsはいない。彼らの抱えていた「もどかしさ」は、新たな世界が到来することの願望を込めた暖かなトーンに満ちた音に変容して我々を鼓舞し、未来へと歩みを進めさせる。現状の世界は、無味乾燥した悲しみしか生まないのなら、彼らはあなたが明日のために生きる「よすが」になる物語を提供したいと願い、それを実践できるほど完成されたアーティストになった。彼らは時代に追いつき、時代もまた彼らに追いついたのだ。そんな彼らの無骨で優しさに溢れた音楽が胸を打つ。彼らは我々の感じた痛みがいつか癒やされる日を夢見て今日も音楽を鳴らし続ける。「人生はあなただけのもの」と謳いながら。

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Foals『Life Is Yours』

レーベル:Warner Bros.
リリース:2022年6月17日

トラックリスト:
1. Life Is Yours
2. Wake Me Up
3. 2am
4. 2001
5. (summer sky)
6. Flutter
7. Looking High
8. Under The Radar
9. Crest of the Wave
10. The Sound
11. Wild Green

竹下 力