Hollow Sunsの新作『Otherside』は世界を見据える──ウィル・イップの全面プロデュースで得た新しいフェーズ

Hollow Sunsの新作『Otherside』は世界を見据える──ウィル・イップの全面プロデュースで得た新しいフェーズ

東京発のオルタナティヴ・ロック・バンド、Hollow Sunsが1stフル・アルバム『Otherside』をリリースした。アメリカでレコーディングされた今作は結成8年にして彼らの最高傑作であり、国内外のロック・シーンの点と点を結ぶ線のような存在となるだろう。

本稿では、彼らの音楽ルーツに触れながら『Otherside』を紐解き、そしてHollow Sunsのこれからについて思案していきたい。

国内シーンで異彩を放つ海外志向の活動

Hollow Sunsは2014年に結成された。エモ、グランジ、パンク、シューゲイズなどのジャンルを踏襲しつつ、自身のルーツでもあるハードコア的要素を織り交ぜたオルタナティヴなサウンドは、Jimmy Eat World、Foo Fightersを彷彿とさせる骨太なロックであり、邦楽という言葉が最も似合わないバンドだ。

2019年、2020年と立て続けにドラム、ベースが脱退してしまうが、現在はドラムにSans Visageやくだらない1日のメンバーでありインディーレーベル《ungulates》の主宰でもあるKou Nakagawa、ベースにはOtusやInsideで活動しているTakashiがサポートメンバーとして加入したことで、むしろバンドの足並みが揃い、これまでにないほど活動の幅が広がった。

その活動も常に国外を向いており、カナダのDaggermouthとUKのGnarwolvesのジャパン・ツアー帯同や、The Story So Far、Red City Radio、Citizenなど、多くの海外バンドとの共演を果たしている。そして2019年9月にはアメリカの《Sunday Drive Records》より5曲入りの3rd EP『Into The Water』をリリースをするなど、ガラパゴス化しやすい邦楽シーンの中で異彩を放っている。そんなHollow Sunsが今回、日本のパンク・レーベル《ICE GRILL$》からリリースするアルバムこそが『Otherside』だ。

ちなみに《ICE GRILL$》は『Otherside』をリリースする前に、これまでのHollow Sunsの作品をまとめたディスコグラフィー・アルバム『Process of Losing』をリリースしている。フィジカルはアナログ盤のみでの発売だった『Into The Water』や、ストリーミング未配信だったAnd Protectorとのスプリット・シングルなど、レアな音源も収録されており、今までのHollow Sunsの活動を知るにはピッタリな1枚となっている。『Otherside』を聴く前、もしくは聴いた後に再び『Process of Losing』を聴くとHollow Sunsの進化の過程が分かるだろう。

往年のUSロックとインディー/オルタナの同居

今作のレコーディングは全編アメリカで行われた。ただ、残念ながらヴォーカルのBONE$以外のメンバーは参加できず、BONE$のみが通訳のために妻を連れて渡米。ドラム以外のベース、バッキング・ギター、リード・ギターのパートを全て演奏した。彼は前身バンドでリード・ギターの経験があり、楽曲のフレーズもほぼ一人で作っているため問題はなかった。むしろ全てを同じ人物が弾くというのは、グルーヴが大切である少数編成バンドにとっては良いアプローチともいえる。ベースのレコーディングは初めてだったため難航した場面もあったようだが、それを感じさせない、芯の太いベース・サウンドとなった。

『Otherside』のサウンドには今までのHollow Sunsにない、新しいアプローチを感じる。前作までのグランジ感は残しつつもギターのエッジ感はあえて抑えられ、代わりにベースが全体に太い芯を通すように鳴っており、それがドラムのキックとガッチリはまることで、曲全体の輪郭を分厚く固めている。そして、80年代風の乾いたギターのサウンドがその輪郭をなぞるように重なり、往年のUSロックを彷彿とさせる。一見、日本の流行からは外れているように聴こえるが、Foo Fightersに影響を受けたバンドとしては100点のサウンドだ。

そして、驚くことにドラムはペンシルベニアのインディー・エモ・バンド、Tigers Jawのベン・ウォルシュが担当している。これはUSエモ/インディー・ファンには嬉しいサプライズだった。ほかの候補として、The Menzingersのジョー・ゴンディーノも考えていたというからさらに驚く。様々なバンドの日本ツアーに帯同したHollow Sunsだからこそ実現できたコラボレーションであり、今までのHollow Sunsとは異なる、Tigars JawやThe Menzingersのようなインディー/オルタナの空気感も散りばめられた作品となった。

ウィル・イップによる全面プロデュースで得られたもの

今作の特徴としてはやはり、プロデューサー兼レコーディング・エンジニアとしてStudio 4のウィル・イップ(Will Yip)が全面的に参加しているということだろう。彼はこれまでにTitle FightやThe Wonder Years、Balance And Composure、Citizen、Turnoverといったアーティストの作品を手掛がけてきた名エンジニアである。『Otherside』は日本人初のウィル・イップによるフル・プロデュース作品であり、日本とアメリカという垣根を超えたアルバムとなっている。

また、彼はレコーディング・エンジニアであると同時にいくつものアルバムをゴールドディスクへ導いた名アレンジャーでもある。『Otherside』の楽曲は全てBONE$が渡米前にデモを作ったものだが、その多くがレコーディング中にウィルによってアレンジを施された。BONE$肝入りの楽曲も彼の意向によりボツになったりとかなり厳しい意見と向き合ったが、BONE$はウィルを全面的に信頼し、アレンジを受け入れた。

特に「Dry Out」は最もアレンジを施され、編成も変わりサビは新たに作り直した。その結果、Tigers JawやTitle Fightを彷彿とさせるオルタナ要素が加わり、ウィル・イップのプロデュース作品らしい楽曲となった。アルバム収録曲の中では最も古く、デモ自体は2016年から出来上がっていた。しかも一部のフレーズは前身バンドの時代から作られていたものだという。『Otherside』というアルバムが何年も前から構想され、全てのパーツが揃い、ウィルのブラッシュアップによって完成された作品だということが分かる。「Dry Out」は今作のリード・トラックの1つとなった。

ウィルのディレクションはレコーディングでも厳しく、彼の合格ラインに達しない演奏はことごとく録り直しになったという。特にヴォーカルは全曲英詩のため、正確なピッチやメロディーのほかに正確な英語の発音も求められる。日本人には上手く発音できているように聴こえてもネイティブの耳をごまかすことはできず、歌詞の1行を録るだけで何時間もかかったという。それは途方もない作業であり、日本人に違いが分からないのであればそこまで追求する必要はないのでは、と思うかもしれないが、Hollow Sunsの目指す先は世界であり、誰が聴いても聴き取れる歌詞を目指した。10日間にも及ぶヴォーカルのレコーディングの末、ついに全ての録音が終了。もちろん発音も完璧であり、『Otherside』は世界に通用する作品となったのだ。

なお、ギターの録音に使用されたアンプはPeavey 5150という、割と安価でどこでも手に入るものだった。これには著者も驚いた。ゴールドディスクを獲得しているようなレコーディング・スタジオはもっと高価なヴィンテージ・アンプを使用していると思っていたからだ。癖が強くこまめなメンテナンスが必要なヴィンテージよりも、いつでも想定内のサウンドを出せるアンプの方が使い勝手が良いのだろう。録音後、さらに編集でサウンドメイクができるデジタル・レコーディングならではの技法といえる。

シーンを新しいフェーズへと移行させる力作

BONE$がアメリカでレコーディングを敢行したのは2020年12月から翌年の1月という、まさにコロナ禍の最中であった。この時期に渡米することすら異例中の異例であり、さらには慣れない環境でのレコーディング、名プロデューサーによる容赦のないリテイク指示など、BONE$にとって決して楽しいだけのアメリカではなかったことだろう。そんなレコーディング期間をBONE$自身で綴った体験記がHollow SunsのHPで読める。アメリカのカルチャーや、ウィルとその周りの人々との交流、レコーディング時の心情、そしてパートナーへの感謝まで、赤裸々に綴られた体験記は読み応え抜群である。是非アルバムを聴きながら読んでいただきたい。

『Otherside』は三途の川、つまりは「死」をテーマにしている。一見重たくネガティブなテーマに思えるがそうではなく、BONE$が今までの人生を振り返り、改めてどう生きるか、どう死ぬかを考え、何を残すか、という答えに辿り着いた結果なのだろう。そうして生まれた『Otherside』は、まさに彼のこれまでの人生を表した代表作となった。

そして、現在の環境を抜けて新しいフェーズに移行するというメンバーの強い意思も込められた『Otherside』は、バンドとしてだけではなく、日本のオルタナティヴ・ロック・シーン全体を一つ上のフェーズに上げるほどの力があると信じている。アメリカで作られた日本人の音楽は、コロナ禍で分断されてしまった2つの国を再び繋げる橋のような作品となり、今後の音楽シーンに大きな影響を及ぼすはずだからだ。今後のHollow Sunsの国内での活躍はもちろん、海外での動きにも注目が集まる。

写真=Luke Piotrowski

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Hollow Suns『Otherside』

レーベル:ICE GRILL$
リリース:2022/06/08

トラックリスト:
1. From the Inside
2. Deception
3. Motionless Time
4. Deep Down
5. Nameless
6. Dry Out
7. Searching
8. Learning
9. Gravity
10. Rewinding the Time
11. When It’s Over

配信リンク:https://cover.lnk.to/Otherside

Luke Piotrowski

HP:http://www.lukepiotrowski.com

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