新しい音楽で見たことのない世界地図を描く──Superorganism『World Wide Pop』

新しい音楽で見たことのない世界地図を描く──Superorganism『World Wide Pop』

Superorganismの2ndアルバム『World Wide Pop』が7月15日にリリースされた。1stアルバム『Superorganism』から約4年。ファンはどれだけ心待ちにしていたのだろう? 待望の2ndアルバムには、星野源、CHAI、Stephen Malkmus(ex. Pavement)、Pi Ja Ma、Dylan Cartlidgeらが参加しており、まさにワールドワイドなアルバムとなった。それ以上に、ヴォーカルのオロノを筆頭に5人のコミュニティが作り上げる「こんなこと楽しくない?」という軽いノリと、楽曲の奥深くに潜むダークさやシニカルさに加え、彼らの持つ柔らかい抒情性が至る所に垣間見える素晴らしいアルバムとなった。

音楽ならまず「聴く」こと

例えば今日が2022年7月31日なら、あなたは今すぐこのページを閉じて『FUJI ROCK FESTIVAL ’22』、通称フジロックの会場である苗場に駆けつけなければならない。間に合わなければYouTubeの配信でも大丈夫。仕事や勉強は放り投げてしまおう。あなたはSuperorganismのライブを目にして、彼らの放つダイナミズムを感じなければ、必ず後悔をする。仕事も勉強もmusitだって、いつまでもあなたの側にあるけれど、音楽は待ってくれない。その昔、〈読んでから見るか、見てから読むか。〉と、少し余計なお世話かなと言いたくなる原作付きの映画のキャッチコピーがあった気がするけど、音楽に関して言うのならまず聴くことだ。そして感じることだ。笑うことだ。泣くことだ。踊ることだ。そんな当たり前の行為が当たり前の権利として認めてくれる傑作を、彼らは作り上げたのだ。

Superorganismは過激である。一見してサラリと涼しい顔をしているのに、平気で無茶苦茶なことをやる。これを上品に表現すれば「アナーキー」という言葉になる。だが、そんな言葉を蹴っ飛ばすほど、ポップでキッチュ、そして野蛮である。そんな猥雑なエネルギーにこそ彼らの本領がある。その発信源は、「真実」のために素直に生きようとする強靭なメンタルにあると思う。例え、そこで起こった問題に対して周りから理解不能な選択をしたと思われても、彼らは自分の信じる生き様を全うしようとしているのだ。本来なら、なんとか取り繕うような選択が正解かもしれないのに、彼らは「現実的」ではなく「現実」を重要視する。打算や妥協なんて言葉はない。利害に歪まされた世界でなあなあと生きるぐらいなら、真実に忠実でありたい。そんな断固とした意志の強さが彼らの音楽から伝わってくる。

彼らの楽曲の特異なシグネチャーは、アルバムの収録曲(あるいはシングルにおいても)が持つ音像のスペクタクル性を重要視していて、1つの楽曲ごとに見たことのない景色を浮かび上がらせることだと思う。曲ごとに顔色が全く違うのだ。だからこそ声にスクリューをかけ、クレイジーなサンプリングをし、サイケデリックなインディー・ポップも、ファンキーなエレクトロニカも、ダンスもディスコも取り入れて、アコースティック・ギターだけのセンチメンタルな曲だって作れる。それでいてメインストリーム・ポップでもある。あらゆる音を使って日常的な常識を逸脱し、スペクタクルな花火を打ち上げてくれることにこそ、音楽の魅力があると彼らは信じているのだ。

イジらしいほど素直で軽快なダンス・ビートに乗せて

Superorganismはイギリス・日本・韓国・ニュージーランドといった多国籍のメンバーが集うコミュニティのような存在で、Orono(以下:オロノ)・Harry(ハリー)・Tucan(トゥーカン)・B(ビー)・Soul(ソウル)を中心に活動している。デビュー当初からFrank OceanやVampire WeekendのEzra Koenig(エズラ・クーニグ)が、彼らの楽曲をラジオでオンエアしたことで話題を呼んでいた。2017年6月に両A面シングル「It’s All Good」「Nobody Cares」をリリース。9月にArctic MonkeysやFranz Ferdinandが所属する名門レーベル・Dominoと契約。その後の活躍は言わずもがなだが、2018年2月の渋谷WWWでの来日公演はすぐにソールドアウトし伝説となった。同年3月に1stアルバム『Superorganism』をリリース、その夏には上述したフジロックへの出演が決定し、早くも二度目の来日を果たすことになった。 

今作はタイトル通り、世界中のキッズ・若者・おじさん・おばさん・おじいさん・おばあさん──どんな出自も年齢もジェンダーも関係なく、皆の心を鷲掴みにする13のマテリアルで成り立っている。通底しているのは、「これって単純に楽しいよね?」という、シンプルで実は難しいことを曲にしている、という点だ。その昔、鈴木清順という映画監督は、自らの映画について〈わたしの映画には、重要なメッセージなどというものはありません/人生についての深刻な思想などというのもありません/従って、そこから何か教訓を得ようなどということは、まったく考える必要はありません。せいぜい楽しんで見てください〉(上野昂志著『黄昏映画館』より)と宣ったそうだが、まさにそんな感じのユーモアと軽妙な雰囲気がアルバム全体の基調になっている。 

しかし今作は、1stアルバムから4年もの月日が経ち、世界が大きな変容を迎えた中で、少しの甘みと苦味が意図的に加えられている気がする。言い換えれば、よりエモーショナルになっているのだ。「Black Hole Baby」(M1)でサンプリングされた〈Superorganism〉という声を使って自らの存在を詳らかにし、絶妙な手法を用いて4年の空白を一瞬で埋め、彼らの世界(=ブラックホール)にリスナーを引き込む。シンセやアコギやサンプラーが色々な音像をカラフルに表現する。カオスというよりも、オロノが描いた歌詞の心象風景に仲間が色を塗っているような印象は前作と変わらないけれど、ワールドツアーや世界の変化を経験して、どの楽曲も1stアルバムに比べ深みが増している。 

電話のベルから始まる「World Wide Pop」(M2)では韓国語の挨拶が届き、80年代のポップスのような音楽が鳴り響く。「On & On」(M3)では軽快なダンス・ビートに乗せて、退屈で欺瞞だらけの日常が続くのならバカな1日を過ごしたいと歌う。「Teenager (feat. CHAI & Pi Ja Ma)」(M4)では、「成長なんてしたくないけど、誰でもティーンエイジャーになっちゃう。やれやれ。だけど仕方がないよね」と、10代のポップなシニカルさや情熱をしっかりキャプチャーした名曲となっている。

「It’s Raining (feat. Stephen Malkmus & Dylan Cartlidge)」(M5)と「Flying」(M6)は前作よりも顕著になった、暗澹とした心模様がそっけなく描かれ、おそらく前作をドロップしてから彼らが感じた、世界各国を巡っていくことの楽しさや辛さをイメージした歌になっている。一方、「Solar System (feat. CHAI & Boa Constrictors)」(M7)はディスコティックな曲調で、「Into The Sun (feat. Gen Hoshino, Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)」(M8)ではユルいヒップホップのビートに乗せたどちらも楽しげな曲だが、どちらも「空を見上げれば青空が広がっているけど、なんだかつまんない」という天邪鬼な想いが客演陣の朗らかな声に乗せて歌われる。彼らには、「青空」という単色に塗り潰して心の有様を決めないで、様々なカラーに染め上げようという想いがあるからだろう。

「Put Down Your Phone」(M9)は「頭がこんがらがるから携帯なんて置こう(でもやっぱり取っちゃうよね)」と歌う現代批評の曲に感じる。彼らはアンビバレンツな感情を盛り込む曲を作るのがとても上手だ。彼らは、宇宙から対象を眺めたり海の底から眺めてみたり様々な視点を使いながら、怒りや喜びや悲しみといった感情のグラデーションをいとも容易く自在に視覚化してしまう。彼らは音を見ることができる作家なのだ。

「crushed.zip」(M10)の優しい旋律のギターに合わせながらオロノは、Elliott Smithように「本当に壊れた」と繊細に歌うけれど、彼女は〈Candy〉という言葉を使って悲しい心模様をカラフルに染める。色彩の豊かさは彼らの楽曲の得意とする所だが、それは同時に、カラフルでなければ覆い隠せないグレーな気持ちがあることも示している。 

「Oh Come On」(M11)のタイトルと曲の配置はM3の対句になっている点からしても、オロノの言葉は心地良いリズムと遊び心に満ちていて、決して悲しみに溺れない所が素晴らしいと思う。「Don’t Let The Colony Collapse」(M12)では、戻る場所がなくなってしまうから、コロニーは壊さないようにしようと歌う。どんな人間も、旅を続けているといつか自分の場所に帰ってくる。緩やかなBPMの打ち込みとオートチューンのかかった声で、巡礼を終えた人々を労うような優しい曲だ(皮肉は効いているけれど)。

そして、爆発音と共に始まる最終曲「Everything Falls Apart」(M13)では、アコースティック・ギターで、「全てを欲したのに全て壊れてしまった……私たち以外は」といったラブソングに近い歌詞を切々と歌い、ディストピアな世界をドラマティックに描き、「それでもSuperorganismは皆のために存在している」と歌って終わりを迎える。 夢魔的にも、やけっぱちにも思える歌詞構成だが、それでも感じるのは、人はいつだって1人ではないという希望を彼らが歌っていることだ。確かに、シニカルやアパシー、アンガーもいっぱいある。ちょっとした自己破壊願望も。けれど、歌詞やサウンドを紐解いていけば「最後にはやっぱり楽しいことをしたいよね」という、イジらしく素直な身振りがあり、それこそが真実に生きようとすることの証になっている。要は実直に人間の「生」に対して彼らは向き合っているのだ。だからこそ、今作を通じて「例え世界が終わりを迎えても、Superorganismは何があろうと皆のためにSuperorganismを続ける」という宣言をしたのではないか。音楽はあなたを救うことができると信じている気がするのだ。まさに音楽に殉じている純粋なアーティストでもある。

人はモノじゃなく、皆と繋がっている

彼らはプロである以上、ビジネスとは全くの無関係に位置するところで語ることはできないかもしれない。けれど、そんな理由とは関係なく「ただ曲を作りたいから」「歌を歌いたいから」メンバーと集まって不特定多数の「皆」を楽しませるという、無償の行為が生み出す奇跡を目の前に見せてくれることだ。だからこそ信頼できる。

そして、彼らが発するメッセージは「人はモノじゃなく、皆と繋がっている(そんな簡単にできないけど)」というシニカルな視点を織り込みながらも、ヒューマニティに溢れている。彼らはまだ成長している。誰にも侵すことのできないフレッシュさがある。今作で描いた新しい音楽の地図は、作品を経るごとにどんどん大きくなるはずだ。今後、豊かな才能を持った彼らが、Superorganismの世界を完成させて、我々にどんな素敵な景色を見せてくれるのか楽しみだ。

* * *

Superorganism『World Wide Pop』

レーベル:Domino
リリース:2022/07/15

トラックリスト:
1. Black Hole Baby
2. World Wide Pop
3. On & On
4. Teenager (feat. CHAI & Pi Ja Ma)
5. It’s Raining (feat. Stephen Malkmus & Dylan Cartlidge)
6. Flying
7. Solar System (feat. CHAI & Boa Constrictors)
8. Into The Sun (feat. Gen Hoshino, Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)
9. Put Down Your Phone
10. crushed.zip
11. Oh Come On
12. Don’t Let The Colony Collapse
13. Everything Falls Apart
[Bonus Tracks]
14. Black Hole Baby (ME-GUMI Cover)
15. crushed.zip (mabanua Remix)

配信リンク:https://superorganism.ffm.to/worldwidepop-more

竹下 力