【レコメンド】佐藤千亜妃『NIGHT TAPE』(2022)──眠りにつく子供たちへ歌う、母親の子守唄のように

【レコメンド】佐藤千亜妃『NIGHT TAPE』(2022)──眠りにつく子供たちへ歌う、母親の子守唄のように

佐藤千亜妃は嘘をつかない作家だと思う。なぜなら、歌詞を書くことや曲を作ることが大好きという、ピュアな気持ちがひしひしと伝わる音楽を作り続けているからだ。自分の心に素直であり、どんな事象も肯定する力が彼女のシグネチャーであり作家性でもある。そんな彼女は今作で新たなフェーズを迎え、ささやかで様々なグラデーションを施した、愛のお話を奏でる素晴らしいEPを上梓した。

「夜」をテーマにした5曲のマテリアルは、私たちを静かな眠りに誘ってくれる。あるいはどこかのダンスホールに導くのかもしれない。メロウでチルなR&Bテイストを中心とした、嫋やかなサウンドデザインが、彼女の歌の抒情性を際立たせる。彼女の特筆すべき点はどんな音にも負けない声の強さにもあると思うが、憂いを含んだ透明な歌声がサウンドの軽やかさに包まれ、健やかな感性を持った歌詞と共に解き放たれると、リスナーの心が浄化される。

彼女は私たちのセラピストのように存在している。彼女は自分の声が誰かと誰かの感情を「交通」させることを知っているからだ。このEPでの彼女の歌詞には、携帯をモチーフにした箇所が登場する。「S.S.S.」(M1)では〈鳴らす午前2時/不器用なphone call〉、「PAPER MOON」(M4)だと〈都合いいならこのままでいい/隣にいてくれなくていい/から、ワン切りするのはやめてよ〉と携帯同士で起こる言葉による感情の「交通」を巧みに曲に織り込み、私たちの心と音楽を同化させ慰撫する。

私やあなたは常に「想い」の交換をしている。携帯やメールや口や肌を通して。その交通の速度は、夜になれば早くなる。感情は昂っていく。でも、そんな愛おしい夜を越えれば、どこか達観した私たちが日常にいる。突き詰めれば、佐藤千亜妃は、職場や学校の知り合いとたわいもない会話をし、学業や仕事にもそれなりに熱心で、周りの信頼も厚くて、もしかしたらバカを言い合う仲間も、肌を温める恋人だっている市井の人々の生き様を繊細に歌い上げることができる。

同時に彼女は、そんな私たちでもすごく寂しい感情を抱くことがあることを熟知している。彼女の歌は、周囲に溶け込みながらも、どこにも居場所がなくて、自分の欠陥を発見することや何かに挑戦することを許される権利を剥奪され、決定済みの寂しさを刻印された、孤独な現代人に颯爽と寄り添ってくれる。その風情が実に清々しい。今作において彼女は、ベッドで眠りにつく子供たちへ歌う母親の子守唄のように、慈しみを闊達に描く稀有な作家としての地位を確立している。

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佐藤千亜妃『NIGHT TAPE』

レーベル:A.S.A.B
リリース:2022年8月17日

トラックリスト:
1. S.S.S.
2. 夜をループ
3. 真夏の蝶番
4. PAPER MOON
5. Summer Gate~edbl Remix~

配信リンク:https://asab.lnk.to/nighttape

竹下 力