飽くなきパッションが時代を凌駕する──No Buses『Sweet Home』

飽くなきパッションが時代を凌駕する──No Buses『Sweet Home』

『FUJI ROCK FESTIVAL’22』に出演して大盛況を博し、現在、国内外で注目を集めるロック・バンド、No Buses。そんな彼らの3rdアルバム『Sweet Home』が9月14日にリリースされた。2016年、Arctic Monkeysの曲名を冠したバンドを結成し活動をスタートさせた彼ら。現在は、近藤大彗(Vo. Gt.)、後藤晋也(Gt.)、和田晴貴(Gt.)、杉山沙織(Ba.)、市川壱盛(Dr.)の5人で活動を続けている。今作は、彼ららしい親しみやすさはそのままに、これまでよりもエモーショナルで、グルーヴに満ちたロック・ソングが詰まった名作となった。 

時代にカウンターパンチを食らわせる

パッション! このアルバムで、No Busesは胸中に深く沈潜している想念から不意に噴出するマグマのような情熱を正面切って描き出している。このシラケきった時代の、そんなことは役に立たないとか、無益だとか、世知辛いとか、ひたすら言い訳がましく逃げを打っている世の中にカウンターパンチを食らわせている。これまで以上にダークでシリアス、エモーショナルで、ストレートな心情を音にして鳴らしている。しかも、それを時代に要求されたテンプレートに合わせて表現しているのではなく、あくまで彼らの信念にしたがった音楽にしているのが清々しい。 

今作の9つのマテリアルは、彼らの特徴である人懐っこさだけでなく、キャラクターに個性があって何度もリピートできる中毒性がある。本作は時代を超え普遍的な名盤として語り継がれる可能性を秘めている。音楽性としては、ガレージ、ローファイ、パンクやポストパンク、ノイズ、エモや打ち込みを利用したIDM的な曲もあるが、それ以上にあらゆる音楽に宿るエモーションを掬い上げ、彼らの感性で編み上げた印象を強く抱く。一言で言えば「ストイック」に個性豊かな曲を作り上げたということになるが、そういったバンドは近年あまり見受けられなかったのではないだろうか。おそらく彼らが多くのリスナーに信頼される所以はそんな所にあるのだろう。 

1stシングル『Tic』(2018)で国境を超えて多くのリスナーを獲得した時からそのストイックさは変わらない──とも言えるが、今作には少しデスパレートな暴力性を織り込んでいる。彼らの激しい情熱は、人間の生きる行為が醸し出すグロテスクさにもフォーカスを当てることで、「生」の本質を剥き出しにしようとする。例えば、musitで行った近藤大彗のソロ名義=Cwondoのインタビューにおいて、『彼自身の音楽のシグネチャーに「生の希求」があるのではないか?』と著者が聞いた時、彼はこう答えている。

〈まさしくそのような意識はアルバムを作っている間、延いては普段から思っていることです。生まれた、生まれることを自分が決定できないことに対しての疑問は、人によって抱くことがあったりするかと思うんですが、自分自身の精神的にあまり良くなかった、自分の命に対してネガティヴになってしまった経験を踏まえて、それを与えてもらった、それを託していく立場どちらで考えてもそれを素晴らしいものにする、させていくことをずっと大事に持っていたいなという気持ちがあります。〉──No Busesにおいてもその姿勢は変わらないと思う。フロントマンである彼は、人が生きることの称揚を今作では力強い筆致で描こうとしたのではないか。

アルバム前半、「私」の生の在処を探る

緩やかな円環を描くマイナー・コードのギターのイントロから始まる「In Peace」(M1)から、「僕の脳はメルトダウンした」と歌うダークでエモーショナルなロックを響かせる。最後の節では「僕はただ一人洞窟の中で死にたい」と言ったことを歌っている。彼らは「死」という側面から「生」を描こうとしていることが窺える。バンドは現代が不幸にしてもたらした、世界から薄れゆく生の実感へのアンチテーゼとして、この曲を鳴らしている気がする。 

「Sunbeetle」(M2)では、己の存在を聴き手にぶつけるようなやけっぱちな感覚に溢れ、乾いたギターと、リズムの複雑さ、ヴォーカルの近藤が聴かせたことのない燃えたぎるシャウトを響かせると、リスナーの胸を焦がす。「Rubbish:)」(M3)は、Arctic Monkeysを彷彿とさせるガレージ・ロックだが、No Busesらしいダンサンブルなリズム隊によって、自身の培ってきたシグネチャーを確固たるものにし、歴史への目配せも忘れない素晴らしい曲となっている。 

ここまでの3曲で分かるのは、音がクリアーになったことで近藤大彗の声がこれまでより前面に押し出されているということだ。バンドの軽妙さよりも生々しい息遣いや鼓動を感じる。リスナーの情念を意図的に湧きあがらせようと煽りに近い感覚を持ち込み曲に重力を与えている。これまで彼らからそういった曲は見受けられなかった気がするし、ましてやCwondoからも感じられないと思う。それは彼ら自身にも抑え切れない衝動がある、ということの証左だ。タイトルのRubbishは「ゴミ」と訳すことができるが、この曲では決して燃やす尽くすことができない「ゴミ」があると歌う。それが人間だと言っている気がする。なぜなら、私たちは生きる限り燃え続けるからだ。ここから近藤大彗は「生の情動」を限りなくバンドの中心に据えたいという想いが伝わってくる。

「Stopstopstop」(M4)では、「どうすれば鳥になれる?」という歌詞にあるように、この曲を通して空を飛ぶ願望を歌う。生きようとする。けれど、「光は溶けていく」と言ったことを歌う。ここでも1曲目と同様〈melt〉という単語が使われるが、おそらく「生」に対する固定観念が溶けて、生きることに対する疑念が生じ始め、「生きるとは何だ?」と思索を巡らせているように感じる。しかし、それは宙ぶらりんになったまま、「Biomega2」(M5)のダークなアンビエントのインストを通して、問いに対する答えは6曲目以降に引き継がれていく。この曲も、これまでの彼らのレパートリーに比べ、ささくれだって、ギターの歪みが至る所に聴こえるが、Sonic YouthやDinosaur Jr.を通過したノイズが「生」を描こうともがいている感覚を覚えさせる。バンドは「生」と真正面に向き合い、どんな正解をキャプチャーできるのかということがアルバム前半の主題であろう。 

アルバム後半は「あなた」の在処から生を見つめ直す

「Daydream Believer feat. BIM」(M6)は、トラップ系のビートに素晴らしいBIMのリリックが響き渡りつつ、「正しい言葉はいつも意味がない」という諦念を感じさせる歌詞が歌われるのだが、ここで少しずつ、「私」の生ではなく、「あなた」の生も描かれ始めているように感じる。「白昼夢を信じる」というタイトルが示しているように、この曲以降、「私」というよりも「あなた」に主眼が置かれているような気がするのだ。「Freezin」(M7)は、「あなた」の生の在処にさらに踏み込んでいく。イントロのギターのメロディーはビタースウィートではあるが、メロディを運ぶ軽快なビートがいかにもNo Busesらしい。この曲では「あなたの心を見つめていたい」という、これまで徹底的に「私」が歌われていたが、ここで「あなた」という存在を発見したいと願う。

「Home」(M8)は、今作の中で最もアグレッシブな曲で、短いギター・リフにドラムのフィルが入ったりと、要はプログレッシヴでありパンクなのだが、そんな曲構成の中で「気分は最悪」で「群衆の中で叫び声をあげる」と言って歌う。これは「あなた」を発見することによって「私」を再発見できるのと同時に、疎外論的な「あなた」を見つけることで、却って「私」の存在が脅かされることを歌っている。5曲目以降、顕になってくる「私」と「あなた」の存在のせめぎ合いが頂点に達した時、4曲目までに出された問いが少しずつ回収されていく。それでも、アウトロの終わりで咳の音が入ることによって、一瞬、難しいことなんて考えず全て冗談にしようと思わせるあたり、彼らのセンスが光っている。独りよがりのシリアスになりすぎず、ユーモアを忘れていないことで曲に厚みを持たせている。このダイナミックな曲で、「生」は1人で実感するのではなく、「あなた」の存在がなければ感じることができないと歌っているように思う。 

そしてラストの「I’m With You」(M9)では、素早く刻まれるハイハットに、印象的なギターのフレーズとスネアがテンポ良く鳴り響く彼ららしい曲だが、ここで「正しい人々は正しい場所にいる/そこに適応してみようとしたけれど無理だった」と言うように歌って「あなた」との融和を果たそうとしながらも、最終行の「また後で」と唐突に突き放して終わりを告げており、シニカルで投げやりに見えるタイトルとは裏を掻くように、答えが完璧に見つからないことに苛立ちを感じさせるような曲だ。しかし、「私」と「あなた」は決して相容れないとしても、それでもお互いが向き合うことでしか「生」を確認できないという人々の一種の「業」をきちんと描き切っている。人は生き続けている以上、現在進行形の「生」を真に理解できないというパラドックスもアルバムに投影させることで、リアルな人間を浮立たせることに成功したように思えるのだ。

このアルバムを聴き終えて辺りを見回した時、そこには「私」の知らない「あなた」がいる。生きるとは「あなた」と「私」が交わったり離れたりすることによって生まれる行為の総和だ。そんな行為が集積した場所を「Sweet Home=愛しの我が家」と見立てている。そこはカオスでどこか怖さを覚えるのと同時に、人々はその中でこそ生きることを実感できるのだ。それが今作における彼らなりの答えだろう。しかし、その答えは奥深い。真実を見つけようとする彼らの旅路はまだまだ続くはずだ。それでも、今作での彼らのパッションは時代を凌駕し、人間の摂理を発見したような感動を描き出した。このアルバムのダークさに潜む足掻きながら鳴らした「生の福音」が、私たちに生きることの喜びを与えてくれた。人間の本質に迫ろうとする素晴らしいアルバムの誕生だ。

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No Buses『Sweet Home』

レーベル:S.S.G.G.
リリース:2022年9月14日

トラックリスト:
01. In Peace
02.Sunbeetle
03.Rubbish:)
04.Stopstopstop
05.Biomega2
06. Daydream Believer feat. BIM
07.Freezin
08.Home
09.I’m With You

配信リンク:https://orcd.co/sweethome

竹下 力