【ミニレビュー】Bilk『Bilk』(2023)──暗黒な現代を批評しながら来るべき未来を預言する野心的なアルバム
英国エセックス出身のバンド・Bilkが、2月10日にデビュー・アルバム『Bilk』をリリースした。彼らはSol Abrahams(Gt. Vo.)、Luke Hare(Ba.)、Harry Gray(Dr.)からなるスリーピースであり、偉大な先達の音楽的意匠を正面から引き受ける覚悟と、どんなジャンルの音楽も奏でられるんだという自信に満ちた傲岸不遜な態度を見せながらも、彼らの音楽やアティテュードには実直さを感じさせる。ビールにタバコに社会風刺。我々の生活と切っても切れないガジェットを歌詞やビジュアルに駆使して共感性を発揮しながら、一度耳にすれば誰もが聴き入ってしまうポップネスに溢れる自分たちの音楽を真摯に鳴らせば、その誰もが共鳴できる、と素直に信じているからだろう。

「Just Don’t Work For Me」(M7)のMVではOasisやNirvanaのポスターを部屋の壁に貼ってあるあたりに、バンド自身の音楽シーンにおける存在意義のプレゼンに意識的で戦略的でもあり、その強心臓っぷりを垣間見ることができて頼もしく感じる。もちろん、ノスタルジーに引っ張られすぎず、アルバムは、彼らの「今、この瞬間」の感情の生々しさがダイレクトに反映された、1stアルバムでしかできない表現ともいえる。それが清々しくリアルであるがゆえに、彼らのアルバムを聴き通せば、どの世代の人たちも影響を受けたバンドの記憶を自然に蘇らせることができる。あらゆる時代の音楽を平等に扱うZ世代特有のパンク・バンドと言えるだろう。
既にEP『Chipped Out』にも収録されている「Daydreamer」(M1)や「Be Someone」(M4)を聴けば、ヴォーカルのSolの歌声は、The Stone RosesやOasisやArctic Monkeysらを彷彿とさせる英国バンド特有のぶっきらぼうさ加減で、プロダクションは70年代初頭のグラムから影響を受けた分厚いハードロックの様式で、まさにOasisの1stアルバム『Definitely Maybe』に通じる90年代的マナーを取り込みつつ、ラップが入り乱れたりするポスト・ジャンルな音楽性はYUNGBLUDにも通じるかもしれない。
そこに若者の退屈な日常や社会を風刺した歌詞は、MåneskinやTurnstileにも繋がる彼ら世代の90年代解釈を拡大させたもので、突き詰めれば極めて現代的とも言える。アルバム全体の歌詞に通底するテーゼは、低賃金の労働や退屈なセックスやアルコールなどがもたらすメンタルの崩壊を扱っているが、そうして90年代から連綿と続く現代の「病」を炙り出しながら、「俺を見習えば困難を乗り越えられる」といった彼らのアクティブで求心性のある決意の表明が混迷極める現実に亀裂を走らせ、リスナーに新たな発見を与えてくれることに成功していると思う。
さらに特徴的なのは「It’s No Longer There」(M5)や「Part and Parcel」(M9)や「10 O’Clock」(M11)といったアコースティック・ギターを中心にした曲を絡ませて構成にも気を配っている点で、曲単位だけでなく、アルバム全体を通して聴かせるコンセプチュアルな要素もある。まだ若々しいのは必然だし、ぎこちなさもあって当然だからこそ、そこが瑞々しく感じる。特に最終曲は、迸る感性が現代の世相にしっかり溶け込んだ曲で、誰もがシンガロングできる普遍性があって、彼らの才能の片鱗が垣間見える。
いつだって音楽シーンを活気づけるのは「スター」の存在だけれど、彼らはおそらく堂々とそこを目指しているのだろう。さらに、それ以上の超越性を身に付けていけば、「スター」の枠組みを超えた唯一無二の存在にだってなり得るかもしれない。複雑怪奇で暗黒な現代を批評しながら、来るべき未来を預言する野心的なアルバムを完成させた、彼らのこれからに注目したい。
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RELEASE
Bilk『Bilk』

リリース:2023/02/10
レーベル:Scruff of the Neck Records
トラックリスト:
01. Daydreamer
02. Hummus and Pitta
03. Things Ain’t Always What They Seem
04. Be Someone
05. It’s No Longer There
06. Brand New Day
07. Just Don’t Work For Me
08. Fashion
09. Part and Parcel
10. Stand Up
11. 10 O’Clock
竹下 力
