【ミニレビュー】TAMIW『Fight for Innocence』(2023)──「あなたはあなたでいればそれでいい」と勇気づける聖典
2月22日に発売されたTAMIWの3rdアルバム『Fight for Innocence』は、我々に「今、この時」に何を感じて生きるべきかの指針を与えてくれる健やかな野心に満ちた見事なアルバムだ。「intro」(M1)からYoung Fathersの最新作『Heavy Heavy』の「Rice」(M1)をリファレンスしたかのような、トライバルでオリエンタルな「どこにもない」音が鳴っていて、我々を未知なる世界に誘い込み、新たな「生」を発見させてくれる。ただし、結果として鳴らされているのは、TAMIWでしか表現できないビート、歌詞、声であるというバンドの強烈なシグネチャーが宿っており、我々の心を鷲掴みにする。
彼ららしいBjörkやFKA twigsをイメージさせる「My Innocence」(M4)では、トリップホップのようなアンビエントな音色と深いビートに合わせてtami(Vo.)が〈なぜ私は私なの? だけど私は私。私以外に私の心は砕けない〉といった歌詞をエモーショナルさを帯びた高音の声で歌う。バンドのこれまでのレパートリーには、必ず自我への問いかけ(〈なぜ私は私なのか?〉)がテーゼとしてあったけれど、ここではそれが止揚され、自己の肯定には他者の承認と許容の必然性へと繋がっていく。
それは「For the Ideal」(M5)でYves Tumorのフィーリングを感じさせる、短くファンキーなギターフレーズを使ったインダストリアル・ロック的なマテリアルで〈誰もベストな結果を出せないことを知っている。だったら自分の思う正解を声に出せ〉といった「他者」への優しい肯定を歌っていることから明らかだと思う。私を深く見つめ続けた結果、「あなたはあなたでいればそれでいい」と勇気づける境地にたどり着いたのだと思う。
「Eyes on Me」(M7)や「Kick Off」(M8)は、先行配信リリースされた楽曲で、実験的だけれど親しみやすいポップ・ソング。前者ではtamiはラップにチャレンジしているが、彼女の声質は深みと温かみを帯びて自己の葛藤と救済を描きながらも、他者に対する慈愛も兼ね備えている。前作のディスクレビューで、「人間が持っている本質的な生々しい衝動を臆することなく力強く表現できるようになった」と書いたが、作品を経るごとに、彼女の声は人間の本質を底からさらって描けるように成長したのだと思う。それはバンド自体が、挑戦を恐れずに果敢に攻め続けて完成させた作品だからこその現在の極みであり、そんなバンドの実存が実にカラフルで清々しいのだ。
「Genius Made by Publishers」(M10)では、ego apartmentからZenが参加しているが、R&Bとファンクを掛け合わせ、様々なサンプリングを使った曲はSuperorganismに通じる彼らならではのカオティックな曲で現代の人間の複雑な心模様を丁寧に炙り出している。最終曲「Wholesome Moments in Love」(M11)は、〈ネガティブにならないで。いつもあなたのそばに私がいる〉と歌うラブソングだが、アルバムを通してこの曲を聴けば「あなたがあなた自身で正直にいる」だけで、そこには生きる意味があると理解できるはずだ。
彼らは自己をひけらかさず、己をケアしながら時には黙ったまま他者をヘルプし、そんな自分の有り様を肯定しながらクールに前を歩き続けることがこの暗黒の時代に必要だと宣言する。突き詰めてしまえば、この穢れた世界で「自己と他者の核を為すイノセンスを接続させて一つになって辛い現実を乗り切ろう」と「個と個」の結束を歌う本作は、2023年においてリスナーにとってのポップ・ミュージックの「聖典」になり得るかもしれない。そんな傑作なのだ。

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RELEASE
TAMIW『Fight for Innocence』

リリース:2023/02/22
レーベル:5square records/Bigfish Sounds
トラックリスト:
01.intro
02.Fight for XX
03.Dawn Down
04.My Innocence
05.For the Ideal
06.inter rude
07.Eyes on Me
08.Kick Off
09.Dear Ghost
10.Genius Made by Publishers
11.Wholesome Moments in Love
*スマートリンク:
https://ssm.lnk.to/FightforInnocence
竹下 力
