「4人だったバンド」から「3人のバンド」になるまで〜Base Ball Bear『Grape』

「4人だったバンド」から「3人のバンド」になるまで〜Base Ball Bear『Grape』

9月。秋と言えば、旬を迎える葡萄に舌鼓を打ちたい。そんな筆者が敬愛してやまないバンドが、必然とも言うべき作品をリリースした。Base Ball Bearの『Grape』である。

Base Ball Bear(以下ベボベ)と言えば、ファンであればなおさら、湯浅将平の脱退の件がどうしても頭をよぎるだろう。

2017年の『光源』は、3人になって初めてリリースされたアルバムだった。それまでは「4人だけの音」にこだわり、「ギター2本とベースとドラム」という鉄壁の編成で音源を作ることに徹していた彼ら。しかし、その一角であるリード・ギターが欠けてしまったことで、同期やホーン・セクションが入るなど、「空いてしまった部分を埋める」というところに意識が向けられる。それは、ある意味で「自由」なサウンドを手にすることでもあった。

とはいえ、そこに少なからず違和感を覚えたのも事実だ。ベボベが解散せずに3人で再出発したことは何より喜ぶべきことであり、作品自体も素晴らしかった。しかし、4人の存在が絶対的だった自分にとって、「これは本当にベボベの音楽なのか?」という気持ちが心の奥底で渦巻いていたのもまた確かだったのだ。

加えて、やはりどうしても湯浅将平の存在を思わずにはいられなかった。3人で鳴らされる楽曲に、どこか物足りなさを感じてしまう。彼の偉大さを、ここまで痛感することになるとは--。それ故に、『光源』という作品が自分の中ではどこか腑に落ちない部分があり、ずっとモヤモヤを拭いきれずにいた。

* * *

あれから2年経った2019年。自主レーベル《DGP RECORDS》を立ち上げたベボベは、まずEP作品として1月に『ポラリス』をリリース。小出佑介のソロ・プロジェクトであるマテリアルクラブを経てリリースされた本作は、「3人で音を鳴らすことの楽しさ/喜び」を端的に伝える内容であり、初めて「3人だけ」の音で制作された作品でもあった。

そして、同年2枚目のEP作品『Grape』(配信限定、ライブ会場のみCD発売)。実は『ポラリス』がほんの序章に過ぎず、ベボベは本作でついに「スリーピース・バンド」としての確固たるダイナミズムを表現するに至る。

まずは、何と言ってもリード曲である「いまは僕の目を見て」。「これぞベボベ!」と言うべき爽やかで切ないギター・ロックを3人だけのアンサンブルで見事にやり切っている。個々のプレイヤーとしての力量が殊更に求められる「スリーピース」という形態の完成形と言えるだろう。

誤解を恐れずに言うなら、正直ここまでスリーピース・バンドとしての矜持をベボベに対して感じるとは予想もしなかった。完全に「してやられた」という気持ちであり、同時にベボベを夢中で聴いていた高校時代のワクワク感を「これでもか」というくらいに思い出すほどの威力があった。

(余談だが、合成を一切使わずドローンで撮影されたMVも最高である。)

「セプテンバー・ステップス」では名物「小出カッティング」がフィーチャーされ、歌詞を繰り返すように歌う様は初期から続く手法(「SUNSET-KIREI」、「kimino-me」、「HUMAN」など)とも地続きであるなど、往年のファンにとっては嬉しいポイントだ。

また、『C2』(2015年)以降の、心の機微を絶妙に紡ぎ出す小出祐介の詩作も、さらに磨きがかかっているようだ。大切な想いを伝えることの困難さを歌った「いまは僕の目を見て」や、終わってしまった恋を溶ける氷になぞらえた「Summer Melt」などは、ベボベ史に残る名曲だろう。

“君を大切だと感じた そのときにそのまま伝えたら
何かが変わっていきそうで 不安に飲まれてしまう
「正しく」よりも「間違わずに」 伝えることに慎重になる
手応えばかり求めて 言葉を重ね続ける ”
--「いまは僕の目を見て」

“君に教えてもらったことだって
僕の知識として育ってく
君もそうかなってチクっとする ”
--「Summer Melt」

そして今回の作品タイトルである『Grape』。かつてベボベの歌詞には「檸檬」がモチーフとして頻出していたが、その10代特有とも言える甘酸っぱさから離れて、葡萄のような深みのある甘みや芳醇な香りを感じさせるような表現を手にすることになった--そんなバンドのストーリーも、本作を語る上では欠かせない。まるで葡萄の粒のように、少し力を入れれば途端に潰れて果汁が溢れ出してしまうような、そんな感情の微妙な部分が100%ギュッと詰まっている。アートワークではトレードマークである電波塔が逆転し、葡萄を模したデザインになっているのも憎い。

この3人でバンドを続けていくことの決意を改めて歌い上げるようなロックンロール・ナンバー「Grape Juice」で本作は締めくくられる。文字通り、「4人だったバンド」から「3人のバンド」として完璧な着地点への到達。『Grape』は、そんな瞬間を高らかに宣言する記念すべき作品である。

對馬拓