おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年12月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年12月】

毎月セレクトした新譜を偏愛的に紹介する【おすしたべいこ的マンスリーレコメンド】も、今年最後の12月分を迎えた。ひとまずは、1年間の連載を無事に完走した自分を労いたい。

そして、音楽との出会いがなければ、僕らの執筆活動は成立しない。改めて、素晴らしい作品との出会いに感謝しつつ、2020年を締め括りたいと思う。

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Charlotte is Mine – 『SOMEDAY IN THE BREAKFAST』

Label – FLAKE SOUNDS
Release – 2020/12/02

関東を拠点に活動するnana furuyaによるソロ・プロジェクト、Charlotte is Mineの2ndアルバム。インディーロック、ドリームポップ、エモなどを織り交ぜた音楽性でその名を知らしめつつある彼女だが、より洗練され、こだわり抜かれたであろう有機的なサウンド・プロダクションが全編を貫く。アレンジの幅も広がり、ジャンルレスな軽やかさに満ちている。

そして何より、芯のある柔らかいヴォーカルが美しい。そっと日常に溶け込むような自然さで、さらに多くのリスナーを獲得することは想像に難くない。

羊文学 – 『POWERS』

Label – F.C.L.S.
Release – 2020/12/09

3人組オルタナティヴ・ロック・バンド、羊文学のメジャー・デビュー・アルバム。従来の《felicity》から、Suchmosが立ち上げたレーベル《F.C.L.S.》への移籍作となった。

繊細さと力強さを兼ね備えたアンサンブル、あふれるリリシズム、絶対的なフロントマン、塩塚モエカが放つ歌声の求心力。それらが渾然一体となって聴く者を包み込む。特別に何かが変わったわけではない。インディーズ時代から一貫して鳴らしてきたオルタナ〜USインディー経由のサウンドを奏でる、いつもの羊文学が、そこにいる。

ただ、深くリヴァーブの効いたサウンドが印象的な「mother」「ハロー、ムーン」など、これまで以上にシューゲイザーへと接近したサウンドも目立つ。フクダヒロア(Dr.)もインタビューで楽曲に組み込まれたミニマルなドラムリフのリファレンスとしてダイヴ(DIIV)の名を挙げるなど、なかなか確信犯的だ。

2019年リリースのEP『きらめき』で開花させたガーリーなテイストを引き継ぐ「変身」や、印象的なコーラス・ワークやアウトロの情感あふれるギターが美しい「砂漠のきみへ」など、キャリアハイといえる名曲の存在も見過ごせない。ここまで飄々と傑作を更新していく存在もなかなかいないだろう。これからさらに、どう化けていくのか楽しみで仕方がない。

ヤなことそっとミュート – 『Beyond the Blue』

Label – UNIVERSAL MUSIC
Release – 2020/12/23

オルタナ/エモ/マスロックなどに影響を受けたサウンドに乗せて歌うアイドル・ユニット、ヤなことそっとミュートのメジャー・デビュー・アルバム。

はじけるようなベースで幕を開ける「最果ての海」で心を掴まれるや否や、ユニゾンが気持ち良い「Sing It Out」、切ないピアノの旋律から轟音ギターへとなだれ込むイントロが美しい「Afterglow」と、怒涛の勢いでリスナーをヤナミュー・サウンドに引き込んでいく。インディーズ時代からテクニカルな楽曲やメンバーの歌唱力の高さには定評のあったヤナミューだが、チーム全体がネクストレベルへと駆け上がったのは明らか。

彼女たちの力強く伸びやかな歌声は、閉塞感を打破し、時代をも超えてどこまでもこだましていくようなパワーが宿っている。ミュートしきれないほどヤなことで溢れかえった1年の幕切れに、これほどふさわしい作品があるだろうか。

Seasurfer – 『Zombies』

Label – Reptile Music
Release – 2020/12/11

ドイツのハンブルク出身のシューゲイザー・バンド、シーサーファーの3rdアルバム。過去作はゼロ年代以降のシューゲイザーが充実している《Saint Marie Records》からリリースされていたが、実は90年代から活動するドリームポップ・バンド、ダーク・オレンジのメンバーが母体のベテラン。

過去作と比べても明らかにパンク・シーンに接近したようなジャケットが異質だが、サウンドも無機質なビートやアトモスフェリックなシンセサイザーなどを取り入れ、ポストパンクやコールド・ウェイヴなどに通ずるダークで荘厳な雰囲気が全体を漂う。彼らの持ち味である轟音ギターやエンジェリックなヴォーカルも健在。長いキャリアの中でも確かな存在感を放つ意欲作だ。

Mr.Children – 『SOUNDTRACKS』

Label – TOY’S FACTORY
Release – 2020/12/02

言わずと知れた国民的モンスター・バンド、Mr.Childrenの20thアルバム。バンド史上初となるアナログのフォーマットでもリリースされた。

誤解を恐れずにいえば、もはや一聴しただけで桜井和寿が紡いだものだと分かる手癖まみれのメロディ、気持ち良く韻を踏む歌詞、美しいストリングスの音色が光るアレンジなど、いつものミスチルが詰まっているアルバムだ。しかし、全編海外レコーディングによるサウンドは研ぎ澄まされ、これまでのアルバムと比べても立体的な音響を楽しむことができる。特に低音域の奥行きは段違いで、リズム隊の躍動感が心地良い。この時点で、アナログでのリリースは必然だったと気づかされる。

また、田原健一が奏でるギターも、気の利いたフレーズを随所に忍ばせている。決して派手さがあるわけでも、特別に技巧的なわけでもないが、彼のいぶし銀のような輝きを放つギター・ワークには心を揺さぶるものが確かにある。

聴けば聴くほど、20作目にして最高傑作とバンド自ら太鼓判を押す理由を感じることができるはずだ。

“今日は何も無かった 特別なことは何も ”
--「Documentary film」

そんな日々に寄り添う、全10曲のサウンドトラック。

SPOOL – 『cyan / amber』

Label – Spring Records
Release – 2020/12/23

関東を拠点に活動する4人組オルタナティヴ・ロック・バンド、SPOOLの2ndアルバム。名刺代わりの作品だった1stから一転、今作はアナログを意識した2部構成のコンセプト・アルバムへと舵を切った。サウンドもシューゲイザーの要素を残しつつもギターの多重録音に頼りすぎることなく、個々のプレイヤビリティが際立つアンサンブルが組まれ、バンドの深化を端的に感じられる。浮遊するコーラス・ワーク、没入感を生み出す環境音など、細部まで作り手の意志が宿った名盤だと言い切ってしまいたい。

歌詞が散りばめられたジャケットも、実際にCDを手に取ると透明なシートが何枚も重ねられて構成されていることが分かる。向こう側が透けて見えるパッケージはバンドの音楽性そのものを表現しているようであり、フィジカルとしての強いこだわりも感じられる。

なお、筆者主宰のSleep like a pillowにて、こばやしあゆみ(Vo. Gt.)のソロインタビューを公開中。こちらも是非チェックしていただきたい。
諦念と孤独の先に SPOOL最新作『cyan / amber』をこばやしあゆみが語る

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ここまで読んでくださった皆様、1年間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。また来年。

對馬拓