拡張するBIG MUFF──独自の解釈で発展する亜種ペダルの世界

拡張するBIG MUFF──独自の解釈で発展する亜種ペダルの世界

みなさんこんにちは。Kensei Ogataです。今回がmusitで2回目の執筆になります。

前回の記事では現行のRAT系ペダルについて執筆しましたが、今回は同様に需要がありそうな現行BIG MUFF系ペダルに焦点をあて、おすすめのモデルを紹介していきます。

BIG MUFFといくつかの障壁

RAT同様、BIG MUFFもおすすめを聞かれることが多いのですが、使う人によって何をどのように紹介すべきなのか、かなり変わってきます。

BIG MUFFが好きな人/欲しい人は、下記の通り大まかに2パターンに分けられると考えています。

・好きなアーティストが使っていたり、筐体や歴史などのロマンも含めて好き
・単純にサウンドが好き、表現の手法として必要

もちろん、みなさん音が好きで使っていると思いますが、前者の方はあの大きな筐体やロシアンマフのような左右逆のインアウトジャック、DC電源が使えないなど様々な不便もロマンとして享受できる一方、後者の方にそれを押し付けるのは酷な話です。前者の自覚がある方は、オリジナルでないと最終的に満たされないと思うので、是非オリジナルを買っていきましょう。

ちなみに、自分は前者寄りでオリジナルが好きで色々集めていますが、ボードを組んだりライブなどで持ち運んで使うとしたら不便だし大きいし、「普通に嫌だな」と思っています。

なので、今回は後者の方に向けて意義のある記事にしたいのですが、そもそもBIG MUFFはかなりの種類があり、正直なところ本家Electro-Harmonixが発売しているNano筐体で復刻されたBIG MUFFリイシュー・シリーズも、クオリティやコストパフォーマンス的に申し分ないですし、各ペダルの特徴などについても既に様々なサイトで特集されているので、自分が改めて書く必要もないと思っています。少し調べると文化的な文脈、サウンドの面でご自身に合うBIG MUFFが見つかるでしょう。

BIG MUFFの長い歴史と、それにインスパイアされ切磋琢磨し発展していったガレージ・メーカーの歴史のおかげでもあるのですが、現在はリイシュー・シリーズが手軽な価格で入手できるようになりました。そんな中、純粋なクローンやコピー・モデルを紹介する意義も揺らいできています。そこで、今回はメーカー独自の解釈や発展性が感じられるペダルに焦点をあてて紹介していきます。

おすすめの現行BIG MUFF系ペダル

1. DEATH BY AUDIO – FUZZ WAR

ニューヨークのブルックリンにてスタートした、尖鋭的なエフェクターをハンドメイドでリリースし続けるペダル・メーカー(現在は同じくニューヨークのリッジウッドにて活動中)。2002年に始動したDEATH BY AUDIOも老舗の域に達してきましたが、数年で終了するガレージ・メーカーがほとんどの中、アーティストの支持を得ながら成長し続けているというだけで、もうスペシャルな存在です。

FUZZ WARはレコーディングで試したことがあり、サウンドの基本はBIG MUFFなのですが、TONEノブの効きが素晴らしいです。一般的なBIG MUFFだと、TONEは補正程度に使われることが多く、使いにくいスポットの方が大半を占めています。しかし、FUZZ WARはTONEの位置によってBIG MUFF系のローミッドの太さもあるサウンドから、Tone BenderやSuper Fuzzのようなミッドがスクープされたエッジィなサウンドまで多彩に変化します。

トラディショナルな3ノブ構成ながらも、レンジ感もしっかりとありつつ耳に痛くないバッチリなチューニングで、ノイジーで攻撃的かつ音の壁のような極太のサウンドを絶妙なバランス感でアンプから鳴らすことができる、まさに唯一無二のペダルだと感じました。

製品写真だけだと気にならないのですが、実物を見ると想像以上に大きくて面食らいます。本家USマフより少し小さく、MXR 2個強くらいのサイズでしょうか。しかし、ノブを足で回せるようなサイズ感、ツアーやライブなど過酷な環境でも壊れそうにない筐体は、心強い相棒になってくれるでしょう。

Umbrella-Companyにて国内流通されています。国内販売価格は【21,780円】

2. Caroline Guitar Company – Shigeharu(コロンビア)

2010年設立、サウスカロライナ州コロンビアを拠点とするCaroline Guitar Companyがリリースしたマフ系ペダル。筐体には「コロンビア」とカタカナでデザインされてますが、機種名は「Shigeharu」です。コロンビアのとあるお店のウェイターの名前から取られたとのこと。

コントロールは通常の「Volume」「Tone」「Drive」に加えて中低域の重量感を制御できる「Body」が搭載されていて、確認できた範囲ではIC駆動のBIG MUFF(いわゆるオペアンプマフ)スタイルでLEDクリッピングを採用しているようです。ハイ上がりでミッドレンジの調整が難しいオペアンプマフの弱点を補うバランスの良いトーン・コントロールで、図太くジリついたサウンドを出せます。

CarolineといえばHAVOCフットスイッチですが、このモデルでは踏んでいる間にアッパー・オクターブを加えられるようになっており、中央の小さなつまみでアッパー・オクターブの量も調整可能。マフとアッパー・オクターブは黄金のコンビ(ほかにも最高の組み合わせはありますが)なので、ソロなどの「ここぞ」というタイミングで踏んだり、小刻みに踏んでトリッキーなプレイもできそうですね。

さらに、内部基板上のスイッチを切り替えてキルスイッチのように使えたり、「Bias/Gateトリムポット」を回すとブチブチ系のゲートファズ的なサウンドも出せたりと、ファズ的な使い方の枠も広げていて、プレイアビリティの高さは流石です。

(個人的な話で大変恐縮ですが、過去に限定でリリースされたアーミーグリーンのShigeharuがめちゃくちゃ欲しいので、譲ってもいいよと言う方がいらっしゃいましたら私のTwitterまでお願いします……。)

こちらもUmbrella-Companyにて国内流通されています。国内販売価格は【27,500円】

3. Phantom fx – MOTHER

国内からは、昨今のブティック・ペダル・メーカーに多大な影響を与え、2020年に復活を遂げたPhantom fxを紹介したいです。

この記事を読んでいる方はMOTHERの話題をどこかで見たことがある、または争奪戦に参加していた、といった方が多いと思いますし、実は僕自身MOTHERの製作のお手伝いをしているので手前味噌にもなってしまいますが、BIG MUFF系のペダルかつメーカーの意志が色濃く出ているプロダクトとして紹介すべきだと思い取り上げます。

新生Phantom fxはART-SCHOOL/Ropes/Crypt City/MONOEYESなど様々なプロジェクトで活躍するギタリスト・戸高さんが設計やデザインを、そして我らがSara PedalsのEgawaさんが実作業を行っています。少年マガジンに読み切りが載っても良いくらいに熱いお二人のインタビューも合わせて是非。

そもそも何をもってBIG MUFF系とジャンル分けするのか? という話ですが、

・サウンドの印象
・多段トランジスタによる増幅回路(一応ICスタイルも含む)
・連動したハイパス/ローパスフィルターによるミッドのスクープも行うトーン回路

回路的には、大まかにこのあたりを踏襲した上で改良・発展させていったペダルがほとんどだと思います。

サウンド的な観点から見ると、MOTHERは慣れ親しんだBIG MUFFの質感とは違います。元来のBIG MUFFはクリッピングにシリコンダイオードを使用していますが、MOTHERはゲルマニウムダイオードを使用し、より滑らかでまとまりのある質感です。ファズディストーションというよりも、サチュレーション間のあるファズ/オーバードライブにBIG MUFF的なトーン回路を設置したモデル、という解釈でしょうか。

ただ、SHAPEノブによるトーンコントロールが本家のBIG MUFFとは違い、カットされて引っ込みがちなハイミッド/ローミッドといった中域がしっかりとどのポイントでも張り出していて、スクープ感も浅いような印象です。これが何よりの特徴で、どのポイントでも美味しい音が出る綿密な回路設計に感心します。

轟音ながらもバンドで鳴らすと抜けの悪くなってしまうBIG MUFFですが、MOTHERはバンドの中での抜けが考えられているようにも感じます。クリーンなアンプではファズ・オーバードライブ的に働き、(一般的なBIG MUFFでは相性の悪いことが多い)歪んだアンプにはファズ・ブースターとして最高の働きをします。

現在はCULT PEDALにてウィッシュリストに登録して購入可能。販売価格は【41,800円】。2022年3月現在は2〜5ヶ月待ちになりますが、スイッチの寿命以外で50年は余裕で使えるだろうと思えるようなSara Pedals Egawaさんの丁寧で美しく、堅牢な作り・意匠に是非触れて欲しいです。

4. EARTHQUAKER DEVICES – Hoof

もはや説明不要の大手メーカーとなったEARTHQUAKER DEVICES、その名前を広めたペダルとしてもHoofは外せません。3ノブからスタートし、現在はミッドのコントロールを行うShiftノブを追加した、汎用性の高いマフ系ペダルとなっています。

LEDクリッピングを使用し、一般的なBIG MUFFと比べるとオープンなサウンドで、レンジ感も広くジリッとしたサウンドです。

先日Sara Pedals/Phantom fxのEgawaさんと「Hoofってロシアン系って言われてますけど、回路的にはラムズヘッドに近いですよね」という話になり、回路を改めて確認したところバイオレット期のラムズに近いことが分かりました。ロシアンマフのローの太さの要因になっているクリッピング・ステージにどれだけ低音を突っ込むか(つまりは低音だけクリッピングさせずに逃がすか)という箇所が、低音を歪ませずに逃し太さを獲得しているロシアンではなく、あまり逃さず歪ませているラムズ系の定数になっていたのです。

加えて高域の硬さ/滑らかさ、ゲイン量にも関わるエミッタ抵抗の値もラムズヘッドと同じで、これをロシアンマフの値にするともう少しゲインや音量が下がり、マイルドな高域の出方になるのではないかと考えられます(実際にEgawaさんが製作していたHoofのクローン・ペダルでエミッタ抵抗の比較を行い、上記のような結果になりました)。Hoofのジリジリとした高域の特徴と比較すると、この辺りもロシアンマフとの相違点ではないでしょうか。ロシアンマフは好きで数種類持っているのですが、Hoofを始めて弾いた時に感じた「そこまでロシアン系ではなくないか…?」というモヤモヤがこうして解消され、晴々としています。

LEDクリッピング以外にも、ロシアンマフやラムズヘッドでは使われていないゲルマニウムトランジスタを2個搭載。それゆえゲインも低く設定されておりオーバードライブ的にも使え、BIG MUFFの意匠を引き継ぎながらビンテージ系Fuzz的な毛羽立ったニュアンスを目指したのではないかと推測してしまいますが、メーカー公式でも緑のロシア製ファズを目指して制作されたと明言していて、狙ってラムズ系の回路から発展させていったのか、偶然近付いてしまったのは不明です。

とはいえこのペダルでしか出せない音があると思いますし、ロシアン系というよりもトライアングル〜初期のラムズヘッド、はたまたTone Benderのような毛羽立ちのあるオーバードライブ〜ファズ・サウンドが欲しい方、BIG MUFFに幅広い汎用性を求める方にはすごく刺さるペダルだと思います。

もはや日本のどこの楽器店でも入手できるようになりましたね。国内販売価格は【28,600円】

5. EARTHQUAKER DEVICES – Hizumitas

続けてEQD製品となりますが、昨年発表され、こちらもBIG MUFF系のペダルとしては外せないものとなりました。本家Electro-Harmonixがまだトライアングル期のBIG MUFFを作っていた時代の国内メーカーELKによるコピー・モデル「BIG MUFF SUSTAINER」(※)の、Wataさん(Boris)が使用している個体を元に製作されています。

※今の倫理観だと名前も一緒なのはさすがにまずいですが、当時BIG MUFFが商品名ではなくFuzz的なサウンドを形容するものと勘違いして名付けてしまった経緯があるようです。

今までELKマフのクローン・モデルといえばWren and CuffのWhite Elkでしたが、これで完全に塗り替えられてしまったくらいの話題性とポテンシャルのあるペダルだと思います。

ELKマフのオリジナルは個体差もかなりあり、経年劣化やそもそもの作りも荒いせいかノイズや音痩せなどの問題も多く、音自体は本当に最高なのですが実用性に乏しい製品だと感じていました(ジャックに盛られた山盛りハンダを見てみんなでうなだれた思い出がある)。そんな中、使い勝手の面でもサウンドの面でも最高なものをEQDが作ってくれた! それだけで素晴らしいプロダクトです。

Borisでも聴かれる、せり出すような図太いローミッドとジリジリと張り付くような倍音感/圧縮感があり、いわゆる轟音系のペダルが欲しいという方の新しい選択肢になると思います。個人的に、一般的な回路設計だけ近付けたクローン・モデルよりも、こうやって個体差のある機種の中でもスペシャルな体験を与えてくれる個体を目指して作られたモデルに惹かれますし、製品化する意義も感じて好感が持てます。

国内販売価格は【22,000円】

6. JHS Pedals – CRIMSON

JHSでBIG MUFFといえば、歴代BIG MUFF詰め合わせモデル「MUFFULETTA」が画期的でしたが、今回はJHSがクラシックなFuzzを新筐体で発売した「Legends Of Fuzz」シリーズの中の1台、CRIMSONを取り上げます。もうコレクターやビルダーの域を抜けた何かになりつつあるJHSオーナーのJoshが所有する最初期のロシア製BIG MUFF「Red Army Overdrive」を元に製作されています。

Red Army Overdriveのクローン自体あまり少ない、というかサウンド的にも回路的にもほとんどCivil War期と変わりがないので、ネームバリュー的に「Civil Warクローン」や「ロシアンマフ系」と銘打って販売されることが多いのですが、そんな中でもRed Army Overdriveのクローンとして販売することにJHSの自信とこだわりを感じます。

友人が持っていたRed Army OverdriveとCivil War 3台くらいを同時に弾き比べさせてもらったことがあるのですが、年代も近いこともあり正直大きな違いは見受けられませんでした。しかし、CRIMSONは後のグリーンロシアン期とは違う中域の太さや圧縮感もありつつなめらかなトーンを感じます。また、オリジナルのRed Army〜やCivil Warは筐体の大きさや重さ、スイッチやジャック周りの換えが効かないこともあり、現場で運用するのは不満や不安が付きまといますが、その心配も解消されています。

サイドのスイッチでミドルとゲインが増幅され、バンドやレコーディングなどでも抜け感を調整できます。BIG MUFFの中でもディストーション的なサウンド、そしてオリジナルの印象にも近いCRIMSONはそんなBIG MUFFを求める方におすすめしたいです。

国内販売価格は【26,400円】

7. Zander Circuitry – Siva / American Geek

前回のRAT特集でも紹介したZander Circuitryですが、2種類のBIG MUFF系のモデルを製作しているので紹介します。Sivaはオペアンプタイプ、American Geekはトランジスタタイプとなっており、RATタイプのモデルでも使われていたクリッピング8種類の切り替えが搭載されています。

切り替えられるクリッピングは下記の通り。

GAINを最大にし別途ボリュームも設定できるセカンダリースイッチの「Blastスイッチ/Blastノブ」も搭載されていて、RATタイプのCraniumと同様プレイアビリティの高い製品となっています。

オリジナルを踏襲しつつもToneノブとは別にShiftノブが2種類搭載。動画でも比べられているように、Hizumitasとほとんど同じようなサウンドに近づけるくらい可変幅のあるモデルです。

国内流通はなく、購入する手段は個人輸入。149ユーロ。現在のレートで【20,000円】前後+送料といった具合です。

沼というより深淵

前回よりコンパクトにまとめるぞ〜と意気込んでいましたが、結果は7種類と長くなってしまいました…。

現行で購入可能、かつBIG MUFF亜種的な方向性に絞ってこの量。紹介しきれなかった正統派のものや、回路的にはBIG MUFFではないけれど解釈的はBIG MUFF系、みたいなものもたくさんあるので、いつかそういう話もしたいですね。

BIG MUFFはいろんな種類があってどれが良いかわからないという方や、ちょっと違ったものを試してみたいという方の参考になれば幸いです。

Kensei Ogata