似て非なるアコースティックギター、Martinの「OM」と「000」、それぞれの違いとは?

似て非なるアコースティックギター、Martinの「OM」と「000」、それぞれの違いとは?

様々な種類を展開しているアコースティック・ギター。これからアコギを始める方であれば、どれを選べば良いか迷ってしまいますよね。最終的にメーカーで選んでしまう人も多いのではないでしょうか?

メーカーによっては、タイプの似たようなアコギを製造している所もあります。代表的な例を挙げると、Martin(マーティン)が製造する「000(トリプルオー)」と「OM(オーエム・オーケストラ・モデル)」などでしょうか。

この2種類のアコースティックギター。見た目こそ似ていますが、実は明確な違いがあります。
そこで今回は、000とOMにそれぞれどのような特徴があるのか解説していきます。

「000」と「OM」がどれだけ似ているのか

まずは、000とOMがどれだけ似ているのか確認しましょう。
下記の写真は、000-28(上)とOM-28(下)2020年における現行モデルです。いわゆる「ニッパチ」と呼ばれるモデルですね。

000-28
OM-28

似すぎです。ピックガードの大きさが若干違うだけで、本体の色や装飾、ペグの大きさなどはほとんど変わりませんよね。
「いやいや、これはきっとニッパチだからでしょう…。上位モデルの42になると、きっと明確な違いがあるはず…」と思う方もいるでしょう。

という訳で、上位モデルである000-42(上)とOM-42(下)の外観を比較してみましょう。

000-42
OM-42

全然違いが分かりません。どちらもゴージャスな見た目ではありますが、ピックガード以外に違いがなさそうです。

このように、OMと000は見た目に大きな違いを見付けられません。これだけ外観が似ていると、奏でる音も同じなのでは? と思いますよね。
しかし000とOMには、1つだけ明確な違いがあります。その違いが、異なった音を奏でるアコースティック・ギターに仕上げているのです。

「000」と「OM」、それぞれの違いや特徴について

000とOMの明確な違い、それはスケールです。ギターにおけるスケールとは、ナットからブリッジまでの長さを指します。

000のスケールは24.9inch(約632mm)。それに対して、OMのスケールは25.4inch(約645mm)と、000に比べOMの方が若干長くなっています。しかし、この13mmというわずかな違いがあることで、音に大きな差を生み出しているのです。

まず、000はスケールが短いことにより弦のテンションが柔らかくなります。そのため、OMよりも温かみのある音になるだけでなく、チョーキングを使ったテクニカルな演奏もしやすくなるのです。一方OMは、弦長を長くし、弦のテンションが強くなったことで、弦1本1本の音が際立つ力強いサウンドとなってます。

優しい音の000か、パワフルなOMか…。一見同じように思えても、ギターを選ぶ際には必ず抑えておきたい重要な違いがあるんですね。

現行モデル以前の両者を比較

しかし、000とOMの違いが主にスケールとピックガードだけになったのは、2018年に現行モデルが発売されてからの話。以前のモデルは見た目も大きく異なっていたため、現在のように両者を比較することはまずありませんでした。
特に000は、以前の白いボディから大きくモデルチェンジ。狭いナット幅も広くなり、ピックガードも黒から茶色に。ペグも現行モデルのようなオープンタイプではありませんでした。
実際の見た目を確認してみると、どのように変化したのか一目瞭然かと思います。

000-28

 

OM-28

形や大きさは同じながらも、見た目が大きく異なっているのがよく分かるかと思います。

また以前の000のブレイシングは、ノンスキャロップドが採用されています。そのため、ボディ内部の木材が波状に加工されているスキャロップドとは違い、真っ直ぐな形をしていました。一方でOMは、モデルチェンジをしても見た目や構造はほどんど変化していません。つまり000は、モデルチェンジを経てOMの外観に近付いたのです。

000とOMの深い歴史

000とOMは、同じタイミングで開発されたアコースティック・ギターではありません。それぞれ異なった歴史的な背景を持った上で、満を持して発売されたアコギなのです。

ここでは000、OMの開発された経緯や、実際に000、OMを使用しているアーティストを紹介します。

古い歴史を持つ「000」

000は1902年に販売が開始されたギター。マーティンが発表しているアコギの中で、最も歴史が古いギターです。販売当初の000は、ガットギターと同じ12フレット・ジョイントで、現在よりもネックの短い点が特徴的でした。

ボディサイズについても、1931年にドレッドノートの生産が始まるまでメーカー史上最も大きく、一際目を引くアコースティックギターとして有名でした。1934年に14フレットに移行し、その後もボディの材やナット幅を変更するなど、様々なブラッシュアップを施されながら生産が継続されました。

しかし000は、徐々にDシリーズ(マーティンの定番「D-28」もこのシリーズに当たります)の人気に押され、一時はカスタムオーダーのみ販売されていた時期もありました。

そんな000に、ある日転機が訪れます。

1992年に放送されたMTV『アンプラグド』で、エリック・クラプトンが1939年製の「000-42」を弾いたことがきっかけとなり、000が爆発的な注目を浴びるようになったのです。

ちなみにクラプトンが弾いた1939年製の「000-42」は、戦時中の製造モデルのため非常に高額(1932~1943年は、14フレットのギターがわずか114本しか製造されていなかったのです…)。

クラプトンが000の火付け役になったあとは、クラプトンのシグネチャーモデルとして「000-28EC」や「000-42EC」が発売されるようになりました。そして000は、マーティンの主力商品として、2020年現在に至るまで様々なラインナップが展開されています。

カスタムオーダーから生まれた「OM」

OMの始まりは、000よりも20年以上あとの話。1929年、マーティンがギター・バンジョー奏者であるペリー・ベクテルのカスタムオーダーを受けたことがきっかけです。

バンジョーは画像のように、非常にネックの長い楽器。そのためベクテルは12フレット・ジョイントのギターでは物足りなく感じ、マーティン社に「もっとネックの長いギターを作ってくれ」とオーダーしました。

しかし、ベクテルの理想とするアコギを製造するのには、当時の技術的に不可能でした。そこで、000の弦長を伸ばし、マーティンとして初めて14フレット・ジョイント・ネックのアコギが製造されたのです。そんなカスタムオーダーから生まれた「OM」が正式にマーティンのラインナップに加えられたのは、ベクテルがオーダーした翌年の1930年、「D-28」が発売される約1年前のことでした。

国内ではあの福山雅治も、2015年4月に発売したカバーアルバム『魂リク』で、全楽曲を1930年製の「OM-45」を使って演奏しています。OMは1音1音を力強く出せるため、福山はこの特性を活かし、ほぼ全ての楽曲を指弾きによるアルペジオで演奏しています(本人曰く、OM-45を指弾きするとベースやソロがいる小規模の楽団になるのだそうです)。
しかし、1930年に製造されたOM-45はたった14本。そのため現在の価格は数千万円〜下手すれば1億の値段にもなる可能性がある代物。福山以外にOM-45を所持している国内アーティストはいないのではないでしょうか…。

海外では000で紹介したエリック・クラプトンも、000-42を手放してOM-45を購入したと言われています。
また有名なOMの使い手といえば、グラミー賞アーティストであるジョン・メイヤーが上げられます。ジョン・メイヤーのテクニカルなプレイを逃すことなくすべて音に変換できるアコギは、OM以外考えられません。

2003年以降はジョン・メイヤーのシグネチャーモデルとして「OMJM」も販売されています。OMJMは、トップ材にイングルマンスプルースが使われているだけでなく、ピックアップも搭載されており、ステージ上でのメインギターとして打ってつけでしょう。

OMJM John Mayer

2020年現在のOMは、サイドバックにマホガニーを使ったモデルがラインナップされていません。その代わりマーティンの中心的なブランドであるスタンダードモデルに、ピックアップを標準で搭載した「OM-28E」がラインナップされています。

2種類を弾き比べて、音の違いを楽しもう

マーティンの000とOMは、まさに似て非なるアコギと言うことができます。
それぞれに違った魅力や歴史があり、どちらを選ぶかは演者個人の目的と好み次第!

楽器販売店で000とOMの両方が展示されていたら、是非弾き比べて音の違いを体感してみてはいかがでしょうか。

小林だいさく