【インタビュー】ドブ川から大海へ--足立区の最終兵器?ベイビー・ドンブラコが流れ着く先は

【インタビュー】ドブ川から大海へ--足立区の最終兵器?ベイビー・ドンブラコが流れ着く先は

2019年、足立区のバーミヤンで結成された音楽ユニット『ベイビー・ドンブラコ』。構成員は、それぞれソロとしても活動する熊谷亮となかにしれい。

桃のアートワークに、三十路の男が二人。それ以外はよく分からない彼らに、今回インタビューする機会を得た。約一年の活動休止期間を経て、既存曲のサブスクリプション配信を開始したという。

話を聞くうちに、二人の相思相愛の関係を垣間見ることができた。それに、つかみどころがないように思えて、実はそれが最大の武器のような気さえしてきたのだ。

まだまだ決まっていないことも多い二人だが、今後の動向に是非とも注目していただきたい。

インタビュー/文=おすしたべいこ
写真=藤川彩澄

* * *

出待ちしてナンパしました

まず、どういう経緯で結成されたのか教えてください。

なかにし:元々、オープンマイク(=誰でも飛び入り参加できるステージ開放型のイベント)でそれぞれ活動してたんですけど、たまたま僕がそこで熊谷さんのライブを観て、曲に一目惚れをしまして。そのときは話せなかったので、後日また熊谷さんがオープンマイクに来るであろう日を定めて、出待ちしてナンパしました。笑

熊谷:なかにし君のライブを初めて観たとき、「なんておかしな曲を作るやつだろう」って思いました。笑 それで音楽の話をしてみたら趣味も合って、そこから個人的な付き合いが始まりましたね。

それはいつ頃の話でしょうか?

なかにし:2016年の9月だった気がします。それで、2017年に僕のイベントに出てもらって、それ以降は二人で飲みに行ったりしてました。

熊谷:しばらくは“飲みに行く音楽仲間”、みたいな感じでしたね。一緒にやろうっていう誘いは、いつだったっけ?

なかにし:2018年の9月ですね。ただ、まだそのときは結成って感じでもなかったです。2019年の3月31日、足立区のバーミヤンで正式に“ベイビー・ドンブラコ”になりました。

熊谷:最初は「二人で一緒に音楽をやろう」くらいの感じで、自分でやる曲をなかにし君に編曲してもらう形だったんですけど、徐々になかにし君の役割の大きさを感じてきたので、「せっかくなら名前をつけて二人で活動しよう」ってなりました。

なかにし:僕は元々スリーピースのバンドがやりたくて。熊谷さんのバックバンドみたいな形でも全然良かったんです。ただ、本職がギターなので今回はベースに挑戦したいなと思いました。でもドラマーはいないから、ますは熊谷さんの曲のアレンジを…っていうところから、自然と“ベイビー・ドンブラコ”になりました。

ベイビー・ドンブラコという名前には、何か由来がありますか?

熊谷:まず、バンドでも何でも“ドンブラコ”って名前をつけて活動したかったんですよね。宇多田ヒカル『Keep Tryin’』って曲の歌詞に“どんぶらこっこ”ってフレーズが出てくるんですけど、その響きが好きで、使いたいなって思って。笑

熊谷:ただ、なかにし君が“◯◯ドンブラコ”の方が良いんじゃないか、って提案してくれて、語感とノリで“ベイビー”を付けました。深い意味はないですね。

楽曲制作の流れとしては、熊谷さんが作詞作曲して、曲がある程度形になった上でなかにしさんに編曲をお願いする、といった具合でしょうか。

熊谷:そうですね。弾き語りのデモとかを送って。

なかにし:あとは、ライブの音源を送ってもらって、それを僕がDTMに変換することもあります。

なるほど。アナログ的なものからデジタルに落とし込んで、そこからイメージを膨らますんですね。

なかにし:そうですね。ちゃんとリズムトラックとして僕が3〜4割くらいまで作って、そこから二人で相談していく、っていうスタイルです。

熊谷さんは、どういう時に曲が生まれたりしますか?

熊谷:いわゆる「曲が降りてきた」っていうことはなくて、ギターを構えて「さあ作るぞ」ってときじゃないと作れないですね。嫌なこととか嬉しいことがあったときは、勢いでパッと作れたりもします。

なかにし:ベイビー・ドンブラコとしても、結成して1年目(2019年)は結構活動してたんですけど、2020年は仕事(福祉関係)の資格の勉強があったので「あんまり時間が取れないです」って言ってたら、ちょうどコロナも重なって、それで休んでました。ただ、一緒に飲んだりはしてましたけどね。笑

熊谷:月一くらいで会って飲んでました。笑

2020年は、それこそコロナ一色の年だったと思うのですが、音楽に関わる身として何か変化はありましたか?

なかにし:楽器を練習する時間がかなり増えて、それで僕のギターがめちゃくちゃ上手くなりましたね。楽器がさらに好きになって、ベイビー・ドンブラコをやりたい気持ちも強くなりました。

熊谷:自分も病院で働いていることもあって「仕事を休んでくれ」って言われていた時期があって、そのときは家でギターを触って歌ったりしてたんですけど、心なしか上手くなりました。もう伸び代はないんじゃないかなって思ってたけど、まだまだやれば上達できるんだなっていうのは気づけましたね。

僕にとっては「好きなものを自分で調理してる」みたいな感覚なんですよね

では、お二人の音楽的なルーツを教えてください。熊谷さんにとって、何が音楽の原体験だったのでしょうか?

熊谷:初めて能動的に聴くようになったのはMr.Childrenですね。当時テレビとかラジオとかあらゆるところで流れていたので、自然と聴くようになっていきました。今でもよく聴きます。

その後、そこからどう広がっていきましたか?

熊谷:宇多田ヒカルやaikoは中学生の頃に聴き始めて、今でも好きです。そこからロック・バンドが好きになって。当時はロックンロール・リバイバルが流行っていたので、The Libertines、The Strokes、Arctic Monkeysあたりを聴いてました。邦楽もThe ピーズとかのギター・ロックをよく聴いていましたね。

その辺りのバンドから、作曲する上で何か影響を受けていたりしますか?

The ピーズに関しては、日本語とメロディをどう組み合わせるか、っていう面ではすごく勉強になりました。

なかにしさんはどうでしょうか。

なかにし:僕の原体験は、かぐや姫、イルカ、甲斐バンドとか、親の影響で聴いた70年代の日本のフォークで、そのとき初めて「音楽って良いな」と思いました。そのあと、ポルノグラフィティとかミスチルを聴いて、自分たちで曲を書いて歌ってるバンドに興味が出てきて、その頃にギターも始めました。そこからThe Beatles、King Crimson、Led Zeppelinとかの洋楽に目覚めて、邦楽はくるりとかフジファブリックを聴き始めて。それから相対性理論を知って、The Smithsとかニューウェーブにもハマっていって…。その頃はサウンドトラックもよく聴いてました。

面白い遍歴ですね。

なかにし:元々クラシックばかり流れてる家だったので、インストの曲にはそんなに抵抗がなくて、映画とかゲームのサントラを聴いてましたね。そこから“歌メロ以外の作曲”にも興味が出てきて。その頃にDTMを始めたのもあって、「好きで聴く」っていうよりは「勉強で聴く」みたいな要素が出てきたかもしれないです。

編曲する上で、それらの影響はどのように生きてますか?

なかにし:ベイビー・ドンブラコの曲はデモの段階でメロディが完成されてるので、それをなるべく殺さないで、ギリギリ生かすように…とは思ってて。まあ、結構殺してるんですけど。笑 「熊谷さんだけでは辿り着けないだろうな」っていう、変な感じにしたいですね。僕がソロ名義で作る曲の歌詞は意味のないものが多いんですけど、熊谷さんの曲は具体的な心情や風景が出てくるので、そういうのをちゃんと汲み取って「夜っぽい音にしよう」「シンセサイザーはこういう音色にしよう」とか、そういう感じで編曲してます。

なるほど。おそらく、そこのバランスが絶妙なんでしょうね。

なかにし:ユニット名がふざけてるので、サウンドもふざけたいっていうのはあって。真面目にふざけたい、っていうのがありますね。それと、僕はなるべく熊谷さんの領域には踏み込まないように気をつけてます。やっぱりメロディと詞が熊谷さんの持ち味だし、そもそも僕は元々ファンだから全部信用してるので、そこには一切口を出してないです。

熊谷:確かにそうかもしれないね。

なかにし:アレンジにしても、熊谷さんが「こうした方が良い」って言ったらそれは柔軟に取り入れてます。僕の癖が前面に出ないようにはしてますね。

熊谷:でも、自分ではできないような、なかにし君の持ち味も出しつつ…って感じですね。

なかにし:僕にとっては「好きなものを自分で調理してる」みたいな感覚なんですよね。それで素材を台無しにしたらダメじゃないですか。

なかにしさんって、熊谷さんのこと相当好きですね。

なかにし:まあ、ナンパしたくらいですからね。笑 熊谷さんに曲を書かせたら、右に出る者はいないと思ってるので…。だから、そういう人がCDとか音源をリリースしてないのが驚きで、じゃあもう「おれがするか」っていう。それは最初に会ったときに言いました。

「おれが世に出してやるぜ!」くらいの。笑

二人:笑

熊谷:プロデューサー。笑

“賞味期限”が長いものを作りたいなって思ってます

今回配信した3曲についてもう少し詳しくお伺いします。元々あった曲をサブスクで配信した、ということで自己紹介的な意味合いが強いと思うのですが、いかがでしょうか。

なかにし:今回配信した3曲は、コンセプトがないのに統一感はあるような気がしました。強いて共通点を言うなら、銅鑼とししおどしの音を多く入れてます。今回は東洋の雰囲気を出したいなと思って。

熊谷:基本的になかにし君の家で曲を作ってるので、ちょっと悪ノリしちゃうところはあるかもしれないです。笑

なかにし:僕は勝手にワールド・ミュージックだと思ってます。ガチガチのワールド・ミュージックじゃない、似非みたいなイメージ。

熊谷:なんちゃって、みたいな。

なかにし:僕、元々中国の音階が好きなんですよね。ペンタトニックスケールっていう音階があって、それが割と中国風なんですよ。熊谷さんもペンタトニックスケールが好きなので。

熊谷:流れ着いた感じはある。

桃だけに。笑

二人:笑

熊谷:でも、『パズル』は「マック・デマルコ(Mac DeMarco)みたいな感じで編曲どう?」ってなかにし君に話をして、最初はそれっぽいのを作ったよね? でも、数日後に「こういうのもできました」って送られてきたのが、二胡と銅鑼が入ってる、結構ふざけ感満載のアレンジで。笑 でも、それが妙に曲にハマってて「これだ!」ってなりました。

なかにし:その辺のノリは、ローザ・ルクセンブルグから影響を受けてますね。真面目だけどふざけてる、ふざけてるけど真面目、みたいな。

『パズル』以外の曲で、何かポイントはありますか?

なかにし:『カレンダー』は、最初は四つ打ちっぽい感じなんですけど、後半にエレピを入れた部分があって、そこが妙に洒落てて。熊谷さんは「ちょっとイケメン過ぎない?」って言ってたんですけど、意外と良い感じに仕上がりました。あと『もやし』はセルジオ・メンデス(Sergio Mendes)を参照してるので、リズムは似非ブラジルです。

似非とはいえ、全体的にエキゾチックな感じがしますよね。

熊谷:やっぱりそれは自分からは出てこない発想なので、編曲で仕上がってきたときは面白いなと思いましたね。

なかにし:そういえば熊谷さん、この前“賞味期限”の話をしてましたよね。

賞味期限?

熊谷:今の音楽シーンって、それこそサブスクとかがあって、移り変わりがすごい早いなと思ってて。自分たちもサブスクで出したとはいえ、なるべく移り変わりが早い中でも長く聴かれるような、そういう“賞味期限”が長いものを作りたいなって思ってます。移り変わりに対応できるほど器用でもないので。

ある種の普遍性、みたいな話ですよね。良い意味でベイビー・ドンブラコの曲って、つかみどころがない感じがあって。どのシーンだとか何のジャンルだとか、明確に言えないというか。中国っぽいけどJ-POP的な側面もあるし、無国籍。それが普遍性にも繋がっていく気がします。

熊谷:嬉しいですね。

なかにし:確かに、音楽やってることを人に言って「どんな感じなんですか」って聞かれても、「何っぽい」って例えられないんですよね。だから聴いてもよく分からない感じ、っていうのは無意識に出てるのかもしれないです。

アートワークの桃は、お二人で作ったんでしょうか?

『パズル』ジャケット

熊谷:そうですね。SoundCloudに写真を載せるのに何か必要だということで、“ドンブラコ”って名前にも付くし、最初は実際の桃を撮ろうかと思ってたんですけど、手作りしてみてもおもしろいんじゃないかと。

なかにし:そのとき桃が旬じゃなくて、手に入らなかったんですよね。それで「なければ作れば良いんだ」って言って、紙粘土を買ってきて作りました。僕の桃は割れ目が歪んでるんですけど、熊谷さんのは真っ直ぐで、綺麗だなって。笑 ちなみに、あれが作品としては第一号です。曲より先。

まさかの紙粘土が。笑

なかにし:背景は家にあるコピー用紙を立てかけて、ライトを当てて撮ったらそれっぽくなりました。

熊谷:ふざけて撮ったけど、思ったより出来が良かったからジャケットにしたっていう。笑

そこにも「ふざけてるけど真面目」っていう部分が出てる気がしますね。

なかにし:行き当たりばったりでやってんな、とは思いますけど。笑

あんまり「人に認めてもらいたい」っていう欲求がなくて

今の時点で「次はこういう作品を作りたい」というような思いや、活動の展望などはありますか?

熊谷:サブスクで出したので、まずは聴いてもらって、知ってもらいたいですね。そして、これからも面白い曲を作っていきたいです。

なかにし:僕はあんまり「人に認めてもらいたい」っていう欲求がなくて、曲ができたらそれで満足しちゃうんですよ。なので、その先が苦手なんですよね。笑 聴いてもらいたいんですけど。

ある意味で自己満足、というか。

なかにし:言い方を変えたらそんなような気もしますね…。でもそれって、ベイビー・ドンブラコは「熊谷さんの曲はどうしてもっと聴かれないんだ」って気持ちから始まったことなのに、いつの間にか自分はぬるま湯に浸かってる、ってことになりますよね。いざ熊谷さんサイドになったら「いや、お前も広めろよ」っていう。

熊谷:いやいや、そんなことはないよ。笑

なかにし:今後は反省して、自分以外も満足させます。

でも、そこに力を割くのって、アーティストとしてはすごく大変だと思うんでよ。それで自分のやりたいことができなくなったら本末転倒だし。そのバランスは難しいと思います。勝手に広まって勝手に聴かれてくれたら良いかもしれませんが。

熊谷:確かに。拾ってくれるおばあさんがいればいいんですけどね。笑

一同:笑

やっぱり桃の話に。笑 でもそういう意味では、サブスクを始めたのは大きいと思います。

なかにし:そうですね。早速、「聴きました!」って感じで感想がもらえたりしたので。そういう意味ではサブスクによって敷居が低くなって、聴いてもらえる機会が増えた感じがしますね。

◯2021年4月某日 北千住のデニーズにて

* * *

RELEASE

ベイビー・ドンブラコ『パズル』

song list:
1. パズル
2. カレンダー
3. もやし

各種サブスクへのリンクはこちら
https://linkco.re/Xqp29Hbe

PROFILE

ベイビー・ドンブラコ

足立区にて活動中。構成員は熊谷亮となかにしれい。打ち合わせはもっぱらバーミヤン。平成のピーチボーイ。

左:なかにしれい 右:熊谷亮

Twitter

ベイビー・ドンブラコ:@babydonbraco
熊谷亮:@kuma_ryo
なかにしれい:@hitorigroove

musit編集部